語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【朝日俳壇抄】渾身のバックホームや雲の峰 ~9月10日~

2017年10月16日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<金子兜太選>
 ①語り部の遺影となりて八月尽 (太田市)吉部修一
 ②秋暑しとどのつまりは老いにけり (山梨県市川三郷町)笠井彰
 ⑨入院の祈りは一つ新月に (福岡市)伊佐利子
 ⑩鉄砲百合四つ開けば四方向く (下関市)内田恒生
 【評】吉部さん。戦禍を知る人がまた一人減ってしまった。語り継ぐこと増々大事に。笠井さん。達観、嘆息、いずれにしても、まだまだ。阿知波さん。日常を爽やかに詠む。季語も日常を。十句目内田氏。含意と読むか否かは読み手次第。

<長谷川櫂選>
 ①秋暑し残生の錆(さび)ことのほか (山梨県市川三郷町)笠井彰
 ②宇宙樹のごと立ち上る雲の峰 (島根県邑南町)高橋多津子
 ⑥一山の大気動きて秋に入る (三重県菰野町)川村佳子
 ⑨仏壇に残暑そのまま閉ぢにけり (飯塚市)釋蜩硯
 【評】一席。「残生の錆」とは! 残生までゆかなくても、年を重ねるにつれ帯びる錆がある。二席。宇宙を抱擁する一本の巨樹。青空にうすうすと見えるのだ。(後略)

<大串章選>
 ①秋暑し社葬の長き列に居て (川口市)青柳悠
 ②☆渾身(こんしん)のバックホームや雲の峰 (町田市)川井一郎
 ④熱帯夜消したき記憶つぎつぎと (東京都)大澤都志子
 ⑥芋殻焚く姉妹を雲が見て通る (群馬県東吾妻町)酒井大岳
 ⑩夏草や鎌倉古道に人を見ず (我孫子市)渡辺肇幸
 【評】第一句。現役社員の突然死であろうか。先輩同僚の長い列が続く。第二句。何としても本塁を踏ませてはならない。夏の高校野球が目に浮かぶ。(後略)

<稲畑汀子選>
 ①ずぶ濡(ぬ)れとなれば走らず大夕立 (横浜市)渡辺萩風
 ③☆渾身のバックホームや雲の峰 (町田市)川井一郎
 ⑤父母(ちちはは)の声を探してゐる墓参 (神戸市)岩水ひとみ
 【評】一句目。夕立でずぶ濡れの作者が開き直った瞬間である。(中略)三句目。野球の一コマ。フライをキャッチしてからの渾身の姿。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年9月10日)
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