(1)2013年10月、人民元はユーロを抜いて世界の貿易決済単位として第2位の通貨になった。
同時期、中国の個人投資家は、手持ちの人民元を仮想通貨ビットコインに交換することに夢中になっていた。中国のテレビや新聞でも、ビットコインへの投資で大金を手にした「ビットコイン長者」が大々的に紹介された。
(2)これまで存在した仮想通貨には、技術的な問題があった。
(a)不正な使用を防ぐために高度な暗号技術が必要だ。
(b)通貨量をどのようにコントロールするか。
(3)ビットコインは、中本哲史なる人物によって2008年に開発された、とされる。
ビットコインは、「マイナー」というソフトをダウンロードすることで、誰でも「採掘(発行)」できる。
「採掘(発行)」のプロセスは巧妙なアルゴリズムによって制御されていて、全体の採掘量がほぼ一定に抑制されるよう設計されている。中央銀行の代わりにコンピュータプログラムによって流通量がコントロールされ、価値の暴落を防ぐ仕組みになっているのだ。
ビットコインは手数料なしに送金できる。この手軽さもあって、またたくまに世界各国の通貨との交換市場が創設されていった。
(4)最近、ビットコインの「価格」が急上昇したきっかけは、中国の大手ネット関連企業(検索サイトの百度(バイドゥ)やアリババなど)が相次いでビットコインとの連携ビジネスを始めたことだ。今や、世界のビットコインの3割が中国を通じて取引されている、と言われる。
2013年夏ごろには1ビットコイン=100ドル前後で推移していたが、12月初め、一気に1,000ドルを超えた。バブルというへき様相を呈するに至った。
12月5日、中国人民銀行は、国内金融機関がビットコインを取り扱うことを規制する通達を出した。
これに伴い、百度もビットコインによる決済を停止する、と発表した。また、ビットコイン・チャイナ(最大のビットコイン交換プラットフォーム)は、取引参加者の実名登録制を導入するようになった。
これら、中国における一連の規制強化の動きを受け、ビットコインの価格は急落したが、すぐ持ち直し、その後も変動を続けている。
(5)かくのごとく、現実の経済現象にも多大な永久を及ぼし始めたビットコインの本質は何か。
その流通の大きな部分が中国を通じて行われている、という事実は、今後の中国ないし世界の経済に、どんな影響を及ぼしていくか。
ビットコインは、中央銀行を持たない通貨だ。ハイエクのいわゆる「自由発行通貨」に比せられることも多い。
(a)ビットコインは、「多くの人によって受領されるという事実のみが、その価値を支える」という「貨幣」の本質を満たした存在だ。ただし、国家などによって価値を担保されていないビットコインは、本質的に不安定な存在だ。いずれ中公銀行的機関が生まれて全世界の流通を管理し、それによって新たな国際金融の秩序が生み出されるかもしれない。【岩井克人】
(b)他方、ビットコインは投機の対象となる「資産」の性格も持つ。中国の過剰な流動性(<例>不動産バブル)が、ビットコインという手軽な投機対象に向かった、というだけのことかもしれない。
ただ、不動産のような投機対象と異なって、仮想通貨の価格動向は国境を肥えて全世界に伝播する。
人民元はハードカレンシーではないため、これまでは中国のバブルが崩壊しても、世界経済に対する伝播は限定的なものにとどまる、とされてきた。
しかし、人民元が国際化する前に、中国の過剰マネーがより大規模な形でビットコイン市場に流れ込み、主要通貨の為替レートや各国の株式市場に影響を及ぼすような状況が生まれるかもしれない。
□梶谷懐(神戸大学准教授)「仮想通貨ビットコインは中国経済をどう変えるか」(「週刊東洋経済」2013年12月28日-2014年1月4日号)
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【参考】
「【仮想通貨】ビットコインは円を駆逐するか?」
同時期、中国の個人投資家は、手持ちの人民元を仮想通貨ビットコインに交換することに夢中になっていた。中国のテレビや新聞でも、ビットコインへの投資で大金を手にした「ビットコイン長者」が大々的に紹介された。
(2)これまで存在した仮想通貨には、技術的な問題があった。
(a)不正な使用を防ぐために高度な暗号技術が必要だ。
(b)通貨量をどのようにコントロールするか。
(3)ビットコインは、中本哲史なる人物によって2008年に開発された、とされる。
ビットコインは、「マイナー」というソフトをダウンロードすることで、誰でも「採掘(発行)」できる。
「採掘(発行)」のプロセスは巧妙なアルゴリズムによって制御されていて、全体の採掘量がほぼ一定に抑制されるよう設計されている。中央銀行の代わりにコンピュータプログラムによって流通量がコントロールされ、価値の暴落を防ぐ仕組みになっているのだ。
ビットコインは手数料なしに送金できる。この手軽さもあって、またたくまに世界各国の通貨との交換市場が創設されていった。
(4)最近、ビットコインの「価格」が急上昇したきっかけは、中国の大手ネット関連企業(検索サイトの百度(バイドゥ)やアリババなど)が相次いでビットコインとの連携ビジネスを始めたことだ。今や、世界のビットコインの3割が中国を通じて取引されている、と言われる。
2013年夏ごろには1ビットコイン=100ドル前後で推移していたが、12月初め、一気に1,000ドルを超えた。バブルというへき様相を呈するに至った。
12月5日、中国人民銀行は、国内金融機関がビットコインを取り扱うことを規制する通達を出した。
これに伴い、百度もビットコインによる決済を停止する、と発表した。また、ビットコイン・チャイナ(最大のビットコイン交換プラットフォーム)は、取引参加者の実名登録制を導入するようになった。
これら、中国における一連の規制強化の動きを受け、ビットコインの価格は急落したが、すぐ持ち直し、その後も変動を続けている。
(5)かくのごとく、現実の経済現象にも多大な永久を及ぼし始めたビットコインの本質は何か。
その流通の大きな部分が中国を通じて行われている、という事実は、今後の中国ないし世界の経済に、どんな影響を及ぼしていくか。
ビットコインは、中央銀行を持たない通貨だ。ハイエクのいわゆる「自由発行通貨」に比せられることも多い。
(a)ビットコインは、「多くの人によって受領されるという事実のみが、その価値を支える」という「貨幣」の本質を満たした存在だ。ただし、国家などによって価値を担保されていないビットコインは、本質的に不安定な存在だ。いずれ中公銀行的機関が生まれて全世界の流通を管理し、それによって新たな国際金融の秩序が生み出されるかもしれない。【岩井克人】
(b)他方、ビットコインは投機の対象となる「資産」の性格も持つ。中国の過剰な流動性(<例>不動産バブル)が、ビットコインという手軽な投機対象に向かった、というだけのことかもしれない。
ただ、不動産のような投機対象と異なって、仮想通貨の価格動向は国境を肥えて全世界に伝播する。
人民元はハードカレンシーではないため、これまでは中国のバブルが崩壊しても、世界経済に対する伝播は限定的なものにとどまる、とされてきた。
しかし、人民元が国際化する前に、中国の過剰マネーがより大規模な形でビットコイン市場に流れ込み、主要通貨の為替レートや各国の株式市場に影響を及ぼすような状況が生まれるかもしれない。
□梶谷懐(神戸大学准教授)「仮想通貨ビットコインは中国経済をどう変えるか」(「週刊東洋経済」2013年12月28日-2014年1月4日号)
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【参考】
「【仮想通貨】ビットコインは円を駆逐するか?」