語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】選挙目当ての「所得倍増計画」 ~検証が必要~

2013年06月30日 | 社会
 (1)かつて池田勇人・首相(当時)は、「農業所得倍増計画」を打ち出した。
 安倍首相は、5月17日、都内における講演で「農業所得倍増計画」を発表した。4月19日発表の成長戦略(女性の社会進出、医療産業の推進など)を継ぐ成長戦略第二弾だ。

 (2)全国紙はいずれも、(1)の「農業所得倍増計画」を検証していない。この計画は根拠に欠ける、とは断言していない【注】。
 日本メディアは発表物を活字にする(記者クラブの弊害)、という認識が国際的に広がっている。今回も例外ではなかった。安部内閣の宣伝・広報紙と言われてもしかたない。

 (3)地方紙の中には、倍増計画を拒否するものがある。
 例えば、北海道新聞5月21日付け社説の見出しは「攻めの農業 掛け声だけで中身なし」。
  ・<政府と自民党から「攻めの農業」や「強い農業」を合い言葉に、次々と農業強化策が打ち出されている>
  ・<ところが、肝心の実現に向けた道筋は今後、関係閣僚でつくる「農林水産業・地域の活力創成本部」で練るというのである。野心的な目標も現時点では単なるスローガンだ。そもそも、これほど大がかりな構想を発表しながら、費用と財源の裏付けについて全く言及されていない>
  ・<農林水産物の輸出については、農林水産省が青果、牛肉、加工食品、水産物などを重点品目としている。だが、毎年5,000億円程度で推移する輸出額の内訳を見ると、たばこ、アルコール飲料、真珠、植木などの品目が上位に入っている>

 (4)例えばまた、宮崎日日新聞の社説はいう。
  ・<大規模生産者と小規模農家の間で農地の貸し借りを注解する「農地集積バンク」とでも呼ぶべき新組織を各都道府県に整備し、農地集約や耕作放棄地の解消を加速させるとも述べた>
  ・<中山間地を多く抱える本県では、こうした政策がすんなり進むとは言い難い。傾斜地が多く、分散した狭い農地を集約することは容易ではない。既存の組織が必ずしもうまく機能してこなかった理由も検証する必要があろう>
  ・<政府の手厚い支援策からは、TPP交渉参加に反対する農業団体などの理解を得、また参院選での得票につなげる狙いが見える。だが農家の高齢化や後継者不足、耕作地放棄地の拡大、目立つ小規模経営といった国内農業が直面する構造的問題を解決するには、農家や農業団体の自己改革を促すことが大切だ>

 (5)全国紙にも地方紙にも共通する弱点がある。それは、「自己反省のポーズ」だ。(4)で言えば、自己改革を促す件だ。
 安部首相が打ち出した「農業所得倍増計画」の実現可能性はきわめて不透明だ。したがって、この問題を論ずるのであれば、「安倍首相は、農業所得倍増計画を打ち出したが、それは実現不可能だ。その理由は以下のとおりである・・・・」と議論をたてればよい。原稿をうまく断言した形で追われないので、自己反省の形で終わってしまうのだ。
 日本の農業が具体的にどのような課題を抱え、その解決をめぐってこれまでいかなる議論がなされてきたか、十分に伝えられていない。
 選挙目当てで打ち上げられた「所得倍増計画」の行方を検証する農業記者の、長期的育成こそ、いま求められている。 

 【注】「食糧・農業・農村白書 平成24年版」によれば、農業総産出額は1984年の11兆7,000億円をピークとして、生産量の減少や価格の低下等により、全ての品目が減少傾向で推移している。2010年には、8兆1,000億円となった。

□神保太郎「メディア批評第67回」(「世界」2013年7月号)の「(2)あらたな「所得倍増計画」の登場」
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【政治】見えてきた安部政権自壊のシナリオ ~生放送の威力~

2013年06月29日 | 社会
 (1)4月に入って、内閣支持率が下がらないと見るや、政権中枢は自信が過信に変わったのか、憲法、歴史認識など「戦後レジームからの脱却」に大きく舵を切り始めた。96条の憲法改正発議の要件を3分の2から2分の1に下げることを参院選の争点にすると力説するようになった。
 何をどう変えるかの議論もないまま、手続きから変えてしまう姑息さが国民感情を逆撫でしたのだろう。世論調査も当初は96条の先行改正に賛成が多かったが、議論を重ねるにつれ勢いを失い、5月中旬には反対意見が半数を超えた。
 すると、安部首相はとたんに慎重論に傾き、あっさりトーンダウンしてしまった。

 (2)自民党の改憲草案は1年も前から公表され、メディアの批評に開かれていた。
 しかし、メディアは自らの発意においてその内容を吟味しなかった。独自にできなければ識者の見解を紹介することもできたはずだが、ほとんど何もしてこなかった。憲法問題はメディアの盲点だった。だから、96条が急浮上したとき、賛否を問う世論調査でお茶を濁すのがやっとだった。

 (3)インターネットでは、小森陽一・東大大学院教授/「9条の会」事務局長の「あぶない憲法のはなし」を見ることができる(「映像ドキュメント.com」)。
 かなり早い段階で自民党の改憲案を現法憲法と比べながら逐条批判したものだ。96条改正についても1項目を設けている。「国民自らの意思で簡単に憲法を変えられると見せかけて、実はすべての権力を国会に集中してしまう。これは明らかに国民主権を抑えて国家主権を強調する論理である」
 その他、自民党案のウルトラ・ライト的な性格を具体的に論じ、安部政権が立憲主義そのものを否定しようとしている、と根本的な批判を加えている。

 (4)マスメディアがインターネットメディアには真似のできない威力を発揮する場面もある。テレビの国会中継だ。3月29日の参議院予算委員会で、小西洋之・参議院議員(民主党・新緑会)が安部首相にしかけた憲法論争は秀逸だった。「国民の人権と自由」について質問し、安部首相の憲法認識の覚束なさを生放送でさらしてみせたのだ。
 Q:内閣総理大臣として、憲法の中で一番大切な条文は何ですか。
 A:いまそういうクイズのような質問をされても、暫定予算を議論しているのであまり生産性はないんじゃないですか。
 Q:個人の尊厳の尊重を、包括的かつ総合的に定めた条文は何条ですか。
 A:憲法の授業ではないんだから、いきなり聞かれても答えられませんよ。
 Q:では、幸福追求権を定めた条文は何条ですか。
 A:(答えられず)
 憲法第13条は、2013年度暫定予算として年金、医療、生活保護など国民の生活に深くかかわる支出を計上することと無関係ではない。
 小西議員が本格的に議論したのは、13条の基本概念である「公共の福祉」がなぜ自民党改革案では「公益及び公の秩序」と書き換えられているのか、ということだった。
 個人の権利や自由は、他の個人に迷惑をかけない限りで尊重される。あくまで憲法内部の制限だ(内在的制約)。他方、自民党案の「公益・公序」は、明治憲法で使われた「安寧秩序」という概念に近く「法律の留保」のついた人権保障と同じになってしまい、憲法を「社会秩序」、「国家秩序」など外在的制約に委ねることになりかねない・・・・と小西議員は指摘した。 
 生放送された憲法論争は、自民党案と現行憲法の本質的な違いを浮き彫りにした。

 (5)安倍首相は、憲法改正(自主憲法制定)の実現を自らの政治的使命であると公言してはばからない。
 と同時に、安部首相は、「河野談話」(1993年)と「村山談話」(1995年)という歴史認識にかかわる2つの国際的な公約を継承するか否かに答えなければならない。
 当初、慰安婦問題については歴史家の議論を待ち、侵略の定義については「学界的にも国際的にも定まっていない」などと曖昧な答弁で切り抜けようとした。
 ところが、安部内閣の閣僚の一部と自民党幹部などが靖国神社を参拝し、中国、韓国から猛反発を招き、そうした日本の歴史認識に対して米国yや欧州など国際社会からも不快感が表明される、という展開になった。安部首相は、「わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない。その自由を確保していある」と凄んでみせ、これがまた諸外国からの反発を招いた。結局、安部政権としても、歴代内閣の歴史認識を継承する方向でまとめるほかなくなった。

□神保太郎「メディア批評第67回」(「世界」2013年7月号)の「(1)見えてきた安部政権自壊のシナリオ」
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【政治】安部政権を厳しい目で見つめる海外メディア

2013年06月28日 | 社会
 (1)所謂メディアではないが、米議会調査局【注1】は2013年5月1日、「日本関係」報告で、懸念を表明している。
 <安倍総理は国家主義者【注2】で超国粋主義の政治家を閣僚に任命【注3】、民族主義的な思想や歴史修正主義に基づいた言動や政治>を行っている。対外的には東アジアの国際関係を混乱に陥れ、<アメリカの国益を損なう可能性があり、アメリカはじめ近隣各国から注意深く監視されることになる>。

 【注1】米議会図書館の部局で、上下両院の議員に情報・資料提供をしている。調査は、法律家、経済学者、社会科学者、自然科学者、物理学者などの専門家が行う。秘密保持、政治的中立を原則に、特定の政治家との接触は許されない。特別の機会を除き、報告は公開されない。内容の深さ、正確さや客観性、時宜を得た報告が高い評価を受けている。米議会のシンクタンク。
 【注2】欧米で「国家主義者」は厳しい響きを持つ。
 【注3】報告で挙げられている具体例・・・・慰安婦問題で所謂「河野談話」の見直し論を先導した下村博文・元官房副長官を文部科学大臣に起用。

 (2)米国メディアは、今年に入って徐々に安部政権への懸念を強め、特に(1)に至る2ヵ月間は、「ニューヨーク・タイムズ」、「ワシントン・ポスト」、「ウォールストリート・ジャーナル」などの有力紙が社説で、これまでになく強い言葉で阿部総理と安部政権への批判を相次いで展開した。
 米国メディアは、(1)と同様、とかく国益上の観点からの報道になる。
 これに対して欧州メディアは、国益より広い視野の報道が多い。英国メディアは、総選挙直後から、
  ・「タカ派政権で地域緊張激化」(「ガーディアン」紙、12月16日付け)
  ・「戦争屋復帰で近隣アジア諸国神経質に」(「インディペンダント」紙、12月16日付け)
などと激しい表現を使っている。

 (3)独国メディアは、民主主義政治のあり方など原則を意識した論調を当初から展開している。脱原発に踏み切った独国のメディアは、安部政権の原発推進政策への疑念、経済政策アベノミクスの負の側面も指摘している。例えば、週刊誌「シュピーゲル」英語電子版(1月17日付け)が指摘する安部政権の政治外交姿勢は次のとおりだ。
  ・再登場の安倍総理は、「戦後レジーム」を排除したいと考えている。平和憲法、比較的リベラルな教育制度、安倍には全く馴染まない歴史理解などの排除だ。安倍的歴史理解は、侵略国として断罪した「東京裁判」の否定につながる。
  ・安倍政権の閣僚19人のうち14人までもが、日本のA級戦犯も合祀されている靖国神社への参拝推進の議連同盟の議員だ。ナチス時代を厳しく見つめているドイツ人には驚くような人物が安部政権に入っている。
  ・安部総理は、日本政府が先に行った「煮え切らない反省」の姿勢も取り消そうとしている。従軍慰安婦問題で1993年に日本政府が出した公式謝罪を見直そうとしている。
  ・日本の歴史見直し論者を疑念の目で見ているのは、隣の中国・韓国ばかりでなく、日本の主要な同盟国であり保護者の米国も、安部内閣の先祖がえりの政治家たちが東アジアの緊張を高めるのではと危惧している。
  ・中国は日本経済が回復することを望みながらも、尖閣問題で巣でに緊張が高まる中で日本と中国が危険な海上でのパワーゲームを続けていることを指摘している。

 (4)独国「ツァイト」紙は、総選挙投票日前の2012年12月15日付け電子版で、早くも「日本が国家主義的になる」と警告している。「日本が過去と真摯に向き合わず、逆に右翼を甘やかしてきた結果だ」

 (5)独国の中道左派の「南ドイツ新聞は、「右翼的過去への回帰」(2012年12月17日付け)で、早くも「これまでも保守的だが自己抑制的だった歴代政権から、今や強固な国家主義政権へと帰結した戦後日本の構造的体質」まで報じている。
  ・勝利した自民党は選挙戦中から極右の危険な主張を色濃く出し、安倍次期政権は過去の日本への回帰を夢見ている。
  ・その前に石原前東京都知事が中国を「支那」と蔑称し、日本の核保有を主張して、中国との小さな戦争さえ叫んできた。右翼大衆先導者の悪質で危険な主張が一般社会に当たり前に受け取られるようになった。
  ・安倍は、すでに憲法改正案を出し、自衛に限った武力の使用しか認めていない第9条を撤廃するだけでなく、公民の基本的人権を制限し、男女の平等を変更し女性の権利を抹消するだろう。
  ・安倍は、所謂「河野談話」、政府の公式謝罪を破棄したいと考えている。安倍は、戦前日本への回帰を夢想している。
  ・第二次大戦中に日本軍が犯した人道に反する犯罪について、歴代政府が謝罪する度に、他の政治家が謝罪の効果を薄める言動を繰り返してきた。
  ・近年、中国と韓国が日本にこの不愉快な歴史問題を処理するよう圧力を強めるにつれ、日本政府はこの20年間、国家主義に引っ張られる危機的状況下にあった。
  ・日本ではすでに長い間、「左翼」と言える勢力が存在していない。左派勢力は自然消滅したのではない。一方では忍従を強いられ、主流派に吸収され圧殺されているが、日本の右派が権力を維持するためにCIAが資金援助をしていた。
  ・福島第一原発事故後、日本の原子力産業と科学、政治、そして主要メディアが「日本原子力ムラ」の一つ屋根の下にいることが明らかになった。大手メディアは、原子力産業に従属し、原子力推進党の自民党と密接に結びついている。

 (6)国際NGO「国境なき記者団」は、2013年度の「報道の自由度」で、日本を先進国では最低に近い53位に評価した。
 要因として、日本政府の透明性の欠如、原子力産業の情報開示に否定的な体質、それに大手メディアが作る閉鎖的な記者クラブ制度を挙げている。
 他方、日本と異なり、独国は北欧州諸国と共に、報道の自由が最も保障された国の一つに挙げられている。
 独国メディアは、日本では人権擁護と民主主義に不可欠なメディアが役割を果たしていない点を折に触れて指摘している。
 独国と日本とは敗戦国という点で同じだったが、その歩みは報道の分野でも異なっていた。

□大貫康雄(ジャーナリスト)「安部政権を厳しい目で見つめる海外メディア」(「世界」2013年7月号)
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【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~

2013年06月27日 | 社会
 (1)日本株の上昇は、外国人投資家の買い越しによる【注】。
 外国人投資家の投資は、日本経済の再生やs産業力などを期待しての「育てる資本主義」の投資行動ではなく、短期的な投資利益の最大化にある。外国人投資家が買っている株は、「大型流動株」(換金容易な一部上場株)のみ。二部上場や技術志向の強いベンチャー企業の新興市場に投資されているわけではない。「売り抜く資本主義」の投資行動だ。
 外国人投資家の動きの中心には米国のヘッジファンドなどがいるが、中国マネーも入ってきている。
 外国人投資家の買い越しは5月17日までに累計9.8兆円にのぼり、投資余力は(海外市場との相関でもあるが)まだ10~15兆円程度と議論が分かれる。「アベノミクスにおける成長戦略」を見極め、金融・財政政策によるカンフル効果しかないと判断すれば、潮を引くように「売り抜く」危うさを孕んでいる。
 市中に潤沢になった資金が新たな産業や雇用を生み、創造的プロジェクトが生まれてきたと判断すれば継続的に投資されるかもしれないが、あだ花のようなマネーゲームに翻弄され、焼け跡に立ち尽くすことにもなりかねない。

 (2)世界的な超金融緩和とカネ余りの中で、BRICSなど新興国への過剰期待が色褪せ、行き先を模索するカネが「調整インフレ」に舵を切る日本に向かっているのが株高の基本構造だ。
 その危うさは、四半期ごとに訪れるヘッジファンドの決算のたびに現れる。5月末の日本株の乱高下はその予兆だ。

 (3)アベノミクスの結末を示唆する統計が発表されつつある。企業物価指数の4月速報値だ。実体経済の動きが反映される。
 昨年10月からの半年間で、「素材原料」が19%上昇、「中間財」は4%上昇、「最終財」は2%上昇だ。円安による輸入インフレの影響のせいだ。素材原料が2割近く上昇しても、最終財は価格転嫁できない(需要=消費者の購買力が弱いため)。
 「デフレからの脱却」には、素材原料の高騰が最終財に価格転換される過程で、消費者の購買力を支える所得がそれに見合う形で増えていくかが重要だが、とても企業が給与や労働分配を引き上げる状況にはない。
 なぜか。企業の表面業績は株価の高騰によって改善されているように見えるが、従業員が頑張って実現した業績だという認識は企業経営者に希薄だからだ。賃上げに気持ちが動かない。
 業績が上がっても、過去10年間に海外への収益依存構造が定着しているから、国内従業員の給与を上げようとはしない。
 企業業績は改善されても国民の所得はよくならない、という構造が数字で検証されはじめている。勤労者の「現金給与総額」の2012年10月から2013年3月までの半期に、時間外手当ても含めて前年同期比0.8%減少だ。勤労者家計可処分所得も同期間で前年同期比0.2%減少だ。
 勤労者家庭は、アベノミクスによって潤ってはいない。

 (4)肝心なのは「成長戦略」だ。市場に潤沢に溢れる資金を使って、日本の未来につながる産業を創成し、プロジェクトを組織し、安定した雇用を創り出すことだ。
 成長戦略のキーワードらしきものは抽出されかけている。「医療」「農業の六次産業化」「女性の活躍」・・・・これらは間違いではない。
 しかし、ビジョン計画はあっても実行計画は見えない。プロジェクトの責任主体と時間軸を持った推進手順など本当のグランドデザインは不透明だ。「列島改造」型の大型公共投資を推進する時代ではないが、防災列島をめざして「首都機能の戦略的分散」を図ったり、「環日本海の時代をにらんだ日本海国土軸構築」に向けた総合交通体系を整備したり、中央リニア新幹線の前倒し完工を図るなどのマクロエンジニアリング的構想を立てたり・・・・といったことが全く見えない。景気対策の積み上げ的性格に終始している。
 国民生活の基盤を底上げし、「格差と貧困」課題に向き合い、過剰なマネーゲームを規制して「分配の公正」に立ち向かう姿勢は全く見えない。

 (5)(1)で示したように、外国人投資家の投資目的は「値上がり期待の短期保有」だ。彼らがアベノミクスの帰趨を見極めるタイミングは迫っている。彼らは、日本のカネが株式市場に向かうよう意図的に誘導し始めるだろう。
 <例年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用資金100兆円。これまで6割以上が国債で運用されてきたが、現在1割前後の株式市場への運用を拡大できないか、模索する動きが出ている。
 「国債から株へ」の動きは、長期金利を引き上げるリスクを孕む。それが財政を圧迫し、住宅ローンなどにのしかかることは間違いない。

 (6)「国民経済」という視点に立ち、政府・企業・家計をバランスよく視界に入れた時、アベノミクスは財政破綻寸前の政府セクターによってはギャンブルだ。企業にとっては、業種・業態によっては別れるが、おおむね株高メリットによる業績好転が期待できるものの、資産家を除く勤労者家計にyとっては家計の窮乏化をもたらしかねない政策手法だ。

 (7)国際的視界からも、マネーゲームの誘発という意味で、新自由主義の悪夢を蘇生させ、「格差と貧困」を顕在化させる可能性が高い。
 相関性と相対性をみつめる「リベラル」という価値座標からすれば、リベラルの危機だ。歴史は、アベノミクスに呪術経済が跋扈した時代、という評価を与えるであろう。

 【注】「【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場

□寺島実郎「アベノミクスの本質と日本のイスラエル化 --リベラルの危機と再生(その2) ~脳力のレッスン第135回 特別篇」~」(「世界」2013年7月号)

 【参考】「【政治】安部外交の軋み ~日本のイスラエル化~
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【社会】個人情報流出で米韓では社会問題化 ~マイナンバー~

2013年06月26日 | 社会
 (1)マイナンバー法案が衆議院で可決された翌日、5月10日、経済産業省は、民間企業が顧客の情報を「二次利用」する際の基本方針を示した。
 フェイスブックやツイッターなどの「つぶやき」から、利用者の年代や性別などを推定する分析技術は、すでに構築されている。
 そこに「二次利用」の指針を示し、IT戦略本部や規制改革会議などに提案することで、公共データをベースにした産業創出、成長産業へのガイドラインを策定する狙いだ。

 (2)しかし、個人番号制を先行導入した米国、韓国では、情報流出事件が社会問題化している。
 米国の社会保障番号は便利だから広がったが、その後、戦地に赴いた兵士への「なりすまし犯罪」が横行した。
 被害件数1,170万件、損害額500億ドル(5兆円)に達する(連邦司法省のデータ、2006~2008年)。
 米国で社会保障番号が導入されたのは1936年。サイバー犯罪などない時代だった。しかし、今では情報通信技術(ICT)が巨大なマーケットをつくる。
 なりすまし犯罪に手を焼いた国防総省は、2012年、社会保障番号から脱退した。軍の関係者には、独自の分野別番号(セパレートモデル)を採用させた。すなわち、年金、医療、税などそれぞれの番号を切り離し、必要な場合は住民票コードに照らし合わせて確認するシステムだ。ドイツなどもセパレートモデルを採用している。

 (3)日本が採用するフラットモデルは、一つの個人番号がマスターキーとなり、共通番号として官民で多目的利用する方式だ。米国以外に韓国などが採用し、すでに個人情報の流出が相次いでいる。
 韓国の個人情報流出事件は、被害者はここ数年だけで累計延べ1億人を超える。韓国総人口(5千万人)の倍以上の被害者がいることになる。
 個人情報は、民間企業からすれば美味しくてしかたがない情報だが、マイ・ポータル制では、ネット上で拡散していく可能性もある。マイ・ポータル制とは、インターネットで自分専用のページに接続すれば、保険料の納付状況、給与・報酬情報を見られる制度だ。
 韓国が1968年に共通番号制を採用したのは、特別な事情があった。その年1月、北朝鮮の特殊部隊による朴正煕・大統領(当時)暗殺未遂事件が発生した。同年11月、スパイ識別を目的に住民登録証を発行し、すべての国民に識別番号が付与された。
 当時は北のほうが経済力で優っていた。南側に危機意識が強く、国民の間に不安があって反発はなく、番号制度も人権問題にならなかった。この制度は、冷戦時代の遺産なのだ。
 住民登録制度は、1970年に法制化した。カードに顔写真、氏名、住所が載り、番号を参照すれば生年月日、出身地、その他の情報も把握できる。
 しかし、1980年代に民主化が進み、人権の観点から批判の声が高まった。
 1990年代から2000年代に入ると、IT技術の向上とネット空間の拡大で、個人情報の取り扱いをめぐって社会問題化する。住民登録番号を保有する公的機関や企業が多いことから、ハッキングが簡単にでき、流出する際のリスクが格段に高まったのだ。
 今年2月、改正情報通信網法が施行され、インターネット上で住民登録番号を収集、利用することが全面的に禁止された。利用者の住民登録番号を保有している企業は、2年以内に住民登録番号の情報すべてを破棄することが定められた。
 ただ、金融機関だけは「業務の特性上」除外されている。

 (4)マイナンバー制は、個人情報という巨大な市場を成長産業に位置づけ、かつ、その情報を政府も管理できる。統治する側にとっては、一石二鳥、いや一石三鳥にもなるウルトラC策に化けうる。
 施行から、米国では77年、韓国では51年たって問題が浮上してきた。日本では、長くて10年、早ければ7~8年で弊害が浮き彫りになるだろう。【白石孝・プライバシー・アクション代表】

□本誌取材班「個人情報流出で米韓では社会問題化 ~IT利権か公共事業か~」(「週刊金曜日」2013年6月7日号)

 【参考】
【社会】IT利権か、公共事業か ~マイナンバー~
【社会】「監視社会を拒否する会」 ~マイナンバー~
【官僚】マイナンバーで焼け太る官僚とITゼネコン
【社会】税務署の所得把握が会社員に厳しくなる ~マイナンバー~
【社会】個人番号報道に見るメディアの「国家観」 ~マイナンバー~
【社会】「監視社会を拒否する会」 ~マイナンバー~
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【政治】安部外交の軋み ~日本のイスラエル化~

2013年06月25日 | 社会
 (1)「米中対立願望」・・・・これが安部政権の、というよりメディアも含む日本人全体を覆う空気といってよいが、時代認識、世界認識を歪ませ、誤らせている。
 「日米で連携して台頭する中国の脅威と向き合う」・・・・これが21世紀日本外交の基本構図だ、という認識が潜在し、アジア太平洋を巡る米中の覇権争いの時代に向かっている、と思い込んでいる。
 「米中対立が深まれば、米国の日本への思いも熱くなり、日米同盟が深化され、日本は安定する」・・・・こう考えがちなのだ。

 (2)ところが、日米の亀裂が新しい局面に入っている。米国は日本の「イスラエル化」を心配し始めている。
 イスラエルの右派ネタヤネフ政権が孤立を深め、イランの核施設攻撃に踏み込んだら、米国は中東の泥沼に再び引きこまれる・・・・という危機感を米国は抱いている。
 これと同様に、アジアにおける日本の近隣からの孤立が、米国にとって望みもしない米中戦争に引きこむのではないか・・・・という困惑がワシントンを覆い始めている。

 (3)3月の安部首相訪米においては、集団的自衛権に踏み込んでまで米国との蜜月を演じ、「強い日米同盟は復活した」と宣言したはずだった。大方の日本メディアも「一定の成果があった訪米」という表層観察しか伝えなかった。
 しかし、5月に訪米した朴槿恵・韓国大統領がオバマ大統領との共同記者会見、議会演説を行ったのとは対照的に、共同記者会見も議会やナショナル・プレスクラブでの演説もなく、アーミテージ、M・グリーンという「安保マフィア」の拠点、シンクタンクCSISでの内輪の講演に留まった。
 「安保マフィア」は、尖閣がこじれて本当に日中で武力衝突が起きかねない情勢になるや、「奇妙な沈黙」に入った。
 ワシントンの構図は、従来の固定観念ではとらえきれないほど変化している。日本だけがアジアの大国としてワシントンに影響力を持っていた時代とは違ってきている。「安保マフィア」と「ジャパンハンド」頼りの日米関係は、既に空洞化している。

 (4)韓国と中国は、最近、ワシントンにおける活動を積極化している。
 ワシントンのポトマック川を越えた南(バージニア州)には、ベトナム戦争をともに戦った韓国人兵士に優先的に与えられたグリーンカードを持つ韓国人の街が形成されている。そこに昨年、「従軍慰安婦通り」ができた。人権となると殺気立つ米国の心理に、韓国は巧みに火をつけ、「日本の人権への無神経さ」を際立たせる流れを作っている。
 中国も、尖閣での日中対立を「領土」から「歴史認識」問題に切り返すことで米国の心理を揺さぶり始めている。米中関係の潜在意識には、「米中で連携して日本軍国主義を破った」という近代史に関する共通認識がある。国際連合は、第二次大戦の戦勝国連合だ。これが国連の歴史の本質であり、ここに米中間に行き交う共鳴の本質がある。彼らにとって、靖国神社は「A級戦犯」(日本軍国主義の指導者)を祀るところであり、日本の指導者が靖国を敬う行動は「軍国主義を再評価し、東京裁判・SF講和条約・米国の占領政策を否定する意図か」という疑心暗鬼をもたらす。
 そこに中国は、「戦後秩序を否定しようとする日本」という弾を巧みに撃ち込み、ワシントンの心理を揺さぶっている。
 4月28日に日本政府が行った「SF講話条約から60周年」の「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」にしても、なぜこのタイミングなのか、米国の占領政策への反発を内在するものなのか、いまだに米軍基地を抱えて半独立国でないことに対する不満なのか・・・・世界の人たちに「よく分からない日本」を印象づけた。
 事実、首相のスピーチには「国家主権の回復」に触れても、「国民主権」に踏み込んだ国家主権の回復であり国際社会への復帰だったという戦後日本の構図を確認できる文脈はなかった。むしろ、戦前の国家主義への郷愁と昨今の近隣との領土紛争を背景に「国益意識の高揚」を潜在させる式典だった。

 (5)日本の近現代史の歪みが凝縮して噴出してきているのだ。
 「プチナショナリズム症候群」の1億総保守化的ムードを支える人たちの矛盾は、「中国憎しのための日米同盟強化」を語る本音の部分で、「敗戦と戦後の秩序枠を潔しとせず」「それでも、冷戦期の日米同盟を成功体験として固定化し、米国頼りに中国と向き合う」という世界認識を保有していることだ。
 要するに、「反米を潜在させた親米」で、屈折した心情が愁嘆場になると噴出するのだ。

 (6)米中関係は、明らかに新たな局面に動き始めた。習近平の中国とオバマ第2期政権の関係が密度の深い交流に向かい、米中2国によるアジア太平洋の共同管理の方向へ確実に向かいつつある。
 北朝鮮問題において中国は北朝鮮の銀行口座凍結など制裁強化への協力へと踏み込んでみせた。
 就任直後のケリー国務長官の北京訪問に当たっては、地球環境問題での米中協力を宣言し、グローバルなテーマについて中国が米国と連携する姿勢を示してみせた。
 6月初旬の習近平の早々の訪米と米中首脳会談の実現、7月8日からのワシントンでの米中戦略経済対話の実現と、米中間の意思疎通のパイプを活性化している。
 オバマ政権は、第1期からの米中戦略経済対話を安全保障までを含む閣僚級会議に格上げし、シェールガス開発での協力や幅広い産業協力、さらには安全保障の分野まで本音の議論をする場を構築してきた。さらに踏み込んだ議論を習近平の中国と行う構えだ。
 懸案事項は山積みしているものの、現実には日米間よりもはるかに深い意思疎通を入れよしている。
 中国包囲網を構築することを外交の主軸とする「自由と繁栄の弧」という政策意思が、いかにズレているかを明確に認識しなければならない。

□寺島実郎「アベノミクスの本質と日本のイスラエル化 --リベラルの危機と再生(その2) ~能力のレッスン第135回 特別篇」~」(「世界」2013年7月号)
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【原発】日隅一雄・情報流通促進賞 ~表現の自由~

2013年06月24日 | 震災・原発事故
 (1)日隅一雄・弁護士/元「産経新聞」記者は、「NHK番組改変問題」や数々の報道関連裁判に関わる一方で、弁護士たちのインターネットメディア「NPJ」の編集長として活躍した。
 3・11以後は、東京電力の記者会見に連日参加のうえ、政府や東電の情報隠蔽を追及するようになった【注】。その矢先、末期癌が判明。
 その後も取材、執筆、講演などに体調をおして臨んだが、志なかば、1年前に鬼籍に入った。
 存命なら、今年で50歳だった。

 (2)命日の6月12日、「日隅一雄・情報流通促進賞」の授賞式が東京で開催された。
 主催は、「日隅一雄・情報流通促進基金」(2012年12月設立)。
 海渡雄一(代表理事)、梓澤和幸、宇都宮健児ら弁護士のほか、桂敬一、木野龍逸らジャーナリストも理事として参加した。
 基金は、日隅一雄の遺志を継いで「表現の自由と知る権利が保障され、市民が主人公になる社会の実現をめざして」(「設立の言葉」)活動すべく発足した。その一環として今年から、前記趣旨にかなう功績が認められた個人や団体を対象に、命日に発表、贈呈式を行うことになった。

 (3)第1回受賞者は、
  (a)大賞・・・・情報公開クリアリングハウス(三木由希子・代表)
  (b)奨励賞・・・・市民放射能測定所(CRMS、丸森あや子・代表)、福島原発告訴団(武藤類子・代表)
  (c)特別賞・・・・東京新聞「こちら特報部」(野呂法夫・代表)
 ちなみに、審査員は、落合恵子・作家、岩崎貞明・メディア総合研究所事務局長兼「放送レポート」編集長、津田大介・メディアアクティビストだった。

 (4)大賞の三木代表いわく、「今後も公開請求を続け、情報を社会に出すために、賞金30万円は使わせていただく。情報公開は手段であり、出発点。日隅さんも、早く出発点からスタートしようよ、と言っていることでしょう」。
 三木代表は、30年間、市民の立場から活動に携わってきた。
 今や、表現の自由の土台となるべき自由な情報流通を支える主人公は市民だ。
 日隅一雄は、新聞記者から弁護士へ転身した。その遺志は、こうして受け継がれていく。

 【注】例えば、「【震災】原発>ICRP:100mSv以下の被曝でも癌が過剰発生」。

□岩本太郎(ライター)「日隅さんの遺志継ぎ「情報流通促進賞」を市民や団体に贈呈」(「週刊金曜日」2013年6月21日号)
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【食】魚は養殖のほうが安心・安全、味も負けない?

2013年06月23日 | 社会
 (1)魚は天然ものに限る。味覚からしても、安全度からしても。
 ・・・・というのが定説だが、必ずしもそうとは言い切れない時代になったらしい。
 養殖は、安全面では天然を一歩リード、味でも天然に負けない実力がついてきたらしい。

 (2)養殖の技術は進歩した。
 例えば、宇佐水産(愛媛県愛南町)。養殖マダイで出荷量日本一の愛媛県で、「宇佐パノラマ海洋牧場」を運営する。宇佐水産は、1964年にハマチの養殖を始め、1974年からマダイ養殖に専念。出荷数は150万尾だ(2012年度)。
 当初、湾内で育てていたが、1970年に10km沖合の漁場に移動した。
 通常のいけすは10平米だが、宇佐水産のそれは20平米で8倍以上の容量がある。飼育密度は通常の半分以下。密殖ではないから、病気になりにくく、太りがよく、身が締まる。
 トレーサビリティを開示し、抗生物質も稚魚のとき1回使うだけだ。
 餌も、当初はイワシの切り身やミキシングした生餌を与えていたが、肉質改善と海洋汚染防止のため、1984年からペプチド・モイスト・ペレットを使っている。食いつきや消化吸収がよく、免疫力がつく。ペレットは、イカの肝臓が入っているからか、なめるとイカの塩辛に似た味がする。人間が食べても美味しいものをマダイは食べているのだ。
 2003年にこの餌で育てたマダイのうまみ成分を分析したところ、天然魚に比べて、グルミタン酸が50%、イノシン酸が11%も高いという結果が出た。
 天然魚には旬があるが、養殖ではカロリー計算をした餌を与えるため年間を通じて美味しい魚を安定的に供給できる。稚魚から人間が管理するので、天然魚よりも安全といえる。【竹田英則・愛媛県魚類養殖協議会会長】

 (3)魚は、海水あるいは食物連鎖によって有害物質を取り込む。
 「週間朝日」誌は、農林水産省のデータ(2007年度)から、養殖と天然の両方の魚を抽出し、ダイオキシン類濃度を比較した。
 調査方法などの詳細がわからないから断定できないが、数字や地域の状況から、養殖のほうがダイオキシン類の濃度が低いといえるのはアユだ。また、天然・養殖にかかわらずダイオキシン類の濃度が高いマグロやブリでは養殖の今後が期待される。ダイオキシン類は餌によって魚に蓄積するが、養殖ならその餌をコントロール可能だ。【田辺信介・愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授(環境化学)】
 2009年に、サンダーランド(ハーバード大学)らが「北太平洋の水銀レベルは21世紀になってわずか5年程度でも30%上昇している」という衝撃的な論文を」発表した。自分たちの調査でも、日本の沿岸で捕獲された魚類の水銀濃度は、減少もしくは変化のない傾向だったが、北太平洋のスケトウダラは水銀、ヒ素、カドミウムのレベルが上昇していた。どこで生まれ、どの海域で育ったかがわからない天然魚より、しっかり管理されている養殖魚のほうが安全だ。【渡邊泉・東京農工大学農学部環境資源科学科准教授(環境毒性学)】

 (4)マグロ養殖には、大きく分けて2種類の養殖がある。
  (a)養殖・・・・種苗と呼ばれるヨコワ(100~500g)を2~3年かけてマーケットサイズに育てる。
  (b)畜養・・・・20~60kg程度のマグロを捕獲し、半年ほどかけて肥やす。
 日本ではほとんどが(a)を実施する。他方、スペインなど地中海沿岸諸国、メキシコ、オーストラリアなどでは(b)を行う。
 近畿大学やマツハニチロなどは、「完全養殖」(人工親魚から人工種苗を育てる)に成功している。その人工種苗を購入し、養殖して出荷する業者が出てきている。

 (5)食物連鎖の上位にいるマグロは水銀濃度が高い。
 水銀濃度を養殖・天然で比較すると、天然マグロより養殖マグロのほうが水銀濃度が低い。一般に、マグロの水銀濃度は、食べた餌の量に比例する。自然界には豊富に餌があるわけではないので、天然マグロは広く海洋を動き回って餌を確保する。動くスペースが狭く、餌が潤沢な養殖マグロに比べ、無駄な動きが多いため、結果的には同じ大きさの養殖に比べて食べる量が多く、水銀濃度が高くなりやすい傾向がある。【遠藤哲也・北海道医療大学薬学部准教授】
 水銀濃度は大きさ、年齢とともに高まるため、小型で若い養殖は濃度が低くなりやすい。
 マグロの水銀濃度が高い理由は、もう一つある。
 天然マグロは赤身(筋肉)部分が多い【注】。天然マグロではトロの部分が20%だが、養殖マグロでは80%にもなる。水銀は筋肉をつくる蛋白質にたまる性質がある。天然マグロで水銀濃度が高くなりやすい所以だ。
 水銀濃度が高いのは、飼育期間が短く、天然に近い(b)も同様だ。以前、スペイン産の畜養マグロの水銀濃度の高さが問題になった。

 (6)養殖であれば、何でも安全というわけではない。餌によっては、養殖の水銀濃度が高まる。逆に言えば、水銀濃度の低い小魚を餌にすることで、養殖の水銀濃度を減らすことができる。
 (3)のデータからしても、ダイオキシン類では、クロマグロは天然と養殖でほぼ同じで、ミナミマグロは天然より養殖のほうが高い。
 ダイオキシン累の一つPCB(コプラナーPCB)は養殖のほうが高い。PCBには脂にたまる性質があるので、トロの部分が多くなるほど濃度が高くなる可能性がある。水銀のみならずPCBについても検証する必要がある。【遠藤准教授】

 【注】養殖マグロに赤身が多いのは、栄養面からみると利点だ、という見解もある。
 養殖マグロは脂が多いので、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などの栄養素が豊富だ。養殖では赤身にも脂が十分に含まれているので、脂が胃にさわる年配の人は赤身を食べるとよい。【成瀬宇平・鎌倉女子大学名誉教授】

□庄村敦子/山内リカ(本誌)「安心・安全で一歩リード サカナは養殖に限る!」(「週刊朝日」2013年6月21日号)
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【食】食品表示はどこまで信用できるか ~遺伝子組み換えでない/表示なし~

2013年06月22日 | 社会
 (1)ラットに遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの混じった餌、除草剤入りの水を摂取させるとどうなるか【注】。
  (a)実験群・・・・開始4ヵ月目、癌による最初の死亡例が発生。1年を過ぎたころから、乳癌や腎臓疾患が増加。腫瘍は著しく肥大化し、頭部よりも大きな膨らみが、乳腺や肩などにボコボコ盛り上がった。腫瘍の重さが体全体の4分の1を超え、安楽死させなければならない個体が続出した。
  (b)対照群・・・・開始1年5ヵ月目まで、死亡例は発生しなかった。 
 GM作物が動物に与える影響は一目瞭然。すぐに摂取を禁止し、より詳細な実験を始めるべきだ。GMトウモロコシと癌の関係について、確認が必要だ。【ジル=エリック・セラリーニ・仏カーン大学教授(分子生物学)】

 (2)GM食品に対する懸念、不安を覚える人は欧州を始め、日本でも多い。最近では、TPPによる規制緩和を警戒する声もあがる。
 ただ、実態において、すでにGM食品は日本人の食生活に浸透し、口にしないでいることは困難だ。
 <例1>大豆(GM作物の代表格)。
  (a)国内の食用大豆の8割程度が輸入だ。【農林水産省】
  (b)国内消費の9割強(年280万トン)を米国、ブラジル、カナダなどから輸入している。輸入された大豆の大部分は、日々の料理に欠かせないサラダ油、天ぷら油などの油脂類に加工される。さらに一部は、インスタント食品、冷凍食品など、原料が比較的注目されにくい加工品などにも使われる。ちなみに、全世界の大豆畑に占めるGM作物の割合は8割に達する。

 <例2>トウモロコシ(GM作物の代表格)。
 国内消費分のほぼすべて(年1,600万トン)を輸入に頼る。うち、9割は米国産だ。その米国では、トウモロコシの全栽培面積のうち9割をGM作物が占める。
 国内で消費するトウモロコシの3分の2は家畜の飼料になる(直接口には入らない)。しかし、残り3分の1の半分(全体の6分の1)以上は、コーンスターチ(トウモロコシ澱粉)に加工されて甘味料になり、菓子などに使用される。

 (3)GM作物は大量に輸入され、それらを加工した食品を日本人は日常的に口にしている。
 にもかかわらず、食品表示を見るかぎり、こうした現実を感じることはない。知らぬまにGM食品を摂取している可能性が十分にある。
 かかる不明朗な状況を生み出しているのが、日本の食品表示のルールだ。
 GM食品について、国は、安全性を確認したものだけが流通している、という立場をとる。一方で、他の食品と区別したい消費者への情報提供として、GM食品であることを明示するよう、生産者などに求めている。
 大豆、トウモロコシ、ジャガイモなど8作物と、それらを加工した豆腐、納豆、味噌、スナック菓子など33食品が、JAS法および食品衛生法に基づく消費者庁の指定作物・食品だ。
 GM作物そのもの、GM作物を使っている食品は、「遺伝子組み換え」、生産過程でGM作物が入っているかもしれないものは「遺伝子組み換え不分別」などと表示する(義務)。
 他方、GM作物を使用していなければ、表示の必要はない。「遺伝子組み換えでない」という表示をしている納豆などがあるが、これは任意でしているものだ。

 (4)問題は、表示義務のないものだ。<例>食用油。
 GM作物由来の食品を絶対に口にしたくない人には、思わぬ「落とし穴」だ。

 (5)加工食品については、表示の「抜け道」もある。
  GM作物が入っていても、それが「主な原材料」(原材料のうち、重さで上位3位以内に入り、かつ5%以上)でなければ、表示義務を免れるのだ。
 <例>菓子・炭酸飲料・・・・GMトウモロコシから作られた甘味料が含まれる場合も少なくないが、甘味料に使われたGMトウモロコシが「主な原料」の要件を満たすことはまずない。満たさなければ表示義務はなく、あえて表示する業者は皆無に近いから、消費者は気づかない。
 それどころか、表示が「目くらまし」になる可能性もある。
 主な原材料にGM作物が使われていなければ、実際にはGM作物やその加工物が入っていても、「遺伝子組み換え作物不使用」などと包装に書くことができるのだ。
 加えて、「意図せざる混入」が5%以下のときも、「不使用」と表示できる。
 食品業者がGM作物を排除しようとしても、実際には、生産、流通過程で混じることも多いが、少量であれば、「ゼロ」と見なしてよい、というわけだ。
 これらのケースでは、結果的に、消費者は事実に反することを信じ込まされていることになる。
 「5%以下」という基準は問題だ。EUは0.9%を基準にしている。検査技術はどんどんレベルアップしているのだから、限界まで検出して区別すべきだ。さもないと、何を買うか、買わないか、と選択する消費者の権利が行使できない。【安田節子・「食政策センター・ビジョン21」代表】

 (6)「AERA」誌のアンケート調査によれば、原材料にGM作物が混入しているかもしれない、と答えたのは、食用油メーカー2社。J-オイルミルズは、プライベートブランド商品Mに「遺伝子組み換え不分別」の表示をしている(GM作物混入の可能性を明示)。ロッテ、山崎製パンのように、GM作物から作られたものを使っている可能性について言及する会社もあった。
 イオンは、自社のプライベート商品で、原材料が何からできているのかを、加工品については4段階までさかのぼって確認。GM作物の使用が認められれば、表示義務のない油脂類、醤油を含め、明示している。「出せる情報は出す」という姿勢だ。

 (7)GM食品多一句の米国では、これまで表示は不要としてきた。しかし、穀物に加え、リンゴやサーモンなどのGM化が進むなか、消費者たちの間で表示を求める声が高まり、20以上の州で、義務づける動きが進行中だ。
 
 【注】実験を追った映画「世界が食べられなくなる日」が公開中。なお、セラーニ教授の実験については、欧州食品安全機関(EFSA)を始めとする各国の公的機関(厚労省食品安全委員会を含む)は否定的だ。

□田村栄治・宮下直之(編集部)/奥山暁子(ライター)「忍び込む「GM食品」」(「AERA」2013年6月24日号)
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 【参考】
【TPP】は企業権益拡大のための協定 ~リーク文書~
【TPP】秘密交渉の裏側/多国籍企業群がTPP妥結に圧力
【TPP】数百万人の命を左右するEU・インドのFTA ~対岸の火事?~
【食】モンサントの不自然な食べもの
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~
【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~

【本】スーダン留学生による『わが盲想』 ~視覚の壁、言語の壁~

2013年06月21日 | エッセイ

   

 ここでいう盲想は、妄想ではない。盲人の想念のことだ。
 モハメドは、1978年、スーダンはハルツームに生まれた。生まれつきの弱視、12歳で失明。
 19歳のときに来日。以来、福井県立盲学校にて点字および鍼灸を、筑波技術短期大学にて情報システムを、東京外国語大学にて日本語、日本文学、日本史を学んだ、東外大ではアフリカ地域研究をテーマに選び、研究者の道を歩む。31歳のとき、同郷のアワティフ(晴眼者)と結婚、二人して府中市に住む。東日本大震災直後の3月25日、疎開先(北九州市)の病院で第1子を得た。
 ここまでの半自伝が、本書『わが盲想』の本文だ。
 第1子出生から2年後、葉桜の季節に、著者は本書の「おわりに」において、たくさんの人々に謝辞を述べる。
 事実、モハメドは数々の人々から支援を得た。支援は大きく分けて2つ。第一に視覚障害に関わる支援でああり、第二に日本語習得に関わる支援である。
 その両方について、本書にていねいに綴られるのだが、モハメドにおいて特徴的なことは、いや、モハメドに限らず優れた人には常に見られることだが、支援を受けるという一方的な立場に止まらず、支援する側にも立ち位置を換える。
 第一点の視覚障害に関してモハメドは、日本においては任意団体からNPO法人に発展した「スーダン障害者教育支援の会」に拠って活動した。祖国スーダンにおいては、その最古の高等教育機関、ハルツーム大学に視覚障害者パソコン支援室を立ち上げ、アラビア語の音声ソフトを搭載したパソコン5台を寄贈したり、視覚障害を有する大学生、卒業生へのパソコン・トレーニングも行った。学外でもモハメドが得意なブラインドサッカー講習会も開催し、普及に努めた。
 こうしたセルフ・ヘルプ・グループの活動の意義をモハメドは簡潔に整理している。仕事(研究)からの逃避、人のためにやっているという思い込みが精神にもたらすバランス、職業(対価のある労働)を持たなくても得られる「肩書き」。
 第二点の日本語に関しては、支援する立場というよりは日本語を駆使して新たな言語空間を創造すると言ったほうがよいかもしれない。駄洒落が分かりやすいからこれを例に引くが、とにかく見事なギャグを連発する。日本への留学を「トライ(渡来)」としたり、「スーダンはどんなところですか」の問いには「スーダンは日本より数段広くて、数段暑い国だ」と返事したり、福井での生活を「雪の上にも三年」と総括したり。
 そして、1冊の本を送り出し、日本の文化を少し豊かにした。
 その本(本書)は、容易に察せられるように、軽妙な文章のおかげで気軽に読めるし、楽しめる。語り口の妙味だ。
 この軽さは、日本においては異邦人、つまり祖国が別にある人(いずれは去っていくであろう人) という立場に起因するのかもしれない。血縁、地縁が深まるほど、口も心も重くなるものだ。
 文章は軽いが、文章が伝える内容はちっとも軽くはない。例えば、東外大に内地留学したとき、その寮から面倒な乗り換えにつぐ乗り換えで大学まで通うには、歩行訓練士による訓練を受けなければならなかった。
 要するに、モハメドは来日して以来、二重のバリアに囲まれていた。視覚障害からくる壁と言語の壁だ。
 本書では、流暢な日本語のせいで、モハメドはこれらのバリアを難なく乗り越えてきたかのように読めるが、むろん書かれていない事実のほうが多いだろう。
 しかし、「言葉は社会的なものだ。真に個人的な経験は言葉によって伝えることはできない」とヴァレリーは言った。モハメドは、言葉で伝えることのできることを伝え、かつ、伝えることのできることだけを伝えるに止めているのである。
 故郷スーダンについて語るとき、内戦で友人・知人を20人以上失った、とさりげなく記すが、そこから出てくる思いは1行で済ませられるはずはない。視覚の壁、言語の壁についても然り。
 日本語を母語とし、かつ青眼の読者は、モハメドが語らなかったことをも汲みとらなければなるまい。

□モハメド・オマル・アブディン『わが盲想』(ポプラ社、2013.5)
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【社会】プロ野球よ、お前もか ~隠蔽の背景~

2013年06月20日 | 社会
 (1)プロ野球で、今シーズンの何時頃からかは不明だが、ボールが選手の知らぬまに変わっていた。
 いや、現場はちゃんと見通していた。開幕後、ホームラン数や防御率の数字の昨年と違っていたからだ。
 1試合当たりのホームラン数を見ると、統一球導入前は1.78本(2009年)、1.86本(2010年)、統一球導入後は1.09本(2011年)、1.02本(2012年)、変更のあった2013年は1.50本だ。防御率の推移も、ホームラン数と同様の動きをして、統一球導入の2年間は他の年に比べて小さい。
 日本プロ野球選手会が実施したアンケートでも、7割以上のプレーヤーが「今季はボールが飛ぶようになった」と回答している。
 にもかかわらず、加藤良三・コミッショナーをトップとする日本野球機構(NPB)は、その事実を選手から追及されるまで伏せていた。
 なぜか?

 (2)6月12日20時、公式戦が行われている最中に、加藤コミッショナーらによる記者会見が開かれた。だが、選手、ファン一同の疑問に全く答えていない。
 「私は全く知らなかった。知っていれば公表した」
 と言い逃れた。開き直った。そして、加藤はコミッショナーとして不適任ではないか、という疑問を聴衆に植えつけた。

 (3)統一球導入(2011年)の提唱者は、その3年前に駐米大使から球界トップに転身した加藤その人だ。
 かつてプロ野球の試合球は、12球団それぞれがメーカーと契約していた。対戦相手によって飛ぶボールと飛ばないボールを切り替える荒業をやってのけるチームさえあった。
 2009年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本選手が国際試合のボールに戸惑った。これを契機に、国際派を自認する加藤が、「国際基準」に近づけることを提唱し、ミズノ社が製造した低反発の統一球が採用される仕儀となった。

 (4)球団ごとに使用するボールが異なっていては世界で通用しない。統一球はボールの縫い目など、WBCやメジャーに近づいた・・・・。
 が、3連覇を逃した今年のWBCでは、ボールに適応できない選手が続出した。ホームランが公式戦で激減し、「つまらない」と批判された。
 結果的には、統一球の導入は明らかに失敗だった。
 だからこそ、NPBは途中で球を替えた。
 事前に選手やファンに伝えていれば、何の問題もなく、むしろ歓迎されていたはずだ。
 娯楽性を高め、ライトファンを取り込むには、飛ぶボールへの変更は良いはずだった。それを隠すから、こんな問題になっている。【並木裕太・『日本プロ野球改造論』の著者】
 出来高契約を結んでいる選手が多い。ボールの変更は、この契約条件に大きな影響を与える。ボールが替われば、選手のフォームなどへの影響もあるし、投手の打者に対する攻め方も変わる。選手に知らせずに変更すること自体、現場を軽視した行為だ。【石渡進・選手会の弁護士】

 (5)NPBは、なぜ隠蔽したのか?
 ミズノが「用済み」となった統一球の在庫を大量に抱えていたからだ(疑い)。
 12球団が年間に使用する試合球は24,000ダース(288,000個)。ミズノは、リスク回避のために常に3ヵ月分、10,000ダースの「在庫」を抱えていた。

 (6)統一球を導入する前(2010年以前)は、ミズノ以外にアシックス、ゼット、久保田運動具店(スラッガー)の計4店の製品が公式球として認められていた。そのうちミズノだけが統一球のメーカーとして選ばれたのだ。
 本来なら毎年入札してメーカーを替えてよいのに、独占しているから、規定値より低反発の不良品が出ても替えがきかず、使い続けなければならない事態になる。だから、「在庫」という問題が起きた。【井箟重慶・関西国際大学名誉教授】
 隠蔽の背景に1社独占の弊害があったのだ。
 ミズノ側から、公表前に「在庫を処理してくれないか」とNPB側に圧力があったのではないか。【メーカー関係者】
 NPB側は、公表を控えた理由を
 「新旧の球が混在しており、混乱を招かないようにするため」
 と説明している。問わず語りに、在庫処理を優先したことを白状している。

 (7)隠蔽工作が明らかになるまで、ミズノは一貫して「ボールに変更はない」と答えている。上場企業のコンプライアンスからして重大な問題だ。
 今回の件では、NPBとミズノの関係が適切ではなかった(疑い)。これをきっかけに日本プロ野球界が再活性化するには、統一球をはじめ、NPBが関与した様々な契約関係について、その内容、適正に運用されているかを調べなおす必要がある。【大坪正則・帝京大学教授(スポーツ経営学)】
 
 (8)(2)の釈明会見で、加藤は、統一球の変更は下田邦夫・NPB事務局長が独自に行ったもので、今回の騒動は「不祥事ではない」と言い切った。
 そもそも、国際規格なんてないのに、何と合わせようとしたのか。素人のコミッショナー(資質が問題)が主導していたから、何も分からない。【江本孟紀・野球解説者】
 NPBのコミッショナーには、実質的に大きな権限はない。任免権を持つ12球団オーナー会議が重要な案件について決めることが多い。
 加藤は、存在感を示そうと、統一球の導入、巨人・阪神戦を来春に米国へ「逆輸出」するプランなど、さまざまなアイデアを出してきた。統一球は、加藤にとって数少ない「成果」で、されば一球一球にわざわざ加藤直筆のサインが刷り込まれている。しかし、完全な裏目に出た。
 加藤の「暴走」を黙認していたオーナーたちの責任も避け得ない。

□本誌取材班「コミッショナーの滞在」(「AERA」2013年6月24日号)
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【原発】アレバ社が日本へMOX燃料を搬入 ~安部首相の原発セールス~

2013年06月19日 | 震災・原発事故
 (1)仏アレバ社は、3・11で、日本へのMOX燃料(プルトニウムとウランの混合酸化物)輸送を中断していた。
 福島第一原発事故後初めて、6月下旬に【注】、高浜原発3号機(関西電力)に、アレバ社が製造したMOX燃料を運び込むことになった。
 高浜原発は稼働していない。関西電力は、原発新規制基準策定(7月予定)に合わせて高浜原発再稼働審査を原子力規制委員会に申請する予定だが、再稼働の見込みは立っていない。
 にも拘わらず輸送が実施された背後に、安倍晋三内閣の原発推進政策に便乗しようとする仏政府の思惑がある。

 (2)このほど来日したオランド・仏大統領は、安部首相との間で、「原子力分野での協力強化」をうたった共同声明に調印した。
 共同声明には、「核燃料サイクルのパートナーシップ深化」と称する青森県六ヶ所村の再処理施設創業開始、および「使用済み燃料の再利用」を盛り込んだ。アレバ社の貴重な収入源となっているMOX燃料の販売を継続したい仏側の希望を反映した形だ。
 一方、原発輸出を「成長戦略」に取り込みたい安部首相は、三菱重工がアレバ社とともに「開発し、トルコ政府が建設に合意した原子炉「アトメア1」の今後の売り込みを期待している。2011年度に3千億円の損失を出して以降、収益悪化が止まらないアレバ社を抱える仏側も同じ期待を持っている、とされる。

 (3)核燃料サイクルは、日本で破綻している。そこからアレバ社がどれだけ利益を引き出せるか、疑問。
 「アトメア1」の、黒海に臨む建設予定地では住民の反対運動が起きている。完成できるのか、不確定要素が残る。
 まず、福島第一原発事故の収拾に「協力」し合うのが筋だ。

 【注】6月27日頃。輸送船2隻の仏国シェルブール港出発は4月17日(日本時間18日)。輸送量10トン以上。なお、関電は、2014年秋頃から高浜第3、第4号機でMOX燃料を使用することを前提に家庭向け電気料金の原価を算定していることが明らかになっている。【2013年6月18日付け日本海新聞】

□渡部睦美(編集部)「仏ア社が高浜原発にMOX ~仏オランド大統領・安部首相の原子力協力」(「週刊金曜日」2013年6月14日号)

   *

 (1)安倍晋三・首相は、4月28日から5月4日にかけて、ロシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコを歴訪した。
 トルコでは、原発4基の建設を三菱重工を中心とする企業連合が受注することが確実になった。世界有数の規模で、事業費は2兆円を超える見込み。3・11以来、初の原発輸出だ。
 UAEでは原子力協定に署名し、サウジ、帰国後にはインドと、原子力協定の競技を始める。同協定は、原子力関連部品を輸出するのに必要だ。
 6月7日には、来日したオランド・仏大統領との間で、日本での核燃料サイクル、原発の共同開発、輸出推進での協力を確認。日本原燃社長と仏アレバ社CEOとが協力強化の覚書に署名した。トルコでは、アレバ社と三菱重工との合弁会社が開発した原発が建設される見込みだ。

 (2)トルコでの原発建設には懸念材料がある。
 トルコは、マグニチュード7級の大地震にたびたび襲われてきた。1999年8月の地震では、死者が1万人を超えた。
 その状況下で、日本側が、設備の維持管理をはじめ原発運転のノウハウを初歩からトルコ側に教え込まなければならない。
 事故が起きた時の責任を負わされる可能性があるのははっきりしている。【飯田哲也・環境エネルギー政策研究所長】
 事実、6月7日、蒸気発生器の拝観が破損して昨年から止まっていた米カルフォニア州の原発を廃炉にすると発表された件では、運営側は製造した三菱重工に損害賠償を請求する。
 さらに、トルコとの交渉では、最終処分場問題にはあえて触れない、と事前に申し合わせていた。「核のゴミ」問題を曖昧にした。【経産省関係者】

 (3)6月5日に公表された成長戦略第3弾には、「原発再稼働」に<政府一丸となって最大限取り組む>と盛り込まれている。
 だが、危険な原発セールスを続ける安部政権には、成長戦略の実績づくりとは別の狙いがある。「もんじゅ」を含む核燃料サイクルの推進、そして日本の原発再稼働の切り札にしたい、という思惑が隠されている。【古賀茂明・元経産官僚】
 民主党政権にかげりが見えていた昨年5月25日、細野豪志・原発担当相(当時)の私的諮問機関(遠藤哲也・元原子力委員会委員長代理ら「原子力ムラ」の重鎮らで構成される)が中間報告「核燃料サイクルの検証と改革」をまとめていた。この内部文書(通称「細野ペーパー」)いわく、<六ヶ所再処理工場を利用した他国の使用済燃料の処理・返還の可能性を含め、我が国買う根尿サイクル全体の更なる「国際化」を進めることが視野に入ってくる>。
 日本が「世界貢献」をうたい文句に、新興国で出た「核のゴミ」を一手に集めて再処理をして戻す。それを果たすのに「もんじゅ」の建設続行を含め、核燃料サイクルを大規模に展開しなければならない。・・・・こういう理屈を経産官僚と「原子力ムラ」がひねり出した。【古賀茂明】

 (4)「再処理」が原発セールスの「売り」となっているふしがある。
 日本の再処理は日米の原子力協定で認められたものだが、この協定は2018年7月に切れる。「協定が切れる前に再処理の権利を手放したら、二度と戻ってこなくなる」と、「原子力ムラ」の有力者が自民党に対して熱心にロビー活動を行っていた。
 再処理の前提は原発が動いていることだ。核燃料サイクルが「売り」ということは、国内の原発再稼働を前提としている。
 原発を売り込む一方で、使用済み核燃料については「核不拡散」の美名のもと、日本で再処理を引き受ける目論みともとれる。
 だが、「六ヶ所村」は完成予定の今年10月は危ぶまれているし、「もんじゅ」に至っては運転再開の準備作業すら認められていない。

□本誌取材班「安部首相 原発セールスの危険な舞台裏」(「週刊朝日」2013年6月21日号)
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【旅】添乗員、客を空港に置き去り ~海外ツアーの落とし穴~

2013年06月18日 | 社会
 (1)山田太郎(仮名)、会社員、仙台市在住、50代・・・・は、数年に一度の海外旅行が、何よりの気分転換だ。
 今年1月にも人5人と一緒に、世界遺産をめぐる旅に出かけた。英語が苦手な山田さんは、安心・安全に旅を楽しみたい、と添乗員付きツアーを選んだ。
 阪神交通社のツアー「スペイン・ポルトガル8日間」(燃料サーチャージ込み180,100円)がそれだ。
 
 (2)旅も終わりに近く、英国ヒースロー空港で、飛行機を乗り換えて帰国する予定だった。
 ただ、旅行日程に記された乗り継ぎの移動時間が今までの旅行に比べて短く、間に合うのか、と山田さんは出発前から気にしていた。
 不安は的中した。同ツアーの計画では手荷物検査に費やせる時間は30分間程度。余裕がないにも拘わらず、ツアー客26人のうち、山田さんと女性客、女性添乗員の3人が手荷物の再検査場に回されてしまったのだ。
 手荷物再検査は、主にテロ対策のため行われ、欧米では近年とくに厳しくなっている。再検査の対象者はランダムに選ばれ、このときは10人に1人程度の割合で再検査に回された。
 添乗員は、出発時刻が迫っているから早くしてほしい、と係員に抗議した。しかし、自分が先に再検査を終えると、女性参加者にだけ搭乗ゲートの場所を教え、他のツアー客が待つ搭乗口に行ってしまった。続けて女性参加者も再検査を通り、山田さん一人が取り残された。禁止物は何も所持していなかったのだが。
 山田さんが再検査をようやく通り、巨大な空港内を走って搭乗口に辿り着いたとき、搭乗手続きの締め切り予定時刻を30分、出発予定時刻を10分過ぎていた。搭乗口は閉鎖され、誰もいなかった。
 待ってくれている、と山田さんが思っていた添乗員は、飛行機の中から山田さんの携帯電話にかけてきて、告げた。
 「今飛行機が飛び立つところで、もう乗れない。頑張って帰ってきてください」 
 愕然。

 (3)山田さんは片言の英語を使いながら、搭乗券再発行カウンターを探しあてた。当日便は満席だったため、翌日便に振り替えることになったが、空港には泊まれない。旅行日程表にあった現地の旅行代理店に連絡して宿の手配などを依頼すると、
 「お金がかかることだし、すべては山田様が決めることです」
 翌日帰国できたが、宿泊費、新たに雇った現地ガイド代など、予定外の出費が10万円近くかかった。
 山田さんは、実費だけでも負担してほしい、と阪急交通に申し入れた。
 が、「運送機関のサービス中止など、旅行会社の関与しない理由によって旅行者に生じた損害は、旅行会社が賠償責任を負うものではない」という旅行業約款をたてに、「阪急は無過失なので補償しない」と門前払いをくらった。
 山田さんは、慰謝料を含め、40万円の賠償を求める訴訟に踏み切った。
 「今回はなんとか帰国できたけれど、もし命にかかわるような事故に捲き込まれたら責任をとってくれるのでしょうか。阪急は過失がないというが、私にも過失はないのです」

 (4)旅行会社が設定した旅程は適切だったか。
 ヒースローのようなハブ空港は、近年ものすごい勢いで巨大化している。発着便数も多いので、出入国や手荷物検査に時間がかかる。今回のツアーは、最低限の乗り換え時間を一応は満たしている。しかしテロ対策が厳しい空港であること、団体旅行で移動に時間がかかることなどを加味すると、適切な旅程だったかは微妙なところだ。【広岡裕一・和歌山大学教授(観光学)】
 添乗員の安全管理や対応に問題がある。ギリギリの旅程でツアーを催行している旅行会社はほかにもある。アクシデント一つで、山田さんのように乗り遅れることは十分に考えられる。20年ほど前から、旅行業界の価格競争は激化している。極限までコストカットされていれば、万一の費用、旅程、現地要員に余裕がない。とくに格安ツアーは、経験の浅い契約添乗員にツアー運行の全責任を課していることが多い。「お客様」が後回しになりがちだ。【千葉千枝子・観光ジャーナリスト】
 かつて高嶺の花だった海外旅行はずいぶん手軽になった。しかし、品質管理面はまだ過渡期にあるらしい。“安かろう悪かろう”ではいけない。とくに緊急時の安心と安全の確保は、品質の最低ラインだ。旅行会社はこれを保障する義務がある。【斉藤睦男・弁護士】

 (5)こんなツアーにご用心(5ヶ条)
  (a)値段が安すぎる。
  (b)スケジュールを詰めこみすぎ。
  (c)土産物屋への立ち寄りが多い。
  (d)航空会社、便名、時刻が詳細ではない。
  (e)乗り換え前後で航空会社が異なる。

□岡野彩子・大田原恵美(本誌)「添乗員付き海外ツアーの落とし穴 ツアー客を英国の空港に置き去り」(「週刊朝日」2013年6月21日号)
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【社会】IT利権か、公共事業か ~マイナンバー~

2013年06月17日 | 社会
 (1)勝栄二郎・前財務省事務次官は、在任当時、「10年に一度の大物」「スーパー理論家」と言われ、その圧倒的な影響力から、菅直人、野田佳彦の両政権は「勝政権」「直勝内閣」などと呼ばれた。
 この勝次官(当時)が、「社会保障と税の一体改革」つまり消費増税を国会に通す原動力になった。
 昨年7月、次官をしりぞき、8月17日に退官。それから間もない11月19日、インターネットイニシアティブ(IIJ)特別顧問に就任。今年6月の株主総会後、代表取締役社長に就任する。
 消費増税という歴史的な大仕事の土台をつくった「大物」の天下り先に注目が集まっていたが、メガバンクの重役ではなくてインターネット関連企業への再就職は、当時、周囲を少なからず喫驚させた。

 (2)が、ちっとも驚くことはないのであった。
 マイナンバー法が、5月24日、参議院本会議で成立した。
 マイナンバー制導入のため、各省庁や自治体がシステム整備を構築していくのはこれからだ。
 役所に睨みがきき、かつ、永田町にも顔がとおる勝・前次官は、インターネットイニシアティブにとってまたとない「対外交渉力」となる。事実、同社ホームページによれば、勝・前次官の社長就任の目的は「事業運営における対外交渉」だ、とある。
 財務省の元トップが、天下り先企業の次期社長として、マイナンバー事業の受注を狙う・・・・。

 (3)マイナンバー法施行によって最初に生まれる「特需」は、行政のシステム構築市場だ。
 政府は、新システムの導入費を350億円(2014年度)、既存システムの改修費を最大2,350億円(同)と見積もる。
 マイナンバー法案が衆議院で可決された5月9日、参議院での可決にも見通しがついたことで、東京株式市場では情報システム関連の株価がのきなみに上昇した。
 <例>NTTデータ・・・・10%も上昇し、一時は制限値幅の上限(ストップ高)まで上げた。同社は、官公庁向けシステムインフラ整備を手がける。住民基本台帳ネットワークが導入された2002年にもシステム整備にたずさわった。今回は当時のノウハウを活かしていく、と岩本敏男・同社社長みずから宣言している。
 NTTデータ以外にも、アイネス(自治体向けシステム構築を手がける)、ソフトバンク(個人情報の「ビッグデータ」分析の重要性を説いてまわる)の株も急上昇した。

 (4)マイナンバー法成立の背景には、IT利権がある。マイナンバー制を導入するのも、システムを変換、改修するのも、巨大な公共事業になる。【石村耕治・白鴎大学教授/プライバシー・インターナショナル・ジャパン代表】
 今回のマイナンバー法は、医療情報と個人情報の民間利用を除外した。
 しかし、経済界の要望は根強い。3年後の法改正では、民間利用が認められる可能性が高い。
 経団連の報告書「公共データの産業利用に関する調査結果 概要」には、次のように記されている。
 <「情報」は、ヒト、カネ、モノに並ぶ、第4の重要な経営資源となっている。とりわけ、国・地方公共団体などの行政機関が保有・公開している公共データは、信頼性の高い基礎データとして、民間での活用ニーズが高い>

□本誌取材班「個人情報流出で米韓では社会問題化 ~IT利権か公共事業か~」(「週刊金曜日」2013年6月7日号)

 【参考】
【社会】「監視社会を拒否する会」 ~マイナンバー~
【官僚】マイナンバーで焼け太る官僚とITゼネコン
【社会】税務署の所得把握が会社員に厳しくなる ~マイナンバー~
【社会】個人番号報道に見るメディアの「国家観」 ~マイナンバー~
【社会】「監視社会を拒否する会」 ~マイナンバー~
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