山下敬太郎こと柳家金語樓は、明治34年生、昭和47年没。
三遊亭金勝の長男として6歳で初高座、28歳にして「金語樓とその一党」を旗揚げした。41歳で旧態依然たる落語界に見切りをつけて俳優に転向し、マルチタレントの走りとなった。
本書は、この個性的な喜劇人の小伝である。
「あたしはあたしのものじゃない。大衆のもの、お客さまのものなのだ」と金語樓はいう。
名人となるよりも人気者になれ、と少年時代に竹本素行(藤田まことの祖母)から教えられている。
人気は芸に裏打ちされていた。噺家として売りだしてからも、名人の四代目志ん生に就いて基礎から学びなおす謙虚と熱意があった。「わたしは未熟な役者。死ぬまで修行」であった。
社会奉仕活動にも熱心で、交通少年団の活動では、自分の人形をドライバーに配った。「(ハゲて)毛がない金語樓」を「怪我ない」にかけたのである。違約を嫌い、風邪の熱をおして老人ホームを訪問したこともある。その2か月後に鬼籍に入った。
今様にいえば気くばりの人で、到着時刻は正確、引き上げるのも速かった。
日本芸術協会の発足に際しては、人気でまさる自分は副会長となり、年長の六代目春風亭柳橋を会長にたてた。
時代を動きに敏感で、大正8年、18歳でラジオ初出演し、テレビにも創成期から着目した。昭和28年、52歳の時から、15年間続いた長寿番組「ジェスチャー」(NHK)に出演。最盛期には60%を越す視聴率をあげた「おトラさん」ほかの出演作品がある。
私生活では、好奇心が強く、多趣味だった。金にはならぬ発明道楽から、一向に勝てぬ野球チームの組織まで。発明についていえば、特許こそとらなかったが、小学生が運動会でかぶる赤白の帽子は金語樓のアイデアだとか。
金語樓は艶福家だったらしい。著者が金語樓の長男のせいか、色事にはほとんどふれていない。他にも書かれていないことがあるだろう。
しかし、生前大衆を楽しませた人は、死後刊行される伝記も大衆を楽しませるものであってよい。
古川ロッパやエンタツたちの小伝に全体の三分の一を割いている。戦前から戦後に至る喜劇人列伝としても読める。
既成観念にとらわれない著者は、たとえば次のようにいう。「しかし、初めて団体生活を経験した軍隊というところは、金語樓にしてみれば、ちょうど私たちの学校のようなものだったかもしれない」
これは、竹内好の観察と正確に同じだ。
□山下武『嗚呼、懐かしの金語樓』(小学館、2000)
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三遊亭金勝の長男として6歳で初高座、28歳にして「金語樓とその一党」を旗揚げした。41歳で旧態依然たる落語界に見切りをつけて俳優に転向し、マルチタレントの走りとなった。
本書は、この個性的な喜劇人の小伝である。
「あたしはあたしのものじゃない。大衆のもの、お客さまのものなのだ」と金語樓はいう。
名人となるよりも人気者になれ、と少年時代に竹本素行(藤田まことの祖母)から教えられている。
人気は芸に裏打ちされていた。噺家として売りだしてからも、名人の四代目志ん生に就いて基礎から学びなおす謙虚と熱意があった。「わたしは未熟な役者。死ぬまで修行」であった。
社会奉仕活動にも熱心で、交通少年団の活動では、自分の人形をドライバーに配った。「(ハゲて)毛がない金語樓」を「怪我ない」にかけたのである。違約を嫌い、風邪の熱をおして老人ホームを訪問したこともある。その2か月後に鬼籍に入った。
今様にいえば気くばりの人で、到着時刻は正確、引き上げるのも速かった。
日本芸術協会の発足に際しては、人気でまさる自分は副会長となり、年長の六代目春風亭柳橋を会長にたてた。
時代を動きに敏感で、大正8年、18歳でラジオ初出演し、テレビにも創成期から着目した。昭和28年、52歳の時から、15年間続いた長寿番組「ジェスチャー」(NHK)に出演。最盛期には60%を越す視聴率をあげた「おトラさん」ほかの出演作品がある。
私生活では、好奇心が強く、多趣味だった。金にはならぬ発明道楽から、一向に勝てぬ野球チームの組織まで。発明についていえば、特許こそとらなかったが、小学生が運動会でかぶる赤白の帽子は金語樓のアイデアだとか。
金語樓は艶福家だったらしい。著者が金語樓の長男のせいか、色事にはほとんどふれていない。他にも書かれていないことがあるだろう。
しかし、生前大衆を楽しませた人は、死後刊行される伝記も大衆を楽しませるものであってよい。
古川ロッパやエンタツたちの小伝に全体の三分の一を割いている。戦前から戦後に至る喜劇人列伝としても読める。
既成観念にとらわれない著者は、たとえば次のようにいう。「しかし、初めて団体生活を経験した軍隊というところは、金語樓にしてみれば、ちょうど私たちの学校のようなものだったかもしれない」
これは、竹内好の観察と正確に同じだ。
□山下武『嗚呼、懐かしの金語樓』(小学館、2000)
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