語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】だれがどこまで原発事故の賠償をするのか

2011年03月31日 | 震災・原発事故
 東京電力の勝俣恒久会長【注1】は30日の記者会見で、周辺の住民に対する補償は「全体としては原子力損害賠償法の枠組みを含めて考えていきたい」と述べるにとどまった(2011年3月30日19時54分 YOMIURI ONLINE)。

 勝俣会長は、記者会見で、「法律ではどういう場合に東電の責任が免除されるかはっきり決まっていないことを挙げ、『政府と考えていきたい』と、補償範囲・程度については明言を避けた」(2011年3月30日22時30分 asahi.com)。

   *

 原子力損害賠償法によれば、賠償責任は原則として電力会社が負う。過失の有無を問わず、原子力災害によって生じた損害はすべて補償しなければならない。1,200億円までは保険などによって手当され、これを超える額は国が支援する。
 なお、1,200億円超の損害も、一義的には電力会社に責任があるので、念のため。
 ただし、「想定外の巨大地震」などによる事故では、電力会社は免責され、国が“必要な措置”を講じる。もっとも、その措置の具体的な内容は明らかではない【注2】。
 例外規定が適用されるという観測もあるが、「現時点では東京電力は免責とならず、通常規定どおりに東電が賠償を行い、国が不足分を支援するシナリオが有力になりつつあるようだ」。

 問題は、賠償金額がどこまで膨らむのか読めないことだ。
 JCO臨界事故(1999年)では賠償額が150億円にのぼった。このたびの被害は、ケタ違いだ。賠償の対象は、身体や物の直接的な損害だけでなく、風評による営業被害など間接的損害も対象となる。作物が汚染された農家だけではない。原発事故の事態収拾に当たる電力会社、協力企業の従業員、自衛隊員、警察官などが今後健康を損ねた場合も対象となる。賠償額は数兆円にのぼる、という見方もある。
 原子力災害が国の措置によって満額補償される反面、純粋に地震と津波の被害で損害を受けた被災者との公平性の問題もある。事故処理は、容易ではない。

 以上、COLUM「どうなる原発事故の賠償責任」(「週刊東洋経済」2011年4月2日号)に拠る。

 【注1】
 「東京電力の『説明責任』も“木を鼻で括る”醜状です。02年、炉心部ひび割れを隠蔽した歴代トップ4名が総退陣後、東電社長に就任し、経団連副会長をも務めた勝俣恒久氏は電力事業連合会会長だった06、07両年、柏崎刈羽、福島第二で連続発生の重大事故を公表せず、データ改竄をも黙認しました。今回の炉心溶融、無計画停電の遠因を生み出した人物です」(田中康夫「『国民生活第一』が聞いてあきれる “平成の棄民”」、「サンデー毎日」2011年4月10日増大号)

 【注2】
  勝俣会長が記者会見で「政府と考え」る、と述べたゆえんだ。
  東京電力の荒木浩顧問は、歴代首相や有力政治家を囲む会を定期的に開催している。今井敬・新日本製鉄名誉会長や上島重二・三井物産顧問とともに。現役の日本経団連会長や日本商工会議所会頭も加わる。荒木は、小沢一郎・民主党元代表を囲む会の世話役的存在でもある【注3】(「東京電力の隠蔽体質」)。
 東電にとって、「政府と考え」る際にはこうした人脈が生きてくるはずだった(推定)。

 【注3】
  小沢は、30日夜、都内の自宅で自分に近い若手の衆参両院議員十数人と懇談し、語った。「自分なりに情報収集しているが、政府や東電が発表するよりも悪い事態になっているようだ」(2011年3月31日08時24分 YOMIURI ONLINE)
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【震災】漂流し疎外される被災者を生むな ~阪神・淡路大震災の教訓~

2011年03月31日 | 震災・原発事故
 このたびの震災で避難している方々の大半は、一時避難の心積もりだろう。
 だが、阪神・淡路大震災では、多くの被災者が心ならずも故郷との絆を断たれ、全国を“漂流”することになった。戻りたいけれども戻れない状況に陥った県外被災者の実数は、いまだに定かではない。兵庫県によれば54,700人、内閣府の非公式資料によれば12万人だ。
 被災して半年後の1995年9月に、次のような事例があった。

<事例1>女性(40)・・・・自宅は全壊。パートは解雇された。病気入院中の夫は震災後死亡。実家に近い松山に移転(家賃1年間無料)。
<事例2>男性(52)・・・・自宅は全壊。解雇され、社宅を退去させられた。母は負傷で入院。長男は大学受験。長女は就職活動中。やむなくバラバラに避難。
<事例3>福岡に避難した男性・・・・就職したが、収入は大幅にダウン。父は震災後ストレスにより入院。子どもは関西弁をからかわれ、登校拒否。

 これらは、県外被災者支援の機関誌「りんりん」(95年9月創刊)に載った声だ。「りんりん」は、ピーク時、青森を除く46都道府県、4,000人に発送した。機関誌に寄せられた投稿は、屈辱の疎開生活と耐え続ける日々を綴る。

<事例4>文化住宅の一室を借りるに当たり1年間の給与明細の提出を迫られ、病気になって動けなくなったら出ていってくれ、と念書をとられた。火事をだしてはいけない、と1年間の天ぷら禁止を言い渡された。
<事例5>関西の地方都市に疎開し、公営住宅に入居して生活保護を受給した女性・・・・被災者生活再建支援法成立(98年)に伴う自立支援金を収入認定された。

 <事例5>の自立支援金は、次官通達(63年)によれば「収入」とされない。くだんの女性を担当する福祉事務所のケースワーカーもその上司も主管課も、この通達を知らなかったらしい。「こんな理不尽な取り扱いは他にもあったと考えられる」
 自宅を再建したものの、被災した家との二重ローン【注】などで経済的に破綻し、ホームレスになった人もいる。阪神・淡路大震災では、経済的基盤(住居・所得)を持ちながらも震災により「負のスパイラル」に陥った中堅層への支援策がほとんどなかった。この階層がもっとも「脆弱な階層」だった。

 県外被災者の8割は、「一時避難」「数年で戻る」つもりだった。しかし、故郷を離れた途端に支援情報が途切れた。公営住宅に受け入れた自治体は、1~2年経つと住民票の移転を迫った。住民票を移せば、被災地を対象とした支援から外れてしまう。さらに、被災地に建設された復興住宅への応募は、仮設住宅居住者が優先された。
 「りんりん」に寄せられた声を総合すると、県外被災者のニーズは次のようなものだ。
 日本のどこへ避難しても生活を再建できるよう、「属地主義の壁」を撤廃せよ。
 全国の自治体が被災地と同じ支援を実施する全国共通の生活再建システムを創設せよ。
 一時的転居の場合、住民票を異動せず、転居先市町村に避難地登録を行う制度を設けよ。 
 自宅敷地の手入れ等で一時里帰りする際には、空いている仮設住宅を使える制度を設けよ。

 だが、16年経った今、どの要求も実現していない。「この国は長らく被災者の生活再建を自助努力、自己責任としてきた」
 しかし、その論理はもはや通用しないだろう。
 阪神・淡路大震災では、県外に避難した人の7割が震災発生から3ヵ月以内に疎開した。対策を講じるのは今しかない。国は、率先して早急に体制を整えなくてはならない。

 (1)県外避難者の被災者台帳を整備し、被災自治体と受け入れ自治体が共有する。
 (2)被災地の支援情報が届くよう、情報システムを構築する。
 (3)避難先を災害救助法上の分散仮設住宅と見なし、支援の対策を講じる。 

 【注】現在でも少なくとも1,800世帯が二重ローンを抱えている、と目される(記事「『大震災』復興の群像」、「週刊新潮」2011年3月31日号)。

    *

 以上、山中茂樹(関西学院大学災害復興制度研究所主任研究員)「漂流し疎外される被災者を生まない ~阪神・淡路大震災の教訓~」(「週刊エコノミスト」2011年4月5日特大号)に拠る。
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【震災】斎藤美奈子の、本にできること ~支援の仕方は多様~

2011年03月30日 | 震災・原発事故
 出版・文筆業界でもチャリティーが動きはじめた。被災地の子どもたちに絵本を送る運動が各地でスタート、など。

 非常時には旧著に学ぶ点が多い・・・・と、今月の「文芸時評」は2冊挙げる。田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(ポプラ文庫)と平山譲『ありがとう』(講談社文庫)だ。
 前者にふれて斎藤はいう。「災害と戦争とはもちろんちがう。けれどいま、町がガレキの山と化し、大勢の人が家族や家を失い、制御不能に陥った原発と放射線という目に見えない敵におびえる私たちの気分は戦争モードに近づいていないだろうか」
 1956年生まれの斎藤美奈子と、1929年に生まれて幼年学校で敗戦を迎えた加賀乙彦とがよく似た感慨を漏らしているのは興味深い。ちなみに、加賀乙彦のエッセイ「再建という希望が残った」は、「文芸時評」と同じ紙面に掲載されている。編集者が意図してか、図らずか、それはわからないけれども、紙の媒体における編集の妙というものを考えさせられる。

 後者『ありがとう』では、阪神・淡路大震災に被災した主人公は、復興に駆けずりまわるが、自営のカメラ店の再建は諦める。唯一、駐車場の車のトランクに残っていたゴルフバッグを手に再出発を図る。この本は、60歳目前でプロテストに合格した古市忠男プロの数年間を描くノンフィクションが本書だ。古市は、ゴルフファンの間ではよく知られている。
 13歳の田辺聖子は戦時下で「少女の友」を愛読し、『更級日記』の主人公に自分を重ねた。そして、古市忠男にとってのゴルフバッグ。「人にはそういう心の支えが必要なのだと、これらの本は教えてくれる」と斎藤はいう。

 ただし、斎藤は「文学を、読書を過大評価はしていない。ただ、文学にしかできない仕事があるのは事実だし、読書でしか得られない効用があることも知っている」。
 過去に元気づけられた本、慰められた本を思い出し、その情報をツイッターやブログで流そう・・・・と斎藤は呼びかけている。
 そして、現地にボランティアで入る人は、1冊でも2冊でも本や雑誌を持参し、持ち寄った本で避難所にブックコーナーを作ろう。
 図書館が無事なら一部でも開放し、不安がる子どもや高齢者のために読み聞かせをしよう。
 被災地が少し落ち着いたら、小中学生の出番だ。ひとり1冊ずつ好きな本を持ち寄って、思いを託した手紙をはさみ、被災地や避難先の友だちに届けよう。

 「本なんか邪魔なだけ? そう思うならやめておけばいい。支援の仕方は多様でよいのだ」

【参考】斎藤美奈子「文芸時評」(2011年3月29日付け「朝日新聞」)
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【震災】加賀乙彦のみる大震災 ~再建という希望~

2011年03月30日 | 震災・原発事故
 加賀乙彦は、新進気鋭の作家だったときに地震に遭遇した。書斎に本が散乱したが、ヨロイ・カブトを買おうかと思っている、という冗談をいう余裕があった。その彼もいまは81歳。この1月に病で倒れ、心臓にペースメーカーをつけた。このたび、「5千冊の本の散乱に、ただただ打ちのめされた」。
 阪神・淡路大震災のとき、加賀は65歳だった。「ボランティアで、避難所を巡って、医師としていささかの働きをした」・・・・これは中井久夫も証言している【注】。だが、東北・関東を襲った地震と津波の爪痕や死者の多さ、避難所で暮らす人々の膨大な数には、多少の寄付をしたものの、「あとはどうしてあげてらいいか、見当もつなかい有り様である」。

 「しかし、昔にもこれに比較される悲惨な出来事があった」と加賀は続ける。
 「それは戦争中の都市爆撃の被害と残酷である。広島・長崎の原子爆弾の巨大な被害と、考えられる限りの苦しみと破壊を思い出す。あの膨大な死者の数と都市の破壊は、ひどかった。(中略)あの地獄の苦痛は、今度の大震災の被害に比較さるべきものである」
 福島原発の被害は、対策が後手にまわった点で原爆の惨禍によく似ている。だが、原発の破壊を復旧し、救命活動にはげむ献身的な人々の活躍、ボランティアとして被害者のために働く人々の熱意に感動し、感心した。「こういうところは、戦争中の軍国主義者の横暴とはまるで違って、日本の未來には明るい希望があると思った」

 住居が地震に壊され、集落が津波に流された。「それは大きな天災で人の力の及ぶところではない。しかし、絶望だけでなく、故郷を再生し大津波に対抗できる街を作るのが私たちの希望である」
 「爆撃と原子爆弾の痛苦にのたうちまわった歴史を思いだして、冷静に津波の被害や故郷の町の喪失を、再建しようではないか」
 日本には、再建という大きな希望が残されている、というのが加賀の短いエッセイの結論である。

 【注】中井久夫「災害がほんとうに襲った時」によれば、次のとおり。
 「突然、避難民をあずかる羽目になった校長先生と教員たちの精神衛生はわれわれの盲点であった。校長先生たちはある意味ではもっとも孤立無援である。(中略)作家の加賀氏に真先にしていただいたのが校長先生の訪問である。初日に5人の校長先生に会われた。避難所をもまわられた氏の万歩計は2月7日の一日で3万1000歩をこえた」
 「看護管理室に居合わせたナースたちは加賀さんに会いたいと5、6人が用を作って現れた。(中略)皆、加賀さんの花のことを知っていた((中略)『花がいちばん喜ばれる』ということを私は土居先生からの電話で知った)」

【参考】加賀乙彦「再建という希望が残った ~大震災 老人のつぶやき~」(2011年3月29日付け「朝日新聞」)
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【震災】計画停電を回避できる料金引き上げの目安は3.5倍

2011年03月30日 | ●野口悠紀雄
(1)料金体系の見直しは必至
 少なくとも東京電力、東北電力の管内では、必然的に電力利用のコストが何らかの形で上がる。問題は、どのような形で利用コスト上昇を実現するか、だ。
 明示的な料金引き上げを行わなければ、一定時間帯使えない(ことによって発生するさまざまな不都合)・・・・という形でコストを負う。そのコストは、明示的な料金引き上げに比べて、確実に高い。必要度の高い用途も一律にカットしてしまうからだ。そして、不公平(計画停電では地域別の不公平)な形で負担がかかる。
 したがって、料金体系の見直しが必要なことは、ほぼ自明だ。検討するべきは、どのような形の見直しを行なうか、だ。

(2)需要弾力性による結論
 東京電力の発表(3月25日)によれば、夏には4,650万KW程度供給力できるし、今夏の最大需要は5,500万KW程度だ。
 しかし、この需要予測は楽観的だ。安全をとって最大需要を6,000万KWとすると、必要な削減率は22.5%となる。以下では、計算の簡単化のため25%とする。価格をどの程度引き上げれば、これが実現できるか。
 「需要の価格弾力性(または弾性値)」は、価格を1%引き上げた時に需要が何%変化するかを示す指標だ。電力については、これまで「価格弾力性は-0.1程度」と仮定して議論されることが多かった。電力は必需財なので価格を引き上げても需要はあまり変化しない・・・・とされる根拠がこれだ。
 しかし、弾力性の絶対値が小さい値であっても、価格を十分に引き上げれば需要は減る。価格弾力性が-0.1でも、価格を250%引き上げれば(価格を現在の3.5倍にすれば)、需要を25%削減することができる。
 なお、ここでは、ピーク時需要抑制の観点から基本料金の引き上げを考えている。他方、価格弾力性が議論される場合の価格とは、電力使用の単価のことだ。これらは、厳密に言えば別のものだ。

(3)企業の基本料金を3.5倍に
 企業の場合、すべての企業について基本料金における料金単価を一律に値上げすべきだ。「価格弾力性-0.1」を仮定すれば、需要を25%削減するには、基本料金の単価を250%引き上げればよい(つまり、現在の3.5倍にする)。
 ただし、企業の場合は、もう少しきめの細かい対応が必要だ。必要なのは夏の昼間なので、この時間帯の基本料金だけを高くしてもよい。工場操業の夜間へのシフトを促すには、夜間料金を現在よりも安くしてもよい。ただし、いずれにしても重要なのは、ペナルティを十分高くして契約電力を強制することだ。
 以上は、価格弾力性について一般に用いられている数字を用いたごく粗い検討にすぎない。実際にはもっと詳しい調査が必要だ。アンケート調査等によって補完することが必要だ。
 また、需要弾力性について不確実性が残るから、計画停電方式をバックアップとして準備しておかねばならない。均衡価格は、本来は試行錯誤によって決めるべきものなのだ。
 価格弾力性は、需要量を従属変数にしているから、実現するのは総需要の減少だ。ただし、全体が低まればピークも低まる。また、家計の場合は、夏のピークは、昼のかなり長い時間帯続くので、ピーク抑制にも寄与するだろう。

(4)電気代上昇が家計に与える影響
 2010年家計調査によると、消費支出3,027,938円のうち、電気代は101,048円だ。消費支出中の比率は3.3%だ。無視できる金額ではないが、教養娯楽費358,923円や交際費163,117円に比べて、かなり少ない。電気代上昇は、家計に大きな影響を及ぼすのは間違いない。しかし、教養娯楽費や交際費を抑制すれば調整できない額ではない。
 ただし、企業の生産コストは上昇する。それが製品価格に転嫁されれば、間接的な影響を受ける。
 企業の場合、電気代が上昇すれば、原価が上がる。電気はどのような経済活動にも必要なものなので、特定の原料価格が上がった場合に比べれば、製品価格への転嫁はしやすいだろう。しかし、100%転嫁できる保証はない。転嫁が不完全にしか行なえなければ、企業の利益は減少する。
 ただし、昼夜の料金に差をつければ、操業が夜にシフトするので、製品価格への影響は緩和されるだろう。西日本や海外への生産シフトによっても、影響を緩和できるだろう。逆に言えば、こうした措置によって西日本や海外へのシフトが促進されるわけだ。

(5)スマートグリッド・太陽光発電・電気自動車
 スマートグリッド(次世代送電網)やスマートメーター(次世代電力計)への移行促進は、長期的な観点からは確かに重要だ。しかし、設置に時間がかかり、今年の夏にはとても間に合わない。それに、料金を引き上げなければ、スマートグリッドを実現しても利用抑制への圧力は働かない。
 再生可能エネルギー、とくに太陽光発電も長期的には重要なのだが、総量はとても足りない。また、設置に時間がかかる。ガス冷房は設置コストがかなり高い。
 今回の事態が電気自動車にどう影響するかは、不明だ。電気料金の引き上げが行なわれるなら、東日本では利用コストが上昇する。しかし、原油価格も上昇しているから、差引でどうなるかはわからない。西日本では、今回の災害とは無関係に電気自動車やハイブリッドカーの有利性が高まっている。

【参考】野口悠紀雄「計画停電を回避できる料金引き上げの目安は、3.5倍 ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第5回】2011年3月29日~」(DIAMOND online)
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【震災】日本の「食」をどう守るか ~漁業と畜産業~

2011年03月29日 | 震災・原発事故
(1)水産業
 太平洋沿岸6県の漁港も被害を受けた。宮城県では、被害漁船は13,000隻にのぼる。青森、岩手両県は、把握すらできていない。岩手、宮城、福島3県の漁港の生産被害額だけでも年1,000億円に達する見こみだ。
 三陸沖は、世界でも有数の漁場だ。その豊かな海から食卓へのルートが断たれた。日本の食がピンチに見舞われている。
 気仙沼のフカヒレ、石巻の金華サバ・・・・東北のブランド魚が食卓から姿を消すかも。
 水産会社は、復興するまでサンマやワカメなどの水産物が不足すると見て、早くも海外調達へ動きだした。

(2)畜産業
 畜産業も大打撃を受けた。飼料用穀物の陸揚げ、保管の施設が破壊されたからだ。のみならず、道路が寸断されたことで、流通が滞っている。
 牛乳を配送できず、搾った牛乳を畑にまいている(3月18日現在)。それでも乳牛には餌を与え続けなければならないのだが、メーカーから飼料が届かず、通常の3分の1しか与えられない。
 苦境に追い打ちをかけるのが、福島第一原発事故だ。米国産トウモロコシが届かない。外国人船長が放射能汚染を恐れて運行を拒否するからだ。飼料メーカーは、地震による物理的被害に加えて、原料が搬入できないため、生産中止に追いこまれた。
 東北は、ブタの飼育頭数が全国の20%近くを占める。十分な飼料が届かないと、致命傷になる。
 肉用若鶏の生産が全国第3位の岩手県でも、餌不足でニワトリを処分し始めている農家もある。

(3)今後
 これまで漁港は、一種の既得権益である漁協を中心に、赤字が続いても地域共同体として産業が成立していた。震災を機に、東北の漁港は集約化、経営近代化が図られる可能性が高い。食卓に安定的に食料が提供されるなら、消費者にとってもメリットは大きい。
 ただし、福島第一原発周辺の県の農作物のいくつかから基準値を上まわる放射性物質が検出されている。微量ゆえ過剰反応するべきではないが、食の安全を守れるかどうか。

 以上、記事「津波で漁業と畜産業が大打撃 日本の『食』をどう守るか」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月2日号)に拠る。

    *

 震災は、練り製品や缶詰など身近な魚の加工品にもダメージを与えた。練り製品の生産量が減少するため、需要が増える秋以降は多くの製品が値上がりすると見る向きが多い。
 開きや缶詰など、手頃な価格で売られているサンマの加工品にも供給不安が広がっている。岩手、宮城両県沿岸で保管していた原料の冷凍魚が被害を受け、少なくとも国内在庫の3割以上が失われた、という観測もある。
 東京・築地市場(中央区)では、三陸地区と並んで保管量が多い千葉県銚子から入荷する業務用冷凍サンマの卸値が、3月中旬に最大で2割近く値上がりした。今後、製品価格の上昇は必至だ。
 大手水産会社では、もはや国産のサンマでは安売り前提の缶詰は作れないと見て、台湾、韓国、ロシアなどに原料確保の手を広げる動きも出ている。

 以上、記事「かまぼこ、ちくわ値上げへ=サンマ加工品も―三陸被災で」(2011年3月26日付け「時事通信」)に拠る。

    *

 「南部どり」は、「アマタケ」(大船渡市)のオリジナルブランド。岩手県内約20ヵ所の直営農場で、年間800万羽を生産し、精肉や加工品にしている。
 このたび、同社は工場の従業員が4人死亡、7人が行方不明となった。大船渡港近くの本社工場も浸水した。鶏舎に被害はなかったが、餌の仕入れ先が被災し、餌が欠乏してきた。種鶏の2万羽分は確保しているものの、出荷予定の100万羽には足らず、次々に餓死している。すでに50万羽は敷地内に埋めた。

 以上、記事「南部どり100羽飼料不足処分へ」(2011年3月28日付け「朝日新聞」)に拠る。

    *

 畠山重篤氏(67)は、牡蠣を養殖する漁師、NPO法人「森は海の恋人」代表。1989年から、気仙沼湾に流入する大川の上流に落葉樹を約20年間で5万本植え続けてきた。
 このたび、自宅も同居する家族10人も無事だったが、気仙沼中心部の老人ホームで暮らす母堂【注1】は津波にのまれて亡くなった。
 70台の養殖用いかだや5隻の船、いけす、作業場、作業機械など、すべてを失った。被害額2億円の見こみ。
 氏は、今はまだ何も考えられないけれども、たとえどんなことがあっても「漁師は海から離れては生きられない」という【注2】。 

 以上、記事「母犠牲『これも・・・・海』」(2011年3月28日付け「朝日新聞」)に拠る。

  【注1】「サンデー毎日」2011年4月3日号によれば、93歳。
  【注2】前掲誌によれば、畠山氏は次のように語る。「何としても秋ごろには養殖再開に着手したい」「無謹慎かもしれないが希望的観測がないと、みなが落ち込んでしまう。悲しみを乗り越えなくては」「津波によって人と、人が作ったものは破壊されてしまった。でも森や海が破壊されたわけではない。むしろ津波によって海底から洗われた海はきれいになり、生物を育む力は上昇している。カキは倍の早さで成長する。だから、人間が元気で頑張ればいい」

    *

 女川は「サンマの町」だ。カキ、ホタテ、銀ザケなどの養殖や沿岸漁業も少なくないが、町の名を高めたのはサンマだ。その立役者が山本春雄(73)、「ヤマホン」社長である。彼がサンマを手がけるようになったのは、1968年。それまで主流だったカツオ加工が低迷し始めた時期で、町で最初の起業だった。氷塊ではなく、ザラメ状にした氷粒で包みこんで出荷する方法も独自に交換した。女川のサンマは高いが、鮮度がいい、とトップブランドの評判をとるまで10年近くかかった。サンマ船の「船頭」も、上等なサンマが獲れると高値で売れる女川に入港するようになった。
 しかし、3月11日、彼が半生をかけて築きあげた加工工場は壊滅し、7つの冷蔵倉庫もすべて押し流された。市場も全滅。気仙沼港に渓流したあった大型サンマ船も漁網も、全部津波に持っていかれた。女川人口10,051人のうち、犠牲者は1,000~2,000人と推定されている。
 女川町のある牡鹿半島一帯は、と5メートル以上東南東にせり出し、地盤は1.2メートル以上沈みこんだ。女川湾の波止場は満潮になると、一帯が海面下になる。港に面して立っていた加工場や倉庫の跡地も水没する。
 「これじゃ、同じ場所に再建するなんて、ちょっと難しいな」
 津波から9日後、初めて自分の工場を見にきた山本春雄は、抑揚のない口調で言った。
 それまでの間、彼は従業員一人ひとりの消息を尋ね歩いていた。その彼が口外しないことがあった。仕事を引継ぎつつある息子の妻と子(8)の消息が不明なのだ。惨事のとき、石巻へ買物に出かけたまま、音信が途絶えたままだった。
 「避難所に行って、そんなこと、言えないですよ。従業員の命より家族の心配をしているなんて見られたら、経営者として失格です」
 山本春雄は、自宅も失い、妻と息子家族とともに甥の家に身を寄せた。眠れず、休めず、夜はローソクのもとで、ソファーに横たわったまま日本酒を舐めるように飲んだ。
 だが、母子は8日ぶりに夫や山本と再会できた。その翌日から、山本の目つきが変わった。
 もう一度、この女川でサンマをやりたい、やる、絶対にやります。日本人はサンマを食べて季節の推移を実感する。そういうものがなくなったら、日本人は日本人でなくなってしまう・・・・。
 そして、吉岡忍は書く。「大津波に消えた町に希望はあるか?/ある、と私も答えたい」 

 以上、吉岡忍「大津波に潰された地に希望はあるか ~「サンマの町」宮城・女川から~」(「週刊朝日」2011年4月1日号)に拠る。
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【震災】東京電力による情報操作 ~産学官のトライアングル~

2011年03月28日 | 震災・原発事故
●広告費
 電機事業連合会も含めた東電の広告費は、トヨタや創価学会と並ぶ「御三家」である。独占企業で競争相手はいないのに、年間200億円をコマーシャルに投じる。
 これほどの大事故が起きる前に、正面から原発の危険性を指摘する新聞やテレビが存在しなかったのは当然だ。

 以上、恩田勝亘(ジャーナリスト)/(聞き手・まとめ)「週刊金曜日」編集部・成澤宗男「カネの力で原発を押し付けた悪徳商法 『東京電力』という名の罪深き企業」(「週刊金曜日」2011年3月25日号)に拠る。

    *

●マスコミへの圧力
 武藤栄・東京電力副社長の記者会見において質問する記者は、3月23日から、「社名」と「氏名」を名乗らなければならなくなった。
 「東電側はどの社の何という記者がどういう質問をしたかを把握できる。記者クラブメディアにとっては脅威である。東電に不利になるような質問をすれば広告を減らされる恐れがあるからだ。/23日の記者会見でうるさいほど追及したのはフリーランスと雑誌、専門誌などの記者だけだった」

 以上、田中龍作「『東電情報隠し』の裏で進行する放射能汚染 その6」(「田中龍作ジャーナル」)に拠る。

    *

●経産省・東電・東大のもたれあい
 原発問題に詳しい科学ジャーナリストの塩谷喜雄(元日経新聞論説委員)は、次のように語る。
 原発政策の裏には、東電、経産省、東京大学の産学官のトライアングルがある。そもそも、原子力を推進する経産省の中に、原発の管理・運転方法をチェックする原子力安全・保安院があること自体おかしい。ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるようなものだ。しかも、原子力安全・保安院と東電の幹部は、東大工学部原子力工学科の出身者が多い。原子力安全・保安院のトップも、事業者の言い分に理解のある東大の学者が座っている。本来、推進する側と規制する側とは緊張関係にあることが不可欠だが、これではいかにも難しい。06年に改定された原発指針がその具体例だ。
 すなわち、原子力安全委は想定するべき地震動をM6.8の直下型とした。阪神大震災(95年)や鳥取県西部地震(00年)はM7.3だったのに、なぜかM6.8となった。行政は、業界側にとって都合のよい数値を採用した。産学官のトライアングルが、緩い基準と厳しさを欠く規制を作りあげた・・・・。
 経産省、東電、東大のもたれあいが福島原発事故の背景にあるのだ。

 このトライアングルにメスを入れる可能性はどうか。前出の科学ジャーナリストは悲観的に見る。
 東電は、研究費や個人献金などの名目で政治家や学者を取りこんできた。長年の経験に裏打ちされた政治力は、今の政権では太刀打ちできない。いずれカネと選挙(組織票)という武器で骨抜きにされ、籠絡されてしまうだろう・・・・。

 事故の責任問題についても、布石を打っている気配だ。別の科学ジャーナリストはいう。
 「原発事故の全体像を明らかにしないまま、大津波が想定外だったと盛んに喧伝しています。天災を強調し、事故は不可抗力だったというイメージを作りたいのでしょう。今後、情報操作まがいの“広報”が始まるかもしれません」

 以上、「サンデー毎日」・武内亮/山田厚俊(ジャーナリスト)「『官邸vs.東電』不都合な真実」(「サンデー毎日」2011年4月3日号)に拠る。
に拠る。

    *

●東電による情報操作
 「私は今回の大事故で、東電は巧妙な情報操作をしたと思っている」
(1)地震の規模
 日本のマグニチュードは、これまで日本式だった。今回も最初は日本式で、8.4だった。ところが3回数値が変わって、最後は9.0になった。これは国際式の数値で、突然説明もなく値を変えた。東電が「気象庁への工作をしたに違いない」。

(2)「炉心溶融」という発表
 炉心溶融が原子炉事故の中で最大の問題、ということは知られている。炉心が溶けるには2,800度になる必要があるが、この温度を測定する方法がない。東電は、ウソを承知で誇張した。一番最初に最も怖いことを言って脅せば、後で起きたことがそれ以下ならば許されるか、重要視されないからだろう。

(3)「計画停電」
 現在より数百万KW足りないからというが、自販機だけで100万KWある。それを止めてくれ、と東電は言ったか、ネオンサインを消してくれ、と言ったか。
 一般の国民は停電となれば日常生活に直結するので、どうしてもそちらのほうに目がいく。東電は停電で批判されるかもしれないが、それは構わない。原発がなければ停電するぞ、と思わせたいのだ。

(4)情報を十分に公開しない
 東電は、一つのデータを出せば10の質問が出ることを知っている。それがうるさい。「彼らの体質として、とにかく基本的に批判されたり、文句を言わなければいい」
 しかし、より悪質なのは、メディアやそこに登場する「専門家」と称する人たちが東電に対してデータの公開を要求しないことだ。  

 以上、槌田敦(元名城大学教授)/(聞き手・まとめ・作表)「週刊金曜日」編集部・成澤宗男「『想定外』という言い訳は通用しない」(「週刊金曜日」2011年3月25日号)に拠る。

    *

●専門家・電力会社・原子力安全委員会の信頼性
 「もはや原子力エネルギーは政治的な対応などではどうにもならない。専門家が何と言おうと、電力会社がどう説明しようと、国の原子力安全委員会が何と説明しようと、原発の基本的な安全性について『一方的な情報の受け流しでは信用できない』ということを、今回の事故は日本の国民だけでなく世界に示してしまったのである」

 以上、桜井淳(技術評論家)「安全神話完全崩壊 世界に衝撃を与えた福島原発事故 原子力エネルギーを放棄すべきか」(「週刊エコノミスト」2011年3月29日号)に拠る。
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【震災】世界に広がる支援の輪 ~各国の支援状況~

2011年03月27日 | 震災・原発事故
 128ヵ国・地域、33の国際機関、約200団体・個人が支援を表明しているが、3月20日現在、実際の受け入れ状況は次のとおり(義援金を除く)。

 ・韓国:救助隊102人、救助犬2匹・スタッフ5人、レトルト食品3万食・毛布6,000枚など。
 ・中国:救助隊12人、テント200張・掛け布団2,000枚。
 ・台湾:救助隊28人、防寒着1,000着・発電機500台・食料など。
 ・モンゴル:緊急援助12人、非常事態庁長官、毛布2,515枚など。
 ・タイ:毛布20,000万枚。
 ・フィリピン人:救助隊41人。
 ・インドネシア:毛布6,700枚。
 ・インド:毛布25,000枚。
 ・パキスタン:救助隊35人。
 ・シンガポール:救助犬5匹・スタッフ5人、毛布1,000枚・マットレス500~600個など。
 ・モルディブ:ツナ缶86,400個。
 ・オーストラリア:救助隊75人、救助犬2匹。
 ・ニュージーランド:救助隊52人。
 ・トルコ:救助隊33人。
 ・ウクライナ:毛布2,000枚。
 ・ロシア:救助隊155人、車両7台、毛布17,600枚。
 ・スイス:救助隊27人、救助犬9匹。
 ・ドイツ:救助隊41人、救助犬3匹。
 ・イギリス:救助隊63人、救助犬2匹。
 ・フランス:救助隊130人(モナコ人含む)、毛布8,000枚。
 ・イタリア:先遣隊(救助専門家)6人。東京でニーズ調査。
 ・南アフリカ:救助隊49人。
 ・カナダ:毛布25,000枚。
 ・アメリカ:救助隊144人、救助犬、消防車2台。
 ・メキシコ:救助犬6匹・スタッフ12人。
 ・UNDAC国連災害評価調整チーム:7人。
 ・世界食糧計画(WFP):各国支援物資、NGOの輸送担当。
 ・国際電気通信連合(ITU):衛星携帯電話などの通信機器。
 ・国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)

 以上、「ニューズウィーク」・小暮聡子/大橋希「世界が送る『ガンバレ、ニッポン』」(「ニューズウィーク」2011年3月30日号)に拠る。
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【震災】原発で働く作業員の現実

2011年03月27日 | 震災・原発事故
 地震の翌日、ある作業員にその友人経由で東電の下請け会社からメールが来た。
 「現在の報道は非常にセンセーショナルで、当社が確認したところでは、そこまで深刻ではないとの回答を東電サイドから得ています。今後、多数の方々のお力を必要といたします。これまでのベースから日給を3倍をめどにご賛同いただける方々を募集しております」
 3倍なら日給5万円だ。より危険な区域を担当したり、経験が豊富な場合は10万円という噂も、その作業員は聞いた。下請け会社の話では、原子炉への海水注入を迫られた際、東電側は言い放った。
 「この原発にどれだけカネを使っているのか、知っているのか。原発がなくなれば、お前らの仕事もなくなるぞ。海水を入れて廃炉にするなんて、とんでもない」
 はたして、3月11日、福島第一原発の冷却装置が壊れて炉心の冷却ができなくなったことが判明したとき、菅首相は海水を炉内に注水するよう指示したが、東電は拒否した。また、米国が原子炉冷却に係る技術支援を申し入れたものの、東電側が東電だけで対応できると強調したため、政府が支援を断ったと報じられた【注】。

 以上、「週刊朝日」取材班・堀井正明/三嶋伸一/大貫聡子/長井貴子/今西憲之/シャノン・ヒギンス「3.11東北関東大震災M9.0 負けないぞ!ニッポン」(「週刊朝日」2011年4月1日号)に拠る。ただし、【注】のくだりは、「サンデー毎日」・武内亮/ジャーナリスト・山田厚俊「『官邸vs.東電』不都合な真実」(「サンデー毎日」2011年4月3日号)に拠る。

   *

 福島原発で働く者から、佐藤栄佐久・前福島県知事(刑事被告、上告中)が在任中、内部告発が30件以上あった。
 佐藤前知事のもとへ来たのは、原子力安全・保安院に告発すれば「握りつぶされるから」だ。
 その内容は、電力自由化という時代の流れの中で原発の定期検査の期間が次第に短くなり、個々の作業員にとって負担が重くなっている。コスト管理が厳しくなった。・・・・という訴えが多かった。「安全性がどこかへ飛んでしまった中で、現場の職員は苦労しています。これ以外にも、たとえば未成年を働かせているとか、東京・山谷から(日雇い労働者を)1日万円で連れてきている、ガイガーカウンター(放射線量計測器)を外して仕事をさせられている--などという噂も耳に入ってきました」
 
 以上、「サンデー毎日」・青木英一「原発政策、政治家は関与できず霞が関の独裁だ」(「サンデー毎日」2011年4月3日号)に拠る。

   *

 日本の原発の設計も優秀だが、施工段階でおかしくなる。
 かつては、現場作業には、棒心(ぼうしん)と呼ばれる職人、若い監督より経験を積んだ職人が班長として必ず付いた。職人は自分の仕事にプライドを持ち、事故や手抜きは恥だと考えていたし、事故の恐ろしさもよく知っていた。
 しかし、今では全くの素人を経験不問で募集している。95%以上まるっきりの素人だ。農夫や漁師が仕事が暇な冬場などにやる。いわゆる出稼ぎの人だ。そういう経験のない人が、怖さを全く知らないで作業をする。
 素人は、事故の怖さを知らない。なにが不正工事やら手抜きやら、全く知らないで作業している。それが今の原発の実情だ。
 現場に職人が少なくなってから、素人でも造れるように工事がマニュアル化された。図面を見て作るのではなく、工場である程度組み立てた物を現場で1番と1番、2番と2番というように、ただ積木を積み重ねるようにして合わせていく。自分が何をしているのか、どれほど重要なことをしているのか、全く分からないままに作っていく。事故や故障がひんぱんに起こるようになった原因のひとつだ。
 「例えば、東京電力の福島原発では、針金を原子炉の中に落としたまま運転していて、1歩間違えば、世界中を巻き込むような大事故になっていたところでした。本人は針金を落としたことは知っていたのに、それがどれだけの大事故につながるかの認識は全然なかったのです。そういう意味では老朽化した原発も危ないのですが、新しい原発も素人が造るという意味で危ないのは同じです」

 以上、「原発がどんなものか知ってほしい」に拠る。
 筆者の平井憲夫氏は、1級プラント配管技能士、原発事故調査国民会議顧問、原発被曝労働者救済センター代表、北陸電力能登(現・志賀)原発差し止め裁判原告特別補佐人、東北電力女川原発差し止め裁判原告特別補佐人、福島第2原発3号機運転差し止め訴訟原告証人。1997年逝去。
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【震災】東日本から全日本へ広がる電力不足、その対処法

2011年03月27日 | ●野口悠紀雄
(1)東日本の深刻な電力不足
 3月12~14日、東電の供給能力は3,100万~3,700万KW【注1】で、ピーク時(18~19時)想定需要量3,700万~4,100万KW【注2】を下回るか、ぎりぎりの水準だ。4月末までに4,200万KWまで向上する見こみ【注3】だが、この水準が続くかぎり、今夏のピーク需要6,000万KW【注4】の7割弱しか供給できない。福島第一原発(発電量470万KW)が廃炉となることを前提とすると、電力不足は長期にわたる。、
 そこで、野口悠紀雄は「ダイヤモンド・オンライン」で電気料金見直しを提言した【注5】。しかし、これで対処できるのは家庭用電力だけだ。販売電力量合計8,585億KWのうち、家庭用は2,850億KWにすぎない(09年度)。量的に重要な意味をもつのは、企業等によって経済活動のために使われているものだ。これを抑制するために、大口需要の料金体系見直しは不可欠だ。

(2)中部・関西が電力不足となる可能性
 仮に大口需要を抑制できたとしても、それは生産拡大に対するボトルネックになる。経済活動にも国民生活にも大きな影響が及ぶ。
 西日本や北海道の電力を東北・関東地方に融通するのは、容易ではないし、融通しても限度がある。
 こうした事情を考えると、電力を融通するよりは、生産活動が東から西へ移転するほうが現実的だ。西で生産したものを東に回すのだ。ただし、量的に調整可能か、定かではない。なぜなら、東北・関東地方での電力需要は、日本全体の中できわめて大きな比重を占めているからだ。
 09年度の数字をみると、大口電力販売量は、東北電力と東京電力を合わせて1,037億KW時で、全国(2,609億KW時)の40%だ。そのうち製造業が77%(799億KW時)を占める。他方、中部電力と関西電力の大口電力販売量合計は895億KW時だ。だから、仮に東北・関東地方の製造業の大口需要の3分の1(266億KW時)が中部・関西地方に移動したら、中部・関西の需要は3割も増加してしまうことになり、深刻な電力不足が生じてしまう。

(3)長期的な問題 ~原子力~
 原発は、すでに日本の発電総量の約3割を占めている。19年にはこれを4割超にまで高めることが計画されていた。しかし、今後の原子力政策の見直しは必至だし、新規建設ができなくなる事態は大いにありうる。となると、日本の総発電量は、計画に比べて1割程度不足する。日本経済は深刻な打撃を受ける。さらに、現在稼働中の原発が停止に追いこまれると、日本経済は壊滅的な打撃を受けてしまう。
 今後予想される長期的な電力不足は、東北・関東地方に限定された問題ではなく、日本全体の問題なのだ(世界全体の問題ともなりうる)。
 電力はどんな経済活動にも必要なので、深刻なボトルネックになる。しかも、それが長期的に続く。仮に量的に解決されても、電力コストは必然的に高まる。原油価格の上昇もあいまって、コスト高はいっそう深刻な問題になる。風力・太陽光発電など再生可能エネルギーは、規模の点で原子力に代替できない。

(4)対処法 ~省電力型産業構造への転換~
 製造業は、東北電力・東京電力(1,037億KW時)の大口電力需要の77%(799億KW時)、全国(2,609億KW時)のそれの81%(2,123億KW時)を占める。これは販売電力量合計8,585億KW時の25%だ。 
 「製造業の電力需要がかくも大きい産業構造は、日本では維持できなくなったのだ。製造業の比率を下げ、サービス産業にシフトするしか方法はない」
 経済全体に占める製造業の比率が米国なみ(現在の半分近く)に低下すれば、電力に対する需要総量は1割以上減少する。日本の電力問題は解決される。
 それができないならば、原子力発電所の建設を今後も進め、原子力の比率を引き上げていくしかない。
 二者択一だ。

 【注1】東京電力のプレスリリースをもとにした数字。なお、東電の25日発表によれば5,500万KW(3月26日付け朝日新聞)。
 【注2】同上。なお、東電の25日発表によれば4,650万KW、よって需要の2割が不足する(3月26日付け朝日新聞)。 
 【注3】3月20日付け「日本経済新聞」をもとにした数字。
 【注4】3月26日付け「週刊ダイヤモンド」をもとにした数字。
 【注5】要旨は、「緊急提言1」、「緊急提言2」、「今夏の電力不足に基本料金見直しの必要性は大」。

 以上、野口悠紀雄「深刻な電力不足が経済活動を制約する ~「超」整理日記No.555~」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月2日号)に拠る。
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【震災】原発事故で悠長な初動が呼んだ危機的事態 ~東電解体の序曲~

2011年03月26日 | 震災・原発事故
 ある政府関係者は、東京電力の対応に怒りをあらわにする。3月14日に2号機の燃料棒が露出したとき、東電側は無責任にも「全員撤退したい」と伝えてきた。撤退したら終わりだった。絶対に止めなければならなかった・・・・。

 地震発生の11日、福島第1原発1~3号機は自動的に止まったが、外部の設備が使えなくなった。予備電源も失われ、原子炉内を冷やすシステムが動かなくなった。東電はまず電源を復旧するべく電源車を送ったが、失敗した。
 1号機に炉内の熱で水蒸気が発生し、圧力が高まっていった。破裂しないうちに放射性物質を含む水蒸気ごと逃がし、圧力を下げる必要があった(ベント)。だが、ベント(排気)に本店は非常に消極的だった。
 福島第1原発の現場責任者は、吉田昌郎・執行役員発電所長だ。その陣頭指揮は光っていたらしい。しかし、本店経由でしか現地に連絡できなかった。だから12日朝、菅直人総理がヘリで現地に飛んで「ベントしろ」と、吉田所長の背中を押した。
 12日午後、ベントが行われたものの、格納容器内で発生した水素が建屋に漏れ、水素爆発が起こった。14日、3号機でも水素爆発が起き、安定的だった2号機でも炉心の水位が下がって、燃料棒が露出して空炊きという非常に危険な事態となった。東電の「全員撤退」が出てきたのは、このときだ。
 政府側が現地に連絡すると、吉田所長らが懸命に注水作業をしているところだった。そして、「水が入った」のだが、東電はいっこうに発表しない。
 本店と現地に温度差があった。最初から自衛隊でも警察でも使え、と政府側は言っていたが、本店はあまりにも悠長だった。
 プラントメーカーの東芝も、最も原発を知っている技術者たち専門家集団を地震直後から待機させた。東電本店の廊下にもいた。しかし部屋に入れてもらえなかった。
 当初は東電内で事をすませようとしたことは間違いない。事態を好転させたのは、本店ではなく現地の英断だった。
 18日にはプラントの電源復旧のため、送電線から回路を引き下ろす作業が行われた。そのさなか、自衛隊によって3号機の原子炉内を冷やすための放水作業も続いた。放水作業中の電線工事は、作業員の安全を確保できるものではない。本店と現地は何時間も議論した。吉田所長がやると判断した。「本店がいろいろと言っても吉田所長は『評論家はいらない』と取り合わなかった。彼がいなければ現場も本店もパニックだったろう」(東電関係者)。

 事後処理に莫大なカネがかかるが、東電は簡単にはつぶれない。東電の“懐”は、五つの点で無事なのだ。
 (1)増資で得た資金。東電は昨秋、29年ぶりの大規模公募増資を行い、約4,500億円を得た。
 (2)巨額な引当金。原発関連を単純に積み上げると、解体費用など約2兆円の引き当てがすでにすんでいる。福島第1原発だけで案分しても約7,000億円分ある。
 (3)原子力損害賠償制度。津波や地震の場合、1発電所1,200億円までは政府から賠償金が支払われる。
 (4)1,200億円以上になっても、政府が必要と認めれば「援助」がある。
 (5)電気料金値上げ。いずれにせよ収支の帳尻を電気料金で合わせることができる。
 メガバンクなども総額約2兆円の緊急融資を計画。まさしく“焼け太り”だ。

 しかし、今後1年間という短期で見た場合、キャッシュフローの点では大きく二つの難題がある。
 (a)電力の供給。現状は約3,800万キロワット。なんとか夏までに5,000万キロワットの供給力を確保したとしても、夏は冷房により需要が約6,000万キロワットまで増える。冬も暖房により約5,000万キロワットは見込まれ、綱渡りの状況が続く。電力は、最も需要の高まる時間に合わせて供給力を上げなければならない(同時同量)。費用を度外視して供給力を高めなくてはならない。オール電化営業もストップした。停電への備えもある。電気料収入は少なくとも2割程度は減るだろう。
 (b)原発への対策。福島第1原発の1~4号機は廃炉を免れない。7~8号機の新設計画は白紙とならざるをえない。20年ぶりに着工した東通原発の建設も凍結。柏崎刈羽原発への津波対策も急務となる。収支は悪化する。福島第1、第2原発の910万キロワット分が単純に停止し続けた場合、月に約750億円の収支悪化につながる。

 今回の事故から、原発のリスクは一民間企業で負えないことが証明された。東電が内向きに解決しようとして初動が遅れたことからも、今後は政府の関与を強める声が当然上がってくる。核のゴミである使用済み核燃料の廃棄等も民間で負えるリスクを超えている。原子力部門の分離、国営化が現実味を帯びてくる。
 また、東西の電力が融通できないことが広く国民に知られるようになった。東西の電力は計100万キロワット分しか融通できない。周波数変換所よりも発電所を建てたほうが経済的だ、と藤本副社長はいうが、実際は電力会社が相互に乗り入れ競争することをいやがっていた節もある。
 だが、変換所の増設は、電力会社間の競争を生み、自由化を促し、地域独占を崩すことにつながる。
 東電よりも東北電力の経営はさらに厳しい。経営が悪化すれば東電と合併し、両社とも大合理化を迫られるかもしれない。
 電力、ガスや石油を含めた総合エネルギーの会社の誕生もありうる。世界の資源獲得競争が激化するなかで、国の資金を得ながらエネルギーの安定供給を担う企業が誕生してもおかしくはない。
 いずれにせよ、東電や現在の電力体制がそのまま残ることはないだろう。原発ショックが一段落すれば、東電ひいては電力業界の解体、再編が始まるのは必定だ。

   *

 以上、「週刊ダイヤモンド」編集部・片田江康男/小島健志/柴田むつみ「世界が震撼!原発ショック 悠長な初動が呼んだ危機的事態 国主導で進む東電解体への序章 ~Close-Up Enterprise【第49回】 2011年3月25日~」(DIAMOND online)に拠る。
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【震災】地元を巻きこむ支援・避難所のスポーツ・流言を抑制するツイッター・予算再編による財源捻出

2011年03月25日 | 震災・原発事故
(1)地元の人を支援活動の働き手として巻きこむ
 災害初期で大事なのはスピードだ。活動地域を定めたら、人と物をばんばん送りこむ。この段階で「モノ余り」が生じるのは当たり前。需給を見定めて確実に送りこむより、機関銃的支援が必要だ。リーダーである首長は、優先順序を明確にしなければならない。これができるかどうかで、首長が役人なのか政治家なのかがわかる。
 リーダーに求められるもう一つは、見通しを語ること。被災者はものすごくストレスがたまる。いつまでこの状況が続くのか、と情報不足に絶望を感じる。多少は間違ってもよい。3日後には物がくる、と言えば、それまではがんばろうと思える。言葉で被災者の内部のエネルギーを引き出すのだ。
 みんなが気にかけている、というメッセージが被災者に届き始めた。これから必要なのは、「I need you」を伝えることだ。
 AMDAは、被災地の支援が必要な人を助けるプロジェクトに、地元の人を巻きこみ、対価を払う。どちらかが一方的に助けるのは、健全な人間関係でない。尊厳を傷つけ、気付かないうちに深いところで人を傷つける。地元の人の助けが必要だから働いて手伝ってほしい、と頼み、きちんと報いるのが大事だ。

(2)避難所におけるスポーツ活動の意義
 被災者は、外傷がなくても不安を抱えたままでは、睡眠障害、心疾患、高血圧、胃腸の不調などさまざまな症状が出てくる。栄養不足、免疫力低下が風邪や肺炎を誘発する。じっとしていることが多くなる。運動不足による全身のこり、頭痛、腰痛、鬱状態、静脈の血が停滞して血栓ができるエコノミークラス症候群も危惧される。
 特に気がかりなのは子ども。我慢し、多くのストレスを抱えこむ。
 子どもは希望だ。子どもに明るさが戻れば、家族や周りの大人も元気になり、復興への前向きな気持ちも生まれる。子どもへの気配りを忘れないで。
 運動による健康効果は、子どもだけではない。大人も少しずつ動いたほうがよい。寝たまま座ったまま行う体操やストレッチ、ヨガ、お手玉など、できる範囲で。空いたスペースを使って球技や体操、ダンス、ゲームをするほか、軽い散歩もよい。
 適度な運動で心身の健康を保つのだ。活動することでPTSDの機関を短くする効果も期待できる。健康を保つ人が多ければ、薬の消費も抑制できる。
 教員、企業やクラブチームの選手、指導者、トレーナーなどスポーツ関係者がリーダーシップをとって、避難所でスポーツ活動を始めてほしい。

(3)不安解消や流言抑制には正確な情報を、ツイッターもマスメディアも
 震災後、ツイッターを使った情報発信には善悪両面が露骨に表れた。
 悪い面は、根拠のない情報があっという間に拡散したこと。特に気になるのは、福島第一原発事故に係るツイート(投稿)だ。悪質なあおりや根拠のない風聞が行き交った。
 「毒」情報には、刻々と変わる状況に応じた正確な情報を対置して「中和」していくしかない。こうした役割においては、ウェブのよい面が間違いなく出ていた。原発事故については早野龍五東大教授が、放射線の健康被害については東大病院の放射線治療チームが、情報をツイートし、たちまち10万人以上のフォロワーを集めた。
 「シノドス」のメンバーも、悪質な流言やチェーンメールを検証する作業を開始し、こちらもすぐに10万人を超える人に読まれた。
 難易度の高い情報を混乱なく伝えるにはマスメディアの役割が最も大きいが、うまく果たせていない。東京電力や原子力安全・保安院の記者会見に専門家を帯同し、質問してもらったらどうか。専門家の力を借りて必要とされる正確な情報を引き出し、伝えていくのだ。これだけでも事態はだいぶ改善される。
 首都圏の買いだめ現象にしても、できるだけ速く正確な情報を周知し、クールダウンしていくしかない。今後も原発や食品などの風評被害が問題となるはずだ。正確な情報を共有して、同じ間違いを反復しないようにしたいものだ。

(4)予算再編による財源捻出
 地震、津波、原発トラブル。世界の市場は、日本のリスクをより厳しく見るようになった。金融、財政の両面で何をすればよいか。
 日本銀行は、株式や不動産関連などを買い増してはならない。リスク性資産が値下がりすると、中央銀行の財務状況は悪化する。中央銀行の信認は揺らぎ、日銀券の信用失墜につながる。超低金利の維持、大量の資金供給を続ける今の措置で十分だ。
 国債の増発はできるだけ避けねばならない。後の世代が膨大な債務返済の負担を負うことになるからだ。また、国債を国内だけで消化できなくなり、海外投資家に頼ることになる。すると、低金利では買い手がつかず、金利上昇、ひいては債務負担の急増につながりかねない。
 消費税増税は、政治的手続きに時間がかかりすぎる。迅速に新年度予算を組み替え、これで得た財源を被災者への支援と復旧・復興に回すべきだ。子ども手当増額や法人税減税などは中止を避けられない。社会保障費の抑制や、所得税などの増税も必要だ。
 未曾有の危機だからこぞ、従来の省庁縦割り型の発想を捨て、国の財政と街づくりの全体を見渡した制作優先順位を抜本的に見直せるかもしれない。メリハリのきいた復興戦略ができれば、経済の落ちこみを意外に早く脱するかもしれない。

   *

 以上、(1)および(2)は2011年3月23日付け朝日新聞「オピニオン」欄、(3)および(4)は2011年3月23日付け朝日新聞「オピニオン」欄に拠る。
 語り手は、(1)菅波茂(医療NGO「AMDA」理事長)「地元の人を捲き込もう」、(2)賀来正俊(賀来医院院長・神戸大臨床教授)「避難所でスポーツ活動を」、(3)芹沢一也(言論集団「シノドス」代表)「流言抑えるのもツイッター」、(4)上野泰也(みずほ証券チーフマーケットエコノミスト)「予算組み替え被災者に回せ」。
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【震災】今夏の電力不足に基本料金見直しの必要性は大

2011年03月24日 | ●野口悠紀雄
 「基本料金の見直しで、節電と利用平準化を進めよう」という緊急提言の効果を評価し、また、提言の意味について若干補足する。

(1)この提案で計画停電を超える需要抑制ができる
 (a)提案が持ちうる効果
 現在の契約アンペア数の分布、ピーク時における実際の使われ方に係るデータが得られないため、正確な評価は難しいが、ごく大まかな推計を行う。
 全体の約半分の家計はもともと40A未満の契約であるか、あるいは変更をしないので、効果がない。契約を30Aに変更する家庭数が全体の半分あり、それらの家庭の現在の契約アンペア数は、40A、50A、60Aに均等に分布している・・・・と仮定する。
 ・現在40Aの家庭による契約アンペア数の削減率:1/6×(40-30)/40=1/24
 ・現在50Aの家庭による削減率は1/6×(50-30)/50=1/15
 ・現在60Aの家庭による削減率は1/6×(60-30)/60=1/12
 したがって、家庭全体で契約アンペア数が1/24+1/15+1/12=0.19だけ削減される。約2割減だ。ピーク時の使用電力も同率だけ減少するものと考える。

 (b)計画停電の需要削減効果
 計画停電の効果は不明だから、次のように考えてみる。計画停電は対象地域を5グループに分けて行なっている。仮に対象地域が東電管内のすべてをカバーしていれば、これによる削減率は5分の1程度になるだろう。しかし、実際には23区の大部分が除外されているため、全体の削減率は5分の1をかなり下回る。

 (c)結論
 基本料金引き上げは計画停電を超える需要抑制を可能にする。
 早急に基本料金を見直し、契約アンペア数引き下げに迅速に対処すれば、4月いっぱいの計画停電は回避できる。

(2)今夏の供給不足は不可避
 今後の火力の復旧などにより、東京電力の供給能力は4,000万KW程度に増加すると期待されている。しかし、冷房需要が増えるので、需要は6,000万KW程度になる可能性が強い。ところが、東京電力の発電能力を6,000万KWまで回復させることは極めて困難だ。だから、今年の夏の大幅な供給不足は不可避と考えて、いまから対策を考えるべきだ。需要の3分の1程度を削減する必要がある。
 家庭の使用電力(電灯)は、全体の約33%を占めている(全国の数字。東電の場合には34%)。これが5分の1削減されれば、全体の電力需要の7%近くが抑制される。さらに特定規模需要(大口需要など)で1割程度削減を行なえば、必要とされる削減率の半分程度を達成することができる。
 夏の電力不足が完全に解消されるわけではないとはいえ、基本料金見直しによって問題はかなり緩和される。

(3)問題は「2つの不便のどちらか?」ということ
 基本料金の見直しを避けることができれば、避けたいのは言うまでもない。しかし、現状のままだと計画停電が必要になる。そして、1日の数時間、電気器具は確実に使えなくなる。それとの比較で問題を考えていただきたい。
 医療関係では、すでに今回の計画停電で問題が発生している。夏にはもっと大きな問題が出るだろう。病院では、エアコンが必要不可欠な場合が多い。冷房が止まると手術ができなくなる場合もあるようだ。
 また、一般家庭においても冷房がすでに不可欠になっているので、計画停電が夏に行なわれると、この時間帯に冷房をまったく使えなくなる。高齢者には厳しい状況だ。
 今夏、ほぼ確実にそうなる。「そうなってもいいのか?」という観点から問題を考えていただきたい。
 被災地の方々のご苦労に比べれば、冷房など我慢すべきだが、回避ができるなら回避したほうがよい。
 現在すでに、計画停電が行なわれた地域と行なわれていない地域が存在し、微妙な感情的軋轢が生じている。通勤電車を始めとする公共交通機関に配慮がなされているとはいえ、停電のために運転が見合わされている区間も存在する。それ以外にも、停電がさまざまな生活上の不便をもたらしている。他方で、最初から計画停電から除外されている地域も存在する。今のところ不満は顕在化していないが、夏になって停電が常態化すれば、この類の不満は強まるに違いない。

(4)必要とされるのは「ピーク時対応」
 重要なのは、1日を通しての需要総量の削減ではなく、ピーク時の需要削減だ。
 今回の問題は、供給側で生じた制約だ。石油ショック時と同じものだ(そして、経済危機が需要側に問題を引き起こしたことと違う)。石油ショックの時にも、需要抑制が問題となった。エレベータの休止や照明の節減などが行なわれた。しかし、このとき必要だったのは、石油使用量の抑制だ。どんな時間帯であれ、エレベータを止めて電力の使用量を減らすことに意味があった。今回の事態はそれとは違う。

(5)企業の電力使用をどう抑制するか
 家庭の需要を抑制するだけでは不十分だ。企業の電力使用抑制は不可避である。
 日本経団連は、夜間のネオン等の照明の使用の自粛、製造業における東京電力及び東北電力管内外の地域での生産へのシフトを提案した。
 夜間ネオン使用自粛は、効果に疑問がある。生産活動の西日本へのシフトは、有効だと思う。しかし、量的な目安は示されていない。仮に効果が出るほどのシフトが起きれば、今度は西日本が電力不足に陥る可能性もある。今回の電力不足は、それほどの規模のものなのだ。
 夏に、企業の事務所や公共的な建物の冷房をどうするかは、大きな問題だ。かかる需要と家庭とが、どのように負担を配分すべきかについての社会的な合意が必要だ。
 官庁の電力使用には価格メカニズムが働かない。その抑制はきわめて難しい問題だ。
 電力抑制を家庭と企業でどのように負担すべきかについて、政府も何も述べていない。当面は被災地救援と原発事故対応が緊急の課題であるとしても、中長期的な電力不足も重要な問題だ。早めに方向付けることが必要だ。

【参考】野口悠紀雄「今年夏の電力不足に 基本料金見直しの必要性は大きい ~未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか【第3回】2011年3月23日~」(DIAMOND online)
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【震災】被災者への接し方 ~サイコロジカル・ファースト・エイド~

2011年03月23日 | 震災・原発事故
 サイコロジカル・ファースト・エイド(Psychological First Aid;PFA)は、災害やテロの直後に行って効果的だとされる心理的支援の方法から、必要な部分だけ抽出して構成したものだ。その目的は、被災初期の苦痛の軽減、短期・長期的な適応機能と対処行動の促進にある。以下、その一例。

●PFAを提供する専門家としての態度
 ・公認された災害救援システムの枠内で実施する。
 ・良識のあるふるまいの手本を示す。穏やかさ、慎重さ、落ち着き、親切な態度。
 ・被災者がアクセスしやすいように配慮する。
 ・秘密保持は適切に。
 ・専門領域、専門家として指定された役割を逸脱しない。
 ・他の専門的対応が必要な場合やこうした要望があった場合、適切に紹介する。
 ・文化と多様性の問題をよく理解し、配慮する。
 ・支援者自身の情緒的、身体的反応に注意を払い、セルフケアを行う。

●PFAを提供する方針
 ・いきなり介入しない。まず様子を見守る。その上で、簡潔かつ思いやりのある質問をして、どんな手助けができるかを見極める。
 ・関係づくりに最も有効な方法は、多くの場合、現実的な支援だ(食糧、水、毛布)。
 ・その場の状況や対象者の様子をよく見て、介入によって負担を与えたり介入が破壊的になることはないと判断できてから、接触を開始する。
 ・被災者が拒否したり、逆に殺到する場合がある。この点も心しておく。
 ・穏やかに話す。忍耐強く、共感的で、思慮深く。
 ・単純明快でわかりやすい言葉を使い、ゆっくり話す。略語や専門用語を使わない。
 ・被災者が話し始めたら、耳を傾ける。彼らが何を伝えたいのか、こちらはどう役に立てるのかに焦点をあてる。
 ・被災者が身を守るためにとった行動のなかで、よい点を認めてあげる。
 ・被災者のニーズに直接役立つ情報を提供する。求めがあれば、何度でも対処方法を示す。わかりやすく。
 ・正確で、しかも被災者の年齢に合った情報を提供する。
 ・通訳を介してコミュニケーションをとるときには、本人に視線をあてて話しかける。通訳者を見るのではなくて。
 ・PFAの目的は、苦痛を減らし、現在のニーズに対する援助をし、適応的な機能を促進することだ。トラウマ体験や失ったものの詳細を聞き出すことが目的ではない。このことを常に念頭において活動する。

●避けるべき態度
 ・被災者が体験したこと、いま体験していることを、こちらの思いこみで決めつけない。
 ・災害にあった人すべてがトラウマを受ける、とは考えないこと。
 ・病理化しない。災害に遭った人々の経験を思えば、大概の急性反応は了解可能で、予想範囲内のものだ。反応を「症状」と呼ばないこと。「診断」「病気」「病理」「障害」などの観点から話をしない。
 ・被災者を弱者とみなして恩着せがましい態度をとらないこと。彼らの孤立無援や弱さ、失敗、障害に焦点をあてない。それよりも、災害の最中に困っている人を助けるのに役立った行動や、現在他の人に貢献している行動に焦点をあてる。
 ・被災者のすべてが話をしたがっているとか、話をする必要があるとは考えない。傍らにいて、穏やかな態度で見守っているだけで、人々に安心感を与えることがしょっちゅうあるし、彼ら自身で対処できる、という感覚を高める。
 ・何があったかを尋ねて詳しく語らせる・・・・というようなことはしない。
 ・憶測しない。不正確な情報を提供しない。被災者の質問に答えられないときには、事実から学ぶ姿勢で最善を尽くす。

●子どもや思春期の人に対応するとき
 ・幼児に対応するときには、椅子に座るか、子どもの視線の高さにあわせてしゃがむ。
 ・学童期の子どもに対しては、感情、心配なこと、疑問を言葉にできるように手助けする。ふだん気持ちをあらわすのに使っているシンプルな言葉(頭にきた、さびしい、こわい、心配など)を用いる。「恐怖」「脅え」などの極端な言葉は、かえって苦痛を増すから使わない。
 ・子どもの話を注意深く聞き、ちゃんとわかっているよ、と伝える。
 ・子どものふるまいや言葉が、発達的には退行しているように見えることがある。このことを頭におくこと。
 ・言葉づかいを子どもの発達レベルにあわせる。幼児には、通常、「死」のような抽象的な概念は伝わりにくい。できるかぎり、シンプルで直接的な表現を用いる。
 ・思春期の人には、大人同士として話しかける。彼らの気持ちや心配や疑問に敬意を払っているのだ、というメッセージを送ることができる。
 ・子どもの情緒面を十分支えられるよう、親の機能を補強し、支える。

●高齢者に対応するとき
 ・高齢者はもろくもあり、強さもある。彼らは人生のなかで逆境を乗り切ってきた人たちだ。多くの人が効果的な対処能力を身につけている。
 ・あまりよく聞こえない人には、低いはっきりした声で話しかける。
 ・見かけや年齢だけで決めつけない。混乱した高齢者は、記憶、思考、判断などに不可逆的な問題を抱えているように見えることがある。環境の激変によって災害に係る失見当識がおこり、それが一時的な混乱を引き起こすことがある。環境の激変は、視力や聴力の衰え、栄養不良や脱水状態、睡眠障害、持病あるいは服薬に起因する問題、社会的孤立、孤立無援や対応できないという感覚などを引き起こす。
 ・精神的な疾患を抱えている高齢者は、不慣れな環境のなかで、いっそう混乱したり、困惑したりしやすい。こうした人を特定したら、精神保健相談、あるいは適切な機関へ紹介されるよう援助する。

●障害をもつ人に対応するとき
 ・援助を求められたら、できるだけ静かな、刺激の少ない場所で対応する。
 ・直接コミュニケーションをとるのが難しくないかぎり、介護者ではなく本人に向かって話しかける。
 ・コミュニケーション能力(聴力・記憶・発話)の障害が見受けられる場合、簡単な言葉で、ゆっくりと話しかける。
 ・「障害をもっています」と主張する人の言葉を信じる。――たとえそれが一見明らかなものではなく、聞きなれないものであっても。
 ・どう手助けしたらいいか分からないときには、「何かお手伝いできることはありますか」と尋ねる。そして、その人が言うことを信じること。
 ・可能なら、自分のことは自分でできるようにしてあげる。
 ・目の不自由な人が慣れない場所にいて移動するとき、「腕をお貸しましょうか」と声をかける。
 ・(耳の不自由など)その人の必要に応じて、情報を書いて渡したり、お知らせを文書で受け取れるよう手配する。
 ・その人の介護必需品(薬品類・酸素ボンベ・呼吸器装置・車椅子など)を確保する。

  *

 以上、アメリカ国立 子どもトラウマティックストレス・ネットワークNational Child Traumatic Stress Networkおよびアメリカ国立 PTSDセンターNational Center for PTSD(兵庫県こころのケアセンター・訳)『サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き 第2版』に拠る。
 なお、「●障害をもつ人に対応するとき」は、DPI女性障害者ネットワークによる「あなたの避難所にこんな方がいたら」が詳しい。また、立岩真也立命館大学教授(生存学)のまとめた「災害と障害者・病者:東日本大震災」には、病者・障害者に係るリンクをおさめている。
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【震災】福島第一原発事故をめぐるロシアの挑発 ~佐藤優の眼光紙背~

2011年03月23日 | ●佐藤優
 ロシア国営ラジオ「ロシアの声」(旧モスクワ放送)日本語放送は、政府が直接伝えにくいメッセージを伝える。
 福島第一原発事故の支援のために訪日していたウラジーミル・アスモロフ「ロスエネルゴアトム」第一副総裁裁兼クルチャトフ研究所副所長は、「イズベスチア」のインタビューを受け、これについて「ロシアの声」は、たとえば、次のように伝える【注】。

<引用開始>
イズ)いま、政策決定のスピードが遅い、ということに触れられましたが、具体的な例を挙げていただくことはできるでしょうか。
アス)いくらでも挙げることができます。事故があって停電してから9日間、原発には電力が供給されませんでした。ロシアならば、即座に地面にコイルを伸ばして、予備発電機を投入したことでしょう。もしも放水ポンプをすぐに動かすことが出来ていたならば、最悪の事態は避けられていたことでしょう。日本の人々がなにも手をこまねいていたとは言いませんが、独自の官僚的政策決定が長引いている間に、原発は燃えてしまったのです。
<引用終了>

  【注】2011年3月22日付け「ロシアの声」日本語版

 アスモロフ氏の見解は以下の点に整理できる。
 1.民主党は、長年野党だったため、危機管理システムの運営ができていない。
 2.日本側は、外国の経験や助言を活用することは、欠点をさらけ出し、自らをおとしめることになると考えていたようだ。
 3.福島第一原発事故には以下の具体的問題があった。
  (1)ロシアでは5分で決定できることを、会議や1人しかいない責任者の決裁を得るために時間を浪費し、事態の悪化を招いた。
  (2)ロシアならば直ちに通電したが、日本側は9日もかけた。
  (3)ヘリコプターによる散水は無意味だ。
  (4)建物の間近から放水する手法を思いつかなかった。この作業に人は必要ない。
  [(3)(4)については、ロシア側の提言を日本側が採用した。]
 4.危機管理の責任者は、東京ではなく現地で指揮するべきだ。

 傾聴するべき意見もある。
 しかし、この見解は本来、アスモロフ氏が極秘にロシア政府に対して行うべき性格のものだ。クルチャトフ研究所は、秘密保全がとても厳しい。アスモロフ氏がロシア政府の了承なくして、このような見解をマスメディアに話すことはない。しかも「イズベスチア」紙のインタビューをわざわざ日本語に訳し、日本に向けて放送している。
 日本政府がどのような反応をするか、日本のインテリジェンス能力を測っているのだ。
 モスクワの日本大使館幹部は、ロシア外務省を訪れて、「われわれは新聞記事にいちいち反応するつもりはないが、アスモロフ氏はいったいどのような意図でこのような発言をしているのでしょうか。こういうことをして日露関係に何か肯定的な影響がありますか」とさりげなく釘を刺しておいた方がいい。
 
 ロシア空軍の戦闘機スホイ21とアントーノフ12が日本領空へ接近した(3月21日)のも、アスモロフ氏のインタビューも、日本の軍事的、政治的インテリジェンス能力を測るためのロシア流挑発だ。挑発には乗らなくても、日本外務省は打ち返さなくてはならない。

   *

 以上、佐藤優「ロシア代表団はどういう姿勢で福島第一原発問題に取り組んだのだろうか? ~【佐藤優の眼光紙背】第95回2011年3月23日」(BLOGOS)に拠る。
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