(1)「秋の日はつるべ落とし」--。そんな秋の夕日と重なるのが「希望の党」共同代表だった東京都知事の小池百合子。11月14日夕、衆議院第1議員会館で開かれた希望の党の両院議員総会で自らの進退に触れた。
「創業者の責任として代表でスタートしたけれど、これからは皆さまにお任せする」
(2)小池が絶大な人気を背景に、国政への進出を明言したのは9月25日。首相の安倍晋三が衆院解散を表明する記者会見に先んじて小池が声を上げた光景は強烈だった。
「私がしっかりと旗を掲げる。結党宣言だ。希望をもっと持ちたい。そのようなことで党名を付けた」
この記者会見が「小池劇場」のピークであった。
今年7月の東京都議選では「都民ファーストの会」のブームを盛り上げ、自民党に取って代わって都議会第1党の座に躍り出た。まさに向かうところ敵なし。いつしか小池の国政進出、そして「日本初の女性首相の誕生か」などと、小池への注目度は日を追うごとに高まった。そこで浮上したのが、希望の党の結党であり、民進党代表(当時)の前原誠司との合流だった。
(3)「好事魔多し」。小池が発した一言が事態を暗転させた。
「前原代表がどういう発言をしたのか知らないが、(合流希望者について)『排除されない』ということではございません。排除いたします。取捨選択というか絞らせてもらいます」
この一言でつかみかけた「女神の後ろ髪」はスルリと小池の手から離れた。結党宣言からわずか4日後。ここから小池の負のスパイラルが始まった。
小池は過去の成功体験から、発言は鋭角的断言型が世論の喝采を浴びると思い込んでいた節があった。だが、小池の口から出た「排除の論理」は小池の必勝パターンとは懸け離れたものだった。小池に支持が集まったのは、強大な権力を握る安倍自民党にたった1人で立ち向かう「ジャンヌ・ダルク」を思わせる姿にあった。
ところが、「排除の論理」で小池が強者の側に立ってしまった。小池から人心が離れていくのは当然であった。逆に小池とたもとを分かった枝野幸男が立ち上げた立憲民主党が勢いを得て、野党第1党の座に就いた。
(4)小池は、衆院選が終盤に差し掛かった段階で撤退を決めていた【小池側近】。「選挙戦を終えると、その足でパリに旅立ったのが何よりの証拠」とこの側近は語る。あとは撤退の段取り、体裁をどう整えるかしかなかった。結局、希望の党が獲得したのは50議席にとどまった。しかも、このうち9割は民進党出身議員。代表を継続しても、自民党で要職をこなしてきた小池にとっては、価値観や文化があまりに違う議員との政治活動に展望はなかった。
さらに小池には大きなプレッシャーがのしかかった。各メディアの世論調査で「都知事に専念すべき」が7割以上を占めていることだ。
とどめを刺したのが12日投開票の東京・葛飾区議選。都民ファーストの会から5人が立候補したが、当選したのはたった1人。しかも元民進党の議員。「小池失速」を決定的なものにした。
(5)ここまで勢いを失った小池が都知事として求心力を回復できる保証はない。中でも二つの障害が立ちはだかる。
第一、公明党の「小池離れ」だ。夏の都議選を小池との選挙協力で臨んだ公明党。都民ファーストの会に次ぐ第2党の座の確保に成功したが、自民党を敵に回した代償は大きかった。衆院選での後退につながったからだ。現に国政でも公明党の存在感に陰りが出始めている。都議会公明党幹事長の東村邦浩も共同通信の取材に対してこう答えている。
「小池氏は都政を踏み台にした。今後は知事与党ではなく、是々非々で判断する」
既に衆院選の段階で都議の音喜多駿と上田令子が都民ファーストを離れている。政府高官は「これからも離脱者が出る」と語る。都議会の足元が崩れては「都政専念」が絵に描いた餅に終わりかねない。
(6)第二は、さらなる難題だ。首相官邸との溝だ。中でも昨年の都知事選に端を発した官房長官の菅義偉との確執解消は容易ではない。
都政最大の課題は残り3年を切った東京五輪・パラリンピックを成功させることと、懸案の築地市場の豊洲移転問題をいかにスピーディーかつ円滑に決着させるかだが、いずれもパフォーマンス優先の小池の手法が自らの手足を縛って身動きが取れないのが実情だ。
これを前に進めるにはとりわけ官邸の協力は欠かせない。ところが、選挙が終わって間もなく約1カ月というのに安倍や菅とのエールの交換すらない。もともと菅は都知事と国政の「二足のわらじ」を目指した小池に極めて厳しい見方をしていた。
「できるはずがないじゃないか」
小池の代表辞任を聞くと、「常識」と言い放った。
(7)両者の勝敗は決した。小池が膝を屈して官邸に足を運べるかどうか。ますます菅が政権内での求心力を高めている中で、小池にとって「官邸の壁」は精神的にも大きな負担になっているはずだ。
結局、小池の新党騒動は民進党を4分割しただけに終わった。
(a)参院議員と地方議員が残った民進党
(b)立憲民主党
(c)元首相の野田佳彦や元代表の岡田克也らが集結する衆院会派の「無所属の会」
(d)希望の党
(8)中でも希望の党は、混乱収拾の出口が見えてこない。代表選で早くも立候補した玉木雄一郎と大串博志との間で憲法改正など基本政策をめぐって主張が大きく割れた。
玉木が大勝して改憲勢力が主導権を握ったが、亀裂は残ったままだ。チャーター・メンバーの細野豪志らは人事で冷遇された。小池という核を失った希望の党の迷走はなお続く。その先には「分裂」の2文字が見える。
□後藤謙次「公明党の小池離れと官邸との溝/都知事に立ちはだかる二大障害 ~永田町ライブ!No.365」(「週刊ダイヤモンド」2017年11月25日号)
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