小川 軽舟は、1961年2月7日、千葉市生まれ。1984年、東大法学部卒、日本開発銀行(現・株式会社日本政策投資銀行)入行。1986年、「鷹」入会、藤田湘子に師事。1999年、「鷹」編集長就任。2001年、第一句集『近所』刊行、同書により第25回俳人協会新人賞(2002年)。2004年、『魅了する詩型 現代俳句私論』刊行、同書により第19回俳人協会評論賞(2005年)。2005年、藤田湘子逝去により「鷹」主宰を継承。2008年、第二句集に『手帖』および評論集『現代俳句の海図』刊行。
株式会社日本政策投資銀行法に基づいて開設された日本政策投資銀行(DBJ)の業務は、旧DBJの業務(出資・融資・債務保証等)を基本とし、新金融技術の活用に必要な業務、資金調達面では主に社債や長期借入金による調達を行う(国の財政投融資計画に基づく財政融資資金、政府保証債等の長期・安定的な資金調達も)。
サラリーマンである以上、異動がある。今年52歳になる小川軽舟も異動して、「俳句」2月号の「特別作品50句 単身赴任」からすると、それはどうやら昨年のことらしく、それも秋頃らしく、赴任先は「関西支店 大阪」(大阪市中央区今橋4丁目1番1号 淀屋橋三井ビルディング)らしい。
職場ぢゆう関西弁や渡り鳥
異動と渡り鳥。付きすぎの感もあるが、東から西へ、目的をもってやってきた点で、ぴったりだ。いずれ東(北)に戻る。
浅く踏む会社の前の落葉かな
出勤も、抜き足差し足というほどではないにしても、慎重な足取りとなる。
地下鉄に駅前のなし日記買ふ
異動先の土地も、長らく暮らした東京と同じく地下鉄がある。その地下鉄の特殊な相貌を改めて気づくのは、やはり異郷の地という思いからか。
息白く歩めば孤独ぬくもりぬ
会社のために費やす時間が終わり、帰路に着く。他人のために費やしていた時間が、自分のために費やす時間となる。同僚と別れる孤独、自宅に待つ者がいない孤独。孤独のなかで創造が始まる。
風呂洗ふことごとくわが木の葉髪
北風や炊げばぬくき台所
たつぷりと一人暮らしの柚子湯沸く
家事はすべて、男一匹、自分が片づけねばならぬ。
冬の朝トースト二枚とびにけり
蒟蒻に芥子ゆるさよおでん酒
ゆらゆらと重さありけり寒卵
食べるものも、いまいちチグハグだ。
灯を消せば部屋無辺なり夜の雪
寝ようとすれば、空間の広さをひしひしと感じねばならぬ。
神の留守祗園に飯を食うてをり
定食に満腹したる聖夜かな
外食しても、少々ピントがずれた思いがある。
妻来たる一泊二日石蕗の花
かくて、久々に会う妻子のありがたさが痛感される。たまゆらの潤い。
しぐるるや近所の人ではやる店
公園に大人ばかりの小春かな
独り暮らしに少し慣れて、余裕ができると、近所の雰囲気も分かってくる。
この町に選挙権なし浮寝鳥
地域に生きる住民として、大事なことに気づく。都道府県知事・都道府県議会議員の選挙権は、引き続き3ヵ月以上その都道府県内に住所がある者に付与される。市区町村長・市区町村議会議員の選挙権も同様だ。
古暦金本選手ありがたう
余裕ができれば、関西人には殊に身近な人に思いを寄せ、挨拶を送ったりもする。
甃(いしだたみ)破魔矢落ちたる鈴ひびく
初冬や鼻にぬけたる薄荷飴
冬の雲膝の日向をふいに消す
踏切に見上ぐる電車クリスマス
極月の古本市に稲荷鮨
住む町を見下ろす神社初鴉
会社内部で異動があっても、居住地が変わっても、季節は循環する。
雨粒は雨脚と伸び冬ぬくし
冬紅葉夕日になつく一枝あり
着ぶくれの四五人こぼし電車出づ
小川軽舟という俳人は、日常生活上ありふれた微妙な変化を日常の言葉で巧みに表現することに長けている。鋭敏な感性を温雅に慎ましく表出する。
慎ましい語りは時として大きく展開し、ほとんど救済に似た予感をもたらすことがある。連作50句全体の掉尾をなす次の句は、この俳人の作品らしくごく日常的な情景だが、それでいて大きな変化を予感させて、じつに明るい。静かで力強くてドラマティックな結句だ。
客を待つタクシー春を待つ如し
□小川軽舟「特別作品50句 単身赴任」(「俳句」2013年2月号)から抄出。
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株式会社日本政策投資銀行法に基づいて開設された日本政策投資銀行(DBJ)の業務は、旧DBJの業務(出資・融資・債務保証等)を基本とし、新金融技術の活用に必要な業務、資金調達面では主に社債や長期借入金による調達を行う(国の財政投融資計画に基づく財政融資資金、政府保証債等の長期・安定的な資金調達も)。
サラリーマンである以上、異動がある。今年52歳になる小川軽舟も異動して、「俳句」2月号の「特別作品50句 単身赴任」からすると、それはどうやら昨年のことらしく、それも秋頃らしく、赴任先は「関西支店 大阪」(大阪市中央区今橋4丁目1番1号 淀屋橋三井ビルディング)らしい。
職場ぢゆう関西弁や渡り鳥
異動と渡り鳥。付きすぎの感もあるが、東から西へ、目的をもってやってきた点で、ぴったりだ。いずれ東(北)に戻る。
浅く踏む会社の前の落葉かな
出勤も、抜き足差し足というほどではないにしても、慎重な足取りとなる。
地下鉄に駅前のなし日記買ふ
異動先の土地も、長らく暮らした東京と同じく地下鉄がある。その地下鉄の特殊な相貌を改めて気づくのは、やはり異郷の地という思いからか。
息白く歩めば孤独ぬくもりぬ
会社のために費やす時間が終わり、帰路に着く。他人のために費やしていた時間が、自分のために費やす時間となる。同僚と別れる孤独、自宅に待つ者がいない孤独。孤独のなかで創造が始まる。
風呂洗ふことごとくわが木の葉髪
北風や炊げばぬくき台所
たつぷりと一人暮らしの柚子湯沸く
家事はすべて、男一匹、自分が片づけねばならぬ。
冬の朝トースト二枚とびにけり
蒟蒻に芥子ゆるさよおでん酒
ゆらゆらと重さありけり寒卵
食べるものも、いまいちチグハグだ。
灯を消せば部屋無辺なり夜の雪
寝ようとすれば、空間の広さをひしひしと感じねばならぬ。
神の留守祗園に飯を食うてをり
定食に満腹したる聖夜かな
外食しても、少々ピントがずれた思いがある。
妻来たる一泊二日石蕗の花
かくて、久々に会う妻子のありがたさが痛感される。たまゆらの潤い。
しぐるるや近所の人ではやる店
公園に大人ばかりの小春かな
独り暮らしに少し慣れて、余裕ができると、近所の雰囲気も分かってくる。
この町に選挙権なし浮寝鳥
地域に生きる住民として、大事なことに気づく。都道府県知事・都道府県議会議員の選挙権は、引き続き3ヵ月以上その都道府県内に住所がある者に付与される。市区町村長・市区町村議会議員の選挙権も同様だ。
古暦金本選手ありがたう
余裕ができれば、関西人には殊に身近な人に思いを寄せ、挨拶を送ったりもする。
甃(いしだたみ)破魔矢落ちたる鈴ひびく
初冬や鼻にぬけたる薄荷飴
冬の雲膝の日向をふいに消す
踏切に見上ぐる電車クリスマス
極月の古本市に稲荷鮨
住む町を見下ろす神社初鴉
会社内部で異動があっても、居住地が変わっても、季節は循環する。
雨粒は雨脚と伸び冬ぬくし
冬紅葉夕日になつく一枝あり
着ぶくれの四五人こぼし電車出づ
小川軽舟という俳人は、日常生活上ありふれた微妙な変化を日常の言葉で巧みに表現することに長けている。鋭敏な感性を温雅に慎ましく表出する。
慎ましい語りは時として大きく展開し、ほとんど救済に似た予感をもたらすことがある。連作50句全体の掉尾をなす次の句は、この俳人の作品らしくごく日常的な情景だが、それでいて大きな変化を予感させて、じつに明るい。静かで力強くてドラマティックな結句だ。
客を待つタクシー春を待つ如し
□小川軽舟「特別作品50句 単身赴任」(「俳句」2013年2月号)から抄出。
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