(1)QE2
リーマンショック直後、米国連邦準備制度理事会(FRB)は金融市場の流動性危機に対応して大量の資金供給を行った(QE1)。
10年11月初め、FRBは第二段の量的緩和(QE2)に踏み切った。2011年6月までの米国国債6千億ドル(約49兆円)を買い上げる措置だ。
QE2の措置は、米国の失業率が目立って低下しないからだ(10年10月で9.6%)。他方で、消費者物価上昇率が低下しているので、インフレを起こす可能性は低い、と判断された。
(2)新興国のバブル
この金融緩和によって、米国から新興国へ資金移動が生じた。
それによって、新興国でバブルが惹起し、各国の株価が上昇している。特に新興国で時価総額増大が顕著だ。インドネシア、フィリピンでは、昨年末から5割増となった。中国では不動産価格のバブルが起きている。
金価格、原油先物、非鉄金属、農産物も値上がりしている。
日経平均株価が9,000円弱(9月初め)から9,800円(11月中旬)に上昇したのも、この過程の一環だろう。バブルである可能性が高い。
米国企業の利益は伸びているから、米国の株価はバブルとは言えない。
米国国内では、金利が低下しても投資は増えない。資金が流出し、銀行貸出しや住宅購入が増えないからだ。失業率低下という目標が達成できるか、大いに疑問だ。
(3)ドルキャリー
国際間の資本移動が自由な現代の世界では、金融緩和しても国内の経済活動は活発化しない。利回りの高い国や商品を求めて資金が流出してしまうのである。
金融危機前、日本の金融緩和は「円キャリー」を引き起こした。めぐりめぐって、米国の住宅価格のバブルを加速した。
今生じているのは、「ドルキャリー」である。資金が新興国や金、原油に流入している。金融緩和がキャリー取引をもたらした点で、危機前に生じたことと本質的には同じだ。
危機前と違うのは、中国が財政支出を増やし、人民元の増価を防ぐために介入している点だ。元安にはならないだろう。金利平価式が働けばドル高になって損失を被るはずのドルキャリーの投機性が薄れている。逆に、将来の元切り上げによって多額の利益が得られる可能性がある。
危機前の円キャリーには、日本政府が介入したのだが、結局は経済危機によって円高が生じ、投機取引は巨額の損失を被った。
現在のドルキャリーは、比較的安全だ。だから、大規模に起きる可能性がある。
中国は、バブルをコントロールするべく金融を引き締めようとしている。投機的な住宅購入を規制している。しかし、引き締めて金利が上がれば、投機マネーの流入が増える。05年頃に米国が陥ったのと同じジレンマに直面している。
(4)世界的なマクロ不均衡
米国からすれば、中国の介入で為替レートが歪んでいることが問題だ(米国はネットの輸入国なのでドル安は望ましくない。元安で中国の経常収支黒字が拡大することが問題だ)。
中国からすれば、米国の金融緩和が投資資金の流入をもたらすから問題だ。
日本では、ドル安が輸出産業の利益を減少させる、とされる。
これは、世界的なマクロ不均衡である。
02年以降のバブルは、世界的なマクロ不均衡を背景として生じた。これが崩壊して金融危機が起きた。それへの対処として欧米諸国が金融緩和したことが、新しいバブルを引き起こした。結局、不均衡は是正されなかった。
(5)バブル崩壊
危機前には、欧米の金利が高く、日本の金利が低かったから、キャリー取引は日本から欧米に向かった。危機後、欧米の金利が低下したため、こうしたキャリー取引はもう起こらない。
現在のキャリー取引は、先進国から新興国へ向かう。新興国では投資需要があるから、高金利国になる。だから、先進国が金融緩和すれば、金利差がさらに拡大し、不可避的にそこに資金が流入する。
要するに、先進国でいくら金融緩和しても、資本移動を起こすだけだ。自国経済を活性化できない。新興国のバブルを増殖するだけに終わる。
そして、バブルはいつか崩壊する。
米国のバブルは、5年続いて崩壊した。
中国のバブルも、いずれ崩壊するだろう。金融危機と同じようなハードランディングになる危険が大きい。世界経済が再び大混乱に陥る可能性は否定できない。
【参考】野口悠紀雄「QE2がもたらすのは新興国バブルだけ ~「超」整理日記No.539~」(「週刊ダイヤモンド」2010年12月4日号所収)
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リーマンショック直後、米国連邦準備制度理事会(FRB)は金融市場の流動性危機に対応して大量の資金供給を行った(QE1)。
10年11月初め、FRBは第二段の量的緩和(QE2)に踏み切った。2011年6月までの米国国債6千億ドル(約49兆円)を買い上げる措置だ。
QE2の措置は、米国の失業率が目立って低下しないからだ(10年10月で9.6%)。他方で、消費者物価上昇率が低下しているので、インフレを起こす可能性は低い、と判断された。
(2)新興国のバブル
この金融緩和によって、米国から新興国へ資金移動が生じた。
それによって、新興国でバブルが惹起し、各国の株価が上昇している。特に新興国で時価総額増大が顕著だ。インドネシア、フィリピンでは、昨年末から5割増となった。中国では不動産価格のバブルが起きている。
金価格、原油先物、非鉄金属、農産物も値上がりしている。
日経平均株価が9,000円弱(9月初め)から9,800円(11月中旬)に上昇したのも、この過程の一環だろう。バブルである可能性が高い。
米国企業の利益は伸びているから、米国の株価はバブルとは言えない。
米国国内では、金利が低下しても投資は増えない。資金が流出し、銀行貸出しや住宅購入が増えないからだ。失業率低下という目標が達成できるか、大いに疑問だ。
(3)ドルキャリー
国際間の資本移動が自由な現代の世界では、金融緩和しても国内の経済活動は活発化しない。利回りの高い国や商品を求めて資金が流出してしまうのである。
金融危機前、日本の金融緩和は「円キャリー」を引き起こした。めぐりめぐって、米国の住宅価格のバブルを加速した。
今生じているのは、「ドルキャリー」である。資金が新興国や金、原油に流入している。金融緩和がキャリー取引をもたらした点で、危機前に生じたことと本質的には同じだ。
危機前と違うのは、中国が財政支出を増やし、人民元の増価を防ぐために介入している点だ。元安にはならないだろう。金利平価式が働けばドル高になって損失を被るはずのドルキャリーの投機性が薄れている。逆に、将来の元切り上げによって多額の利益が得られる可能性がある。
危機前の円キャリーには、日本政府が介入したのだが、結局は経済危機によって円高が生じ、投機取引は巨額の損失を被った。
現在のドルキャリーは、比較的安全だ。だから、大規模に起きる可能性がある。
中国は、バブルをコントロールするべく金融を引き締めようとしている。投機的な住宅購入を規制している。しかし、引き締めて金利が上がれば、投機マネーの流入が増える。05年頃に米国が陥ったのと同じジレンマに直面している。
(4)世界的なマクロ不均衡
米国からすれば、中国の介入で為替レートが歪んでいることが問題だ(米国はネットの輸入国なのでドル安は望ましくない。元安で中国の経常収支黒字が拡大することが問題だ)。
中国からすれば、米国の金融緩和が投資資金の流入をもたらすから問題だ。
日本では、ドル安が輸出産業の利益を減少させる、とされる。
これは、世界的なマクロ不均衡である。
02年以降のバブルは、世界的なマクロ不均衡を背景として生じた。これが崩壊して金融危機が起きた。それへの対処として欧米諸国が金融緩和したことが、新しいバブルを引き起こした。結局、不均衡は是正されなかった。
(5)バブル崩壊
危機前には、欧米の金利が高く、日本の金利が低かったから、キャリー取引は日本から欧米に向かった。危機後、欧米の金利が低下したため、こうしたキャリー取引はもう起こらない。
現在のキャリー取引は、先進国から新興国へ向かう。新興国では投資需要があるから、高金利国になる。だから、先進国が金融緩和すれば、金利差がさらに拡大し、不可避的にそこに資金が流入する。
要するに、先進国でいくら金融緩和しても、資本移動を起こすだけだ。自国経済を活性化できない。新興国のバブルを増殖するだけに終わる。
そして、バブルはいつか崩壊する。
米国のバブルは、5年続いて崩壊した。
中国のバブルも、いずれ崩壊するだろう。金融危機と同じようなハードランディングになる危険が大きい。世界経済が再び大混乱に陥る可能性は否定できない。
【参考】野口悠紀雄「QE2がもたらすのは新興国バブルだけ ~「超」整理日記No.539~」(「週刊ダイヤモンド」2010年12月4日号所収)
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