①「ハッピー エレファント」(サラヤ)
②「緑の魔女」(ミマスクリーンケア)
③「ジョイコンパクト モイストケア」(プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン)
④「チャーミー マジカ」(ライオン)
(1)最近、「新世代」の台所用洗剤が次々に発売されている。売り文句は「自然環境への影響が小さい」「手肌に優しい」など。従来の洗剤とそれほど違うのか?
(2)①のボトルに貼られたシールには、「天然由来原料100%」と大きく書かれている。「植物原料100%の洗浄成分は優れた洗浄力と生分解性を発揮します」とも。
これを見て「自然環境に影響の少ないエコな洗剤だ」と幻想を持つ人がいるかもしれない。
しかし、その成分を見る限り、従来の台所用洗剤と大差ない。
①の主成分は、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)だ。AESは、代表的な合成界面活性剤の一種で、従来の台所用洗剤の主成分として使われている。
サラヤは、原料が100%植物であることを強調しているが、原料が植物であろうと石油であろうと、それらから作られるAESは、化学的に同じだし、性質も同じだ。
ことさら原料が植物であることを強調し、エコをうたうのは、何も知らない消費者を騙しているのだ。
(3)AESは、皮膚刺激性の強い合成界面活性剤だ。
AESの0.25%溶液をヒト29人に対して48時間貼付した実験では、
6人にかすかな紅斑
1人に明瞭な紅斑
1人に強い刺激反応
が認められた。これは、『洗剤の毒性とその評価』【注1】に掲載されているデータだが、同書では「AESは高濃度で刺激性を示し、その閾値は1回の塗布で濃度5%以上、反復塗布では1%付近、1回閉鎖塗布では0.1%付近と推定される」と結論づけている。
(4)AESは、石けん(脂肪酸ナトリウム)に比べると、魚に対する悪影響が大きい。AESの各魚種に対するLC50(半数致死濃度)は、次のとおり(数値が小さいほど悪影響が大きい)【注2】。
ヤマメ 3.2mg/リットル
コイ 5.6mg/リットル
ボラ 1.5mg/リットル
これに対して、石けんの場合、5種類の魚種に対するLC50は、もっとも小さな値でも約17mg/リットルにすぎない【注3】。
これらのデータからすると、AESは石けんに比べて生態系への影響がかなり大きい。
(5)以上のほか、
(a)ソホロリピッド(界面活性剤の一種)は、パーム油と糖から天然発酵母の発酵により得られたもので、完全に水と二酸化炭素に分解される、という。
(b)アルキルポリグリコシドは、合成界面活性剤の中では、皮膚に対する刺激が少ない、とされている。
しかし、主成分がAESである以上、基本的には従来の台所用洗剤とそれほど変わらない。
(6)エコの国・ドイツ生まれを強調する②だが、主成分のポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウムは、実はAESの一種だ。
AESにはいくつか種類があって、その代表がポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウムだ。
もう一つの界面活性剤であるヤシ油脂肪アミドプロピルベタインは、ヤシ油から作られる合成界面活性剤で、皮膚や目に対する刺激性が弱い、とされている。
しかし、主成分がAESである以上、①と同じことが癒える。
(7)③と④の場合、従来の台所用洗剤と同様に、AESとポリオキシエチレンアルキルエーテル(POER)が配合されている。POERは分解されにくいため、魚などへの影響が大きい合成界面活性剤だ。
(8)台所用洗剤は手荒れを起こし、河川や湖沼を汚染する、という一般通念がある。それを覆そうとして各メーカーは新製品を開発し、巧みなうたい文句で消費者の心をつかもうとしている。
しかし、中身は従来の製品と基本的には変わっていないのだ。
①「ハッピー エレファント」(サラヤ)・・・・主成分のアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)は、皮膚刺激性があり、手が荒れる可能性がある。魚への悪影響も石けんより大きい。
②「緑の魔女」(ミマスクリーンケア)・・・・主成分のポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウムは、皮膚刺激性があり、手が荒れる可能性がある。魚への悪影響も石けんより大きい。
③「ジョイコンパクト モイストケア」(プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン)・・・・主成分のアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、さらにポリオキシエチレンアルキルエーテルによる手荒れや魚への悪影響が懸念される。なお、③に含まれるアルキルアミンオキシドは合成界面活性剤の一種だが、蛋白変性を防ぐため、手荒れを起こしにくくする、とされている。
④「チャーミー マジカ」(ライオン)・・・・アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、さらにポリオキシエチレンアルキルエーテルによる手荒れや魚への悪影響が懸念される。なお、④に含まれるアルキルスルホン酸ナトリウムも合成界面活性剤の一種で、蛋白変性作用があるため、手荒れを起こす懸念がある。
【注1】旧・厚生省環境衛生局食品化学課編著『洗剤の毒性とその評価』(日本食品衛生協会、1982)
【注2】若林明子・元淑徳大学国際コミュニケーション学部教授
【注3】日本水環境学会[水環境と洗剤研究委員会]編『非イオン界面活性剤と水環境』(技報堂出版、2000)
□渡辺雄二(科学ジャーナリスト)「「新世代エコ洗剤」のエコ度を見れば」(「週刊金曜日」2016年2月19日号)
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②「緑の魔女」(ミマスクリーンケア)
③「ジョイコンパクト モイストケア」(プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン)
④「チャーミー マジカ」(ライオン)
(1)最近、「新世代」の台所用洗剤が次々に発売されている。売り文句は「自然環境への影響が小さい」「手肌に優しい」など。従来の洗剤とそれほど違うのか?
(2)①のボトルに貼られたシールには、「天然由来原料100%」と大きく書かれている。「植物原料100%の洗浄成分は優れた洗浄力と生分解性を発揮します」とも。
これを見て「自然環境に影響の少ないエコな洗剤だ」と幻想を持つ人がいるかもしれない。
しかし、その成分を見る限り、従来の台所用洗剤と大差ない。
①の主成分は、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)だ。AESは、代表的な合成界面活性剤の一種で、従来の台所用洗剤の主成分として使われている。
サラヤは、原料が100%植物であることを強調しているが、原料が植物であろうと石油であろうと、それらから作られるAESは、化学的に同じだし、性質も同じだ。
ことさら原料が植物であることを強調し、エコをうたうのは、何も知らない消費者を騙しているのだ。
(3)AESは、皮膚刺激性の強い合成界面活性剤だ。
AESの0.25%溶液をヒト29人に対して48時間貼付した実験では、
6人にかすかな紅斑
1人に明瞭な紅斑
1人に強い刺激反応
が認められた。これは、『洗剤の毒性とその評価』【注1】に掲載されているデータだが、同書では「AESは高濃度で刺激性を示し、その閾値は1回の塗布で濃度5%以上、反復塗布では1%付近、1回閉鎖塗布では0.1%付近と推定される」と結論づけている。
(4)AESは、石けん(脂肪酸ナトリウム)に比べると、魚に対する悪影響が大きい。AESの各魚種に対するLC50(半数致死濃度)は、次のとおり(数値が小さいほど悪影響が大きい)【注2】。
ヤマメ 3.2mg/リットル
コイ 5.6mg/リットル
ボラ 1.5mg/リットル
これに対して、石けんの場合、5種類の魚種に対するLC50は、もっとも小さな値でも約17mg/リットルにすぎない【注3】。
これらのデータからすると、AESは石けんに比べて生態系への影響がかなり大きい。
(5)以上のほか、
(a)ソホロリピッド(界面活性剤の一種)は、パーム油と糖から天然発酵母の発酵により得られたもので、完全に水と二酸化炭素に分解される、という。
(b)アルキルポリグリコシドは、合成界面活性剤の中では、皮膚に対する刺激が少ない、とされている。
しかし、主成分がAESである以上、基本的には従来の台所用洗剤とそれほど変わらない。
(6)エコの国・ドイツ生まれを強調する②だが、主成分のポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウムは、実はAESの一種だ。
AESにはいくつか種類があって、その代表がポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウムだ。
もう一つの界面活性剤であるヤシ油脂肪アミドプロピルベタインは、ヤシ油から作られる合成界面活性剤で、皮膚や目に対する刺激性が弱い、とされている。
しかし、主成分がAESである以上、①と同じことが癒える。
(7)③と④の場合、従来の台所用洗剤と同様に、AESとポリオキシエチレンアルキルエーテル(POER)が配合されている。POERは分解されにくいため、魚などへの影響が大きい合成界面活性剤だ。
(8)台所用洗剤は手荒れを起こし、河川や湖沼を汚染する、という一般通念がある。それを覆そうとして各メーカーは新製品を開発し、巧みなうたい文句で消費者の心をつかもうとしている。
しかし、中身は従来の製品と基本的には変わっていないのだ。
①「ハッピー エレファント」(サラヤ)・・・・主成分のアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)は、皮膚刺激性があり、手が荒れる可能性がある。魚への悪影響も石けんより大きい。
②「緑の魔女」(ミマスクリーンケア)・・・・主成分のポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウムは、皮膚刺激性があり、手が荒れる可能性がある。魚への悪影響も石けんより大きい。
③「ジョイコンパクト モイストケア」(プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン)・・・・主成分のアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、さらにポリオキシエチレンアルキルエーテルによる手荒れや魚への悪影響が懸念される。なお、③に含まれるアルキルアミンオキシドは合成界面活性剤の一種だが、蛋白変性を防ぐため、手荒れを起こしにくくする、とされている。
④「チャーミー マジカ」(ライオン)・・・・アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、さらにポリオキシエチレンアルキルエーテルによる手荒れや魚への悪影響が懸念される。なお、④に含まれるアルキルスルホン酸ナトリウムも合成界面活性剤の一種で、蛋白変性作用があるため、手荒れを起こす懸念がある。
【注1】旧・厚生省環境衛生局食品化学課編著『洗剤の毒性とその評価』(日本食品衛生協会、1982)
【注2】若林明子・元淑徳大学国際コミュニケーション学部教授
【注3】日本水環境学会[水環境と洗剤研究委員会]編『非イオン界面活性剤と水環境』(技報堂出版、2000)
□渡辺雄二(科学ジャーナリスト)「「新世代エコ洗剤」のエコ度を見れば」(「週刊金曜日」2016年2月19日号)
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