『リモート・コントロール』の続編。
主人公ニック・ストーンはSASを退役し、英国秘密情報部のフリーランスの工作員となった。「給料をもらって政府高官が拒否権を行使する作戦を実行する」正規のK(工作員)ではなく、さらに汚い仕事を日給いくらで請け負う。
『リモート・コントロール』の事件で養子同然の関係となった9歳の少女ケリーと楽しい船旅に出航する直前、呼び出しがかかる。1998年4月のこと。かつてシリアにおける隠密作戦を共にした上官、CIAテロリズム対策センターに派遣されていた連絡官セアラ・グリーンウッドが失踪した。その探索が今回の任務である。残された手がかりを追ううちに、オサーマ・ビン・ラーデンを黒幕とするテロ活動が浮かびあがる。
題名のクライシス・フォアは、ホワイトハウスの地階の一室で、非常時には大統領をはじめとする政府高官はここへ避難する。テロはホワイトハウスで炸裂するらしい・・・・。
本書の見どころは二点ある。
第一に、細部のリアリティである。たとえばセアラを捜して一味の基地を探りあて、観測する。その観測から侵入に至るまでのこまごまとした描写は、経験者でなければ書けない。尾籠な話だが糞の始末から、侵入者つまり主人公を発見したテロリストの反応まで。
第二に、特異なキャラクターの持ち主セアラと主人公との関係である。肉体的魅力もたっぷりだが、知的意志的。鍛え抜かれてはいるが、どちらかというとお人好しの主人公と好一対で、これが急テンポのアクションに複雑な味つけをもたらして読者を愉しませる反面、悲劇的な結末の伏線となる。
立花隆は、戦争では民族性・国民性・科学技術・文明のすべてが凝縮して表れるから戦争に係る知識は現代人にとって必須の教養だ、と喝破している(立花隆・佐藤優共著『ぼくらの頭脳の鍛え方』、文春新書、2009)。テロまたは対テロの活動も同様だろう。
ただ、戦争には隠された部分が多いが、テロまたは対テロの活動はいっそう隠された部分が多い。フィクションの形でしか書けないものもある。
本書刊行当時、「2001年9月11日の米同時多発テロを予見していた驚愕のサスペンス!!」と帯の惹句にあった。出版界の機敏さを示して余りある。
しかし、本書の事件を9・11に限定する必要はちっともない。本書は、実際にあったか、あり得べきものと想定されたテロまたは対テロの活動をフィクションの形で白日の下にさらした作品である、と思う。細部の詳しさが意義あるゆえんである。
□アンディ・マクナブ(伏見威蕃訳)『クライシス・フォア』(角川文庫、2001)
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主人公ニック・ストーンはSASを退役し、英国秘密情報部のフリーランスの工作員となった。「給料をもらって政府高官が拒否権を行使する作戦を実行する」正規のK(工作員)ではなく、さらに汚い仕事を日給いくらで請け負う。
『リモート・コントロール』の事件で養子同然の関係となった9歳の少女ケリーと楽しい船旅に出航する直前、呼び出しがかかる。1998年4月のこと。かつてシリアにおける隠密作戦を共にした上官、CIAテロリズム対策センターに派遣されていた連絡官セアラ・グリーンウッドが失踪した。その探索が今回の任務である。残された手がかりを追ううちに、オサーマ・ビン・ラーデンを黒幕とするテロ活動が浮かびあがる。
題名のクライシス・フォアは、ホワイトハウスの地階の一室で、非常時には大統領をはじめとする政府高官はここへ避難する。テロはホワイトハウスで炸裂するらしい・・・・。
本書の見どころは二点ある。
第一に、細部のリアリティである。たとえばセアラを捜して一味の基地を探りあて、観測する。その観測から侵入に至るまでのこまごまとした描写は、経験者でなければ書けない。尾籠な話だが糞の始末から、侵入者つまり主人公を発見したテロリストの反応まで。
第二に、特異なキャラクターの持ち主セアラと主人公との関係である。肉体的魅力もたっぷりだが、知的意志的。鍛え抜かれてはいるが、どちらかというとお人好しの主人公と好一対で、これが急テンポのアクションに複雑な味つけをもたらして読者を愉しませる反面、悲劇的な結末の伏線となる。
立花隆は、戦争では民族性・国民性・科学技術・文明のすべてが凝縮して表れるから戦争に係る知識は現代人にとって必須の教養だ、と喝破している(立花隆・佐藤優共著『ぼくらの頭脳の鍛え方』、文春新書、2009)。テロまたは対テロの活動も同様だろう。
ただ、戦争には隠された部分が多いが、テロまたは対テロの活動はいっそう隠された部分が多い。フィクションの形でしか書けないものもある。
本書刊行当時、「2001年9月11日の米同時多発テロを予見していた驚愕のサスペンス!!」と帯の惹句にあった。出版界の機敏さを示して余りある。
しかし、本書の事件を9・11に限定する必要はちっともない。本書は、実際にあったか、あり得べきものと想定されたテロまたは対テロの活動をフィクションの形で白日の下にさらした作品である、と思う。細部の詳しさが意義あるゆえんである。
□アンディ・マクナブ(伏見威蕃訳)『クライシス・フォア』(角川文庫、2001)
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