(1)「大統領閣下、あなたは私たちの身の上に起こることを理解していますか?」
9月5日、ニューヨークのダウンタウンで開かれたデモで、メキシコ移民の若い女性ローラが、涙ながらに訴えた。
同日、トランプ政権が「子どもの時に親に連れられて不法入国した若者らの強制送還を猶予する措置(DACA)」を打ち切ると発表し、急遽開かれた「DACAのために戦おう」というデモのクライマックスだ。
「私たちは、米国人として学校にも行き、職業もあります。強制送還されても、両親の国には身内も友達もいません。そればかりか、私たちが強制送還されると、家族が離れ離れになってしまうのです」
ローラは、そう続けた。
(2)オバマ前大統領が2012年に署名したDACAが開始した時、移民の多くの子女が喜び、涙した。それまで、不法移民であることを隠しながら、大学に進学したり、就職したりしていたのだ。
トランプ政権によると、DACA撤廃までの猶予は6カ月で、それまでに代替案を検討するように連邦議会に求めた。
同日(9月5日)、トランプ氏は声明で「違法な移民政策を終わらせる責任がある」と述べ、DACAは憲法違反という見解を示している。
(3)DACAによって、進学・就職といった「アメリカンドリーム」を見ることができるようになった若者=「ドリーマーズ」は、南米系を中心に、およそ80万人に上る。
DACAの生みの親であるオバマ氏は、トランプ政権発足後、沈黙を続けてきた。しかし、今回の打ち切り表明に対して、「残酷で自滅的な決定だ」と珍しく強い非難を示した。
DACAで保護されている人々を雇用している企業にとっても、大きな打撃となる。ザッカーバーグ・フェイスブック最高経営責任者(CEO)は、「残酷だ」と批判。クック・アップルCEOも「アップルはドリーマーと共に戦う」とツイートした。
(4)デモが開かれた9月5日現在、DACAの適用者は、6カ月後の計画は何も立てられない、わが身に何が起こるか分からない、という状況だった。
しかし、9月13日夜、トランプ氏と夕食を共にした民主党幹部は、DACA適用者が強制送還されないように法的措置を講じることで大統領と合意した、と電撃発表した。不法移民が入国しないように国境付近の警備を拡大する措置と抱き合わせで合意に達した、という。
翌14日、トランプ氏もこう述べて、合意を肯定した。
「80万人の若い人が、米国に連れられてきた。彼らが悪いわけではない。われわれは、DACAのための計画を練っているところだ」
(5)移民を増やしたくない、いや排除したい、とまで思っている保守派共和党議員や有権者からは、一斉に反対の声が上がった。国境警備の予算が付帯していた背景には、そうした人々を少しでも満足させなければならないという事情がある。
いずれにせよ、DACA適用者は10日間、強制送還の「悪夢」にさいなまれた。それが完全に消えるのかは、まだ不透明だ。撤廃を言い出した大統領がそれを撤回すると言っても、またいつ心変わりするか分からないのだから。
□津山恵子(ニューヨーク在住ジャーナリスト))「トランプ大統領のころころ変わる政策に振り回される不法移民」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月30日号)
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【参考】
「【中国】信用情報システム「芝麻信用」とは? ~個人の信用力を点数化~」
「【米国】北朝鮮問題の深刻化で浮上する開戦シナリオ ~1937年不況の再来?~」
「【欧州】英国のEU離脱選択で中東欧からの移民が激減 ~人手不足で農業は窮地に~」
「【欧州】ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決 ~EV普及の契機となるか~」
「【欧州】身近で頻発するテロで苦境に陥る欧州の観光業 ~ISが戦術を転換~」
「【中国】住宅を入手しやすい「新一線都市」が人気 ~地方の生活水準が向上~」
「【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~」
「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~」
「【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~」
「【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~」
「【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~」
「【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~」
9月5日、ニューヨークのダウンタウンで開かれたデモで、メキシコ移民の若い女性ローラが、涙ながらに訴えた。
同日、トランプ政権が「子どもの時に親に連れられて不法入国した若者らの強制送還を猶予する措置(DACA)」を打ち切ると発表し、急遽開かれた「DACAのために戦おう」というデモのクライマックスだ。
「私たちは、米国人として学校にも行き、職業もあります。強制送還されても、両親の国には身内も友達もいません。そればかりか、私たちが強制送還されると、家族が離れ離れになってしまうのです」
ローラは、そう続けた。
(2)オバマ前大統領が2012年に署名したDACAが開始した時、移民の多くの子女が喜び、涙した。それまで、不法移民であることを隠しながら、大学に進学したり、就職したりしていたのだ。
トランプ政権によると、DACA撤廃までの猶予は6カ月で、それまでに代替案を検討するように連邦議会に求めた。
同日(9月5日)、トランプ氏は声明で「違法な移民政策を終わらせる責任がある」と述べ、DACAは憲法違反という見解を示している。
(3)DACAによって、進学・就職といった「アメリカンドリーム」を見ることができるようになった若者=「ドリーマーズ」は、南米系を中心に、およそ80万人に上る。
DACAの生みの親であるオバマ氏は、トランプ政権発足後、沈黙を続けてきた。しかし、今回の打ち切り表明に対して、「残酷で自滅的な決定だ」と珍しく強い非難を示した。
DACAで保護されている人々を雇用している企業にとっても、大きな打撃となる。ザッカーバーグ・フェイスブック最高経営責任者(CEO)は、「残酷だ」と批判。クック・アップルCEOも「アップルはドリーマーと共に戦う」とツイートした。
(4)デモが開かれた9月5日現在、DACAの適用者は、6カ月後の計画は何も立てられない、わが身に何が起こるか分からない、という状況だった。
しかし、9月13日夜、トランプ氏と夕食を共にした民主党幹部は、DACA適用者が強制送還されないように法的措置を講じることで大統領と合意した、と電撃発表した。不法移民が入国しないように国境付近の警備を拡大する措置と抱き合わせで合意に達した、という。
翌14日、トランプ氏もこう述べて、合意を肯定した。
「80万人の若い人が、米国に連れられてきた。彼らが悪いわけではない。われわれは、DACAのための計画を練っているところだ」
(5)移民を増やしたくない、いや排除したい、とまで思っている保守派共和党議員や有権者からは、一斉に反対の声が上がった。国境警備の予算が付帯していた背景には、そうした人々を少しでも満足させなければならないという事情がある。
いずれにせよ、DACA適用者は10日間、強制送還の「悪夢」にさいなまれた。それが完全に消えるのかは、まだ不透明だ。撤廃を言い出した大統領がそれを撤回すると言っても、またいつ心変わりするか分からないのだから。
□津山恵子(ニューヨーク在住ジャーナリスト))「トランプ大統領のころころ変わる政策に振り回される不法移民」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月30日号)
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【参考】
「【中国】信用情報システム「芝麻信用」とは? ~個人の信用力を点数化~」
「【米国】北朝鮮問題の深刻化で浮上する開戦シナリオ ~1937年不況の再来?~」
「【欧州】英国のEU離脱選択で中東欧からの移民が激減 ~人手不足で農業は窮地に~」
「【欧州】ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決 ~EV普及の契機となるか~」
「【欧州】身近で頻発するテロで苦境に陥る欧州の観光業 ~ISが戦術を転換~」
「【中国】住宅を入手しやすい「新一線都市」が人気 ~地方の生活水準が向上~」
「【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~」
「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~」
「【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~」
「【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~」
「【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~」
「【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~」