ここでは2例を引く。
(1)「呆れ果てた東電の記者会見」
「原子力発電所を所有する東京電力の情報公開は、初動から混乱を極めていた」
1号機の水素爆発についても、東電が発表したのは2時間半後。「『通信手段が途絶えた』(勝俣恒久会長)というお粗末さだ」
混乱はその後も続くのだが、佐々淳行が「AERA」誌4月11日号から引く武藤栄・東電副社長の記者会見を抜粋してみよう。
●3月25日の会見
--(海水注入は)爆発後では遅すぎませんか。
「我々としては最大限の努力をしてきたのでございます」
●3月26日の会見
--武藤さんが現地にいる間に1号機で爆発がありました。武藤さんが海水を入れてでも温度を下げようと決断したのはいつですか。
「えーと、すいません。手元に資料がございません。淡水がなくなった段階で海水を注入しようと準備を始めました」
--私の聞いているのは時間です。海水注入の意思決定は1号機の爆発(12日午後3時36分)の前ですか、後ですか。
「手元に記録がございません」
--これは重要なことですよ。記録がないとわからないのですか。
「手元に資料がございません」
--(略)2、3号機でも海水を注入すれば相次ぐ爆発は避けられたのではないですか。
「事実関係は確認させていただきます」
--あなたが現地で指揮をとっていたときのことですよ。なぜ記憶がないのですか。
「記憶につきましては、記録をもう一度しっかり整理して確認したく思います」
●3月27日の会見
--(略)ご記憶はよみがえりましたでしょうか。
「全体をよく確認する必要があると思います」
--経済的損失を恐れて決断が遅れたのではないですか。
「我々は安全を最優先にして、できる限りの手を打ってきたということでございます」
●3月28日の会見
--3月12日午前7時20分から20分間、現地に視察に訪れた菅首相に会われていますが、何を話されましたか。
「しっかりと記憶を確認する必要があります」
--その時点でかなり危機的な状況であることを菅首相に進言、相談されなかったのですか。
「発言は控えさせていただきます」
佐々は、「責任を追及されることを徹底的に避ける、見事な官僚答弁」だったと、太字で評している【注1】。
「後日、武藤副社長は大きな事故になった理由を『設計で想定した以上の津波がきたために、非常用発電機がすべて動かなくなった。地震で外部電源が停止し、非常用バッテリーが冠水していて使えなくなった。電源がなくなり、海水の冷却ができなくなり起きた事故』という認識を語っている。/想定外の大津波が原因であって、東京電力に落ち度はないと、婉曲ながら言い放ったのだった」【注2】
【注1】「枝野官房長官が廃炉に言及しても『申しあげる段階ではない』(21日記者会見)と交わす武藤栄・東京電力副社長は面妖な人物だった。/記団の質問をノラリクラリと交わしてやたらと話が長い。低音でよく聞き取れないのも記者泣かせだ」「あげ足を取られることはないが、人間らしい温かみが全く感じられない答弁だ。/2002年発覚した『事故隠し事件』で東電は告発されてもなお“記録にない”、“記憶にない”で誤魔化そうとした。武藤副社長は東電の社風が作り上げた人物であることは間違いないようだ」【「「東電情報隠し」の裏で進行する放射能汚染 ~その5~」(田中龍作ジャーナル)】
【注2】武藤の食言は、その後明らかになった。例えば、「【震災】原発>安全対策における主要な3つの欠陥 ~『原発を終わらせる』~」。
(2)「前世紀の遺物-東京電力」
4月25日、東京電力は、巨額の賠償負担の財源のひとつとして役員報酬の減額を発表した。
「東京電力には役員が20人もいて、そのうち副社長が6人だという。社外取締役を除く取締役19人の平均報酬は年間約3,700万円。これを聞いて怒ったのは私だけではあるまい。これには海江田経産相も『全然足りない』と苦言を呈していた。/しかしさらに、5月14日、海江田経産相がテレビで、『(一部首脳は)50%カットでも3,600万円残る。ちょっとおかしい』と発言したことにより、トップが年間7,200万円も受け取っていたことが明らかになったのである。清水社長は『50%カットは大変厳しい数字』と会見で述べたが、何をかいわんや、である」
「この国会答弁をきいて、怒ったのは私一人ではあるまい。副社長6人も多すぎる。ほとんど天下りだという。役人の次官・局長クラスは年収2,000万円ぐらい、退職金は7~8,000万だろう、年齢も60歳以上。それが東京電力の役員に天下りすると次官の3.5倍の報酬で、出身官庁の役人の接待が6人の副社長の仕事だという。何が『半額にします』だ!! こんな前世紀の遺物が生き残っていたのか」
「役員20人が全員辞職すれば、それだけで年間7億円の人件費が浮くではないか。給与の半減でなく、役員の数をこそ半減すべきだ」
「東電は『メルトダウン』という重大な事実を約2ヶ月、隠し続け、チェルノブイリとはちがうと言い続け、冷却装置の電源を人為的に切り、廃炉を避けようとウソを言い続けた。独占・準国家企業で地域を独占的に支配し、国民の電気料金で超高級の経営を行ってきた。会長以下役員総辞職、リストラ、諸施設売却、いずれも当然の罰である」
「東京電力の役員たちに物申す。/なぜ、『男の美学』を晩年に発揮して、志願して原発建屋内に命がけで突入していく現場作業員の陣頭に立たないのか」
□佐々淳行『ほんとに彼らが日本を滅ぼす』(幻冬舎、2011)
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福島第1原発事故の原因究明や検証を行うため、国会に事故調査委員会が設置されることになった。関係者を参考人として招致できるなど、調査委に強い権限を付与している。
(a)調査委は、有識者10人で構成。会議は公開が基本で、関係団体・機関に資料の提出を要求できる。発足から半年後に報告書を提出する。
(b)衆参両院の議院運営委員会による合同協議会も設置。証人喚問を行うことも可能だ。
以上、記事「国会に原発事故調設置=参院、全会一致で成立へ」(2011年9月30日6時6分 asahi.com)に拠る。
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