語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>知りながら問題を放置し続けた経産省 ~コンクリート汚染~

2012年01月31日 | 震災・原発事故
 コンクリートの放射能汚染が福島県二本松市で発覚した。
 「双葉砕石工場」は、福祉島第一原発事故後も、計画的避難区域内の浪江町にもつ採石場の石を屋外に積み上げ、避難区域に指定される昨年4月22日まで出荷を続けていたのだ。汚染の恐れがある砕石5,725トンが県内19社に出荷され、福島市内の民家、二本松市内の2小学校、福島県本宮市内の川の護岸工事など1,000ヵ所以上で使用された可能性がある。

 ところで、昨年5月26日、福島県は土木部長名で、国に概要次のように問い合わせた。
 <資材等の使用、搬出及び搬入時の移動に伴う放射線量の基準が無く判断できない状況にあり、復旧工事で支障が出ております。今後、復旧工事が継続不可能になることが懸念されるため、資材の使用及び移動に伴う放射線量の判断基準及び対応方法について早急に御提示願います。>
 そして、金属スクラップ、紙くず、ガラスくず、砕石、土砂など23の原料名を列挙した。
 しかし、いまだに国の回答はない。福島県土木部の担当者は何度も催促したが、経産省の担当者は「検討中」と返事するのみ。

 コンクリートについては、昨年6月、100Bq以下という基準値を国は設けた。
 では、なぜ福島県の問いを放置したのか。
 セメントは原料となる下水汚泥の汚染が見つかったため基準を作った。砕石や砂利は汚染が確認されたわけではなく、そこまで話が進まなかった。【この案件を経産省から引き継いだ内閣府被災者生活支援チームの担当者】
 要するに、問題が表面化するまで国は何も手を打たない、ということだ。

 今のような対応を繰り返していると、汚染地域から持ち出された原材料で、意図せずに人工的なホットスポットが増えていく可能性がある。それを防ぐためにも、汚染が懸念される地域から出荷される原材料は何であれ、逐一放射線量を測るようにすべきだ。【福士政広・首都大学東京教授】

 稲わら汚染と同様に、コンクリート汚染が全国に広がる恐れはないか。
 福島県産の砕石は、2010年は3,991トンのうち、宮城県に278トン、栃木県に150トン、神奈川県に14トンなど、一部は県外にも出荷されている。

 以上、神田知子/永井貴子/篠原大輔(本誌)「コンクリートの放射能汚染、拡大 福島県の懸念を黙殺した国の大罪」(「週刊朝日」2012年2月3日号)に拠る。
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【社会】従業員に非情な自腹買い取りシステム ~「築地野口屋」~

2012年01月30日 | 社会
 「築地野口屋」・・・・首都圏で、この旗を立てた小さなリヤカーを引き、若者たちが高級豆腐を引き売りしていた。古き良き時代を再現するかのようなアナログ的商売に暖かな目が注がれ、買物弱者の高齢者を中心に、固定客も多かった。

 帝国データバンクによれば、「(株)ターベルモーノ」は、資本金1億4,960万円、野口博明・代表。2003年4月に設立。2011年3月期には、年売上高9億9,000万円を計上していた。
 同社は、最大時には、東京都に26ヵ所、神奈川県に16ヵ所、埼玉県に4ヵ所、千葉県に9ヵ所、計55ヵ所の倉庫を持つまでに急成長し、毎日100数十人の引き売りする人(引き士)が街を歩いていた。
 アルバイトは、時給1,200円で7時間半/日(日給9,000円相当)働く。他方、33%の歩合給なら、30,000円以上売り上げれば1日1万円以上が自分の収入になった。

 だが、2011年夏から11月にかけて、従業員の半数が次々と辞めた。
 引き金となったのは、「米のノルマ」だ。
 大震災で品薄となった米、水、トイレットペーパーなどを売るようになっていたのだが、昨年9月、米を毎日4~5kg売らなければ歩合制の歩合率を33%→25%に落とす、と会社から口頭で通知されたのだ。
 時給制のアルバイターには「買い取り」が強制されていた。例えば、湯葉820円、ざる豆腐350円・・・・割引されても買い取り額は小さくない。盆の時期には駄菓子500円が期間限定で発売されたが、売れず、9月頃には倉庫で在庫が汚臭を放った。会社は、「倉庫のものはバイトが管理すること」と宣言し、バイトに買い取らせた。
 売れ残りをアルバイトを含む従業員が買い取ることで、同社は売上げとして計上していたのだ。
 これも大量辞職の原因になった(推定)。
 しかも、「(株)ターベルモーノ」は、入金報告が終わっても、後片付けなどをサービス残業させた。そして、賃金未払。ここで働いていたビルマ人女性3人は、何ヶ月も給与を受け取っていなかった。

 「(株)ターベルモーノ」は、2011年12月19日をもって事業停止し、自己破産を申告した。
 急激な規模拡大で厳しい資金繰りを余儀なくされていた中、大震災後の消費低迷で業況が縮小し、資金繰りがさらに悪化。リストラなど経費削減に努めたものの業況は改善せず、事業継続を断念。負債は、1億4,000万円(見込み)・・・・とヤフーニュースは伝える。

 奇妙な事実がある。
 「(株)ターベルモーノ」の倒産後、同じ引き売り事業を新会社「(株)築地野口屋」が継続していることだ。社長は、武田信介・前「(株)ターベルモーノ」副社長。住所は、「(株)ターベルモーノ」が所有していた都内倉庫の一つ。リヤカーも商品を作る機械も、「(株)ターベルモーノ」から引き継いだ(らしい)。
 財産や資産を引き継いだなら、債権者への支払い義務を怠っていることになる。この点をルポライターが武田社長に尋ねると、取材を拒否した。

 前目黒区議で引き売り業(屋号「十風庵」)を昨年10月に立ち上げた土屋克彦・「(株)BEPOTS(ビーポッツ)」社長は語る。
 買い取りさせるとは信じられない。引き士は、必死に売上げを稼ごうとする。そこにつけこんだのだろう。企業はリスクを背負うから企業なのだ。従業員による買い取り、企業からすればノーリスクを選択しながら潰れたのは乱脈経営していたからだ(推定)。

 以上、樫田秀樹「「匹売り」豆腐の野口屋が倒産」(「週刊金曜日」2012年1月20日号)に拠る。
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【震災】原発>除染ボランティアの被曝は「自己責任」

2012年01月29日 | 震災・原発事故
 昨年8月下旬、国の原子力災害対策本部が「除染に関する緊急実施基本方針」を発表した。
 同年9月、この「方針」に基づき、福島市が「ふるさと除染計画」を9月に発表した。

 この「計画」に先立ち、福島県は「線量低減化活動支援事業」を開始した。市町村による除染(業者に委託)とは別に、公共空間の除染に当たる地元自治会やPTAに最高50万円を助成する。
 しかし、住民の手による自発的な除染は、予想以上に難航し、なかなか成果が上がらない。
 福島県民は、東京電力や国の被害者である自分たちがなぜ除染までしなければならないのか、という意識が強い。自治体による除染で発生する土砂の仮置き場の確保も難しい。高圧洗浄機によって屋根を洗浄した結果、隙間から放射性物質を含んだ水が入りこみ、屋内の放射線量が上がったケースもある。除染に対する考え方は一様ではない。【福島県災害対策本部関係者】

 そんな中、急遽持ち上がったのがボランティアによる除染活動だ。
 それを見る県民は複雑な心境だ。
 ボランティアには本当に頭が下がる思いだ。他方、除染されると、もう「避難」という選択肢がないのか、と途方に暮れる。うちのような共働きでは、自主避難という選択肢はないから。【福島県大波地区に暮らす主婦】

 福島以外の被災地で活動したボランティアでさえ、除染活動に疑問を抱く。
 地元の人の顔が見えない。石巻では、被災者と一緒に家屋の掃除をしたり、泥だしをした。共同作業の中で、被災地の体験を直に訊くことができた。だからこそやり甲斐や充実感が生まれる(それが目的とは言わないが)。今回出会った地元の人は、挨拶に立った自治会長だけ。しかも、形式的な挨拶だった。【除染ボランティア】

 除染の効果自体、疑問だ。
 除染の前と後では、確かに空間線量の数値は下がる。しかし、周囲を見渡せば、途方もない雑木林だ。雨が降るとセシウムを含んだ水が排水溝をたどって生活圏に戻ってくる。1ヵ月もすれば線量が元に戻る場合もある。また、所有者の同意の下に除染を行う私有地はよいが、そうでない場所の除染はどうするのか。とにかく、何もかも矛盾だらけだ。【福島市災害ボランティアセンター職員】

 国は、ボランティアを行政の道具と位置づける。
 除染以外の選択肢がない以上、ボランティアに参加してもらわないと人手が足りない。行政の代わりに、不満を抱える住民のガス抜きの役割を担ってもらえば助かる。【環境省の除染担当官】

 震災支援に関与するボランティア団体やNPOの間でも、除染ボランティア派遣については意見が分かれる。大半は、否定的だ。
 現場でボランティアを束ねるリーダーは、除染のやり方に矛盾や疑問を感じても、原則行政の立場を尊重しなければならないので何も言えない。そもそも、ボランティアは行政に縛られるものではなく、単なる下請け労働力でもない。行政と対等のパートナーシップを結び、適材適所で連携してこそ成果を上げことができる。福島への支援は必要不可欠だが、除染をボランティアでやらなければならない理由がよくわからない。【山本隆・ピースボート災害ボランティアセンター代表理事】

 全国のボランティアの窓口、全国社会福祉協議会もまた、福島のケースはあくまで特殊なものだ、という。除染に係る国の方針が明確には定まっていない中、全国の社協が被災地沿岸部で行った震災支援と同じように一斉に動くことはない、と。
 ボランティアの原則は、個人の自主性であり、自己責任だ。今後、除染が必要な地域は拡大し、相当なマンパワーを必要とするだろう。かといって、除染を行政ではなくボランティアが行うのか。前代未聞の除染ボランティアは、ボランティアの可能性であり、限界かもしれない。【後藤真一郎・全国ボランティア・市民活動新興センター副部長】

 国もまた、健康リスクに係る自己責任を強調する。
 警戒区域以外は安全地域と認識している。被曝しても「ただちに」人体に影響はない。ボランティアの自主性に委ねられることだ。【環境省水・大気環境局総務課】

 以上、中原一歩(ライター)「「被曝は自己責任」の不安」(「AERA」2012年1月30日号)に拠る。
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【政治】山口二郎の、なぜ政治が機能しないのか

2012年01月28日 | 社会
 ナチス・ドイツの侵攻、軍事政権などギリシャ現代史を題材とした作品で人気を博したギリシャの巨匠、テオ・アンゲロプロス監督【注】が交通事故死した。合掌。
 さて、本題。

●なぜ民主党政権は停滞したか
 民主党政権が停滞している要因は、片山善博・前総務相が挙げた3点のほかに、
 (4)日本社会や国民生活の現状に対する危機意識が決定的にない(致命的欠陥)。しかも、疲弊している日本に震災と原発事故が襲いかかったのに、政府の力で解決しなければならない問題が何なのかについて、問題意識がまったく共有できていない。鳩山政権の時、辛うじて「命を大切にする政治」「居場所と出番のある社会」などのスローガンを打ち出し、再度日本社会の再統合を進めようとする使命感も感じられたが、いつの間にか消えてしまった。菅首相は、3・11以前には、全く方向性を欠いた政策を進めようとしていた(小泉改革の亡霊)。政権交代が政策の転換と全く連動していない。

●「民主党らしさ」にこだわりがない民主党
 いまの政治は、「既得権を持っている人vs.全く持たない人」の対立軸になっている。橋下徹・大阪市長は、その対立軸をうまく演出した。既得権といっても、とりあえず正社員である、とか、ある程度の年金をもらっている、という程度のことなのに、そうした人たちを叩くことによって、何の希望も持てない人々の自暴自棄的な支持を吸い寄せる。既成政党は、こうした大波に飲まれようとしている。民主党の政治家は、社会の現状に対する危機感をしっかり持つべきだ。

●政策の連続性が欠けている 
 総理の交代によって政権の軸も変わった。政党政治としては大問題だ。
 民主党は、野党時代に自民党の総理総裁のたらい回しをさんざん批判し、自分たちは党としてのアイデンティティや基本政策の軸を持って政治を推進する、と言っていた。が、自分たちも同じように総理を入れ替えることになると、新総理は前総理と全く違うことを言い出す。政策の連続性が欠けている。鳩山元総理から菅前総理に変わった際、大きな転換があった。3・11後、菅政権は脱原発へと新機軸を打ち出そうとしたが、野田政権になると、そうした軸は失われた。せっかく前の政権が打ち出しかけた良い政策の芽を全部摘んでしまう。民主党らしさのカラーをむしろ灰色へ塗りつぶすようなことをする。これも大きな失敗の一つだ。
 民主党内の社会民主主義勢力を派閥化しようと勉強会などの活動をしたが、政策研究グループと権力闘争とが重ならない。

●財源論というマインドコントロール
 弱者は、もはやマイノリティではない。3・11が教えるように、日本に住んでいる者は潜在的弱者だ。災害、雇用不安定。いまや正規・非正規という概念も、一握りの弱者を支えるのが福祉だという概念も見直すべきだ。民主党政権も、やはり外部からの宮本太郎・北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター長などの尽力で「人生全般をカバーする社会保障」という言葉は出されている。しかし、なぜ税制改革を行うのか、といった根本的な目標としての社会ビジョンについて民主党の政治家は何も言っていない。

●形式倒れの政治主導
 小沢二郎も菅直人も、英国詣でで、英国議会政治についていろいろ調べた。彼らが訊いたのは非常に細かい制度、形式のことばかりだった。マニフェストにしても、目的語がはっきりしていて、それを実現する段取りや仕組みにおいて官僚の支配を排除して政治家のイニシアチブでアジェンダ設定をしていくはずなのに、中身のない形式に終わっている。

●統治を拒否しつつリーダーシップを求める人々
 一方で、底流に人々の統治に対する拒否がある。官僚は自分らの組織利益ばかり追求しているし、政党もろくなものじゃない、と統治されることを拒否しつつ、リーダーシップを希求する、という非常に矛盾した状況に置かれている。その矛盾が選挙に反映されて、その都度いろいろなところに票が流れる、という過剰流動性が出て来る。
 民主主義は、国民が権力者をチェックする、民意で権力者を交代させる、という側面がもちろん大事だが、統治を支える、という要素を我々も軽んじてきたのかもしれない。ともかく政府は批判していればいい、と。参議院選挙ではお灸を据えて、野党を勝たせてやる。ところが、それでは国の統治がうまくいかないことが非常に明瞭になった。
 特にねじれ国会はとても深刻な問題だ、ということが多分2010年になってから初めてわかった。特例公債法案を人質に取られたら、総理大臣の首を差し出さざるを得ない。これは民主政治といえるか、疑問だ。ここで与野党ともに一回立ち止まって新しい憲政の常道をつくらないと、本当に1930年代の政党政治の崩壊劇を平和なはずのいまの時代に繰り返すことになる。
 財政法第4条で、赤字国債が出せないことになっているから、石油ショック後の1975年以来、毎年特例公債法という形を避けてきたが、これは確かに予算の議決に関する衆議院の優越を実質的に否定している。
 自民党も民主党もねじれに手を焼く経験をしているのだから、野党としての自制心を働かせて次の慣習をつくらないと、本当に国政が麻痺してしまう。もし自民党が政権を奪回しても、ねじれは続くだろうから、参議院が予算関連法案を潰して内閣が1年ごとに代わる、という事態がずっと続くかもしれない。
 政権交代でできたこと、成功したことは、ちゃんと確認しておかなければいけない。新しい公共や貧困対策、障害者福祉、自殺対策という自民党政治、官僚支配では無視されてきた問題が政策のテーマとして認識された、という大きな変化はあったのだから。NPO法と寄付税制もそうだが、社会運動とうまく連携したテーマでは成功している。そういう意味では、民主主義は無力ではない。人々が実際に動くことによる政治、政策決定の変化はある。
 民主党は、英国の議院内閣制や二大政党制をモデルにしてきたのに、肝心のことが模倣できていない。フロントベンチとバックベンチの明確な差、政治家の能力主義だ。10回当選しても、閣僚になれない人が大勢いる一方、有能であれば2、3回目で大臣になる人もいる。それを当たり前と思わなければ強力なチームはできない。
 英国では、政党の地方組織が選挙に強い。党の公認を外されたら、国会議員にはなれない。だから政党には求心力が働く。日本は、個人後援会で票を集めて勝ち上がった人も多く、一騎当千の意識がどうしても残っている。布団とベンチとバックベンチの段差が日本に定着しない、というのは組織論として非常に大きな問題だ。例えば、小沢二郎が政治とカネの問題などがあって主流派に入れないとなれば、小沢グループはバックベンチに座ってしばらく我慢するしかない。それができなくて党内を掻き回して権力闘争を起こす、というところからして、政党政治の論理がわかっていない。

●ローカルポピュリズムの防壁とは
 大阪W選挙に3回応援に入った。図書館、障害者支援、子育てサークルなどの地域活動をしている人々の間では、橋下徹を支持する人は全くいない、と聞いた。非常に腑に落ちた。トクヴィルの議論にあるように、直接顔をあわせながら議論をする小さな空間が基礎単位になっていくので、ローカルポピュリズムに対する方癖とは、そうした地域での活動なのだ。
 市民の参加や直接民主制には2つの可能性がある。(1)河村・名古屋市長のリコール請求や橋下流のように、シングルイシューで既存の仕組みを壊す方向に直接性を動員していく。(2)自治体の大きな事業について住民が議論して住民投票で起債するかを決めるような、熟議による直接民主制。・・・・似ているようでも、方向は全然違う。
 脱原発は、非常に大事な機会になっていくだろう。1997年の新潟県巻町の住民投票が示すように、真剣に議論して地域の将来の誤りない選択をした実績はある。日本の市民が独裁者に躍らされやすい、とは思わない。

●私たちがどういう社会をつくるのか 
 政策課題としては、(1)消費税、(2)税と社会保障改革とTPP・・・・が2012年の2大テーマだ。非常に難しい舵取りだ。逃げて通れない問題だ。スケジュール闘争ではなく、ちゃんとした議論を国会でも論壇でもメディアでも、地域レベルの集まりでもこつこつ重ねていくしかない。
 税金の議論は、政治を考える最大のきっかけになる。増税については、私たちがどういう社会をつくるのか、という基本をちゃんと議論してからでいい。ここで何か民主党らしいことをやらないと、結局1回政権交代をやっただけで雲散霧消しかねない。

 以上、鼎談:片山善博(慶應義塾大学教授・前総務相)/山口二郎(北海道大学教授)/柿崎明二(共同通信社編集委員)「なぜ政治が機能しないのか ~改めて問う「政権交代の意義~」(「世界」2012年月号)から、山口二郎の議論を抜粋、要約した。

 【参考】「【社会】片山善博の、なぜ政治が機能しないのか

   *

 野党時代、自民党の政策にずっとアンチテーゼだった。だから、与党として政治的な期限を定めて段取りをつけ、物事を進めるという習慣がない。自民党復活の恐怖から、当初、自民党の支持基盤を叩きつぶすことを意識しすぎた。しかし、ねじれ国会になると、自民党・公明党の主張を受け入れる方向になった。野田首相は、自民党と運命共同体だった官僚を尊重し、取り込まれた。結局、自分たちがどう行動するか、リアルに考えずに政権をとってしまったところが、今日の結果になっている。【柿崎明二】


●なぜ民主党政権は停滞したか
 民主党政権が停滞している要因は、片山善博が挙げた3点のほかに、
 (4)日本社会や国民生活の現状に対する危機意識が決定的にない(致命的欠陥)。しかも、疲弊している日本に震災と原発事故が襲いかかったのに、政府の力で解決しなければならない問題が何なのかについて、問題意識がまったく共有できていない。鳩山政権の時、辛うじて「命を大切にする政治」「居場所と出番のある社会」などのスローガンを打ち出し、再度日本社会の再統合を進めようとする使命感も感じられたが、いつの間にか消えてしまった。菅首相は、3・11以前には、全く方向性を欠いた政策を進めようとしていた(小泉改革の亡霊)。政権交代が政策の転換と全く連動していない。【山口二郎】

●「民主党らしさ」にこだわりがない民主党
 いまの政治は、「既得権を持っている人vs.全く持たない人」の対立軸になっている。橋下徹・大阪市長は、その対立軸をうまく演出した。既得権といっても、とりあえず正社員である、とか、ある程度の年金をもらっている、という程度のことなのに、そうした人たちを叩くことによって、何の希望も持てない人々の自暴自棄的な支持を吸い寄せる。既成政党は、こうした大波に飲まれようとしている。民主党の政治家は、社会の現状に対する危機感をしっかり持つべきだ。

●政策の連続性が欠けている 
 総理の交代によって政権の軸も変わった。政党政治としては大問題だ。民主党は、野党時代に自民党の総理総裁のたらい回しをさんざん批判し、自分たちは党としてのアイデンティティや基本政策の軸を持って政治を推進する、と言っていた。が、自分たちも同じように総理を入れ替えることになると、新総理は前総理と全く違うことを言い出す。政策の連続性が欠けている。鳩山元総理から菅前総理に変わった際、大きな転換があった。3・11後、菅政権は脱原発へと新機軸を打ち出そうとしたが、野田政権になると、そうした軸は失われた。せっかく前の政権が打ち出しかけた良い政策の芽を全部摘んでしまう。民主党らしさのカラーをむしろ灰色へ塗りつぶすようなことをする。これも大きな失敗の一つだ。
 民主党内の社会民主主義勢力を派閥化しようと勉強会などの活動をしたが、政策研究グループと権力闘争とが重ならない。

●財源論というマインドコントロール
 弱者は、もはやマイノリティではなく、3・11が教えるように、日本に住んでいる者は潜在的弱者だ。災害、雇用不安定。いまや正規・非正規という概念も、一握りの弱者を支えるのが福祉だという概念も見直すべきだ。民主党政権も、やはり外部からの宮本太郎・北海道大学大学院法学研究科附属高等法政教育研究センター長などの尽力で「人生全般をカバーする社会保障」という言葉は出されている。しかし、なぜ税制改革を行うのか、といった根本的な目標としての社会ビジョンについて民主党の政治家は何も言っていない。

●形式倒れの政治主導
 小沢二郎も菅直人も、英国詣でで、英国議会政治についていろいろ調べたが、彼らが訊いたのは非常に細かい制度、形式のことばかりだった。マニフェストにしても、目的語がはっきりしていて、それを実現する段取りや仕組みにおいて官僚の支配を排除して政治家のイニシアチブでアジェンダ設定をしていくはずなのに、中身のない形式に終わっている。

●統治を拒否しつつリーダーシップを求める人々
 一方で、底流に人々の統治に対する拒否がある。官僚は自分らの組織利益ばかり追求しているし、政党もろくなものじゃない、と統治されることを拒否しつつ、リーダーシップを希求する、という非常に矛盾した状況に置かれている。その矛盾が選挙に反映されて、その都度いろいろなところに票が流れる、という過剰流動性が出て来る。
 民主主義は、国民が権力者をチェックする、民意で権力者を交代させる、という側面がもちろん大事だが、統治を支える、という要素を我々も軽んじてきたのかもしれない。ともかく政府は批判していればいい、と。参議院選挙ではお灸を据えて、野党を勝たせてやる。ところが、それでは国の統治がうまくいかないことが非常に明瞭になった。
 特にねじれ国会はとても深刻な問題だ、ということが多分2010年になってから初めてわかった。特例公債法案を人質に取られたら、総理大臣の首を差し出さざるを得ない。これは民主政治といえるか、疑問だ。ここで与野党ともに一回立ち止まって新しい憲政の常道をつくらないと、本当に1930年代の政党政治の崩壊劇を平和なはずのいまの時代に繰り返すことになる。
 財政法第4条で、赤字国債が出せないことになっているから、石油ショック後の1975年以来、毎年特例公債法という形を避けてきたが、これは確かに予算の議決に関する衆議院の優越を実質的に否定している。
 自民党も民主党もねじれに手を焼く経験をしているのだから、野党としての自制心を働かせて次の慣習をつくらないと、本当に国政が麻痺してしまう。もし自民党が政権を奪回しても、ねじれは続くだろうから、参議院が予算関連法案を潰して内閣が1年ごとに代わる、という事態がずっと続くかもしれない。
 政権交代でできたこと、成功したことは、ちゃんと確認しておかなければいけない。新しい公共や貧困対策、障害者福祉、自殺対策という自民党政治、官僚支配では無視されてきた問題が政策のテーマとして認識された、という大きな変化はあったのだから。NPO法と寄付税制もそうだが、社会運動とうまく連携したテーマでは成功している。そういう意味では、民主主義は無力ではない。人々が実際に動くことによる政治、政策決定の変化はある。
 民主党は、英国の議院内閣制や二大政党制をモデルにしてきたのに、肝心のことが模倣できていない。フロントベンチとバックベンチの明確な差、政治家の能力主義だ。10回当選しても、閣僚になれない人が大勢いる一方、有能であれば2、3回目で大臣になる人もいる。それを当たり前と思わなければ強力なチームはできない。
 英国では、政党の地方組織が選挙に強い。党の公認を外されたら、国会議員にはなれない。だから政党には求心力が働く。日本は、個人後援会で票を集めて勝ち上がった人も多く、一騎当千の意識がどうしても残っている。布団とベンチとバックベンチの段差が日本に定着しない、というのは組織論として非常に大きな問題だ。例えば、小沢二郎が政治とカネの問題などがあって主流派に入れないとなれば、小沢グループはバックベンチに座ってしばらく我慢するしかない。それができなくて党内を掻き回して権力闘争を起こす、というところからして、政党政治の論理がわかっていない。

●ローカルポピュリズムの防壁とは
 大阪W選挙に3回応援に入った。図書館、障害者支援、子育てサークルなどの地域活動をしている人々の間では、橋下徹を支持する人は全くいない、と聞いた。非常に腑に落ちた。トクヴィルの議論にあるように、直接顔をあわせながら議論をする小さな空間が基礎単位になっていくので、ローカルポピュリズムに対する方癖とは、そうした地域での活動なのだ。
 市民の参加や直接民主制には2つの可能性がある。(1)河村・名古屋市長のリコール請求や橋下流のように、シングルイシューで既存の仕組みを壊す方向に直接性を動員していく。(2)自治体の大きな事業について住民が議論して住民投票で起債するかを決めるような、熟議による直接民主制。・・・・似ているようでも、方向は全然違う。
 脱原発は、非常に大事な機会になっていくだろう。1997年の新潟県巻町の住民投票が示すように、真剣に議論して地域の将来の誤りない選択をした実績はある。日本の市民が独裁者に躍らされやすい、とは思わない。

●私たちがどういう社会をつくるのか 
 政策課題としては、(1)消費税、(2)税と社会保障改革とTPP・・・・が2012年の2大テーマだ。非常に難しい舵取りだ。逃げて通れない問題だ。スケジュール闘争ではなく、ちゃんとした議論を国会でも論壇でもメディアでも、地域レベルの集まりでもこつこつ重ねていくしかない。
 税金の議論は、政治を考える最大のきっかけになる。増税については、私たちがどういう社会をつくるのか、という基本をちゃんと議論してからでいい。ここで何か民主党らしいことをやらないと、結局1回政権交代をやっただけで雲散霧消しかねない。

 【注】テオ・アンゲロプロス、1935年4月27日生、2012年1月24日没。享年76。主な監督作品は次のとおり。
   「旅芸人の記録」(1975年)・・・・カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞。
   「アレクサンダー大王」(1980年)・・・・ベネチア映画祭金獅子賞。
   「シテール島への船出」(1984年)・・・・カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞。
   「霧の中の風景」(1988年)・・・・ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞受賞
   「ユリシーズの瞳」(1995年)・・・・カンヌ映画祭審査員特別グランプリ賞。
   「永遠と一日」(1998年)・・・・カンヌ映画祭パルムドール賞。
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【政治】片山善博の、なぜ政治が機能しないのか

2012年01月27日 | 社会

 1月26日に放映された「地球イチバン」(NHK総合)によれば、世界で最も人口密度が高い島はコロンビアのイスロテ島だ。わずか100平米の土地に1,200人が住まう。
 海は豊かで食べるのに不自由はしないのだが、なんせ家屋が密集するから、島の端から端まで移動するのも容易ではない。だから、家の扉には鍵をかけず、通り抜け自由だ。
 住居は狭い。ある一家(16人家族)の場合、寝室3室にベッドが5台しかない。よって、子どもたちは、ベッドの長辺に頭と足を置いて眠る(ベッドに横並びに寝る)。夫婦は床にマットを敷いて眠り、昼間、マットは屋根の上にしまう。
 無論、島民同士のもめ事も起こるのだが、常に誰かが仲裁に入り、「みんな家族」の一言でおさまる。1,200人の家族!
 閑話休題。

●なぜ民主党政権は停滞したか
 (1)マニフェストに実効性の乏しい政策を列挙しすぎた。そんなに盛り沢山にしなくても、2009年の選挙では、政権交代は可能だっただろう。ところが、自らハードルを高く設定してしまい、自ら首を絞める結果になった。しかも、実現不可能なことが明らかになったなら、修正する必要があったのに、その機能がほとんど働かなかった。ために、いつまでも実現不可能性ばかりが目立ち、常に矛盾を抱えて政権運営をしなければならない羽目に陥った。
 (2)大組織を動かしていく資質・力量に乏しかった。巨大な官僚機構をしっかり制御しながら、できるだけ自分たちの考える方向へ動かさねばならないのに、組織をマネジメントする力量が不足していた。国務大臣の半数までは国会議員でなくてもよいのだから、最初は国会議員以外から人材を入れ(「借り物」)、弱点を補強すればよかった。
 (3)党内で普段から議論し、合意形成する基本的な動作を身につけていなかった。だから、土壇場になってから泥縄式に、政府に入っている幹部が平場の議員に下ろして押し切ろうとする。「スケジュール闘争」になった。議論がない、ということは、自分たちの政策に対して意外とこだわりを持ってない、ということにもつながる。重要な理念や基本方針に対してこだわりを持つ人が非常に少ない。政党としてはかなり重症だ。

●「民主党らしさ」にこだわりがない民主党
 自民党時代に官僚主導の弊害がたくさん現れた。是正のため、「政治主導」を民主党は打ち出した。例えば「新しい公共」という考え。それ自体は適切なアジェンダだった。
 にも拘わらず、民主党の誰もわかりやすく語ろうとしなかった。古い公共(公共事業や公共職業安定所など)は官が独占し、官僚が税金を使って公共空間や公共サービスを演出してきた。いま、それが行き詰まっている。「新しい公共」のため、例えば寄付税制を拡充することによって官を通さないルート(NPOなど)を開拓する。こんな取り組みが「官僚主導から政治主導へ」のアジェンダを具体化することになる。
 しかし、鳩山政権の目玉だった政策も、政権や党内であまり議論されていなかった。弱者や声の小さい人たちに光を当てることも民主党らしさだが、それに対するこだわりもあまり持ち合わせていなかった。

●政策の連続性が欠けている 
 党の性質として弱者に対する理解が相対的に高いのだから、それを民主党らしさとして積極的に打ち出すのも一つの進むべき方向だ。ところが、非正規労働者の処遇についても、体を張ってでも改善させようと覚悟を持っている人はあまり多くない。だから、派遣労働の問題も、いつまでたっても見るべき改善がない。
 そうしたことが大阪の選挙結果にもクリアーに表れた。相手陣営の新自由主義的な体質や政策に対抗して、組織化されていない有権者、正規労働の職にない人、希望があまり持てない人などを取り込むチャンスだった。党として、こうした人々のための政策に力を入れていれば、大阪の選挙結果もかなり変わっていたのではないか。
 本来ならば、民主党が政権をとった段階で、弱者に対する政策に力を入れることを明らかにし、彼らの支持を調達する努力を積み重ねておくべきだった。

●財源論というマインドコントロール
 財源論で窮地に陥ってしまうのは、財務省の予算編成や財政運営のやり方に絡め取られてしまっているからだ。
 全体の中でどうやり繰りするか。それが財政だ。新しいものが出てきたら、古いものの中で必要性の薄いものを退出させ、新しいものを入れるという調整をするのだ。ところが、これまでの財務省の予算編成は、それぞれの主計官単位に縦割りで完結させる。シーリング制の悪いところだ。
 政治家が何か主張すると、すぐに官僚が「財源はどうするか」と聞いてくる。全体の中で塩梅する、と言ってのける力量が政治家にあればいいが、総じてそれがない。結局各省単位で財源を探さねばならないので、官僚たちも新しいことを考えたくなくなってしまった。
 その極めつきが復興予算だ。復興を急ぐのに、財源をどうするかが優先された。復興事業に既存の財源はないから、増税するしかない。その結果、増税がなければ補正予算は組まない、という妙な理屈になってしまった。国債を発行してただちに取り組むべし、と閣内で主張したが、明確な財源がないのに予算を組むのは無責任だ、と野田財務相(当時)は譲らなかった。そんなやりとりを昨年4月からずっと続けた。菅総理(当時)は、そのたびに苦渋に満ちた顔をしたが、増税が決まる前でも本格復興予算を組もう、という決断に至らなかった。復興のための本格予算が遅れた本当の理由は、そこにある。政府・与党の中枢が、財務官僚がつくりだした固定観念にはまってしまい、マインドコントロールを受けている状態になってしまった。
 政権交代後の民主党政権は、新しい公共にせよ子ども手当にせよ、新機軸を打ち出した。行政の仕組みを思い切って変えようとしたことは評価できる。
 しかし、鳩山政権は普天間問題で大失敗した。これで民主党の幹部たちは羮に懲りてしまった。外交、防衛、予算までお役所のいうことを聞いておいたほうが無難でいい、と膾を吹いている。そして、とうとう安全運転のドジョウ内閣になってしまった。

●統治を拒否しつつリーダーシップを求める人々
 ねじれ国会の中で、非常識な法案の取り扱いが行われている。予算は通したが、歳入の根拠となる赤字国債の特例法は別途審議する。つまり、実際は予算を通していない。本来は、予算+歳入関連法案をセットで議論すべきであって、歳入関連法案が否決ならば憲法第60条(30日で自動成立)で乗り切れる。
 震災で法案が目白押しなのに、法案が一本通るたびに委員会で法案と直接関係のない一般質疑をやった。改めるべき風習だ。次々に手際よく処理すればよいのに、衆議院も参議院も一つ一つ途中下車して時間がかかった。
 自民党はずっと官僚依存で、仕事は官僚に任せた。大臣のポストは、党内バランスを保つためや総裁選の論功行賞などに使った。これをを繰り返してきたから、全く非力な内閣が続いた。民主党政権はそれに対するアンチテーゼなのだから、最低限心がけるべきは真の適材適所で内閣を構成することだ。「借り物」でもいいし、これはと思う官僚を政務三役に登用してもいい。官僚は官僚機構に所属しているから既得権にしがみつくのであって、政治任用で政治の側に引っ張ってくれば、政権と命運を共にするしかない。何といっても官僚は業務に精通しているのだから、個別にピックアップし、副大臣や政務官に登用して明るいところで仕事をさせ、その結果に対して責任を取らせてもいい。
 民主党の政治家に、経験、研鑽を積むシステムをつくるべきだ。大臣、副大臣、政務官以外に、各省に大臣の補佐官のようなポストをつくり、若い国会議員をつけたらいい。
 国会法第39条は、国会議員が政府内に入れるポストを限定列挙している。これを変え、これまで官僚が独占してきたポスト(<例>海上保安庁長官)に、得意分野を持った議員が入り込めるようにすれば、数年経ったら人材がもっと豊富になる。

●ローカルポピュリズムの防壁とは
 現状では、自民党の地方組織は崩壊し、民主党はもともと組織がない。共産党と公明党は別にして、日本の政党は所詮現職の国会議員(地方では県会議員)の集まりだ。党員がいない政党だ。こうした現状の政党のミッションは、現職議員が次も再選されることだ。それは本来の政治のあり方ではない。これを変えなければ国政でも地方政治でも真の政党政治の実現は困難だ。
 日本の地方議会は、儀式であって日常的な活動になっていない。儀式だから、議場という建物がとりわけ重要になる。今回の震災でも、役場も議会も移転を余儀なくされたところで、議員たちは議場がないから議会ができない、と。
 トクヴィルはいう。米国には(a)陪審員制度、(b)自由な結社、(c)地方自治があり、そこに参画する国民の実戦経験、鍛錬が国政レベルの民主主義を支えている、と。ところが、いまの日本の地方自治は、実は有権者である住民が参画しなくてもいい仕組みになっている。例えば、ムダなハコモノをつくっても固定資産税は上がらないし、逆に行革をやっても税負担は下がらない。これを正常化して、無駄遣いをすれば税金が上がる、というメカニズムが作動すれば、住民が政治に参画する意識は高まらざるを得ない。総務大臣としてそうした仕組みにつながる地方自治法改正案も準備したが、3・11が起こって、成立しないまま内閣が終わってしまった。実に残念だ。

●私たちがどういう社会をつくるのか
 いまの内閣の体質のままで政権を運営したら、希望は全くない。野田首相も、官僚から与えられたテーマではなくて、最重要課題はこれだ、と自分の立場や党の利害を超えて取り組まなければならない。
 最高裁で一票の格差に問題あり、と指弾されて久しいのに、本気で選挙制度を是正する気が見られない。民主主義を支える根っこの仕組みがおかしい、と言われているのだから、現在の国会議員はおかしなルールの中から出てきた人たちだ。
 早く選挙をやったらいい。ただ、在野の賢明な人々が国会に出て来ることが想定されるなら望みがあるが、選挙をやってもたいして顔ぶれは変わらないし、さしたる展望が開けない、ということなら、もはや袋小路だ。

 以上、鼎談:片山善博(慶應義塾大学教授・前総務相)/山口二郎(北海道大学教授)/柿崎明二(共同通信社編集委員)「なぜ政治が機能しないのか ~改めて問う「政権交代の意義~」(「世界」2012年月号)から、片山善博の議論を抜粋、要約した。
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【震災】原発>原子力ムラは死なず ~除染で荒稼ぎ~

2012年01月26日 | 震災・原発事故
 2011年8月30日、放射性物質汚染対策特別措置法が公布され、除染に関する緊急実施基本方針も発表された。推定20mSv超の地域は環境省主体で除染し、1~20mSvの地域は地方自治体などが当たることになった。

 そして、2011年9月22日付けの内閣府公示により、「除染モデル実施事業」を発注する事業者が定められた。
 公示にいわく、このモデル事業は「独立行政法人日本原子力研究開発機構を相手方とする契約手続きを行う予定としているが」「日本原子力研究開発機構以外のもので、下記の応募要件を満たし、本業務の実施を希望する者の有無を確認する目的で、参加意思表明書の(略)公募を実施する(略)。(略)応募要件を満たすと認められる者がいない場合(略)日本原子力研究開発機構との契約手続きに移行する(略)」。
 要するに、公募の体裁をとるが、事実上、公募前にすでに日本原子力研究開発機構(JAEA)に決定していた。

 JAEAは、原発推進を担う文部科学省の外郭団体で、「原子力ムラ」の象徴的機関だ。特殊法人「動力炉・核燃料開発事業団」が組織替えした「核燃料サイクル開発機構」と、同「日本原子力研究所」が統合され、2005年に新設された。
 主たる業務は「もんじゅ」開発だが、深刻な事故を続発させてきた。のみならず、事故の隠蔽、虚偽の説明が次々と発覚している。JAEAの前身の事業団発足以来45年経つが、「もんじゅ」運転が軌道にのる見とおしは立っていない。
 2012年度予算案では、「もんじゅ」を含む高速増殖炉の研究費は大幅に削減された。2011年11月の行政刷新会議の「提言型仕分け」では、猛批判にさらされ、組織存続の危機を迎えた。

 ここで、前記の内閣府公示を再び引く。「産官学の原子力の専門家が結集し、公平かつ中立的な立場を有し且つこの分野【除染のこと】における我が国で最高の知見を有する団体である日本原子力研究開発機構」うんぬん。
 ところが、ホームページでJAEAがうたう除染の実験研究結果は、専門家らによれば、除染試験は規模が小さいし、総量の減少率も大きくなく、セシウムの分布と空間線量の変化の研究も、風雨などの影響すら考慮されていない。
 では、なぜ政府はJAEAへ事業を発注したのか。政府といっても、公示の中身を書いたのは、原子力災害対策本部の下部機構、内閣府原子力被災者生活支援チームの放射線班だ。この班は、経済産業省原子力安全・保安院、文部科学省などからの要員で構成される。
 要するに、「もんじゅ」も進まず、存在理由が乏しくて困っているので、そこに除染のカネを回す、ということだ。原子力ムラは、こういう不透明さの中であの事故を起こしたが、その反省もなく、何も変わっていない。【河野太郎・衆議院議員】
 JAEAは、取材をすべて拒否している。

 JAEAは、実際に現地で除染を行う業者として、大成建設、鹿島、大林組の3大ゼネコンに再発注した。いずれも原子力ムラに深く「貢献」している業者だ。「貢献」度が前記3業者より低い清水建設も竹中工務店も、選定から漏れた。
 いま政府は、発注事業の入札内容の評価をすべて公表しているが、JAEAはこの件では一切伏せている。
 前記業者とその協同企業体(JV)も、取材を拒否している(大成とそのJVを除く)。

 モデル事業は、対象地域も期間も限られ、予算は119億円だが、本格除染事業は国・自治体を合わせ総額は兆円単位にのぼる、と目される。復興需要に除染特需が加わり、3大大手ゼネコンなどの収益は急膨張する見込みだ。
 除染が公共事業化しつつある。【河野議員】
 日本を破滅させかけた原子力ムラは、除染事業を通して、従来の不透明性とともに、ひそかに息を吹き返しつつある。

 以上、長谷川煕(ライター)「「もんじゅ」の次は除染」(「AERA」2012年1月30日号)に拠る。

   *

 日本列島を広範囲に覆う大雪と厳しい冷え込みは、オホーツク海付近に発生した「ブロッキング高気圧」の影響で偏西風が蛇行し、上空に寒気が居座ったためらしい。この冬型気圧配置は2月上旬まで続き、過去の記録的豪雪に匹敵する大量の雪を降らせる可能性もあるよし【注】。

   太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
   次郎を眠らせ 次郎の屋根に雪ふりつむ。

 人口に膾炙する三好達治「雪」だ。雪は勝手に降り続けるから、こちらも勝手に寝入る。古来、雪国の人々は、そう生きてきた。

 【注】記事「2月上旬まで続く? ブロッキング高気圧で寒気居座り 豪雪を警戒」 【msn産経ニュース 2012.1.25 20:45 】
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【経済】国債の国内発行が可能なのは後10年 ~増税問題の原点~

2012年01月25日 | 社会
 1月24日、野田佳彦・首相は、衆参両院本会議で、就任後初の施政方針演説を行った。今年の野田内閣の使命は「決められない政治」からの脱却で、今国会で消費増税法案の成立を目指す、と。自民党政権時代の福田康夫・元首相(与野党協議の呼びかけ)と麻生太郎・元首相(税制抜本改革の訴)の施政方針演説を引用し、協議の席に着くよう野党側に「決断」を求めた【注1】。
 会議終了後、記者に対して麻生いわく、これはボクシングのクリンチだ、云々。
 閑話休題。

(1)今回の増税は焼け石に水
 政府は、消費税増税を決めた(現在5%→14年4月8%→15年10月10%)。
 しかし、増税直後には国債発行額が減少しても、2年程度で元に戻る。今回の増税は、焼け石に水だ。歳出の伸び率のほうが税収の伸び率より高いからだ。歳出構造を大きく変えない限り、財政赤字は縮小しない。歳出の中で特に重要な社会保障制度を抜本的に見直さない限り、どうにもならない。特に医療・介護について、公共主体が関与しなければならない理由を再考しなければならない。
 にも拘わらず、現実には何もなされていない。2012年度予算においては、むしろ給付増の措置が取られている(<例>受給資格期間の短縮)。
 こうした状況が続く限り、今後も際限のない増税が必要になる【注2】。財政収支安定のためには、税率を30%まで引き上げる必要がある。日本の財政赤字問題は、常識的な範囲内の消費税増税では解決できない段階に、既に入っている。
 日本財政の問題点、放置すれば生じる問題、問題解決に必要な増税の上限・・・・これらを具体的に示すべきだ。

(2)消費税増税問題の原点
 (a)日本の消費税には、インボイス(仕入れにかかった消費税額を記録した票)がない。これがないままだと、零細企業が増税分を取引先に請求できず、負担を強いられる恐れがある。消費税増税分を価格転換できないと、経営が成り立たない企業も出てくるだろう。インボイス発行を業者に義務づければ、税額分を請求できるようになる。
 (b)生活必需品(<例>食料品)の税負担軽減措置が必要になるが、消費税は多段階売上税なので、最終段階の税率を下げただけでは、これは実現しない。仕入れに含まれている税を控除しなければならないが、これはインボイスがないと実現できない。この問題に対する政府の対処案、給付付き税額控除は、著しく不完全な措置だ。そもそも、低所得者の所得を把握できていない。
 増税より先に(増税しなくても)必要な措置は、インボイスの導入だ。
 こうした問題について、十分に議論されていない。抽象的な増税必要論を唱えるだけだ。

(3)国債の国内発行が可能なのは後もって10年
 現在の日本では、国債の大部分を金融機関が購入している。預金が増加したわけではなく、貸し出しを減少させることによって国債を購入しているのだ。貸付残高がゼロになれば、それ以上は国内では消化できなくなる。
 また、「巨額の個人金融資産」は、すでに運用されている。
 2020年代に国内発行が行き詰まるのは、ほぼ確かだ。
 国内消化が行き詰まれば、(a)日銀日訊けで国債を発行するか、(b)海外消化を求めるか、いずれかとなる。いずれにしても、円安とインフレがもたらされる。これは国民生活を破壊する。【注意】⇒インフレと同時に進行する円安は、円の実質価値を減価させないから、日本の輸出を促進する効果はない。
 消費税増税による経済への悪影響より、このまま放置して国債消化が行き詰まる問題のほうが、ずっと大きい。 

(4)増大する国債という時限爆弾
 現在進行中の欧州ソブリン危機は、日本の将来図ともいえる。
 日本の財政事情はイタリアより格段に深刻だが、日本国債がイタリア国債のような状況に陥っていないのは、国債消化構造が違うからだ。外国人の保有が半分を超えるイタリア国債と違って、日本国債は国内の金融機関が保有しているから簡単には流動性の問題に直面しない。事実、日本国債の格付けが引き下げられても、利回りは低いままだ(リスクが高まれば金利が上昇する)。
 ただし、日本国債のCDSスプレッド(外国人投資家の律す苦判断を反映)は神経質な動きを見せている。長期的に見れば、上昇傾向にある。
 また、日本の銀行は、保有国債のデュレーション短期化を図っている。現在、日本国債の平均残存期間は7年弱だ。
 日本経済は、癌ではないが、「生活習慣病」だ。徐々に体が蝕まれていく。本気で対策をとらないと、そのうち資金の海外逃避が起きて事態は急速に悪化する。増大しゆく国債残高は、日本経済が抱える時限爆弾だ。それは経済と国民生活をバラバラに吹き飛ばす。

 【注1】記事「野田首相:施政方針演説 野党に「決断」求める 消費増税に決意」 【毎日jp 2012年1月24日】
 【注2】岡田克也副総理は、1月22日のフジテレビの報道番組で、消費増税と社会保障の一体改革について「(年金制度の抜本改革のために)必要な財源は、今回の10%には入っていない。さらなる増税は当然必要になる」と発言した。仮に2015年10月に消費税が10%になっても、社会保障の充実には新たな増税が必要との認識を示した。 【記事「「消費税10%でも、さらに増税必要」岡田氏語る」、朝日新聞 2012年1月22日18時19分】

 以上、野口悠紀雄「今回の消費税増税は間違った箇所の手術 ~「超」整理日記No.595~」(「週刊ダイヤモンド」2012年1月28日号)に拠る。
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【震災】原発>自然エネルギーと地域経済

2012年01月24日 | 震災・原発事故
 (a)政府のエネルギー基本計画(2010年)は、2030年までに電力の53%を原子力に頼る、とした(14基以上原発を新設)。しかし、原発事故によって、この方針は瓦解した。
 (b)化石燃料は、二酸化炭素の排出問題があるうえに、価格高騰からコストがかさみ過ぎる。日本が輸入する化石燃料は、23兆円(2008年)と10年前の4倍以上、GDPの5%程度の規模にのぼる。
 (c)自然エネルギーは、海外で急成長している。農業、産業、ITにつぐ「第4の革命」だ。
 <例:ドイツ>自然エネルギーの比率(水力を除く)は、過去10年間で2%→13%。2030年に30%の計画。
 他方、日本ではわずか2%(水力を除く)だ。電力会社が送電線を独占し、受け入れを拒否してきたからだ。供給不安定、という理由からだが、量が増えれば安定度は増す。

 原発事故は、明治維新、太平洋戦争についで価値観を大転換させた。
 発展した科学はリスクも生む。中央集権社会は、リスクを考えてこなかった。原発事故のリスクを軽視した。
 今後は、政策の意思決定の主体を変えねばならない。古い中央集権→地域レベルの小さな主体に。
 エネルギー政策も、今後は地域主体となるべきだ。自然エネルギーは、地域で必要なだけ電力を作って、共有し合うことができる小規模分散型だからだ。

 うまくやれば、地域経済を活性化する。
 <例:秋田県>1,000基の風車を建設する構想がある。実現すれば、売電額は1,000億円になる。同県産米「あきたこまち」売上げに匹敵する金額だ。建設費用は、5億円/基。県内には地銀などに膨大な預金があるが、その半分以上は低金利の国債などで運用されている。そうした預金を投融資にまわせばどうか。地域のお金で地域の雇用を生み出すことができる。

 うまくやらないと、地域経済は活性化しない。
 <例:青森県>日本最大の200基の風車があるが、青森県資本はそのうち3基のみ。残余は東京など資金で建設したため、利益が県外に流出している。
 地域のオーナーシップ(所有権)で建設することが重要だ。

 以上、飯田哲也(環境エネルギー政策研究所長)「自然エネルギーのカギは地方 原発事故を大きな転換点に」(「週刊朝日」2012年1月20日号)に拠る。
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【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~

2012年01月23日 | 社会
 米国が、自国の経済対策のために狙っている新規市場のひとつが日本の医療だ。米国による日本医療への市場開放要求は1990年代から始まっているが、とくにオバマ政権以降はその圧力が強まっている【注1】。
 日本がTPP(環太平洋経済連携協定)に参加すると、医療はどう変わるか。

(1)医療への市場開放要求が一気に拡大
 (a)薬や医療機器の価格高騰・・・・日本では、医療費は公定価格制だ。薬や医療機器の価格は国が決めている。 → 規制が撤廃され、自由に価格を決められるようになり、価格が高騰する。

 (b)給付の削減や過剰な検査・・・・日本では、営利目的の病院経営は制限されている。出資者などへの配当の支払いは禁止されている。 → 民間企業が病院経営に参入し、株主に支払う配当を確保するために患者が受けるべき必要な医療を削ったり、売り上げを伸ばすために過剰な検査などが行われる。

 (c)国民皆保険の崩壊・・・・日本では、効果と安全性が認められた治療や薬しか健康保険を適用していない。保険診療と保険外診療との「混合診療」は原則として禁止されている。 → 民間企業が病院経営に参入し、混合診療の全面解禁を要求する結果、医療の安全性が保てなくなったり、金持ちしか医療の進歩を享受できなくなる。
 つまり、TPPに参加すると、医療に市場原理が導入され、国民皆保険が崩壊する。

 (d)ISD条項・・・・政府は、「公的医療保険制度はTPP協定交渉の議論の対象になっていない」と説明している。医療分野は交渉から除外される可能性が、あることはある。
 しかし、交渉で医療分野を除外したとしても、ISD条項を利用すれば、日本独特の社会保険制度も「貿易を妨げる障壁」と判断され、高額な損害賠償を要求される可能性がある。そして、雪崩のように訴訟を起こされて負け続ければ、やがては外国企業の参入を認めざるを得なくなる。
 事実、米韓FTAに合意した韓国では、政府が健康保険の保障を充実させると米国の保険会社から損害賠償請求される可能性が出てきて、問題になっている。

 (e)保険会社によるコントロール・・・・上記(b)、(c)のためには日本の法律を改正しなければならない。仮に日本がTPPに参加したとしても、米国企業の参入はそう簡単には起こらないだろう。
 しかし、あまり語られていない盲点がある。健康保険の審査業務への外資系企業の参入だ。TPPに参加すると、ここを突破口に日本の医療が米国の保険会社にコントロールされる可能性が出てくる。 ⇒ (2)

(2)保険診療の審査業務
 米国は、先進国では唯一、公的医療保険のない国だ(高齢者や低所得者を除く)。米国民は、医療を受けるために民間保険会社と契約する。保険会社によっては、医療費を削減するために医師の裁量権を縮小し、治療法、薬の処方、検査に細かい制限を加え、問題となっている。
 一方、日本は国民皆保険制度をとる。公的医療保険(政管健保など)の保険証があれば、全国どこでも受診できる。医療は、公的医療保険から現物給付される。給付に米国のような制限はない。<例>医師が必要だと判断すれば、保険が適用されるものなら、どんなに高額の手術でも上限なしに受けることができる。
 もっとも、チェック機能はある(審査)。
 医療機関は、要した医療費の7割(70歳未満の場合)を審査機関を経由して保険者(患者=被保険者が加入する政管健保など)に請求する。審査機関は、治療の妥当性、請求額などをチェックした上で、保険者に送る。
 審査機関は、公共性の高い事業だから、ということで、職域保険(政管健保など)の場合、国が管理する特殊法人「社会保険診療報酬支払基金」が行っていた【注2】。しかし、業務独占からくる審査の甘さ、手数料の高さを批判され、特殊法人改革の一環として特別民間法人に移行した(2003年12月)。
 この民営化に伴い、審査は「支払基金」を経由しなくてもよくなった。保険者(政管健保など)自らの審査、支払基金以外の民間業者への審査業務委託が可能になった。つまり、米国の保険会社もこの審査業務に参入できる下地ができた。
 ただし、保険者自らの審査、支払基金以外の民間業者への審査業務委託には、「患者が受診する医療機関の合意を得なければならない」【厚労省局長通知:平成14年12月25日付保発第1225001号「健康保険組合における診療報酬の審査及び支払に関する事務の取扱いについて」】。現実問題として、保険者が個別の医療機関に審査の了解を取るのはあまりにも事務が煩雑なため、実際は保険者自らの審査はできないのが実態だ。
 逆にいえば、審査業務への民間参入は、前記の厚労省の通達1枚でかろうじて歯止めがかかっっている、ともいえる。
 保険者としては、医療費を削りたい。
 松井道夫・松井証券代表取締役社長は、「平成21年度第5回規制改革会議」終了後の記者会見で、意味深長な言葉を残している。「一片の局長通知があるために、実質的には、全部支払基金に審査を委託せざるを得ない。要するに、この通知を撤廃するだけで直接審査はできる」
 つまり、(1)の(b)、(c)は日本の法律を改正しなければ実現しないが、審査業務への民間参入は日本でも法的には問題がないのだ。「一片の局長通知」を撤廃すれば、米国の保険会社が日本の医療費の審査業務に参入することが可能なのだ。
 営利を目的とする米国流の審査が行われれば、「効果の薄い医薬品の使用は認めない」「赤字を理由に一律3割医療機関への支払いをカットする」といった事態も生じ得る。本当に必要な医療でも、経営が優先されると「不必要」の烙印をおされ、医療はどんどん削られていくかもしれない。
 審査によって医療給付を減らしてしまえば、必要な医療を受けるために民間の保険に加入する人が富裕層を中心に増えるかもしれない。その点でも米国の保険会社にはビジネスチャンスになる。
 TPPに参加したが最後、国民皆保険という看板は残っても、その中身は空洞化し、公的医療保険では必要な医療が受けられない、という事態になりかねない。

 【注1】米国の通商代表部(USTR)が2011年3月に公表した『外国貿易障壁報告書』によれば、医療分野では保険、医薬品・医療機器、医療IT、医療サービスといった非関税障壁の撤廃を要求している。
 【注2】地域保険である国民健康保険の場合、都道府県国民健康保険団体連合会が行う。

 以上、早川幸子([フリーライター])「200XX年、TPP参加であなたの医療が削られる 有名無実化した国民皆保険の未来予想図 ~医療費の裏ワザと落とし穴  ~【第20回】 2012年1月16日~」(DIAMOND online)に拠る。
200XX年、TPP参加であなたの医療が削られる 有名無実化した国民皆保険の未来予想図 ~医療費の裏ワザと落とし穴  ~【第20回】 2012年1月16日~

 【参考】「【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
     「【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
     「【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
     「【経済】中野剛志『TPP亡国論』
     「【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
     「【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
     「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
     「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
     「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
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【経済】政府の公務員削減案は消費税引き上げの罠

2012年01月22日 | 社会
 「社会保障と税の一体改革案(素案)」は、福祉の強化という空手形に終わるはずだ。
 野田首相は、「社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成」を図ると力説し、「素案」にも「子ども・子育て支援の強化」「医療・介護サービス保障の強化」などのお題目が並ぶ。
 しかし、「財政健全化」に係る首相から国民に向けたメッセージは、ほとんど聞かれない。
 当然だ。その点を丁寧に説明すれば、「一体改革」の真の目的が「福祉の強化」以上に、あらたな財源を確保することである、と察知されかねないからだ。

 24年前、消費税導入(1989年4月実施)にあたり、大蔵省(当時)の広報担当者(女性キャリア)は、「朝まで生テレビ!」に出演して言った。
 「消費税で老後の憂いをなくす介護保険制度を創設する」
 「税率を3%以上に引き上げない」
 ところが、導入(2000年4月実施)して10有余年たつ今、介護保険制度は甚だ心もとない制度でしかない。だからこそ、「介護サービス保障の強化」が必要なわけだ。
 他方、あれだけ税率は上げない、と強弁しておきながら、導入から8年後には5%に引き上げた(1997年4月実施)。この時も、福祉という美名のもと、空手形が乱発された。
 しかも、消費税によって潤沢な財源を得た厚生省(当時)は、補助金のバラマキをはじめ、挙げ句、導入から7年目に同省の岡光序治・事務次官が辞任後に賄賂罪で逮捕された(1996年)。官僚に余計なカネを持たせるとろくなことをしない、という見本だ。

 こんな古典的手法に国民の多数が騙されてしまうのは、税率の引き上げとセットで政治家や公務員の削減策が提示されるからだろう。
 増税によって国民に負担を強いる以上、政・官の側でも身を削る、というポーズを見せられると、善良なる国民はつい政府の増税案は正しい、と思い込んでしまうのだ。そんな国民性を読んでか、前原誠司・民主党政調会長は、民間企業の解雇に相当する「分限免職」によって国家公務員や地方公務員の削減を検討すべきだ、と昨年末に口走った。
 前原は、連合の反発と、その後の効果も折り込み済みだ。年明け早々、古賀伸明・連合会長は、選挙協力の再考をほのめかしながら前原発言を批判。おかげで、前原発言は不思議な緊張感と信憑性を帯びることになった。「削減」への進行は、シナリオどおりに演出されている。

 しかし、「分限免職」の実現可能性は限りなく乏しいのだ。クビにすべき職員を選別しようとしても、公務員独特の仲間意識とかばい合い精神によって、勤務態度の悪さや不正行為を明らかにする資料が、突如として紛失してしまうからだ。
 <例>厚労省年金局は、厚生年金の記録改竄に関わった職員の有無を調べたが、不正への関与が確認できなかった、と報告している。「関係書類のほとんどが保存年限を超えていた」
 関係書類(滞納処分票など)は、調査が始まる以前は文書管理規定の定めに関係なく、事実上永年保存とされていた。にもかかわらず、なぜか突然、廃棄されてしまったのだ。

 「福祉の強化」も「分限免職」も、単なるお題目でしかない。それらをお囃子のように連呼することで、国民の批判をかわし、増税にこぎ着けようとするのが、「社会保障と税の一体改革」の裏に隠された真の目的だ。
 違う、と言うなら、まず公務員の人員を減らしたうえで、その実績をもとに消費税率などの議論に入るべし。
 これが事の順序というものだ。

 以上、岩瀬達哉「政府が掲げる公務員の削減案は消費税引き上げのための罠」(「週刊現代」2012年1月28日号)に拠る。
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【経済】消費税増税に伴う懸念事項 ~首相の説明能力~

2012年01月21日 | 社会
 1989年に初めて消費税を導入するにあたり、当時の竹下登・首相は、国会で答弁した。自民党は消費税が必要なものだと思っているが、実は次のような懸念がある代物だ、と。
 (1)逆進的な税体系で、所得再分配機能を弱める恐れがある。
 (2)中堅所得者の税の不公平感を加速させるかもしれない。
 (3)所得税がかからない人たちに加重な負担を強いる。
 (4)税率の引き上げが容易に行われるのではないか。
 (5)事業者の事務負担が極端に重くなるのではないか。
 (6)物価を引き上げ、インフレを招くのではないか。

 他方、野田佳彦・首相は、何の説明もしない。「不退転の決意をした」と、猪突猛進的意思表明をするだけだ。

 少なくとも、次の2点は説明しなければならない。
 (a)世界最大の債権保有国にして貯蓄過剰国、かつ、世界第2位の外貨準備国たる日本がなぜギリシャと同じように破綻するのか。
 (b)なぜこの不況期に財政再建を急ぐのか。

 説明すべきは、むろん、これだけではない。
 (c)税率を上げた時に発生する駆け込み需要と反動減による歪みをどうするのか。
 (d)欧州債務危機が悪化する中で、急速に景気が冷え込んだ場合に何が起こるのか。
 (e)エネルギーや自動車などの二重課税を放置してよいのか。
 (f)公共交通、食料品、医療サービスには軽減税率が必要ではないか。 

 以上、ぐっちーさん「不退転の「どじょう」 説明義務を果たせ ~ぐっちーさんのここだけの話 No.205~」(「AERA」2012年1月23日号)に拠る。
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【震災】原発>マスコミ報道の虚構と事実 ~ストレステスト審査~

2012年01月20日 | 震災・原発事故
 1月18日、関西電力大飯原発3・4号機のストレステスト結果に係る原子力安全・保安院の意見聴取会が開かれた。保安院(の職員=事務局)は、傍聴を認めず、会場からの中継画像を別室のモニターで視聴する方法を取った。
 これに、市民約20人が反発。
 (a)市民は、開会予定時刻(16時)過ぎ、会場(経産省別館11階の会議室)に入り込み、同会場で傍聴させるよう求めた。
 (b)同会議の司会進行役、岡本孝司・東京大学工学研究科教授、阿部豊・筑波大学大学院 システム情報工学研究科教授、山口彰・大阪大学大学院 工学研究科教授は、それぞれ三菱重工業から200万円、500万円、3,385万円の献金を受け取っている、とされている。市民らは、会議の中立性が疑われる、と3人をメンバーから外すよう求めた。この要求に対し、委員の沈黙が続き、3時間余り会議が 開かれない異常な状態が続いた。

 19時30分頃、保安院は、ふたたび会場に現れ、会議を再開すると宣言。市民の傍聴を許さず、別室に会場を移す、と伝えた。20時過ぎ、会場を別室(本館17階)に変え、会議を再開。市民の傍聴を認めないまま、「ストレステスト(耐性検査)」の1次評価は「妥当」だ、とする審査書案をまとめた。
 なお、保安院が委員に対し、対応を協議するため別室に移動するよう呼びかけた際、井野博満・東京大名誉教授および後藤政志・芝浦工業大学講師/元プラントメーカー技術者は「公開は絶対の原則」と主張。2人は「傍聴者を認めれば会議に出席したい」とし、公開されない会議は無効である、と訴えた。しかし、保安員側は「傍聴を認めないのが省の方針」として譲らず、2人は事務局の指示をボイコット。
 再開した会議は、出席予定の8人の委員のうち、他の2人の委員も途中退席したため、最後まで残ったのは4人のみだった。

 以上、「【ドキュメント】ストレステスト審査~市民を締め出して強行」に拠る。

    *

●毎日新聞
 「混乱」の報道はない。丁寧な解説記事。 【「福井・大飯原発:3、4号機安全評価 「見切り発車」批判続出 福島事故の教訓、反映されず」 毎日jp 1月19日 東京朝刊】

●読売新聞
 <これに関する専門家からの意見聴取会には、反対派活動家らが多数押しかけて混乱した。> 【原発耐性検査 再稼動の判断を先送りするな」 1月19日付・読売社説」 YOMIURI ONLINE 2012年1月19日01時04分】

●朝日新聞
 <意見聴取会には開催前から原発反対を訴える市民らが詰めかけ混乱。約3時間半後に再開した。> 【「大飯原発の耐性「妥当」 保安院素案 意見聴取会は混乱」  1月18日23時29分】

●日本経済新聞
 <傍聴希望者の抗議で約3時間半にわたり開会できない騒ぎとなった。><午後4時すぎに経産省別館の会議室で始まる予定だったが、保安院側が傍聴を認めず別室でのモニター上映としたため、原発再稼働に反対する市民ら約20人が会議室に入り抗議。傍聴希望者の一部が「流会させろ」などと詰め寄った。> 【「大飯原発の安全評価会議、抗議で3時間半開けず」  日本経済新聞WEB刊 2012/1/18 21:47 】

●NHK
 <会議は、当初は午後4時すぎから始まる予定でしたが、運転再開に反対する人たちが、会議室での傍聴が認められなかったことなどから抗議を続けたため、別の会議室に移ったうえで3時間半余り遅れて始まりました。また、専門家8人のうち東京大学の井野博満名誉教授と芝浦工業大学の後藤政志講師の2人が「傍聴人を閉め出すのはおかしい」として欠席しました。> 【「大飯原発の2基 テスト妥当の評価」 NHK NEWSWEB 1月18日 21時44分】

●日テレ
 <協議に反原発派の団体が乱入し、警察が出動する騒ぎとなった。その後、協議は約4時間遅れで始まった。><反原発を掲げる市民団体らが別室に設けられた傍聴席から会議室になだれこんで協議を妨害したことから、経産省が警察の出動を要請する騒ぎとなった。> 【「反原発派乱入で警察も 保安院の協議始まる」 日テレNEWS24 2012年1月18日 22:08】

●テレビ朝日
 <しかし、前回の会議で傍聴者から不規則発言があったとして、国はこれまで認められていた傍聴を今回は制限するとし、一般の人には「別室傍聴」という形で、いわば締め出した形で会議を始めようとした。これに反原発を訴える人々が抗議する騒ぎとなり、結局、国は別の建物の部屋で完全に傍聴者なしで会議を行うことを決めた。> 【「原発ストレステストの審査で大荒れ」 tv aahi(報道ステーション) 2012年1月18日 (水)】

●TBS
 <会場には傍聴を求める市民らが押しかけ混乱したため、会議は一般傍聴者を締め出す形で、3時間半以上遅れて開かれました。/「ぜひ開かれた議論を行っていただけませんか?」/「傍聴者の締め出しをやめてください。なぜ密室で議論するのか?」><会合では、保安院が一般傍聴者に対し会場に入ることを認めず、別室でモニターを見るよう求めたため、反対派の市民らが強く反発、結局、委員は別の部屋に移り、一般の傍聴を締め出した形で、3時間半あまり遅れて始まりました。これに対し、2人の委員が「傍聴を認めないのはおかしい」と会議の運営方法に抗議して欠席しました。/「密室の中でやるような議論には参加しません」(芝浦工業大学 非常勤講師 後藤政志委員)> 【「大飯原発の評価「妥当」、会議は混乱」 TBS News 19日 00:21】

●フジ
 <意見聴取会には、同じ場所で傍聴を認められなかったことに反発した市民らが乱入し、大混乱となった。><経産省で、18日に行われたストレステスト意見聴取会で、傍聴を求める市民と保安院で、もみ合いが起きた。傍聴を求める市民は、「暴力をやめろよ」、「傍聴者を締め出して何を決めるんだよ。大飯原発だけが安全なわけないだろうが」と話した。> 【「関電・大飯原発安全評価「妥当」 意見聴取会は大混乱、地元では反発の声も」 FNN 01/19 12:46】
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【震災】原発>年明けからセシウムの量が急増 ~国の対応、東電の対応~

2012年01月20日 | 震災・原発事故
 文部科学省は、ホームページで「定時降下物放射能測定結果」【注1】を発表している。
 福島市のそれは、通常NDか、出ても5メガBq/平粁がほとんどだったのに、1月2日、突如432メガ/平粁という桁外れに大きな測定結果が出た。【武田邦彦・中部大学教授】
 この数値は、調査から2日遅れの1月4日14時にアップされ、放射能汚染に敏感な地元住民たちのメーリングリストで話題になった。
 1月6日、武田教授が自身のブログ【注2】で警告を発し【注3】、情報が一気に広がって、大騒ぎになった。
 <速報 福島中心にセシウム急増 マスク必要!! 文部科学省が1月6日に発表した福島県、並びに他県のデータを見ると、福島県および関東一円のセシウム降下量は、事故後とほぼ同じぐらいのレベルに達しています。原因は不明ですが、とりあえず、マスクをする必要があります。今、緊急に調べています。結果がでたらすぐブログに上げます。念のための措置ですが、お子さんをお持ちの方はあまり外に出ないように。データの信頼性もチェック中です。データは危険なレベルです。マスコミが報道していないのは不思議ですが、1平方キロメートルあたり100メガベクレルを超えていて、かなり危険です。逃げる必要はありませんが、マスクをして外出は避けてください。しばらく後に葉物野菜が汚染されます。(データが正しければ)>

 武田教授は、国や自治体は情報を市民にまったく伝えようとしていない、と批判する。
 事実、テレビや新聞はこうした情報を流していない。
 原発事故以来、情報の出し方についてあれだけ批判を浴びたのに、東電も原子力安全・保安院も文科省も、いまだに情報をきちんと出していない。強い憤りを覚える。【高橋誠子・福島市在住】

 千葉市でも、福島市ほどではないが、セシウムが急増した。そのデータは、国や自治体ではなく、「財団法人日本分析センター」が発表した。
 12月26日~1月4日の蓄積データで、54メガという測定結果が出た。10月末に同レベルで検出されて以来の数値だ。ただ、今回の数値だけでは、はっきりした原因がわからない。【日本分析センターの広報担当者】

 1平粁=100万平米だから、432メガBq/平粁とは、1日に1平米あたり432Bqのセシウムが蓄積する、ということだ【注4】。電離放射線障害防止規則第8条により、「危険だから除染しなければならないレベル」は4万Bq/平米とされている。つまり、1月2日の数値が継続した場合、100日足らずで人間が住むには危険な放射能レベルになる。内部被曝量は、定時降下物が500メガだと仮定して試算すると、1年間で0.11mSvになる。つまり、これまでの被曝量に0.11が加算される、ということだ。年間被曝量は1mSvと法律で定められている。その1割分が増えてしまうわけだ。これは明らかに「注意しなければならない量」だ。年間被曝量が5mSvを超えると、白血病のリスクが高まる。【武田教授】

 1月2日、多くの福島市民は、マスクをせずに街中を歩いていた。

 年明けに福島市や首都圏の一部で急増しているセシウムが、新たに原発から漏出したものか、すでに地表にあったものが舞い上がったのか、まだハッキリとはわかっていない。
 国や自治体がきちんと調べれば、わかる。原子炉から直接飛んでくる「死の灰」の粒径は0.3~30ミクロンくらいで、比較的小さな粒だ。他方、一度地面に落ちたセシウムは、土の粒子と結合したりシリカ(二酸化ケイ素で構成される物質)が付着したりするので、粒径が大きくなり、2~50ミクロンくらいの大きさになる。今回の定時降下物も粒径分布を調べることで、由来を特定できるはずだ。粒径がわかれば、対策もとれる。粒径が大きければ花粉用のマスクで対応できるし、粒径が小さければインフルエンザ用のマスクが必要となる。【武田教授】
 だが、国も自治体も東電も、粒径を調べた形跡はない。
 東電にいたっては、定例会見で記者から質問され、脳天気にも聞き返した。
 「定時降下物って何ですか?」

 「週刊現代」誌は、セシウム急増の原因と対策について、経産省原子力安全・保安院、原子力委員会、文科省、東電に取材した。

●経産省原子力安全・保安院
 定時降下物の担当は文科省だ。原発の外の話は文科省だから。文科省の仕事について、うちはコメントできない。

●文科省
 うちがモニタリングしているが、原因はわからない。うちでは分析していない。評価は原子力安全委員会の担当だ。

●原子力安全委員会
 評価は、現段階ではやっていない。現状の文科省データでは、数値が高いというだけで、原因はわからない。データが足りない。我々は現地で測定する部隊ではない。

●東電
 知らなかった。確認して折り返す。(1時間後)当社のモニタリングポストでは異常な値が出ていないので、原発は関係ないのではないかと。
 
 【注1】「定時降下物環境放射能」は、水を入れた円筒状の容器を建物の屋上に設置し、その中に降り積もった雨や塵を含め、どれだけ放射性物質が蓄積されたかを測定する。その数値によって、被曝蓄積量を推定することができる。空間線量でも土壌含有量でもない。
 【注2】「武田邦彦 (中部大学)
 【注3】「速報 福島中心にセシウム急増 マスク必要!!
 【注4】432メガBq/平粁=4億3,200万Bq/平粁=432/平米  ※1平粁=100万平米

 以上、記事「年明けからセシウムの量が急増している」(「週刊現代」2012年1月28日号)に拠る。

   *

 武田邦彦・中部大学教授が指摘するのは、福島県が県原子力センター福島支所で測定したセシウム降下量のデータだ。
 そのデータによれば、昨年11月の1日あたり平均降下量12メガBq/平粁に対し、12月は32メガBqと3倍近くまで上昇。12月19日、23日には100メガBqを超え、年明けの1月2日には432メガBqを記録した。その後も、3日、8日が100メガBqを超えるなど、異常な数値の検出が続いている。

 原発からのセシウム放出量は、昨年11月時点で0.6億Bq(1~3号機の合計)と推計され、事故から時間がたつにつれ減少している、とされる。
 新たに放出量が増えるようなトラブルはなく、数値が高い1月2、3日に原発周辺や正門での測定値に有意な変動は見られない。これまでにも風でセシウムが舞い上がり、測定結果が左右されたことがあった。【東電】
 1月2、3日は原発に向かって風が吹いていた。原発から飛んで来たのではなく、風で巻き上がった地表の土埃などが検査容器に混入したと考えられる。ただし、数値の高い日の風はやや強かったものの、他の日と比べて特別高いわけでもなく、原因ははっきりとは分からない。【福島県の担当者】
 県は、11日から施設屋上の床面に置いていた検査容器を高さ1mの台に置き換え、巻き上がり混入の影響を極力抑えて測定を始めた。だが、11日の数値は60メガBqで、前日10日の85メガBq、9日の28メガBqと比べて必ずしも低いとは言えない結果が出ている。

 さらに他の都道府県でも、12月に入って検出例が相次ぐ。東京では不検出が続くものの、千葉、栃木、茨城、山形でこれまでにない高い数値が出ている。
 ところが、肝心の12月27日以降の都道府県別の降下量の大半が分からない。文科省が、都道府県による測定結果を取りまとめて毎日実施していた公表を1ヵ月単位の公表に変更したためだ。
 毎日の公表を続ける福島県にしても、結果の公表は測定から2日遅れ。住民にとって何の役にも立たない。

 国、市は何の注意勧告も出していない。多くの住民はこの事実を知らないまま生活していると思う。風が強い日はこれまでにいくらでもあった。原発から新たに放出された“フレッシュ・セシウム”の可能性を本当に除外してよいのか。【菅野吉広・SAVE WATARI KIDS(渡利の子どもたちを守る会)会長】
 測定地点の値が最も高いとは限らない。「危険を煽る」と言うが、「危険そうなのにデータを出さない」というのが最も不安を煽る。花粉の飛散予想をするくらいなら、国はセシウムの予想値も出すべきだ。【武田教授】

 以上、大場弘行「年末年始 セシウム値上昇の謎を追う」(「サンデー毎日」2012年1月29日号)に拠る。

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【経済】野田首相は財務省の「男メカケ」 ~円高と消費税~

2012年01月19日 | 社会
 吉本佳生『日本経済の奇妙な常識』(講談社、2011)を大橋巨泉は以下のように紹介する。

 <読み進むうちに、このところずっと心にわだかまっていたものが、ほぐれていくようであった。特に「円高問題」や「日本の経済の根本問題」、「格差拡大の原因」、「消費税アップ」などに対する考え方が新鮮なのだ。>
 たとえば、円高問題。

 外国では、通貨が安くなると心配し、価値が上がると安心することが多い。海外旅行に行きやすい、輸入品が安く買える、云々。
 しかるに、日本に限って、円高になると輸出産業の株が下がり、財務大臣や日銀総裁がそわそわし出し、ついには「介入」して円を売り、ドルを買う。そのくせ、余り効果はあがらない。
 以前からオカシイと思っていたが、本書を読んで氷解した。現在の1ドル=70円台は、円高どころか円安だ、と著者(吉本佳生。以下同じ)はいう。
 貨幣価値は、それでどれくらいのものを買えるか、だ。1ドル=120円の状態が続くなかで米国の物価だけ2倍になったら、円をドルに替える人が以前と同じ価値のドルを貰うには2ドル貰わないと割に合わない。だから、1ドル=60円になって当たり前なのだ。
 1ドル=120円だった1990年代後半と比べると、現在の米国の物価は2倍近くになっている。他方、日本はデフレでほとんど上がっていない。つまり、1ドル=78円は、むしろ円安なのだ。著者は、各国のビッグマック指数を援用して解説している。

 日本政府は、昨年8月の介入のように「日本の貿易相手国に多大な迷惑をかけてでも、日本の輸出産業の利益になればそれでよい」という考えだ(「近隣窮乏化政策」)。
 日本経済の「輸出依存体質」は長年言われてきた。国内消費を増やすのも、長年の課題だった。しかし、円高誘導 → 政府介入までして輸出を助けているところからして、その体質は変わっていない。
 消費を伸ばしたくても、労働者の賃金は一向に上がらない。むしろ減っている。だから、物価も上がらない。すなわち、デフレだ。このスパイラルに入って久しい。どこかオカシイ。あれだけ輸出産業を助けているのに。
 著者はいう。すでに日本企業でも自動車や電気製品など輸出産業は、純粋な日本企業ではない。従業員の半数が海外で働く現地人だからだ。10%(1991年)から40%、自動車は48%(2009年)に急増している。政府が近隣諸国に通貨戦争まで仕掛けて守っている輸出産業は、どんどん現地従業員に恩恵を施し、逆に日本国内の労働者に不利益をもたらしている。

 著者によれば、ターニングポイントは1998年だった。
 企業も、一般家庭と同じく貯蓄する。ただし、企業はそれを上回る投資(設備)投資など)を行うから、家計の貯蓄を(銀行など経由で)借りて使う。これが正常な姿だ。
 ところが、1990年代中頃から、企業の貯蓄が増加の一途をたどる。それまで賃金アップや設備投資(借入)とバランスがとれていたものが、企業の内部留保ばかり増えるというアンバランスな傾向になった。その頂点が1998年だ。

 ここで大橋は、話題を消費税に転じる。この転じ方は巧みだ。
 著者は、この1998年に日本の自殺者が急増した、と指摘する。それまで2万人台だったが、この年一気に3万人台に突入した。
 そして、その前年の4月、橋本龍太郎内閣は、それまで3%だった消費税を5%に増税した。
 その後、「小泉改革」を経て、日本社会における格差はどんどん拡大している。賃金が上がらねば、恵まれた一部の人には賃金が上がったに等しい効果があるからだ。

 野田首相があれほど抵抗していた2大臣の更迭までやって、野党の合意をとりつけ、消費税を上げたいのは、一にも二にも財務省の意向に従いたいからだ。「不退転の決意」で消費税率をアップすれば、直撃されるのは低所得者層と中小企業だ。それも、著者が一番やってはいけない、という「小幅な増税」の繰り返しだ。
 本来ならば、貯金(内部留保)を増やしている大企業にこそ増税すべきだ。
 昔、青島幸男は、佐藤栄作を「財界の男メカケ」と呼んで物議をかもした。
 今、野田首相は誰の男メカケなのか。

 以上、大橋巨泉「消費増税、TPP推進と弱い者いじめの野田は誰の「男メカケ」なのだ!? ~今週の遺言 第154回~」(「週刊現代」2012年1月28日号)に拠る。
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【震災】原発>国が福島県民に教えない本当の除染基準

2012年01月18日 | 震災・原発事故
 野田政権によれば、2012年は「除染元年」だ。
 細野豪志・環境相は、「除染なくして福島の復興なし」と繰り返す。
 環境省は、除染を本格化させるための「福島環境再生事務所」を2012年1月1日付けで福島市に置いた【注1】。

 野田佳彦首相は、昨年12月16日、記者会見で「発電所の事故そのものは収束に至った」と宣言した【注2】。
 収束なんてとんでもない。再爆発の可能性だって五分五分だ。まだ雨漏りしてんだから、除染よりまず雨漏りを止める。そして、廃棄物の捨て場所(中間貯蔵施設)を確保することが先決だ。いまだに国は、最終処分場は県外、なんて言っているが、そんなもの、どこが引き受けるか。【鈴木二郎(78)・元東電社員/大熊町から郡山市へ避難】

 国は、中間貯蔵施設を「福島県内に置く」と曖昧な方針しか示してこなかった。昨年12月28日、ようやく細野環境相は、福島第一原発のある双葉郡内に置きたい、と佐藤雄平・福島県知事らに伝えた【注3】。
 線量を下げることが難しい地域(年間放射線量100mSv超)がまとまって存在することなどが双葉郡内に置く決め手だ、とされる。
 100mSv超の地域が広範囲にある大熊、双葉両町の町民の間では、何を今さら、の感が強い。十分な補償と引き換えなら中間貯蔵施設の受け入れもやむをえない、という意見がすでに多いからだ。

 ところが、官邸周辺によると、「公式発表」とは異なる別のプランが浮上している(「二枚舌」の疑い・その1)。
 100mSv超の地域だと、作業する時間が限られる。速やかに計画を実現させるため、100mSv超の周辺地域も候補地として検討している・・・・らしい。
 また、細野環境相は中間貯蔵施設は1ヶ所と述べたが、県内の他地域から廃棄物を運ぶ際のアクセスを重視し、複数置くプランも検討している・・・・らしい。

 公式発表とは異なる基準は、除染現場でも出ている(「二枚舌」の疑い・その2)。
 除染作業は、昨年末から1月にかけ、本格作業に先立つ国のモデル事業として、富岡町内2ヶ所で始まっている。ところが、昨年12月、同町で除染作業に関わる地元業者らに、通告があった。
 「7μSv/h以上の地域は除染しない」
 この線引きについて、箝口令が敷かれた。町民は蚊帳の外だった。

 これより少し後、国は現在の「警戒区域」と「計画的避難区域」の線引きを見直し、新たに放射線量に応じて3つの区域に再編する、と決めた。
 比較的線量が低い年間20mSv未満の区域から優先的に除染を進め、順次、住民を帰宅させていく、という。
 もっとも線量が高い年間50mSv以上の「帰還困難区域」では、不動産の買い上げなどが検討される。
 実際の線引きは、3月末をめどに示される(見とおし)。
 
 ところで、7μSv/h=61mSv/年だ。
 年間61mSvを境に除染するか否かを決める。これは、つまり国は表向き住民に示した線引き基準とは異なる「除染地図」が存在することを意味するのではないか(「二枚舌」の疑い・その3)。
 それでなくても、避難区域の見直しなどは、避難範囲を狭めて補償額を抑えようとする意図が見え見えだ。【浪江町の自営業者】

 【注1】記事「環境省福島再生事務所が発足 除染態勢も拡充」(asahi.com 2012年1月4日22時48分)
 【注2】記事「東日本大震災:福島第1原発事故 政府の「収束」宣言波紋 配慮が裏目、被災地反発」(毎日jp 2012年1月3日)
 【注3】記事「中間貯蔵施設、福島・双葉郡に設置方針 環境相が明言」(asahi.com 2011年12月28日11時57分)

 以上、佐藤秀男(本誌)「政府が福島県民に教えない本当の除染基準」(「週刊朝日」2012年1月20日号)に拠る。
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