語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】【宮沢賢治】星めぐりのうた

2018年09月13日 | 詩歌
 あかいめだまの さそり
 ひろげた鷲の  つばさ
 あをいめだまの 小いぬ、
 ひかりのへびの とぐろ。

 オリオンは高く うたひ
 つゆとしもとを おとす、
 アンドロメダの くもは
 さかなのくちの かたち。

 大ぐまのあしを きたに
 五つのばした  ところ。
 小熊のひたいの うへは
 そらのめぐりの めあて。

 【参考】
【宮沢賢治】討議『銀河鉄道の夜』とは何か
【詩歌】宮沢賢治「蠕虫舞手《アンネリダタンツエーリン》」 ~水のなかでダンス~
【詩歌】宮沢賢治「高原」 ~方言~
【詩歌】宮沢賢治「原体剣舞連」
【詩歌】宮沢賢治「烏百態」
【詩歌】宮沢賢治「風の又三郎」
【詩歌】宮沢賢治「星めぐりの歌」
【詩歌】宮沢賢治「種山ヶ原」 ~ドヴォルザーク「新世界より」~
【詩歌】砂漠のバラード

 
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【陶淵明】「帰去来の辞」の帰去来兮(かえんなんいざ)という読みくせ

2018年05月08日 | 詩歌
 <全文340字から成る「帰去来の辞」は、次のように歌い出される。

  歸 去 來 兮  歸去來兮(かえんなんいざ)
  田園將蕪胡不歸  田園は将(まさ)に蕪(あ)れんとするに胡(な)んぞ帰らざる

 最初の行は、カヘンナンイサと読むのが、日本での古くからの読みくせである。
 この読みくせは、なかなか正しいであろう。何となれば、〈帰〉去来兮という四つの漢字の、意味の中心は〈帰〉の字にのみある。二字目の去は、帰の字の下にそえられた軽い助字、そえことばであり、三字目の来の字は、一そう軽くそわった助字である。最後の兮(けい)の字に至っては、純粋に音声を充足するだけの助字であって、全く意味をもたない。帰去来兮は、現代の中国語でいうならば、回去了罷(ホイチュラバ)というのと、相当る。回去了罷(ホイチュラバ)の重点がただ回(ホイ)の字にのみあるように、帰去来兮という四字に於ける意味の重点、したがって心理の中心は、ただ帰の字にのみある。去来兮(きょらいけい)というあとの三字は、帰りゆかんとする意志が、感情によってせき立てられる心理の波だちを表現するにすぎない。〈かえんなんいざ〉、という読みくせは、その意味で大へん正しいであろう。>

 【注】〈〉内は、原文では傍点。

□吉川幸次郞『陶淵明伝』(新潮叢書、1956/新潮文庫、1960/中公文庫、1989/ちくま学芸文庫、2008)の陶淵明伝「十」の一部を引用

 
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【俳句】恩田侑布子「(俳句時評)桃源へのほそ路」 

2018年01月29日 | 詩歌
 古典を読むのは、それが書かれた日から現在までに経過したすべての時間を読むようなものだとボルヘスはいった。
 芳賀徹は『文明としての徳川日本』で、江戸時代を封建社会という「夜明け前史観」から解放する。徳川の平和(パクス・トクガワーナ)という文化の肥沃(ひよく)時代として捉え直すのである。その文化の円熟期の民衆による民衆詩を代表するのが蕪村である。子規の説く積極的・客観的美の蕪村像より、萩原朔太郎の「郷愁の詩人」に近く、四海浪(なみ)静かな「安らぎの詩人」があらわれる。わびさびの求道者芭蕉とは違う、ゆるやかに艶なる詩を練り絹のような筆がよみとく。
 《うづみ火や我かくれ家(が)も雪の中》
 《うづみ火や終(つひ)には煮(にゆ)る鍋のもの》
 低生産、低成長、知足安分の弱火(とろび)のような平和な社会に、蕪村のけだるさや倦怠(けんたい)の消極的な美は釣り合う。かくれ家は小さく狭くほの暗いほど安らかである。
 《桃源の路次(ろし)の細さよ冬ごもり》
 桃源の路次は細いだけでなく、最後には緩やかに下って行かねばならぬものという。そういえば、川端康成の『雪国』もトンネルという「路次の細さ」の奥にあった。芭蕉の『おくのほそ道』もまた。
 では、スマホのフラットな小窓に消光する現代人の桃源の路次はどこに。この時、情報・モノ・カネが目まぐるしく狂騒するグローバルな現代が田沼時代の蕪村から逆照射される。徳川文化は十九世紀西洋にジャポニスムという豊饒(ほうじょう)な芸術の泉をもたらした。分断と非寛容の今世紀に「俳諧的平等主義」がジャポニスム第二波を巻き起こせたらいい。

□恩田侑布子「(俳句時評)桃源へのほそ路」(朝日新聞 2017年1月29日)を引用
(俳句時評)桃源へのほそ路
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【詩歌】E・ケストナー「人生処方詩集」

2017年12月08日 | 詩歌
  

【詩歌】E・ケストナー「マッチ売りの少年」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「ぼくは母と旅行をしている」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「簿記係が母親へ」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「即物的な物語詩」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「ホテルでの男性合唱」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「絶望第一号」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「顔を交換する夢」 ~人生処方詩集~
【詩歌】戦争を礼賛する牧師 ~E・ケストナーによる諷刺~

□「エーリヒ・ケストナー(小松太郎・訳)『人生処方詩集』」(岩波文庫、2014)
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【朝日俳壇抄】終に来しひとりの暮らし秋刀魚焼く ~10月16日~

2017年10月26日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<長谷川櫂選>
 ②朝顔を自由の空へみちびきぬ(相馬市)根岸浩一
 ⑤道元に耳を傾け長き夜を(名古屋市)青島ゆみを
 【評】(前略)二席。「自由の空」とはすばらしい。朝顔にとって、たとえ幻想だとしても。(後略)

<大串章選>
 ①一行の詩となり雁の渡りけり (いわき市)坂本玄々
 ⑤流星や平和を願ふには速し (村上市)鈴木正芳
 ⑥運不運菜を間引きつつ思ひけり (知多市)岩崎光子
 ⑩終に来しひとりの暮らし秋刀魚焼く (一宮市)岩田一男
 【評】第一句。雁の列を「一行の詩」と言ったところにポエムがある。(後略)

<稲畑汀子選>
 ①阿蘇の空閉ぢ込めてゐる芋の露 (神戸市)池田雅かず
 ②懐しや母の御萩(おはぎ)の秋彼岸 (木更津市)本郷政信
 ③千畳の波よせ崩る大夕焼 (西宮市)黒田國義
 ④見えてゐる魚影は釣れぬ根釣かな (浜田市)田中静龍
 【評】一句目。広い阿蘇の空を仰ぐ作者。目の前の芋の葉に結ばれた露の玉。そこに映った大景を発見した感動。二句目。母上の手作りのお萩を懐かしむ心に誘われた秋の彼岸。三句目。どっと寄せてくる大海の波を染める大夕焼を描いて妙。

<金子兜太選>
 ①豊の秋パンツの上にまはしして (大分県日出町)松鷹久子
 ②虫の音が聞こえぬ耳に秋の風 (洲本市)輔老絢子
 ③かぎりなき廃炉の空を鳥渡る (敦賀市)村中聖火
 ⑩手話ひとつ覚えて帰る敬老日(宍粟市)宗平圭司
 【評】松鷹さん。子供たちの草相撲。「豊の秋」は四股名(しこな)か。輔老(すけたけ)さん。肌で感じる秋。豊穣(ほうじょう)の予感。村中さん。原発所在地敦賀。福島の出来事は他人ごとではない。廃炉を。十句目宗平氏。また新しい対話が生まれる期待感。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年10月16日)
朝日俳壇
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 【参考】
【朝日俳壇抄】短足は校長ひとり運動会 ~10月9日~
【朝日俳壇抄】帰省の子大人になりて寄りがたし ~10月2日~
【朝日俳壇抄】人間も桃もおほかた皮と水 ~9月25日~
【朝日俳壇抄】君以外覚えず高二の文化祭 ~9月18日~
【朝日俳壇抄】渾身のバックホームや雲の峰 ~9月10日~
【朝日俳壇抄】つむじ風空蝉そらを飛びにけり ~9月4日~
【朝日俳壇抄】蟻地獄あなたの帰り待つてます ~8月28日~
【朝日俳壇抄】八月や骨で還れの骨さへも ~8月21日~
【朝日俳壇抄】戦争の滴り落つる日本かな ~8月14日~
【朝日俳壇抄】渾渾と泉湧きくる日野原忌 ~8月7日~
【朝日俳壇抄】天の川鳴門の渦に流れ入る ~7月31日~
【朝日俳壇抄】ヒアリ来る地球はますます炎えてくる ~7月24日~
【朝日俳壇抄】為政者の驕り露見や青嵐 ~7月10日~
【朝日俳壇抄】叩かれて叩かれてなほ油虫 ~7月3日~
【朝日俳壇抄】政権も徒党に堕すや走り梅雨 ~6月26日~
【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~

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【朝日俳壇抄】短足は校長ひとり運動会 ~10月9日~

2017年10月22日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<金子兜太選>
 ①まだ歩くまだまだ歩く敬老日 (嘉麻市)松井春光
 ④短足は校長ひとり運動会 (霧島市)久野茂樹
 ⑤追憶にピリオドのなき夜長かな (多摩市)吉野佳一
 ⑧台風や蝋燭(ろうそく)の灯に父と母 (高松市)島田章平
 【評】松井さん。敬老会主催の歩こう会。何処(どこ)まで歩くのか。人生さながらに。(後略)

<長谷川櫂選>
 ②松茸の傘も広がる日和かな (福岡県鞍手町)松野賢珠
 ③山盧忌(さんろき)や一句一句が杖となる (東京都)今津真作
 【評】(前略)二席。これも秋晴れの句。松茸も気持ちがいいのだ。三席。十月三日は飯田蛇笏の忌。その数々の名句を心の糧にして、俳句の道を歩いてゆく。

<大串章選>
 ①一本の稲穂を母へ柩(ひつぎ)閉づ (川口市)青柳悠
 ②年齢を干支(えと)で答へる敬老日 (横浜市)高野茂
 ④秋刀魚の火荒らぶ昭和の匂ひして (松戸市)茶房人
 ⑥反戦が最後の仕事敬老日 (伊佐市)清水ひさし
 【評】第一句。農作業に励んで一生を終えた母であろう。「一本の稲穂」が胸を打つ。第二句。俺は「うし」私は「ひつじ」と言うだけで年齢がわかる。敬老会での楽しい会話。(後略)

<稲畑汀子選>
 ①さはやかに目覚めて軽き手足かな (八代市)山下しげ人
 ②膝(ひざ)さへも判(わか)らぬ霧の登り道 (芦屋市)酒井湧水
 ③風止んでコスモスつまらなくなりし (高松市)藤岡正子
 ⑦仰臥(ぎょうが)して銀漢を観る一家族 (米子市)中村襄介
 ⑨芒(すすき)原風は遠くへゆく途中 (長野市)鈴木しどみ
 【評】一句目。厳しい夏の暑さに耐えて来た手足。爽やかな空気に目覚め、変化に気づく。二句目。自分の膝さえ判らないことで、霧の登山の怖さに気づいた。三句目。背の高いコスモスが揺れて色が交わる面白さが失せてしまった一瞬。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年10月9日)
朝日俳壇
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 【参考】
【朝日俳壇抄】帰省の子大人になりて寄りがたし ~10月2日~
【朝日俳壇抄】人間も桃もおほかた皮と水 ~9月25日~
【朝日俳壇抄】君以外覚えず高二の文化祭 ~9月18日~
【朝日俳壇抄】渾身のバックホームや雲の峰 ~9月10日~
【朝日俳壇抄】つむじ風空蝉そらを飛びにけり ~9月4日~
【朝日俳壇抄】蟻地獄あなたの帰り待つてます ~8月28日~
【朝日俳壇抄】八月や骨で還れの骨さへも ~8月21日~
【朝日俳壇抄】戦争の滴り落つる日本かな ~8月14日~
【朝日俳壇抄】渾渾と泉湧きくる日野原忌 ~8月7日~
【朝日俳壇抄】天の川鳴門の渦に流れ入る ~7月31日~
【朝日俳壇抄】ヒアリ来る地球はますます炎えてくる ~7月24日~
【朝日俳壇抄】為政者の驕り露見や青嵐 ~7月10日~
【朝日俳壇抄】叩かれて叩かれてなほ油虫 ~7月3日~
【朝日俳壇抄】政権も徒党に堕すや走り梅雨 ~6月26日~
【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~
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【朝日俳壇抄】帰省の子大人になりて寄りがたし ~10月2日~

2017年10月18日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<稲畑汀子選>
 ③旅人として故郷の霧に濡れ (仙台市)三井英二
 ⑦秋天を秋天らしく描く雲 (高松市)白根純子
 【評】(前略)三句目。旅人として訪ねた故郷で、霧が郷愁を抱かせる。

<金子兜太選>
 ③廃校が村の食堂茸飯(きのこめし) (東大阪市)渡辺美智子
 ⑦酒好きと道連れとなる秋遍路 (新座市)五明紀春
 ⑩頑張れる者はがんばり秋の暮 (相馬市)根岸浩一
 【評】(前略)渡辺さん。人の減る村。されどしっかり暮らしあり。十句目根岸氏。さて、何を頑張るか。稲刈りか。

<長谷川櫂選>
 ②帰省の子大人になりて寄りがたし (いわき市)大津日出子
 ⑨春愁と別れ秋思とまた出会ふ (川越市)渡邉隆
 【評】(前略)二席。ちょっとの間にすっかりおとなびて。「寄りがたし」、やがて頼もしさに変わる。(後略)

<大串章選>
 ①水切りの小石届けり天の川 (大村市)小谷一夫
 ②広島の優勝に沸く獺祭忌(だっさいき) (高松市)島田章平
 ③孫抱いて地球儀見つむ彼岸花(羽生市) 小川正志
 ⑤笑ふことありしか母の笑む遺影(別府市)宇都宮克之
 ⑨希(まれ)に聞く虫の音欧州旅情かな(ドイツ)ハルツォーク洋子
 【評】第一句。小さな「小石」と広大な「天の川」の取合せに詩情あり。第二句。広島は九月十八日に優勝決定、翌日大きく報じられた。十九日は獺祭忌。第三句。孫の未来を思いながら地球儀を見ている。「彼岸花」が微妙に効いている。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年10月2日)
朝日俳壇
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 【参考】
【朝日俳壇抄】人間も桃もおほかた皮と水 ~9月25日~
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【朝日俳壇抄】人間も桃もおほかた皮と水 ~9月25日~

2017年10月17日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<大串章選>
 ①秋といふ駅に降り立つ目覚めかな (東京都)青木千禾子
 ②初鴨に湖(うみ)の光の新しく (鹿児島市)青野迦葉
 ③灯を消して人間の闇虫の闇 (長野市)縣展子
 ⑨賢治忌や古民家カフェにセロ流る (弘前市)須藤一光
 ⑩居酒屋へ月の神社を通りけり (明石市)北前波塔
 【評】第一句。爽やかな目覚め。秋晴れの一日であろう。第二句。初鴨が飛んで来ると、湖の光が新しくなる。第三句。「人間の闇」は辛辣(しんらつ)だが「虫の闇」は趣がある。虫の闇に心を解き放ち、人間の闇を消したい。

<稲畑汀子選>
 ①流星や見えぬ宇宙を見てゐたり (小樽市)伊藤玉枝
 【評】一句目。流星を見ようと夜空を仰いだ作者。待ってもなかなか現れず、暗い宇宙を見つめる思い。(後略)

<金子兜太選>
 ②無人なる被曝(ひばく)の町の天高し (いわき市)馬目空
 ③三十回咀嚼(そしゃく)に釣瓶落しかな (松山市)正岡唯真
 【評】(前略)馬目さん。被曝福島、秋草が寂しい。(後略)

<長谷川櫂選>
 ①物干しに子狸来たり月見るや (河内長野市)北阪英一
 ③桐一葉月の光を浴びて落つ (飯塚市)釋蜩硯
 ⑦伯父貴には伯母御がでんと敬老日(岐阜県揖斐川町)野原武
 ⑧人間も桃もおほかた皮と水 (北本市)萩原行博
 ⑨桔梗のごとき男にまだ逢はず (岡山市)三好泥子
 【評】秋の夜長の句を三句。一席。狸には狸の世界がある。それは人間の世界より少し平和にみえる。(後略)

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年9月25日)
朝日俳壇
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【朝日俳壇抄】君以外覚えず高二の文化祭 ~9月18日~

2017年10月16日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<長谷川櫂選>
 ①金亀子(こがねむし)手を貸さずとも起きにけり(一宮市)岩田一男
 ③君以外覚えず高二の文化祭 (筑後市)近藤史紀
 ④西鶴忌よくある別れ話かな (川越市)渡邉隆
 ⑦☆赤とんぼ虚空に翅(はね)を休めをり(米子市)中村襄介
 【評】一席。どうにかこうにか自力で起き直れる。手を貸すのは愛情だが、貸さぬのもまた愛情。人もまた。(中略)三席。不要のものはすべて消去して。記憶とは正直なもの。

<大串章選>
 ①地球てふ仮の住処(すみか)や鰯雲 (今治市)横田青天子
 ②老いてなほ野球少年獺祭忌 (向日市)松重幹雄
 ③餓死といふ戦死もありし敗戦忌 (高槻市)池田利美
 ④敬老会逢ひたき人の来てをらず (山口県田布施町)山花芳秋
 【評】第一句。人間は死んだら何処へ行くのだろう。骨になるだけだろうか。第二句。獺祭忌は正岡子規の忌日。子規は野球が大好きだった。第三句。銃弾や手榴弾で命を落とすだけでなく、食糧不足のため戦地で餓死する兵士もいた。

<稲畑汀子選>
 ①百日紅やうやく疲れ見えはじむ (奈良市)名和佑介
 ⑥☆赤とんぼ虚空に翅を休めをり(米子市)中村襄介
 【評】一句目。百日咲き続けると言われる百日紅も、花の終わりの疲れが見えてきた。長く愛でてきた作者の心の推移。(後略)

<金子兜太選>
 ①桔梗や先生の引く対角線 (立川市)星野芳司
 ②溶岩に木苺熟れてこぼれけり (熊谷市)内野修
 ③生きる者みな遺族なり曼珠沙華(まんじゅしゃげ) (尼崎市)ひじり純子
 ⑦消息は森の奥より法師蝉 (泉大津市)多田羅初美
 【評】星野さん。桔梗が上手(うま)い。直線的な花弁と対角線が重なり清潔感増す。内野さん。素朴な色彩の対比、夏の終わり。ひじりさん。みな遺族。このことに気づけば戦争はなくなる。十句目岸田氏。天候不順の夏は過ぎた。次は台風か。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年9月18日)
朝日俳壇
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2017年10月16日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<金子兜太選>
 ①語り部の遺影となりて八月尽 (太田市)吉部修一
 ②秋暑しとどのつまりは老いにけり (山梨県市川三郷町)笠井彰
 ⑨入院の祈りは一つ新月に (福岡市)伊佐利子
 ⑩鉄砲百合四つ開けば四方向く (下関市)内田恒生
 【評】吉部さん。戦禍を知る人がまた一人減ってしまった。語り継ぐこと増々大事に。笠井さん。達観、嘆息、いずれにしても、まだまだ。阿知波さん。日常を爽やかに詠む。季語も日常を。十句目内田氏。含意と読むか否かは読み手次第。

<長谷川櫂選>
 ①秋暑し残生の錆(さび)ことのほか (山梨県市川三郷町)笠井彰
 ②宇宙樹のごと立ち上る雲の峰 (島根県邑南町)高橋多津子
 ⑥一山の大気動きて秋に入る (三重県菰野町)川村佳子
 ⑨仏壇に残暑そのまま閉ぢにけり (飯塚市)釋蜩硯
 【評】一席。「残生の錆」とは! 残生までゆかなくても、年を重ねるにつれ帯びる錆がある。二席。宇宙を抱擁する一本の巨樹。青空にうすうすと見えるのだ。(後略)

<大串章選>
 ①秋暑し社葬の長き列に居て (川口市)青柳悠
 ②☆渾身(こんしん)のバックホームや雲の峰 (町田市)川井一郎
 ④熱帯夜消したき記憶つぎつぎと (東京都)大澤都志子
 ⑥芋殻焚く姉妹を雲が見て通る (群馬県東吾妻町)酒井大岳
 ⑩夏草や鎌倉古道に人を見ず (我孫子市)渡辺肇幸
 【評】第一句。現役社員の突然死であろうか。先輩同僚の長い列が続く。第二句。何としても本塁を踏ませてはならない。夏の高校野球が目に浮かぶ。(後略)

<稲畑汀子選>
 ①ずぶ濡(ぬ)れとなれば走らず大夕立 (横浜市)渡辺萩風
 ③☆渾身のバックホームや雲の峰 (町田市)川井一郎
 ⑤父母(ちちはは)の声を探してゐる墓参 (神戸市)岩水ひとみ
 【評】一句目。夕立でずぶ濡れの作者が開き直った瞬間である。(中略)三句目。野球の一コマ。フライをキャッチしてからの渾身の姿。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年9月10日)
朝日俳壇
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 【参考】
【朝日俳壇抄】つむじ風空蝉そらを飛びにけり ~9月4日~
【朝日俳壇抄】蟻地獄あなたの帰り待つてます ~8月28日~
【朝日俳壇抄】八月や骨で還れの骨さへも ~8月21日~
【朝日俳壇抄】戦争の滴り落つる日本かな ~8月14日~
【朝日俳壇抄】渾渾と泉湧きくる日野原忌 ~8月7日~
【朝日俳壇抄】天の川鳴門の渦に流れ入る ~7月31日~
【朝日俳壇抄】ヒアリ来る地球はますます炎えてくる ~7月24日~
【朝日俳壇抄】為政者の驕り露見や青嵐 ~7月10日~
【朝日俳壇抄】叩かれて叩かれてなほ油虫 ~7月3日~
【朝日俳壇抄】政権も徒党に堕すや走り梅雨 ~6月26日~
【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~


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【朝日俳壇抄】つむじ風空蝉そらを飛びにけり ~9月4日~

2017年09月04日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<稲畑汀子選>
 ①包丁の抜き差しならぬ西瓜(すいか)かな (東かがわ市)桑島正樹
 ②一瞬に満開となる水中花(神戸市)森岡喜恵子
 ⑥一生とはまこと短かし魂迎 (北海道鹿追町)高橋とも子
 ⑨他人(ひと)事のやうな白寿や生身魂(高崎市)山口博
 【評】一句目。大きな西瓜に包丁を入れたものの、切ることも抜くことも出来なくなった作者の困惑。二句目。ガラスの器の水に沈めた水中花。一瞬で満開になるとは妙。(後略)

<金子兜太選>
 ①戦記もの読む渾身(こんしん)の夏休み (横浜市)本多豊明
 ④夾竹桃(きょうちくとう)原爆の死は続きをり (浜松市)北河覚
 ⑤潮時と思ふ一事や髪洗ふ (横浜市)渡辺萩風
 ⑦探し得ぬまま迎火を焚(た)けるかな (大阪市)今井文雄
 【評】時節柄戦争を詠む句が多かった。本多さん、忘れないぞの意気込み。(後略)

<長谷川櫂選>
 ①捨て石の三百万や敗戦忌(福島県伊達市)佐藤茂
 ⑤原爆の日を刻み打つ時計かな(和歌山県上富田町)中松健
 ⑧鮎とどく然(しか)も長良の香して(愛西市)小川弘
 【評】戦争の秀句が並ぶ。一席。一個の捨て石も生まぬ外交と国造りを、と願う。(後略)

<大串章選>
 ①つむじ風空蝉(うつせみ)そらを飛びにけり (横浜市)守屋雅
 ③揚花火終焉の美を教へけり (岡崎市)米津勇美
 ④原爆忌気温三十七度なり(横須賀市)海老名さつき
 【評】第一句。つむじ風のおかげで、初めて空を飛ぶことができた。空蝉の喜び。第二句。敗戦後七十二年経った今も、マッカーサー元帥のサングラスとパイプが忘れられない。第三句。フィナーレの美しさ、人生もかくありたい。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年9月4日)
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【朝日俳壇抄】蟻地獄あなたの帰り待つてます ~8月28日~
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【朝日俳壇抄】戦争の滴り落つる日本かな ~8月14日~
【朝日俳壇抄】渾渾と泉湧きくる日野原忌 ~8月7日~
【朝日俳壇抄】天の川鳴門の渦に流れ入る ~7月31日~
【朝日俳壇抄】ヒアリ来る地球はますます炎えてくる ~7月24日~
【朝日俳壇抄】為政者の驕り露見や青嵐 ~7月10日~
【朝日俳壇抄】叩かれて叩かれてなほ油虫 ~7月3日~
【朝日俳壇抄】政権も徒党に堕すや走り梅雨 ~6月26日~
【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~



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【朝日俳壇抄】蟻地獄あなたの帰り待つてます ~8月28日~

2017年08月29日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<大串章選>
 ①シャガールの恋人達や天の川 (大分県日出町)松鷹久子
 ⑥写真の裏父の遺筆や終戦日 (益田市)井下みね子
 ⑦巨船めく病院の灯や夏終る (伊勢崎市)小暮駿一郎
 ⑧昼寝にも初心達人ありにけり (川西市)上村敏夫
 【評】第一句。ロシアで生まれフランスに永住したシャガール。「天の川」が幻想的な絵を想(おも)わせる。(後略)

<稲畑汀子選>
 ③幽谷の一瀑のこし暮れにけり(西宮市)黒田國義
 ⑦あつけなく逝きたる母や髪洗ふ (徳島県松茂町)奥村里
 ⑧雲海に孤高の山の姿あり (川西市)日塔脩
 ⑨引き返す道消えて無き出水かな (旭川市)大塚信太
 【評】(前略)三句目。深山幽谷の水音だけが暮れた闇に残っている詩情。

<金子兜太選>
 ①蟻地獄あなたの帰り待つてます (長岡市)内山秀隆
 ③考へる人の片手の渋団扇(うちわ)(神戸市)高橋寛
 ⑤風といふ大敵来たる竿灯(かんとう)祭(多摩市)吉野佳一
 【評】内山さん。真っ黒なジョークは軽みの真骨頂。むしろ爽やか。(中略)高橋さん。団扇は動いているのか、止まっているのか。(後略)

<長谷川櫂選>
 ②野球部と書かれし西瓜(すいか)合宿所 (神戸市)藤井啓子
 ③老いといふ泉に耳を澄しけり (三郷市)岡崎正宏
 ⑥無花果(いちじく)の畑又消え全部消ゆ (福岡市)藤掛博子
 ⑨億年の一と日八月十五日 (みよし市)稲垣長
 【評】(前略)二席。練習が終わったら全員でかぶりつくのだ。三席。泉のたとえが新鮮。老いが果して泉であるか、地獄になるか、その人次第。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年8月28日)
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【朝日俳壇抄】八月や骨で還れの骨さへも ~8月21日~

2017年08月22日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<長谷川櫂選>
 ②東京へ帰る朝(あした)の土用波 (横浜市)山本幸子
 ③八月や骨で還(かえ)れの骨さへも (岐阜県揖斐川町)野原武
 ④禾(のぎ)うたふ大麦ライ麦地平線 (ドイツ)ハルツォーク洋子
 ⑥☆重力と浮力のはざま海月(くらげ)かな (小平市)桂木遙
 ⑦原子炉の闇の奥より蜥蜴(とかげ)かな (霧島市)秋野三歩
 【評】(前略)二席。夏の終わりの淋(さび)しさ。土用波を見ているだけなのだけれど。三席。骨さえ帰ってはこなかったのだ。よみがえる憤りの一句。

<大串章選>
 ①白泉の廊下の奥のサングラス (上尾市)鈴木良二
 ⑥☆重力と浮力のはざま海月かな (小平市)桂木遙
 ⑦花氷封じ込めたき過去ばかり (福岡市)松尾康乃
 【評】第一句。戦争の不安を感じさせる昨今。「戦争が廊下の奥に立つてゐた 白泉」を思い出す。(後略)

<稲畑汀子選>
 がつくりと座り籐椅子(とういす)鳴りにけり(京都市)奥田まゆみ
 ②佐比売野(さひめの)の前も後も時鳥(ほととぎす)(浜田市)田中由紀子
 千年の杜に脈打ち滴るる(神戸市)涌羅由美
 デッサンの伏し目の少女夏深し(芦屋市)酒井湧水
 風涼し全快と云ふ嬉しさに(亀山市)鈴木秋翠
 ⑥茄子漬の鮮度は色に噛む音に(七尾市)本谷眞治郎
 ⑦汗をかくほどに元気をとり戻す(姫路市)黒田千賀子
 ⑧万全を期する朝より蝉時雨(柳川市)木下万沙羅
 蜩や余生を語る奥座敷(大阪市)友井正明
 花までは水に映さず楝(おうち)咲く(島根県邑南町)服部康人
 【評】(前略)二句目。島根県の三瓶山(さんべさん)の裾野、佐比売野に残った豊かな自然で聞く時鳥の声。(後略)

<金子兜太選>
 ③老躯(ろうく)へと戻る心地よプール出て(東大和市)板坂壽一
 ④空蝉(うつせみ)のしがみつきたるこの世かな(福岡市)松尾康乃
 【評】(前略)板坂さん。浮力と重力とを感じる科学の日々か。(後略)

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年8月21日)
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【朝日俳壇抄】戦争の滴り落つる日本かな ~8月14日~
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【朝日俳壇抄】戦争の滴り落つる日本かな ~8月14日~

2017年08月15日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<金子兜太選>
 ①夏至来るや地軸のずれる音がする (船橋市)藤井元基
 ②しんしんと摩文仁(まぶに)の丘を蟻の列 (川越市)益子さとし
 ③蓮の花祈りのかたちより開く (高松市)島田章平
 ⑥ふる里は歩くにかぎる赤のまま (松原市)西田鏡子
 ⑦更にこゑ挙げて神輿(みこし)の引き返す (川越市)佐藤俊春
 ⑧☆執筆の脳波をみだす庭の蝉 (船橋市)高橋清徳
 ⑩何かしら買ひ忘れたる炎天下 (相馬市)根岸浩一
 【評】藤井さん。長い一日。地軸のずれを感じる感覚良し。益子さん。激戦地での鎮魂。足下をじっと見る。島田さん。合掌から仏のうてなへ。静けさが伝わる。十句目根岸氏。夏の暑さが、老躯(ろうく)にはこたえるか。

<長谷川櫂選>
 ④灼(や)けるだけ灼けてまだまだ灼ける道 (栃木県壬生町)あらゐひとし
 ⑤愛されて全て失ふ蟻地獄 (長岡市)内山秀隆
 ⑩☆執筆の脳波をみだす庭の蝉 (船橋市)高橋清徳
 【評】(略)

<大串章選>
 ③草田男忌わが詩多産にして稚拙 (周南市)木村しづを
 ⑨戦争の滴り落つる日本かな (福島県伊達市)佐藤茂
 【評】(前略)第三句。俳諧味あり。「毒消し飲むやわが詩多産の夏来る 草田男」を踏まえる。

<稲畑汀子選>
 ③草引いて我家の庭をとり戻す (岩倉市)村瀬みさを
 ⑥この先で絶えし旧道葛の花 (奈良市)田村英一
 【評】(前略)三句目。ようやく庭の草引きを仕上げた作者の努力。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年8月14日)
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【朝日俳壇抄】渾渾と泉湧きくる日野原忌 ~8月7日~

2017年08月09日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。
☆印は共選作

<稲畑汀子選>
 ①脱ぎ捨てて海へ一直線の夏 (宇佐市)熊埜御堂義昭
 ③灯台の点(とも)る頃好し月見草 (横浜市)松永朔風
 ⑤星原に空を返して梅雨明くる(鹿児島市)青野迦葉
 ⑨もう誰の声も届かぬ水遊び(堺市)杉山千恵子
 【評】一句目。元気な若者の夏。浜辺に来て泳ぎたい気持ちが逸(はや)り、忽(たちま)ち水着姿になって海へ駆け込むのを見ている作者。(中略)三句目。月見草の咲く頃、灯台が点る至福の時間。

<金子兜太選>
 ①泰山木咲くや昭和の父の影 (尾張旭市)久永満
 ②渾渾(こんこん)と泉湧きくる日野原忌 (秩父市)浅賀信太郎
 ⑤射的場の銃の軽さよ巴里祭 (東京都)小出功
 ⑩油蝉更に声高老夫婦 (稲沢市)柴藤瑠美子
 【評】久永さん。泰山木の白く大きな花が、父への思いに厚みを加える。浅賀さん。野性味豊かで、かつ繊細であった日野原大老逝く。合掌。(中略)十句目柴藤さん。年寄りは元気が良い。

<長谷川櫂選>
 ②子とともに大きくなりし冷蔵庫 (さいたま市)齋藤正美
 ⑤銀漢や阿蘇は火の山水の山 (伊万里市)松尾肇子
 ⑦引揚げの着きし日もあり夜光虫 (大阪市)今井文雄
 ⑧老い独り寝付きの糧に一夜酒 (岐阜県八百津町)後藤みさ緒
 【評】(前略)二席。子どもの成長につれ、冷蔵庫も大きくしてきた。おもしろいところに気づいた。(後略)

<大串章選>
 ③鎌を研ぐ鬼の形相草いきれ (藤沢市)小田島美紀子
 ④折り鶴の千羽の黙(もだ)や原爆忌 (広島市)谷脇篤
 ⑤炎昼の東京砂漠喪服着て (山梨県市川三郷町)笠井彰
 【評】(前略)第三句。むっとする熱気の中で草刈鎌を研ぐ。「鬼の形相」が凄(すさ)まじい。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年8月7日)
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