再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)は、2012年に始まった。
電力会社に最長20年間の買い取りを義務づけた。国が今年5月までに認定した設備容量は、何と7,000万kW(原発70基分分)になった。うち9割を占める太陽光発電は、天候に左右され、夜間は発電ゼロ、その割合が高まると電圧などを安定的に維持するのが困難になる。このため、九州電力など電力5社は、再生エネルギーの買い取り契約に係る事業者との交渉を10月以降止めてしまった。
太陽光発電への参入がそこまで増えたのには意外な理由がある。
(1)経産省と太陽光パネルメーカーとの癒着。
日本の再生エネルギーは異常に高い。これが増えるとその分、電力料金に上乗せされる。現在の上乗せ額は、年間2,700円だ。再生エネルギー後進国の日本は、先進国ドイツの水準(日本の半分のコスト)を目指すべきだったが、それでは競争力のない日本のパネルが売れず、中国メーカーに席巻される。そこで経産省は、異常に高い価格を設定し、当時危機に瀬していた日本メーカーを守った。
その結果、事業者に大きな利幅が保証され、太陽光発電だけが爆発的に伸びた。
ドイツは自国メーカーを守らず、中国メーカーに買収されてしまったが、太陽光発電の単価は劇的に下がった。日本とは好対照だ。
(2)再生エネルギーを強力に推進して反原発の世論を鎮めようという思惑。
当時劣勢にあった原子力ムラが、原発か再生エネルギーか、ベストミックスは何か、という議論を何とか封印するために、再生エネルギー推進を免罪符にしようとしたのだ。その時点で議論すれば、結論が脱原発になってしまう怖れがあったからだ。
制度開始から1年経ったころには、太陽光発電が増えすぎだ、という議論があった。しかし、欧州では太陽光発電や風力発電など不安定なエネルギーが2割から3割にもなる国がある。下手に議論して、沈静化しつつあった脱原発運動を再び勢いづかせないように、とここでも議論が封印された。
(3)高コストの再生エネルギーが増えると電力料金が上がる・・・・ということを消費者に思い知らせようとする狙い。
消費者筋から、再生エネルギーを止めて原発再稼働で電力料金を下げてほしい、という声が出ることを期待したのだ。
つまり、すべては原発のためだ。
原子力ムラの思惑どおり、エネルギー基本計画(2014年4月に閣議決定)で原発は、「重要なベースロード電源」としての地位を確保し、今や九電の川内原発再稼働も確実になった【注】。さらに、九電管内での太陽光発電の人展が夏のピーク電力需要を超える水準に達し、制度見直しに誰も反対できなくなった。
そこで、経産省も電力会社も安心して、FIT見直し、再生エネルギー抑制の方針を打ち出したのだ。
むろん事業者は、経産省の認定を受けたのにおかしい、と言うだろう。
経産省はしかし、契約するかどうかは電力会社が決めることだ、と言って逃げる。
電力会社は、安定供給に支障があるときは接続を拒否できると法律に書いてあるので合法だ、と言う。
この先、他の原発も次々再稼働されて既成事実ができ、安全が喧伝される。
北電の泊原発が動いて電力料金が大幅に下がる。
二酸化炭素は増えない。
「いいことずくめ」の原発だからと、助成策も次々に決まっていく。
極めつけは、FITの対象に原発を入れることだ。原発新設も現実味を帯びてくる。
原発推進への原子力ムラの着実な歩み。
国民は、その粘り強さにただ脱帽するのみ・・・・なのか、それとも、それを上回る粘り腰で大逆転できるのか。
国民一人一人の真価が問われている。
【注】「【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器」
□古賀茂明「再生エネ買い取り停止の裏で ~官々愕々第129回~」(「週刊現代」2014年11月8日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権」
「【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り」
「【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~」
「【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~」
「【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器」
「【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ」
「【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~」
「【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~」
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
「【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~」
「【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~」
「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
「【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」」
「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
「【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~」
「【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~」
「【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~」
「【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~」
「【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~」
「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
「【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~」
「【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~」
「【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~」
「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと」
「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」
電力会社に最長20年間の買い取りを義務づけた。国が今年5月までに認定した設備容量は、何と7,000万kW(原発70基分分)になった。うち9割を占める太陽光発電は、天候に左右され、夜間は発電ゼロ、その割合が高まると電圧などを安定的に維持するのが困難になる。このため、九州電力など電力5社は、再生エネルギーの買い取り契約に係る事業者との交渉を10月以降止めてしまった。
太陽光発電への参入がそこまで増えたのには意外な理由がある。
(1)経産省と太陽光パネルメーカーとの癒着。
日本の再生エネルギーは異常に高い。これが増えるとその分、電力料金に上乗せされる。現在の上乗せ額は、年間2,700円だ。再生エネルギー後進国の日本は、先進国ドイツの水準(日本の半分のコスト)を目指すべきだったが、それでは競争力のない日本のパネルが売れず、中国メーカーに席巻される。そこで経産省は、異常に高い価格を設定し、当時危機に瀬していた日本メーカーを守った。
その結果、事業者に大きな利幅が保証され、太陽光発電だけが爆発的に伸びた。
ドイツは自国メーカーを守らず、中国メーカーに買収されてしまったが、太陽光発電の単価は劇的に下がった。日本とは好対照だ。
(2)再生エネルギーを強力に推進して反原発の世論を鎮めようという思惑。
当時劣勢にあった原子力ムラが、原発か再生エネルギーか、ベストミックスは何か、という議論を何とか封印するために、再生エネルギー推進を免罪符にしようとしたのだ。その時点で議論すれば、結論が脱原発になってしまう怖れがあったからだ。
制度開始から1年経ったころには、太陽光発電が増えすぎだ、という議論があった。しかし、欧州では太陽光発電や風力発電など不安定なエネルギーが2割から3割にもなる国がある。下手に議論して、沈静化しつつあった脱原発運動を再び勢いづかせないように、とここでも議論が封印された。
(3)高コストの再生エネルギーが増えると電力料金が上がる・・・・ということを消費者に思い知らせようとする狙い。
消費者筋から、再生エネルギーを止めて原発再稼働で電力料金を下げてほしい、という声が出ることを期待したのだ。
つまり、すべては原発のためだ。
原子力ムラの思惑どおり、エネルギー基本計画(2014年4月に閣議決定)で原発は、「重要なベースロード電源」としての地位を確保し、今や九電の川内原発再稼働も確実になった【注】。さらに、九電管内での太陽光発電の人展が夏のピーク電力需要を超える水準に達し、制度見直しに誰も反対できなくなった。
そこで、経産省も電力会社も安心して、FIT見直し、再生エネルギー抑制の方針を打ち出したのだ。
むろん事業者は、経産省の認定を受けたのにおかしい、と言うだろう。
経産省はしかし、契約するかどうかは電力会社が決めることだ、と言って逃げる。
電力会社は、安定供給に支障があるときは接続を拒否できると法律に書いてあるので合法だ、と言う。
この先、他の原発も次々再稼働されて既成事実ができ、安全が喧伝される。
北電の泊原発が動いて電力料金が大幅に下がる。
二酸化炭素は増えない。
「いいことずくめ」の原発だからと、助成策も次々に決まっていく。
極めつけは、FITの対象に原発を入れることだ。原発新設も現実味を帯びてくる。
原発推進への原子力ムラの着実な歩み。
国民は、その粘り強さにただ脱帽するのみ・・・・なのか、それとも、それを上回る粘り腰で大逆転できるのか。
国民一人一人の真価が問われている。
【注】「【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器」
□古賀茂明「再生エネ買い取り停止の裏で ~官々愕々第129回~」(「週刊現代」2014年11月8日号)
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【参考】
「【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権」
「【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り」
「【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~」
「【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~」
「【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~」
「【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器」
「【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ」
「【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~」
「【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~」
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
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「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
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「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
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「【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~」
「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
「【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~」
「【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~」
「【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~」
「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと」
「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」