(1)所謂メディアではないが、米議会調査局【注1】は2013年5月1日、「日本関係」報告で、懸念を表明している。
<安倍総理は国家主義者【注2】で超国粋主義の政治家を閣僚に任命【注3】、民族主義的な思想や歴史修正主義に基づいた言動や政治>を行っている。対外的には東アジアの国際関係を混乱に陥れ、<アメリカの国益を損なう可能性があり、アメリカはじめ近隣各国から注意深く監視されることになる>。
【注1】米議会図書館の部局で、上下両院の議員に情報・資料提供をしている。調査は、法律家、経済学者、社会科学者、自然科学者、物理学者などの専門家が行う。秘密保持、政治的中立を原則に、特定の政治家との接触は許されない。特別の機会を除き、報告は公開されない。内容の深さ、正確さや客観性、時宜を得た報告が高い評価を受けている。米議会のシンクタンク。
【注2】欧米で「国家主義者」は厳しい響きを持つ。
【注3】報告で挙げられている具体例・・・・慰安婦問題で所謂「河野談話」の見直し論を先導した下村博文・元官房副長官を文部科学大臣に起用。
(2)米国メディアは、今年に入って徐々に安部政権への懸念を強め、特に(1)に至る2ヵ月間は、「ニューヨーク・タイムズ」、「ワシントン・ポスト」、「ウォールストリート・ジャーナル」などの有力紙が社説で、これまでになく強い言葉で阿部総理と安部政権への批判を相次いで展開した。
米国メディアは、(1)と同様、とかく国益上の観点からの報道になる。
これに対して欧州メディアは、国益より広い視野の報道が多い。英国メディアは、総選挙直後から、
・「タカ派政権で地域緊張激化」(「ガーディアン」紙、12月16日付け)
・「戦争屋復帰で近隣アジア諸国神経質に」(「インディペンダント」紙、12月16日付け)
などと激しい表現を使っている。
(3)独国メディアは、民主主義政治のあり方など原則を意識した論調を当初から展開している。脱原発に踏み切った独国のメディアは、安部政権の原発推進政策への疑念、経済政策アベノミクスの負の側面も指摘している。例えば、週刊誌「シュピーゲル」英語電子版(1月17日付け)が指摘する安部政権の政治外交姿勢は次のとおりだ。
・再登場の安倍総理は、「戦後レジーム」を排除したいと考えている。平和憲法、比較的リベラルな教育制度、安倍には全く馴染まない歴史理解などの排除だ。安倍的歴史理解は、侵略国として断罪した「東京裁判」の否定につながる。
・安倍政権の閣僚19人のうち14人までもが、日本のA級戦犯も合祀されている靖国神社への参拝推進の議連同盟の議員だ。ナチス時代を厳しく見つめているドイツ人には驚くような人物が安部政権に入っている。
・安部総理は、日本政府が先に行った「煮え切らない反省」の姿勢も取り消そうとしている。従軍慰安婦問題で1993年に日本政府が出した公式謝罪を見直そうとしている。
・日本の歴史見直し論者を疑念の目で見ているのは、隣の中国・韓国ばかりでなく、日本の主要な同盟国であり保護者の米国も、安部内閣の先祖がえりの政治家たちが東アジアの緊張を高めるのではと危惧している。
・中国は日本経済が回復することを望みながらも、尖閣問題で巣でに緊張が高まる中で日本と中国が危険な海上でのパワーゲームを続けていることを指摘している。
(4)独国「ツァイト」紙は、総選挙投票日前の2012年12月15日付け電子版で、早くも「日本が国家主義的になる」と警告している。「日本が過去と真摯に向き合わず、逆に右翼を甘やかしてきた結果だ」
(5)独国の中道左派の「南ドイツ新聞は、「右翼的過去への回帰」(2012年12月17日付け)で、早くも「これまでも保守的だが自己抑制的だった歴代政権から、今や強固な国家主義政権へと帰結した戦後日本の構造的体質」まで報じている。
・勝利した自民党は選挙戦中から極右の危険な主張を色濃く出し、安倍次期政権は過去の日本への回帰を夢見ている。
・その前に石原前東京都知事が中国を「支那」と蔑称し、日本の核保有を主張して、中国との小さな戦争さえ叫んできた。右翼大衆先導者の悪質で危険な主張が一般社会に当たり前に受け取られるようになった。
・安倍は、すでに憲法改正案を出し、自衛に限った武力の使用しか認めていない第9条を撤廃するだけでなく、公民の基本的人権を制限し、男女の平等を変更し女性の権利を抹消するだろう。
・安倍は、所謂「河野談話」、政府の公式謝罪を破棄したいと考えている。安倍は、戦前日本への回帰を夢想している。
・第二次大戦中に日本軍が犯した人道に反する犯罪について、歴代政府が謝罪する度に、他の政治家が謝罪の効果を薄める言動を繰り返してきた。
・近年、中国と韓国が日本にこの不愉快な歴史問題を処理するよう圧力を強めるにつれ、日本政府はこの20年間、国家主義に引っ張られる危機的状況下にあった。
・日本ではすでに長い間、「左翼」と言える勢力が存在していない。左派勢力は自然消滅したのではない。一方では忍従を強いられ、主流派に吸収され圧殺されているが、日本の右派が権力を維持するためにCIAが資金援助をしていた。
・福島第一原発事故後、日本の原子力産業と科学、政治、そして主要メディアが「日本原子力ムラ」の一つ屋根の下にいることが明らかになった。大手メディアは、原子力産業に従属し、原子力推進党の自民党と密接に結びついている。
(6)国際NGO「国境なき記者団」は、2013年度の「報道の自由度」で、日本を先進国では最低に近い53位に評価した。
要因として、日本政府の透明性の欠如、原子力産業の情報開示に否定的な体質、それに大手メディアが作る閉鎖的な記者クラブ制度を挙げている。
他方、日本と異なり、独国は北欧州諸国と共に、報道の自由が最も保障された国の一つに挙げられている。
独国メディアは、日本では人権擁護と民主主義に不可欠なメディアが役割を果たしていない点を折に触れて指摘している。
独国と日本とは敗戦国という点で同じだったが、その歩みは報道の分野でも異なっていた。
□大貫康雄(ジャーナリスト)「安部政権を厳しい目で見つめる海外メディア」(「世界」2013年7月号)
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