語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】バングラデシュで遺伝子組み換えナスの栽培始まる ~GM食品の拡大~

2014年03月31日 | 社会
 (1)バングラデシュ農業研究所は1月22日に、同国の農家に対しGMナスの苗の分配を開始。これにより、バングラデシュで殺虫性(Bt)ナスの作付けが始まった。
 殺虫性作物とは、作物自体に殺虫毒素があり、害虫が寄りつかないようにした作物だ。
 これは同国で最初に栽培されるGM作物であるとともに、世界で初めて本格的に栽培されるGM野菜の苗でもある。
 現在、中国でGMトマトとピーマンが栽培されている。これにナスが加わったわけで、いよいよ野菜でもGM作物が広がりそうだ。

 (2)(1)のGMナスは、もともとマヒコ社(モンサント社のインド法人)が開発したもの。安全性に問題があるということで、農家や消費者の抵抗が大きく、
  (a)最初に栽培を目指したインドでも、
  (b)次に目指したフィリピンでも栽培できず、
  (c)バングラデシュで栽培されることになった。

 (3)国際アグリバイオ技術事業団(ISAAA、GM作物を推進している国際組織)が2月13日、2013年の世界でのGM作物の栽培面積を発表すると同時に、これからの予測を発表した。
  (a)昨年のGM作物の総栽培面積は1億7,520万haで、前年より490万ha増加と微増にとどまった。なぜなら、作物の種類が限定されていること、作付け国が増えないこと、による。
  (b)最大栽培国は米国(7,010万ha)だ。
   ①ついで、ブラジル(4,030万ha)、アルゼンチン(2,440万ha)が続き、北南米中心に栽培されている実態に変わりはない。
   ②アジアでは、インド(1,100万ha)、中国(420万ha)、パキスタン (280万ha)、フィリピン(80万ha)、ミャンマー(30万ha)が栽培国となっている。
  (c)作物では大豆(8,0450万ha)が最も多く作られている。ついで、トウモロコシ(5,740万ha)、綿(2,390万ha)、菜種(820万ha)となっている。今のところ作物の種類は限定されているが、これから拡大していくための武器が、作物では野菜、稲、小麦だ。性質としては耐乾燥性、ターゲットとされる地域としてはアジアとアフリカとなりそうだ。

 (4)ISAAAは、
  (a)2014年中にインドネシアで耐乾燥性サトウキビの作付けが、
  (b)2017年にはアフリカで耐乾燥性トウモロコシの作付けが始まると予想している。
 昨年のアフリカでの栽培国は3か国(南アフリカ、ブルキナファソ、スーダン)だが、現在7か国(カメルーン、エジプト、ガーナ、ケニア、マラウイ、ナイジェリア、ウガンダ)が、野外での栽培試験を行っており、栽培国入りしそうだ。

 (5)さらにISAAAは、フィリピンで「ゴールデンライス」の作付けがまもなく始まる、としている。これはベータカロチンを増やした稲で、ベータカロチンは体内に入るとビタミンAとなるため、ビタミンAライスとも呼ばれている。栄養価を高めた初めてのGM食品で、開発中のGM食品の中で最初に栽培される見込みの品種だ。今後、このような栄養機能食品を増やしたいと考える企業にとてはゴールデンライスは期待の星だ。稲は、小麦と並んで世界の人たちが主食としていることから市場性もある。ゴールデンライスを突破口に、GM稲や小麦の市場化を目指す狙いもある。

□天笠啓佑(ジャーナリスト)「バングラデシュで遺伝子組み換えナスの栽培始まる」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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【食】農薬類は微量・低濃度でも安全とはいえない

2014年03月30日 | 社会
 (1)アクリフーズの冷凍食品から高濃度のマラチオン(有機リン系農薬)が検出された事件で、山ほど報道された。
 だが、どのメディアも触れなかった重要な事実がある。農薬をはじめとする有害化学物質(農薬類)は、政府が安全と保証している量や濃度以下でも決して安全とはいえないことだ。
 アクリフーズ事件のような最大15,000ppmは(1.5%)もの超高濃度汚染は、犯罪でもなければ起こり得ない。しかし、普通に流通し、私たちが口にしている食品などにも危険はひそんでいる。

 (2)政府の定めた残留農薬基準値には、きわめて高いものがある。
 <例>アセタミプリド(ネオニコチノイド系農薬)のブドウにおける残留基準は5ppmだが、この基準どおりの農薬を含んだブドウを、体重15kgの子どもが300g/日(1房の半分強)食べると、急性中毒を起こす可能性がある。
 なぜこんな危険な残留基準になるか。
 農薬メーカーの残留試験で得られた残留値のうち、最も高い値の約2倍(1.5~3倍)を残留基準に定めているからだ。
 
 (3)政府は、(2)の方式で茶葉の残留基準をクロチアニジン(同系農薬)で50ppm、アセタミプリドで30ppmに設定している。
 その影響だろう。ボトルの茶飲料(残留基準額未設定)を3か月ほど連日1リットル近く飲み、さらに桃と梨を食べたところ、突然めまいなどに襲われた女性の症例がある。

 (4)ADI(1日摂取許容量=生涯にわたって毎日摂取しても健康に悪影響はないと推定される量)残留基準の安全性を確認する根拠となる。
 だが、ADIも問題だらけだ。ADIは、動物を使った慢性毒性試験から「無毒性量」(これ以下なら健康への悪影響はない量)を出し、それを安全係数(100)で割って算出される。しかし、
  (a)動物実験ではヒトで問題になる微妙な神経障害などは把握できない。
  (b)安全係数の100には何の科学的根拠もない。
  (c)そもそも、「無毒性量より微量なら健康にはまったく影響しない」という前提自体が時代遅れだ。近年の研究によって、農薬類には「低用量作用(影響)」があることが明らかになっているからだ。無毒性量以下でも毒性を発揮するのだ。
 <例1>ごく微量の摂取でホルモンを撹乱する物質(環境ホルモン)。
 <例2>胎児や乳幼児の脳神経系の発達を阻害する農薬類。
 ゆえに、欧州食品安全機関(EFSA)は昨年12月、アセタミプリドとイミダクロプリド(同系農薬)についえ、ヒトの神経系の発達に悪影響を及ぼす可能性があるので、ADIなどを引き下げよ、と勧告している。

 (5)農薬類は、食品に残留しているだけではなく、シロアリ駆除剤など、身の回りの多種多様な製品に含まれている。環境中に放出された成分を私たちは知らぬ間に吸い込んでいる。
 日本では食品からの摂取ばかりが問題にされるが、実は吸う方が食べるよりもっと危険だ。1日に大人が食べる食物は1kgだが、空気は20kgも吸い込んでいる。
 農薬類の毒性にも、もっと敏感になってよい。
   
□岡田幹治(ライター)「農薬類は微量・低濃度でも安全とはいえない 乳幼児や妊婦は十分な注意を!」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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【野口悠紀雄】ビットコインは地球通貨の夢を見るか?

2014年03月29日 | 社会
 ビットコインを用いれば、ほぼゼロのコストで地球上のどこへでも送金できる。このことの意味はきわめて大きい。これによってどのような変化が生じるか。3つの段階が考えられる。
  第一段階:貿易決済通貨
  第二段階:国際決済通貨(資本取引を含む)
  第三段階:国内でも支払い手段として広く使用

(1)第一段階
 今の貿易決済では、信用状決済の場合はその手数料が、銀行送金の場合は送金手数料などがかかる。ビットコインを用いれば、この部分のコストはほぼゼロになる。
 現実のコストで大きな比重を占めるのは、為替スプレッド(買値と売値の差)だ。ビットコインを使えば、外貨に交換する必要はないので、この部分もゼロになる。
 ただし、現状ではビットコインと現実通貨(円など)との交換比率の変動が大きく、またハッカー攻撃などの危険もある。このため、ビットコイン形態での保有時間をできるだけ短くするほうがよい。そうするには、現実通貨との両替にコストがかかる。
 よって、総コストがどうなるか、一概には言えない。しかし、ビットコインのほうがかなり安くなるのは間違いない。現在の海外送金は銀行がほぼ独占しているため、割高になっている可能性が高いからだ。両替所が多数設立されれば、それらの間で競争が起こり、手数料はさらに下がるだろう。
 かくして、ビットコインを採用した貿易業者は、競争上有利な立場に立つ。そのため、他の業者も導入せざるを得なくなる。導入しなければ競争に敗れて退出を余儀なくされるからだ。また、輸出業者から見ると、瞬時に輸出代金を回収できるメリットも大きい。
 利用者が広がれば、関連サービスも多数誕生するだろう。相手が個人ではなく多額の資金を動かす企業なので、こうしたサービスはビジネスとして成立するはずだ。貿易向けに特化した両替サービスも登場するかもしれない。手数料体系で巨額の送金を有利に扱うコインも登場するだろう。現実通貨との交換比率変動をヘッジするための先物取引もつくられるだろう。
 これまでビットコインの個人利用が注目されてきた。個人はコストにそれほど敏感ではない。企業はコストの差に敏感だ。明白な利益の機会があり、競争圧力が十分に強ければ、必ず採用する。
 銀行にとっては深刻な事態だ。外国為替業務が侵食されることになるからだ。全世界貿易量1,500兆円(2012年)の、仮に為替スプレッドを含めた銀行の手数料がこの2%だと仮定すれば、30兆円になる。この1割がビットコインに移行するだけで、銀行は3兆円を失う。銀行の経営基盤は大きく揺らぐ。

(2)第二段階
 国際間には、貿易決済通貨以外に、巨額の投資資金の流れがある。これも原理的にはビットコインに代替し得る。既にそうしたことが起こっている。2012年には、キプロスや中国から巨額の資金がビットコインに流れ込み、それがビットコインの交換価値を大きく上昇させた。
 ただし、国際的な資本取引の大部分は金融機関を通じて行われていることが問題だ。金融機関は直接ビットコインを扱うことができない。少なくとも日本の場合は(おそらく今後も)。ビット建て債権や株式の登場も、すぐには考えにくい。よって、国際的な資金の流れは、少なくとも当分は今の方法で行われるだろう。だから、短期間のうちに地球通貨が誕生することはない。
 しかし、ヘッジファンドなど規制を受けていない機関がビットコインを扱うことは、十分考えられる。さまざまな金融イノベーションが起こる可能性もある。
 <例1>ビットコインを原資としてデリバティブをつくる。年金基金などがポートフォリオに組み込む。ビットコインの貸借も考えられる。
 <例2>ビットコイン以外にさまざまなコインが登場し、それらの間で競争が起こる。
 <例3>通貨間の両替や関連サービスが成長する。
 <例4>政府が関与する。カナダ政府は、MintChip(新しい通貨)の開発に乗り出した。従来の電子マネーの延長に過ぎないが、ビットコインと同じ分散型通貨になる可能性もある。
 ・・・・かくして、この段階は、かなり複雑で混乱したものになるだろう。しかし、同時に金融技術にとって非常に挑戦的な時代ともなるだろう。

(3)第三段階
 円やドルが駆逐された世界だ。かかる世界はあり得るか?
 今使用されている貨幣のうち日本銀行券や硬貨がビットコインに代替されることは、十分に考えられる。送金コスト、安全性、使いやすさなどの点でビットコインのほうが優れているからだ(ただし、周辺サービスがまだ十分に発達していなくて、これらの潜在的利点は完全には顕在化していない)。
 問題は預金通貨だ。ビットコインの貸借は可能だし、それを業とするビジネスも登場するだろう(ビットコインシステムの外で起こる現象)。ただし、それは準備率100%での貸し出しだ。
 問題は、部分準備制があり得るかどうかだ。たぶん「否」だ。常識的見解によれば、取り付けによるシステム破綻を回避するには、「最後の貸し手」たる中央銀行が必要とされる。よって、分散通貨システムでの信用創造はあり得ない。
 しかし、この点は金融イノベーションで解決できるかもしれない。そもそも信用創造が必要か、という問題もある。多数のコインが登場すれば、経済全体の貨幣供給量は調整できるかもしれない。この問題は、今は確かなことが言えない。
 にも拘わらず、銀行の決済業務の大半が消滅し、ビットコインの周辺に生まれるサービスに移行した世界は考えられ得る。国際決済の大半がビットコインに代替されれば、為替レートは意味がなくなる。日本でも米国でも同じ車はビット建てで同じ値段だ。だから、円安で利益が急増するようなことは起こらない。過去10年、日本経済は為替レートに振り回されてきた。こうした世界は過去のものとなる。

□野口悠紀雄「ビットコインは地球通貨の夢を見るか? ~「超」整理日記No.702~」(「週刊ダイヤモンド」2014年3月29日号)
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 【参考】
【野口悠紀雄】ビットコインに関して政府がなすべきこと
【野口悠紀雄】ビットコインに関する深刻な誤報と誤解
【野口悠紀雄】ビットコインは理想通貨か徒花か?
【仮想通貨】ビットコインは中国経済をどう変えるか?
【仮想通貨】ビットコインは円を駆逐するか?

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【片山善博】都知事選に見る政党の無責任 ~候補者の「品質管理」~

2014年03月28日 | ●片山善博
 (1)このたびの都知事選は、最悪のタイミングで行われた。自治体にとって、次年度の予算編成を行う時期で、予算案の作成は首長の専権事項だ。その肝心の知事が予算編成期間中ずっと空席であれば、ちゃんとした予算は作れなかったのではないか。

 (2)選挙に出馬するには準備が必要で、体制を整え、資金調達のめどをつけ、都政なら都政の課題を把握し、自分の考えをまとめておかねばならない。出馬によって周囲に迷惑をかけないためには、自分の仕事や社会的関わりを適当な時期までに整理しておかねばならない。
 そんな人にとって、現職知事の辞職により生じた時ならぬ選挙に、直ちに応じることはできない。わけても組織や団体で
重要な役割を果たしている人ほど。
 比較的立候補しやすいのは、既に引退ないし隠遁している人か、自由業に就いている人だ。
 例外は現職知事の側近で、中途辞任を耳打ちされた人だ。断然有利な立場で選挙戦に臨むことができる。

 (3)都知事は、二代続けてその任期をまともに務めていない。前々任の石原は、自ら4期目に挑んでその座に就きながら、無責任にも選挙後1年余りでその任を放り出してしまった。前任の猪瀬は、自分自身の資金疑惑により就任後1年で辞めざるを得なくなった。
 二度の都知事選を通じて天下に明らかになったのは、政党の不甲斐なさだ。特に大きな政党ほど情けなかった。政党としての主体性も矜持もかなぐり捨てて、「勝ち馬」に乗ろうとする「せこさ」や組織の体をなしていないありさまが印象づけられた。自民党が外添候補を押すことにしたのは、事前の世論調査で彼が最も有力だったからだ、と言われる。
 一方の民主党は、外添候補に相乗りしかけては、脱原発を引っさげ颯爽と登場した細川候補に目移りし、右往左往したあげく、「組織的勝手連」などというわけのわからない対応になった。

 (4)政党には、もっと積極的な主体性が求められる。わけても、候補者の「品質管理」に責任を持つべきだ。
  (a)ポイントの1、候補者の人となりや信頼性。
  (b)ポイントの2、掲げる政策の妥当性。

 (5)自民党は、いわば「不良品」として切り捨てた商品を、急遽「優良品」として消費者に提示したようなものだ。自民党が野党に転落したとき、外添は後脚足で砂をかけるように自民党を捨て、その外添を自民党は除名し、党から排除していた。外添を支援することは「大義がない」と党内でも批判があったが、的外れではない。「復権」や「再生」があってもよいが、それには党内での十分な議論と党内外に対する説得力が伴わなければならない。今般、それがあったとは思われない。
 候補者の「品質管理」は二の次にして、ただ勝たんがためのご都合主義に走った。
 背景と経緯は異なるものの、やはり勝ち馬に乗るために「品質管理」を怠り、その結果わずか1年で現職知事を辞任に追い込まざるを得なかった前回の失敗をまるで省みてない。猪瀬の説明責任能力と自身の言動に対する誠実さについて多少の「品質管理」をしていれば、当時の選挙の構図も変わっていたはずだ。

 (6)民主党も似たり寄ったりだった。細川候補を全面的に支援する小泉純一郎は、かつての政敵だ。小泉内閣が進めた「構造改革」が格差拡大を招いた、と厳しく批判していたのではなかったか。いくら「勝手連」的支援とはいっても、かかる経緯をうやむやにするのは政党として無責任に過ぎる。仮に細川候補が当選していたら、小泉の新自由主義的政策が都政に持ち込まれることが必至だった。そのことを民主党としてどう考えていたのか。
 政策の「品質管理」にも危惧があった。細川候補の「原発即ゼロ」と党の方針との整合性はどうなのか。民主党は「2030年代に原発ゼロ」をめざしていた。党としていつどんな議論を経て方針を変えたのかを示さなければならない。また、「即ゼロ」に都政としてどんな手段があるというのか。ご都合主義や無定見はいけない。
 大政党が勝ち馬に乗りたい一心で無原則に妥協してしまったのでは「品質管理」はなきに等しい。

 (7)本来、政党とは、理想とする政策を掲げ、それを担える人材を確保し、その人を候補者に仕立てて選挙戦を戦うものだ。これが「品質管理」だ。この政党の機能と役割は、国政選挙でも地方選挙でも変わりない。
 現実には地方政治でも企業団体献金は政党のみに限られ、無所属候補はまとまった政治資金を集める道を閉ざされている。そいうした政党中心の制度ができあがっているにも拘わらず、当の政党は「待ちの姿勢」に終始し、資金面でも組織面でも徒手空拳に等しい個人が蛮勇をふるって手を挙げるのを待って「品定め」し、その中から自分たちに都合のよい候補に声をかけ、恩を売り、ちゃっかり「与党」のポジションを得ようとする。姑息で卑怯だとは思わないか。

□片山善博(慶大教授)「時ならぬ都知事選の弊害と政党の責任 ~日本を診る 54~」(「世界」2014年4月号)
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【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~

2014年03月28日 | 震災・原発事故
 (1)東京電力が新たな総合特別事業計画(再建計画)を策定し、安倍政権がゴーサインを出した。
 そこには「東電復活」ロードマップが描かれている。
 柏崎刈羽原発の4基を7月から順次再稼働させ、2014年度に1,6円超の経常黒字を見込む。
 再稼働が遅れれば電気料金の再値上げを検討する。

 (2)はっきりと確定したのは、東電は絶対に潰さないということ。廃炉、除染、汚染水対策などで東電の資金力がなくなっても、すべて税金か電気料金で賄うスキームだ。銀行が東電に融資している4兆円は何が何でも守る。銀行、経済産業省がうまいことをやった、という印象だ。
 膨大なカネがかかる事故処理に、最終的に税金の投入は仕方がない。しかし、その前に、経産省、銀行、株主は何の責任をとらなくてもいいのか。事故から3年間、世論の反発をかわしながら、時に東電を矢面に立たせ、問題が出ると政府が「ちゃんとやります」とポーズを取り、のらりくらりと国民を丸め込んだ。

 (3)国は、2012年7月、原子力損害賠償支援機構を通して東電に1兆円の公的資金を注入し、議決権の過半を握った。この議決権を2016年度末以降に50%未満、2020年代初頭には3分の1未満に引き下げ、東電の「自律的運営体制」を取り戻そうというのが、計画のポイントだ。2020年代半ば以降には、この国が持つ株式を市場で売る算段だ。
 売却益は国庫に戻さず、東電の除染費用に充てられることになった。
 株価を上げるためには、東電が儲かる会社にならなければならない。つまり、今後、もっと東電に甘い仕組みができるだろう。

□記事「古賀茂明氏が読み解く東電の新再建計画 絶対に潰さずに銀行守る 株売却視野に甘い仕組み」(「AERA」2014年3月17日号)
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 【参考】
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
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【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働

2014年03月27日 | 震災・原発事故
 (1)原発再稼働が最終プロセスに入った。
 原子力規制委員会は、3月13日、再稼働審査中の10原発のうち、九州電力川内原発(鹿児島県)の審査を優先的に進めることにした。
 かくて、この夏の川内原発再稼働がほぼ確実になった。

 (2)3年前、東日本大震災直後の2011年春、経済産業省では官僚たちが原発再稼働のための戦略ペーパーを作っていた。その後、新設される「原子力規制委員会」をどのようにして「再稼働のための組織」にするかが大きな課題になるのだが、彼らは実に見事にそれをやり遂げた。
  (a)規制委員会の人選を国会ではなく、関西電力大飯原発再稼働を強行した野田内閣が行う仕組みにした。
  (b)2年はかかると言われていたのに、日本の原発を動かすための甘い規制基準案をわずか半年で作らせることに成功した。
  (c)規制委員会を設立後1年近く再稼働の準備に専念させた。福島第一原発の悪い情報は上げず、関心を逸らした。その結果が汚染水問題の深刻化と事故収束の遅れだ。
  (d)これが実は非常に大きいのだが、原発事故の避難対策は規制委員会の仕事ではないことにしてしまった。安倍政権は、規制委員会が規制に適合していると認めた原発は、地元がよいと言えば再稼働させる、という立場だ。その結果、避難対策には規制委員会も政府も責任を持たず、地元自治体に丸投げされることになった。地元自治体は、再稼働最優先のところがほとんどだ。まともな避難対策はできない。つまり、日本では、過酷な事故で放射能が検出されると想定しながら、それから逃げるための避難対策が著しく不十分なまま原発を動かすことができるようになった。

 (3)ある民間の研究所が行った原発ごとの試算では、避難に必要な時間が8~63時間だった。
 試算がある自治体の数字とも符合する。
 ちなみに、試算の前提は「すべての道路が壊れていないこと」だった。大地震では道路は寸断される。
 しかも、大雪、台風、さらに逃げ遅れたお年寄りや病人を高濃度汚染されている地域に誰が行って、どう助けるか、なども「想定外」のままだ。実際の避難には、数十時間から100時間以上かかるだろう。

 (4)メルトダウンは2時間で起きる。
 規制委員会はフィルタベント(原発事故時に蒸気を、放射性物質を低減してから外部に逃がす装置)の設置を義務づけているが、放出される放射能濃度は人体に有害なレベルでもよいことになっている。ここから帰結されるのは、事故が起こると多数の住民が深刻な放射能被曝に合う、ということだ。
 逆に言えば、避難対策をきちんとやれ、と言うと、日本の原発はすべて再稼働できなくなる。
 だから、規制委員会は避難対策を無視することにした。
 田中俊一・規制委員会委員長は、廣瀬直己・東京電力社長には会うが、泉田裕彦・新潟県知事の面会要求を拒否している。泉田知事の避難対策に係る質問に答える能力がないからだ。

 (5)規制委員会は、安全でないのに安全だと見せかけて再稼働につなげる、という難しい任務を背負わされている。
 自民党の原子力ムラの議員や経産相らから「早く審査しろ」と圧力がかかる。
 安部首相らが、原発が止まって化石燃料輸入増で貿易赤字になった、と喧伝する。
 全部規制委員会の責任だ(と原子力ムラは言う)。

 (6)規制委員会も政府に反撃するがよい。
 <例>電力会社に損害賠償保険への加入を義務づけるよう経産省に勧告する。
 誰も保険を受けなければ、安部のお得意の経団連へ要請してもらえばよい。安全だというのだから、経団連企業が引き受けるだろう。

□古賀茂明「「避難計画」なき原発再稼働 ~官々愕々第103回~」(「週刊現代」2014年4月5日号)
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【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~

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【原発】非核神戸方式への影響懸念も ~神戸市が憲法集会の後援を拒否~

2014年03月27日 | 震災・原発事故
 (1)核兵器を積載していない旨、非核証明書を提出しない艦船は入港を認めない・・・・この「非核神戸方式」が神戸市議会で決議されて39年。
 特定秘密保護法案が強行採決されて以降、「非核神戸方式」をめぐって緊張感が高まっている。

 (2)先ごろ、市民団体などが主催し、毎年開かれていた「5月3日憲法集会」への後援神聖を、神戸市および神戸市教育委員会が断った。これが、緊張感の高まりとなる直接のきっかけだった。
 「非核神戸方式」は、1975年3月18日、神戸市議会が全会一致で採択した「核兵器積載艦船の神戸入港拒否に関する決議」に由来する。以来、神戸港に米軍艦船は入港していない。
 これに並行して、神戸市では憲法集会への後援も事実上、「慣例」となっていた。
 しかし、昨秋就任した久元喜造・神戸市長は総務官僚出身だ。
 自民主導で選挙をしており、自民党に過度な配慮をしている。いよいよ馬脚を現してきた。【林英夫・神戸市議】
 神戸市は、3月18日に開催予定の非核神戸方式決議39周年記念集会への後援は、今のところ維持している。しかし、消極姿勢が目立つ同市の対応からして、「安倍改憲の先取り」を憂慮する市民の声も強い。今後への悪影響が懸念される。

 (3)公務員には、憲法尊重擁護義務が課せられている(憲法第99条)。
 だが、今回の後援不承認は、「憲法に関する集会そのものが政治的中立を損なう可能性」を理由としている。市教委は、「昨今の社会情勢に鑑みた」という。
 この後退姿勢は「地方自治の放棄」だ。【上脇博之・神戸学院大学教授】

 (4)「非核神戸方式」の精神・手法は、ニュージーランドにも取り入れられた。世界各国の範とされ、国内では、核持ち込み「密約」を暴く力にもなった。
 今年の39周年記念集会のテーマは「秘密保護法で非核『神戸方式』はどうなる?!」だ。新原昭治・国際問題研究者が、非核・非同盟の日本づくりの展望を語る。

□たどころあきはる(ジャーナリスト)「神戸市が憲法集会の後援を拒否 非核神戸方式への影響懸念も」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~

2014年03月26日 | ●佐藤優
 (1)プーチンが3月18日に、クリミア半島の併合にあたって行った演説は、驚くべき内容だった。ロシアは自国の力を過大評価している、のみならず一方的に国際秩序を変えられると信じている。そうとしか思えない内容だった。
 米国に対する挑発的な言辞にはっきり表れている。
 米国は建国時、民族自決権に基づいて独立を宣言したのではないか。ドイツ統一のときも米国は民族統合を認めたではないか。クリミアの住民投票はおまえたち米国人と同じ価値観(民主主義)に拠って立つものだ。どこが悪いか、云々。
 非常に挑発的、露骨に帝国主義的な発想だ。

 (2)現在の状況は、第一次世界大戦直前の1914年によく似ている。ハンドリングを誤ると戦争になりかねない。
 東ウクライナや南ウクライナに住むロシア系住民までがロシアへの帰属を望んで、ロシア編入の是非を問う住民投票を行うことになったら、ロシアはやはり「自警団」を組織して周辺地域の安全を担保するだろうが、その「自警団」たるやロシアから派遣される軍隊だ。ウクライナ正規軍と衝突し、内戦に突入する可能性がある。
 事実、(1)の演説の夜、シンフェロポリ(クリミア自治共和国の首都)で銃撃戦が発生し、ウクライナ軍に1名死者が出た。
 非常時には、最前線で突っ走る兵士が必ず出てくる。かかる不測の事態を発端に、大きな戦争が始まるものだ。

 (3)ただし、現時点では米国がウクライナ新政権の後ろ盾となる保証はない。衝突が起きれば新政権が一方的に負けるだけだ。悪くすれば、こんどは東ウクライナにも親ロシア政権が誕生するかもしれない。
 ウクライナがNATOに加盟し、NATO軍が出てくる可能性もまずない。今のEU諸国に第三次世界大戦を戦う腹はない。

 (4)(1)のクリミア併合は、世界史的に見ても大きな事件だ。戦後初めて、大国が国際法に合致しない形で一方的に領土を拡大した。一連のウクライナ動乱は、冷戦的イデオロギー対立ではなく、領土をめぐる帝国主義的対立で、米露関係は落ち込むところまで落ち込むのは間違いない。
 ただし、今後米国がロシアに対してどこまで強く出るかは未知数だ。経済制裁の強化、ロシアへの情報・技術流出の防止を図ろうとしても限界がある。①米国内にはロシア系住民が多数いる。②これだけグローバリゼーションが進んだ世界で完全な経済封鎖は不可能だ。

 (5)問題はプーチンの頭の中がどうなっているかだ。プーチンは当初「ウクライナを併合しない」と言っていたが、「クリミアはウクライナに非ず」という論理でクリミアを併合し、さらにこれだけの強硬姿勢を見せている。もしかするとプーチンは当初からクリミア併合を視野に置いていたのかもしれない。
 ただし、何年も前から計画していたのではあるまい。現在のロシア経済の状況からすると負担が大きすぎるからだ。ロシアにとって必要なのは軍港(セヴァストポリ)と保養施設(ヤルタ)だけ。どうしてクリミア・タタール人の面倒まで見なきゃなんないんだ、というのが一般的なロシア人の感覚だ。
 では、なぜプーチンは勝負に出たか。最大の理由はナショナリズムだ。
 キエフ(ウクライナの首都)で反ロシア政権が成立し、ロシアを罵った。のみならず、ウクライナ東部・南部に加えてクリミアでもロシア語の使用を禁じる、とまで言い出した。「ロシア語を喋る公務員は皆クビにして、西ウクライナから新しく人を連れてくる」ということだ。
 これがロシア国民のナショナリズムを刺激した。「馬鹿にしやがって」というわけだ。
 クリミア併合に、実質的な意義はない。ロシアにとって国際的孤立を招く上に、支出だって増える。
 しかし、ナショナリズムとはそういうものだ。今回の出来事は、合理性では読み解けない。こういう時にはロシア人はどういう反応をするかを分かっていなければ、彼らの行動を真に理解することはできない。

 (6)EU諸国の中で、ロシアに特に強硬なのはバルト3国だ(リトアニア、エストニア、ラトビア)。この3国は国内にロシア系住民多数を抱えていて、ウクライナを「明日は我が身」と見守っている。

 (7)ドイツがロシアを宥めようとしているのは、ドライな理由からだ。経済制裁が実施され、ロシアからの天然ガス供給が止まると、最も困るのはドイツとイタリアだ。
 フランスには原発があり、イギリスにはノルウェーと共同開発している北海油田がある。ロシアからのエネルギー供給が止まっても、大打撃にはならない。

 (8)今回のクリミア併合で、プーチンは「領土不拡張」という戦後国際社会のルールを変えてしまった。北方領土交渉も仕切り直すしかない。
 仮に北方領土が日本に返還されても、ロシア系住民が「ロシアに帰りたい」と住民投票することになれば、クリミアと同様、ロシア軍が出てくるかもしれない。こうなると北方領土の非軍事化や日本人の移住計画まで考えなければならない。日本は根本的に戦略を見直すしかない。3月18日以降、世界は新たなフェーズに入ってしまった。

 (9)日本にとって、これからの課題は、ロシアと中国の接近をどう防ぐかだ。今回ロシアがクリミアで行ったような「力による現状変更」を、クリミアと違って無人島である尖閣諸島で中国が仕掛けてくる可能性もある。
 中東・東欧の二面作戦を強いられた米国が東アジアまで手が回らなくなり、中国が尖閣諸島の実効支配へ動けば、日本も東シナ海の防衛を強化することになろう。日本の先制を恐れた中国が、逆に先手を打つ形で尖閣に上陸するというシナリオもあり得る。
 解決策はない。中国との対話を絶やさない、ということに尽きる。

 (10)プーチンが強硬な姿勢を崩さない理由の一つに、プーチン政権の「宮廷化」が考えられる。
 ロシアの外務省や対外諜報省は、対外的には強硬なことを言う一方、内部では冷静に計算を巡らせている。しかし、今のプーチンは、かかる官僚組織とは異なる数人の「有力者」の影響で、国際政治の現実からかけ離れた意思決定をしているのではないか。その「有力者」の一例として、ロスネフチ(ロシア最大の国営石油会社)会長で、一昨年まで副首相も務めたイーゴリ・セーチンが考えられる。
 プーチンの下には正確な情報が入らなくなっているのではないのではないか。
 プーチン政権は、曲がったプリズムを通して世界を見ている。当然、国際社会から大きな反発をくらう。軌道修正を余儀なくされるだろう。のみならず、ロシア国内でも、このままでは危ないということに気づく国民が出てくるはずだ。
 いまロシア国民のプーチン政権支持率は70%超だ。これは「戦争に勝っている」からだ。長続きしない。
 ロシアには、今後本格的な経済制裁が待っている。他国との人的な交流も減る。ロシア人が米国やヨーロッパに行っても気分良く過ごせない。そうなれば、プーチンの政策に対して、国内から疑問の声が上がる。
  (a)そうしたロシア国民の声を叩き潰すのか。
  (b)受け入れて軌道修正するのか。
 今後注目すべきポイントだ。

□佐藤優「プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ」(「週刊現代」2014年4月5日号)
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 【参考】
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
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【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  

2014年03月25日 | 社会
【経済】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 

 (1)大手建設会社の受注額が、2013年には前年度比で21%も増えた。
 東北復興需要の上に、安倍政権になってから、アベノミクスの第二の矢として、公共事業の壮大なバラマキが始まった。大義名分に「国土強靱化」やら「消費税対策」も加わり、昨年来、日本中が建設バブルに沸いている。

 (2)建設関連業界では実は、
  (a)人手不足による人件費の高騰
  (b)供給力不足と円安に伴う資材費の高騰
  (c)輸送能力の限界
などが加わり、工事の遅れや入札不調が続出している。「ぼろ儲け」と言われた建設業界でも、思わぬコストアップで
   「増収だが減益」
という企業も出てきた。
   保育園の建設が遅れて働く母親たちを直撃
などという「被害」も出ている。
 3・11から3年が経って、この事態が東北の復興の足を引っ張ってきたいることも、改めて指摘された。五輪特需が加われば、東北の状況はさらに深刻化するだろう。

 (3)しかし、安倍政権の公共事業偏重の政策は止まりそうもない。
 そこには安倍政権の大誤算がある。アベノミクス実施により、円安による輸出増やそれに伴う大規模な設備投資の復活で、消費増税までに景気の索引役が現れる・・・・と予想していたのだが、現実には、輸出量は増えず、設備投資も冴えない。
 一方、肝心の成長戦略も手つかずだ。
 当初のシナリオは完全に崩れ、今や公共事業のバラマキしか手がないのだ。

 (4)本来は、どうすべきなのか。
  (a)民間の対応を見ればわかる。
    「建設費高騰で出店抑制 イオン、2~3割減」【3月9日付け日経新聞1面の大見出し】
    民間企業は、適正な期間で投資回収が可能かどうかを精査したうえで投資する。建設コストが高騰すれば、当然、投資規模は縮小される。その結果、全体の需要が落ちて、バブルも終わり、建設コストも下がる。それを見て、企業の投資もまた増える・・・・という循環になるはずだ。
  (b)では、政府はどうか。
    官僚たちは、一度手にした公共事業の利権は絶対に手放さない。「工事発注抑制」という文字は彼らの辞書にはないのだ。彼らの答えは単純明快。単価のアップだ。同じ工事をはるかに高いコストで実施するのだ。むろん、財源は国債、将来の税金だ。

 (5)しかし、(4)-(b)はまったく本末転倒の考えだ。景気対策として公共事業を増やすのは、工事量を増やして景気を良くするのが目的だ。
 しかし、すでに建設業界の供給力を上回る工事量がある。2013年の受注量がピークで、2014年はこれを上回ることは困難だとも言われている。 
 つまり、これ以上公共事業の執行を増やそうとしても、価格を上げるだけだ。
 景気対策にならないばかりか、税金の無駄遣いになるだけだ。

 (6)さらに、重要な問題がある。
 今無理に増やしている公共事業には無駄なものが多い。お蔵入りとなっていた事業が、次々に復活している。その維持更新コストなどは、将来世代の重い負担となる。
 最も深刻なのは、民間の設備投資が建設コストのあおりで抑制され、将来の成長の芽を摘んでしまうことだ。
 官が民の成長を止めているのだ。

 (7)安部総理は、今国会を「好循環実現国会」と銘打った。
 現実には、アベノミクスは完全に公共事業中毒の悪循環経済に陥っている。
 政治の重要な機能の一つに、政策の優先順位決定機能がある。今こそ、それを正しく発揮すべきだ。東北復興事業を除いて、公共事業の発注を押さえればよい。
 その結果、東北の復興が加速し、しかも、民間投資の復活により将来の成長につながる。これこそ「好循環実現」の道筋だ。

□古賀茂明「「建設バブル」の本当の問題 ~官々愕々第102回~」(「週刊現代」2014年3月29日号)
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【官僚】補正予算にたかるシロアリ ~基金という名の裏金~

2014年03月24日 | 社会
 (1)東京・大手町から徒歩数分のところにあるビル1階に、郵便受け100個以上が設置されている。レンタルオフィスの利用者向けで、公的団体やベンチャー企業らしい名前が数多く並ぶ。
 例えば、「地域デザインオフィス(ADD)」。
 常設のオフィスがあるわけではない。今いるかどうかも確認できない。連絡内容を郵送するか、こちらで伝言メモを取り次ぐ・・・・と受付は、問われて返事をした。

 (2)ADDは、2012年9月設立で、2013年5月16日に同所を主たる事務所として登記された。
 経済産業省所管の「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助事業」の1,400億円以上の基金を管理している。くだんの事業は、東日本大震災被災地の雇用創出と商業回復を目的としている。
 同省が、昨年4月に基金を管理する法人を公募し、3件の応募からADDを選んだ。
 しかし、ADDは選ばれた時点で基金管理に係る実績はなかった。審査は書類選考のみ。
 「外部有識者による第三者委員会において厳正な審査を行った結果」だ、と同省産業施設課はいう。委員会メンバーは、産業技術、地域経済、財務会計の各分野から選んでいる、というが、氏名は公表していない。
 3月14日、参議院予算委員会で蓮舫参議院議員(民主党)が法人選定について質した。「基金管理法人の公募が行われた時点でメールボックスしかなかったのはご存知か?」
 茂木敏充・経済産業相答えていわく、「5月16日に採択の内示をして、その際には適切な事務所を構えるこということでありまして、5月20日に事務所を構えております」。
 続いて、加藤洋一・地域経産審議官答えていわく、「公募申請がありましたときは、新たに占有スペースを借りるという前提で、それを含めて評価採択した」。

 (3)公募開始と重なる昨年4月10日に、ADDの代表理事に就任した財団法人日本立地センター理事の某は、「手伝っていますが、給料は貰っていません。基金管理をやるため神保町でオフィスを借りています」。
 基金管理の経験はない。基金管理の公募があるkとは日本立地センター理事から聞いた。【眞野修司・代表理事(設立時から)】
 眞野代表理事は、都市再生機構OBで、企業誘致や、都市計画に長く携わった人物だ。
 同席したAは、りそな銀行OBで、かつて年金基金運用を担当した。
 ADDにはほかに、経理担当の女性アルバイト1人の計3人が常駐しているらしい。
 管理運営経費として1,400万円(2013年5月~2014年1月)が国から支払われ、月150万円を人件費と事務機器などのリースに使っている。【眞野代表理事】
 この基金の資金はみずほ信託銀行に預けられ、事業の公募と採択の実務は、みずほ情報総研が行っている。

 (4)基金にまつわる疑問は(3)にとどまらない。
 予算の半分強しか使ってないにも拘わらず、補正予算でさらに積み増そうとしている。一方で、使いたい人が使えない。まずは、今残っている予算の円滑な執行や、政策効果の分析などを行ったうえで積み増す必要があるのか、ないのかを考えるべきではないか。
 2月4日、衆議院予算委員会で、玉木雄一郎・衆議院議員(民主党)/元財務官僚は、5.4兆円の2013年度補正予算の、計上された「地域商店街活性化」基金への積み増し53億円の算定根拠について質した。
 2012年度補正で100億円が計上され、2013年度末時点で47億円が残っていたにも拘わらず、経産省はさらに53億円を積み増そうとしている。
 かつて特別会計は離れのすき焼きに例えられたが、額ありきで積み上がっていく補正予算も性質が似ている。基金で使い残しがあるのに積み増しされた「にぎわい補助金」のようなものもたくさんある。基金は単年度で使い切らなくてもいいし、貯め込んでおける。そこから人件費等を抜ける安定財源となる。出し入れが自由な上に、チェック機能が働きにくい。【玉木議員】
 「地域商店街活性化」基金の管理には、全国商店街振興組合連合会が、公募を経ずに選ばれた。都道府県商店街振興組合連合会が申請窓口となって助言・指導をする。応募件数は1,966件、採択件数は1,813件だった。
 全国商店街振興組合連合会が基金を管理している事業には、残高が59億円あるのに、2013年度補正予算で172億円を積み増した「商店街まちづくり補助金」もある。ソフト面をサポートする「にぎわい補助金」に対して、こちらはハード面に力点が置かれる。
 問題は、書類が煩雑であるのに加えて、申請窓口が事務処理に慣れていないことだ。マニュアルも分かりづらい。
 ために、地域振興のための事業なのに、現場では事務的負担が重すぎて振興どころではない。

 (5)統制を欠く基金化は、合法的な裏金化と言ってよい。基金化は、震災復興等の緊急事態に持続的に対応するような場合には有効だが、財政会計法令の規律が十分に利かなくなる。透明性を欠き、事業効果を適時適切に検証できる仕掛けに欠く、という問題がある。それを避けるには、基金ごとに法律など明確なルールを作らねばならない。基金基本法を作ることも視野に入れる必要があるが、役人は規律を免れ弾力的に使いたいから基金化している。違法な裏金が最終的に行き着く先は個人の不正流用だが、その点を別にすれば、基金も実態はあまり変わらない。【有川博・日本大学総合科学研究所教授/会計検査院OB】
 官庁側には基金のメリットがあるが、国民にとってはデメリットだけが目立つ。

□津村一也(ライター)「あきれた1千億の預け方」(「AERA」2014年3月24日号)
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【加藤周一】高校生のための読書術 ~どう読むかの技術~

2014年03月23日 | 批評・思想
 「今年高校に入った子どもに、入学するまでの間、何か1冊読ませたい。何を読ませたらよいでしょうか?」
 そういう相談があったとする。
 本書を推薦したい。

 著者がカナダのブリティッシュ・コロンビア大学で教鞭をとっていた頃、高校生向けのカッパ・ブックス『読書術―頭の回転をよくする読書術』を刊行した。
 1960年に口述し、カナダに渡った後、口述筆記が送られてきたが、なかなか手を入れる余裕がなく、原稿が完成したのは1962年だった。原稿に費やした時間は正味1か月だったが、とりかかってから刊行されるまで2年以上の時間が経っていた。
 それだけのことはあったらしく、本書はベストセラーになった。

 本書は2部で構成される。第1部は「どこで読むか」。第2部は「どう読むか、その技術」。
 第1部はリードのようなもので、第2部が本題だ。
 おそく読む「精読術」、はやく読む「速読術」、本を読まない「読書術」、外国語の本を読む「解読術」、新聞・雑誌を読む「看破術」、むずかしい本を読む「読破術」・・・・読む技術のあれこれが具体的に、論理的に、時にはいくぶん諧謔をこめて語られる。
 口述筆記がもとになっているから、読みやすい。

 本書の「あとがき、または30年後」で、30年前の議論の要点が今でも通用する、と加藤周一は言い、事実通用すると思う。
 なお、ここで2つの議論、(1)外国での読書、(2)読書の愉しみ・・・・を追記し、駄目を押している。

 読書の初心者向けの本だが、読書に慣れている人も本書により読書術を整理し直してもよいかもしれない。ことに、新聞・雑誌を読む「看破術」は、 このメディアが過去のものになりつつある21世紀、その意義を改めて考える手がかりとなる。

□加藤周一『読書術』(岩波現代文庫、2000)
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【野口悠紀雄】ビットコインに関して政府がなすべきこと

2014年03月23日 | ●野口悠紀雄
 (1)いまのところ、ビットコイン総額は経済の総取引額に比べて微々たるものだ。よって、社会に対する影響は、大きなものではない。しかし、今後、取引が急速に膨れ上がる可能性がある。そうなれば基幹的社会制度にきわめて大きな変更が要求される。それに対応するには時間がかかる。いまから早急に対応を検討しなければならない。
 問題は幾つもあるが、ここでは利用者保護と税制の二つを取り上げる。

 (2)利用者保護。
 政府の基本方針は、金融機関などの関与を禁止し、それによって責任を回避しようとするものだ。ビットコインそのものの規制は技術的に困難なため、こうしたことになる。
 しかし、それでは利用者は保護されない。「ビットコイン利用は自己責任で行うべきであり、政府は関与しない」とは言えない。
  (a)両替所など関連サービス提供者を監視する。
  (b)ウォレットのQRコード。秘密鍵が知られるようなQRコードだとすれば、設計にミスがあったことになる。
  (c)コイン保有者がコンピュータ事故や災害などで鍵を紛失すると、保有していたコインは永久に失われてしまい、取り戻せない。鍵をコピーすることが助言されているが、十分なIT知識を持たない人も利用できるようになると、「自己責任で鍵をコピーせよ」は、過大な要求になるだろう。この点に関する安全性の確保が必要だ。
 以上のような問題がまだ多数あるかもしれない。これらのすべてについて、利用者に自己責任を求めるのは酷だ。政府が関係事業者を指導すべきだ。マスメディアにも政府にも共通して求められるのは、情報提供と教育だ。

 (3)税制。
 政府は、ビットコインを売って実現した譲渡益に課税するとしている。それは現在の税制でも当然のことだ。
  (a)正直な納税者は納税するだろう。しかし、正直でない者は脱税する。税務署は脱税を摘発できないから、不公平が拡大する。
  (b)報酬の支払いにビットコインが用いられると、受取人の収入を税務署が捕捉できないので、(a)と同じ問題が発生する。かくして、税の公平性が著しく損なわれる。
  (c)ビットコインが広範に利用されるようになり、正直でない者が増えれば、税収が減る。それが進めば、国家の基礎であり土台である税制が崩壊してしまう危険がある。
  (d)(a)~(c)の問題はビットコインの匿名性から発生する。次の2点に注意しなければならない。
    ①ビットコインの取引そのものは、暗号化されていない。全世界の個々の取引がリアルタイムで公開されている。取引をこれほど透明に知り得る通貨はない。しかし、アドレスと現実の個人や組織との対応がわからないのだ。仮にこの対応がつけば、税務当局はビットコインを用いた資金の流れを完全に追跡できるから、徴税は今より容易になる。問題は、如何にして対応づけられるかだ。今後、口座やウォレット作成の際の本人確認は、より厳しく行われるだろう。しかし、それだけでは不十分だ。公開鍵から、いくらでも新しいアドレスを作れるからだ。実際、取引のたびに新しいアドレスを使用することが奨励されている。よって、本人との対応づlけは現実には到底不可能だ。また、国内での鍵生成だけを規制しても、明らかに無意味だ。
    ②これまでの税務署は現金取引を完全には捕捉できなかった。実際、アンダーグラウンド経済の存在は、南米諸国で税収を減らしている大きな原因だ。ために、直接税でなく、間接税への依存を高めているのだ。
  (e)(d)-①及び②から得られる結論は、「ビットコインの匿名性を剥ごうとするよりは、税の体系を変えるほうが現実的ではないか」ということ。匿名性が高い決済手段の利用増加に対応して税制を変えるのだ。
   <例>外形標準課税。法人なら資本金、従業員数、生産高などを指標とした課税。個人であれば人頭税。または、保有不動産や自動車などにリンクした課税だ。
  (f)ビットコインの実力を認めて、社会制度をそれにあったものにつ栗直すべきだ。

□野口悠紀雄「ビットコインに関して政府がなすべきこと ~「超」整理日記No.701~」(「週刊ダイヤモンド」2014年3月22日号)

 【参考】
【野口悠紀雄】ビットコインに関する深刻な誤報と誤解
【野口悠紀雄】ビットコインは理想通貨か徒花か?
【仮想通貨】ビットコインは中国経済をどう変えるか?
【仮想通貨】ビットコインは円を駆逐するか?

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【震災】ずさんな検証と隠蔽 ~大川小学校事故検証委員会~

2014年03月22日 | 震災・原発事故
 (1)津波で全校児童108人中70人が死亡、4人が行方不明となった宮城県石巻市大川小学校。津波襲来まで50分あり、裏には避難可能な山、スクールバスもあった。「それなのに」
 遺族は、2月にまとまった検証委員会の最終報告に失望し、3月10日、訴訟に踏み切った。提訴したのは、遺族54家族のうち19家族。石巻市と宮城県に対し、教職員の過失を問う損害賠償請求を行う。
 「子どもを失った上、3年間侮辱され続けた。訴訟に追い込んだのは検証委員会だ」

 (2)検証委員会は、石巻市の依頼を受けた第三者機関として昨年1月に活動を開始。投じられた予算は合計5,700万円。検証委員会は石巻市教育委員会に代わり、遺族の思いに応える義務があった。市教委は、以下のような不誠実な対応を続けてきたからだ。
  (a)遺族説明会を開かない。
  (b)唯一生存教師を「病気休暇中」として出さない。
  (c)初期段階で聴取した子どもの証言を改竄・隠蔽し、メモを廃棄した。

 (3)ところが、検証委員会の検証は実にいい加減だった。
  (a)設置段階で、「中立性を保つ」と称して委員の人選を文科省が行ったが、「市教委や県教委と結びつきの深い人物は入れないでほしい」などの遺族の要望は蹴られた。首藤由紀・株式会社社会安全研究所所長(受注先にして事務局を担う)と首藤伸夫・委員とが実の親子であることも疑問視されたが、文科省は押し切った。
  (b)設置要項に「目的」がなく、「誰のために何を検証するか」が不明確だった。
  (c)検証は「ゼロベース」からで、遺族が集めた重要な証拠はほとんど活かされなかった。遺族が「子どもたちは日常的に登っていた」と震災前年に撮影した写真(裏山で写生中)を提出しても、1999年以降の大川小勤務経験者アンケートなどから「教職員は裏山は危険と認識していた」と結論付けた。
  (d)検証方法も不可解だ。
   ①検証委員会には6人の委員のほか、4人の調査委員がいるが、当日の津波を検証したのは津波工学の権威、首藤委員ではなく、心理学者の大橋智樹・調査委員/宮城学院女子大学教授だった。
   ②中間とりまとめ(7月)の際、同調査委員は「学校への津波到達時刻は15時30~32分ごろ」と通説だった15時37分より早いとの見解を出したが、遺族らの指摘ですぐ引っ込めた。最終報告では「37分ごろ」に戻っている。
   ③そもそも遺族は、当初から「津波の検証は不要」としていた。遺族が知りたいのは、「逃げられる客観的条件があり、教師が一緒にいながら、なぜ子どもを救えなかったのか」だからだ。しかるに、検証委員会は、問題の核心からほど遠い津波や気象など周辺の検証に力を入れ、肝心な生き証人の検証を軽んじた。どんな立場の誰が証言したかをぼやかした。そして、「山への避難を訴えたり、泣き出したり、嘔吐する子どもがいた」と書く一方で、「遊び始めたり、ゲームや漫画など日常的な会話をしていた」などと相反する証言を羅列し、検証を放棄した。
   ④要するに、検証委員会は何も新しいものを提示できず、すでにわかっていた事実を曖昧にしただけだった。
   ⑤そして、「津波予想浸水域に入っていなかったから危機意識が薄かった」「裏山は危険で登れないと思っていた」など、「子どもたちが命を落としたのは仕方なかった」と言わんばかりの最終報告をまとめた。

 (4)教師には、子どもの命と安全を守る義務がある。教師以外が見過ごしてしまうような危険でも、それを予見し、回避することが求められる。
 しかるに、大川小で教師らは、
  (a)ラジオで災害情報を得ながら、川を見に行くなど積極的な情報収集をしなかった。震災2日朝に起きた震度5弱の地震時には、教師間で津波の危険性が話題になったにも拘わらず。生存教師は裏山に避難を促したが、「津波はこない」とする古参教師の声にかき消された。
  (b)教師は子どもたちを助けるどころか、逃げようとした子どもまでその場に止めておいた。
  (c)校長は不在で、教頭は決断できずにいた。
  (d)生存教師は理科が専門で、地震に詳しかったはずだが、くだんの教師の二度の主張が通らなかった背景には、日ごろの教師間の人間関係や力関係、校長の学校運営に問題があったのではないか。ところが、検証ではこの一番重要な部分が手つかずだった。
  (e)最終報告にも「生存教師が校舎2階で比較的安全に避難できそうな場所を特定している間に、三角地帯に向けて移動を始めた」とあり、少なくとも教師間の意思の疎通がうまくいっていなかったことが推定できる。
  (f)なぜ学校から250m先の新北上大橋たもとの堤防上にある三角地帯を避難先に選んだかも謎だ。海抜1~2mの大川小の数m高いだけの場所に過ぎないし(15時32分にラジオが伝えた予想津波高は10m)、しかも津波が来る川は目前だ。
  (g)避難経路も不可解だ。三角地帯を目指すなら、学校を背にまず右に行くのが自然だが、山がある左に出てから県道238号線に向かった。わざわざ遠回りをし、住宅地を進んだのだ。最後の瞬間、左の裏山を目指せば助かったかもしれない。
  (h)何人もの子どもが「山へ逃げよう」と教師に訴えた。しかし、その声は無視された。子どもたちの証言も遺族の思いも無視され続けている。

 (5)大川小事件は、子ども一人ひとりの命の重さより、自分たちの利益を優先させる日本の権力構造そのもの。
 検証を放棄し、その構造の維持に手を貸した検証委員会の罪は重い。

□木附千晶(ジャーナリスト)「遺族を訴訟に追い込んだ大川小学校事故検証委員会」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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【NHK】波乱の「籾井新体制」スタート ~「世界」のメディア批評~

2014年03月21日 | 社会
 (1)NHK会長の発言がこれほど問題視されたことが、過去にあっただろうか? 国内ばかりか、C・ケネディ駐日米大使のNHKによるインタビュー取材拒否にまで波紋を広げている。
 1月25日の就任記者会見では言いたい放題だった【注】。

 (2)籾井は、記者から執拗に質問されたという点を国会答弁でも繰り返し強調していた。しかし、会見映像によれば、口を滑らせた失言というより、記者からの質問をきっかけに持論を自ら進んで披露していた、と見える。
 籾井は、会見の場で個人的見解だとして取り消したとしているが、公人が、公的な場でした発言はそう簡単に取り消せるわけがない。
 さらに重要なのは、発言内容に関しては事実内容を含めて、撤回していないことだ。籾井は、今もなお、自分の見解自体を取り消したわけではないのだ。
  (a)2月12日の経営委員会では「私は大変な失言をしたのでしょうか」と反論し、就任会見後の初めての定例記者会見となった2月13日には「私見を述べたことが不適切だったということで取り消した」と述べている。
  (b)2月19日の参院総務委員会で、片山虎之助・元総務相が「取り消した個人的見解は、その後変わったのか」と内容に関して質問したのに対して、籾井は「変わっておりません」と明言。その後で「ということでいいんでしょう?」と、会長の後方で控えるNHKの事務方に確認しながらの答弁だった。答弁が噛み合わないと感じた片山議員の再質問に籾井は「個人的な思想はどうかということをもう一度、ここで言うことは差し控えさせていただきます。取り消したことが変わっていませんということです」と修正する一幕もあった。

 (3)放送法第4条は、放送番組の編集にあたって放送事業者が守るべき準則を定める。「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と4号に定める。
 経営委員会議事録によれば、浜田健一郎・経営委員長は、1月28日の会合で、「議論が複数ある事項について個人的見解を述べたことは、公共放送のトップとしての立場を軽んじたものであると言わざるを得ません」と苦言を呈した。2月25日の経営委員会では、「大変な失言なのか」発言について二度目の注意を受ける始末だ。
 視聴者ばかりか、国際的な批判も広がるなど、自ら大きなNHK不信を招いてしまった。籾井が報道機関のトップとして資質に問題があることは明かだ。

 (4)2月20日の衆院予算員会における原口一博・元総務相による質問で、籾井が理事の辞表を預かっていることが発覚した。
 就任日午前の臨時役員会で「あなた方は前の会長が選んだ。今後の人事は私のやり方でやる」と提出を10人全員の理事に求めた。
 籾井は、まず自分を会長に選んだ経営委員会に辞表を提出すべきではないか。

 (5)籾井の会長就任会見での問題発言は、明らかに報道価値のあるニュースだ。朝日、毎日、東京、産経の1月26日朝刊はいずれも一面で報じた。
 当のNHKは、当日(1月25日)19時のニュースで就任記者会見の様子を取り上げたものの、問題となった発言には一切触れなかった。
 定例記者会見ではこの点も見解をただされたが、籾井は答えなかった。
 自らのトップの失言を扱わなかったNHKの判断は公正といえるか(編集権を握る会長自らが関与したかどうかは不明)。
 籾井自身が語るべきだ。

 【注】
記事「NHK籾井新会長「従軍慰安婦、どこの国にもあった」」(朝日デジタル 2014年1月26日00時07分)
記事「冒頭発言―NHK籾井新会長の会見詳報1」(朝日デジタル 2014年1月26日03時22分)
記事「領土問題、主張は当然―NHK籾井新会長の会見詳報2」(朝日デジタル 2014年1月26日03時22分)
記事「慰安婦、戦地に付きもの―NHK籾井新会長の会見詳報3」(朝日デジタル 2014年1月26日03時22分)

□神保太郎「メディア批評第76回」(「世界」2014年4月号)の「(2)NHK波乱の「新体制」スタート」

 【参考】
【NHK】誤報の隠蔽 ~タガのはずれた安部政権~
【NHK】呆れた新会長会見、幼稚で傲慢な偏向報道
【NHK】籾井会長の就任会見発言 ~どこが「間違いだらけ」か~
【NHK】支配計画 ~安倍晋三政権の計算がずれはじめた~
【NHK】権力と癒着し続けた歴史 ~NHK会長~
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【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~

2014年03月20日 | 社会
 (1)露国ラジオ放送「ロシアの声」は1月13日放送のニュース番組で、NATOの動向に詳しいリック・ロゾフ・米国ジャーナリストが警告した。「米国はウクライナをロシアから引き離した後にNATOに加盟させ、ウクライナに命じて黒海艦隊を撤収させるのを狙っている」
 実際、事態はこういう方向へ進んでいる模様だ。 

 (2)米国は、1991年以降、ウクライナの「民主的制度の発展」等のため「50億ドルを投じてきた」。【ビクトリア・ヌーランド・米国国務次官補、昨年12月13日、ワシントンで開かれた「国際ビジネス会議」における記者会見】
 米国や欧州の同盟国のいわゆる「民主主義が花開いた」ウクライナ「暫定政権」で、極右「スヴォボダ」は副首相や国防相ら5人の閣僚ポストを得た。「スヴォボダ」は、2004年まで欧州ネオナチのバッジを党章として使用し、以前から「反ユダヤ主義」と批判されているネオナチだ。
 この集団に米国から資金が流入したかどうかは不明だが、ヌーランド次官補やジョン・マケイン上院議員(共和党タカ派)が昨年からキエフで「スヴォボダ」幹部と会見し、「反政府運動の支援」を約束している。
  (a)アンドレイ・バルビ・「国家安全保障国防会議」(軍事・外交の大統領顧問機関)新議長は、「スヴォボダ」のオレーフ・チャフニボーク総裁と共に、1991年、ネオナチの「社会国家党」を創設した経歴がある。
  (b)ドミントロ・ヤロシュ・「国家安全保障国防会議」新副議長も、第二次世界大戦中、ナチスと協力して9万人のユダヤ人やポーランド人を虐殺したファシスト「ウクライナ民族主義組織」の直系の活動家で、「ロシアとの全面戦争」を唱えている。

 (3)かかるネオナチの影響力が、ウクライナで一挙に増した。この状況が、対ロシア軍事包囲網をその周辺で構築中の米国にとって不都合なはずはない。
 だが、反ロシア色を強め、NATO加盟と再核武装を検討している、とされる「暫定政権」が今後クリミア問題で強硬措置を取り、ロシアとの緊張を高める可能性も、現時点では排除されていない。
 クリミアをめぐる危機の本質は、ロシアだけを「悪玉」にして説明できるほど単純ではない。 

 (4)ちなみに、クリミア情勢緊迫には伏線がある。黒海西岸のルーマニアとブルガリアを拠点とした米軍による対ロシア軍事包囲網の動きだ。
 この両国がNATOに加盟した2004年以降、米軍は既存の軍事基地を使用するなどして急速に強化。特にセバストポリとは目と鼻の先にあるルーマニアは、次のように対ロシア最前線基地としての性格を強めている。
  (a)港湾都市コンスタンツァの米海軍拠点化。2004年以降米海軍艦船の入港やそこを拠点とする演習が急増し、いまや黒海における米海軍の最大の拠点となった。冷戦時代と異なり、黒海が完全に米海軍の作戦領域に変化した。ロシア外務省は、2011年6月12日、ミサイル防衛(MD)の一環を担う米海軍イージス巡洋艦モントレーがコンスタンツァに寄港後黒海に展開した際、「わが国の国境間近に米軍の戦略的任務を負う部隊が接近するのは、安全への驚異だ」と抗議したが、米側は無視した。
  (b)コンスタンツァに近いミハイル・コガルニセアヌ空港の軍事化。2005年に米軍の共同使用が認められ、すでに85の軍事施設が建設。2013年から空軍の戦略的輸送基地として稼働し、アフガニスタンからの数万人規模の撤退部隊受け入れ等のトランジット機能を発揮し、米軍の世界展開に欠かせない存在になっている。同基地には、米欧州陸軍の部隊が駐留している外、海兵隊の特殊空陸任務部隊がローテーション配備。これら兵員は、ルーマニア国内で新たに確保した4か所の演習場で、ルーマニアやブルガリアのみならず、グルジアの陸軍に対しても軍事訓練を実施している。
  (c)ミサイル防衛基地建設。昨年10月28日、デベセル空軍基地(ルーマニア南部)で「欧州ミサイル防衛」基地建設をスタートさせた。イージス艦に搭載されているMD用迎撃ミサイルSM3の地上配備型が展開される外、それとセットの前方展開用Xバンドレーダーも設置される。

 (5)ブルガリアにおいても、米国は「ブルガリア政府の許可なく自由に第三国に出撃できる」軍事協定を締結(2006年)後に、2つの空軍基地と、演習場および兵站基地の各1を「共同使用」という形で獲得。うちベズメル基地はいま大拡張工事中で、将来は嘉手納基地やラムシュテイン基地(独)に匹敵する米空軍の海外6大基地の1つに生まれ変わる予定だ。

 (6)3月6日、ルーマニアの米大使館は、8日から3日間、米原子力巡洋艦トラクスタンがコンスタンツァを拠点にルーマニア・ブルガリア両海軍と演習を実施する、と発表した。クリミア情勢に対する索制だった。

 (7)冷戦後、緊張状態もない黒海で、近隣諸国に脅威をもたらしてはいないロシアに、米国は(4)や(5)の軍事力を突きつけた。
 その米国が、セバストポリの防衛とロシア系住民の保護のためクリミアへ海兵隊や空挺特殊部隊を増派したロシアを「国際法違反の軍事介入」(オバマ大統領)と批判しても、説得力がない。

□成澤宗男(編集部)「黒海の対ロシア包囲戦略と米国の思惑 ネオナチがウクライナ暫定政権の中枢を把握」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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 【参考】
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~
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