語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】&宮崎正弘 猛毒国家、中国 ~中国の権力闘争と将来像~

2016年06月09日 | ●佐藤優
 もっぱら佐藤優がロシア、宮崎正弘が中国を語る。2010年現在の中国の権力闘争について、その多くを宮崎正弘が伝える。

   *

 毛沢東は、大学を出ていない。幼い頃、村の寺子屋で学んだが、学齢らしい学歴はない。
 毛を継いだ小平も、ほとんど学歴はない。彼はフランスで労働者をしていた。ただ、は毛を目の前に見ていたから、権力の掌握のしかたや独裁気引力の中における処世術を非常によく知っていた。
 江沢民になって、初めて大学のエリートが出てきた。江は、上海交通大学出身である。ちなみに、中国の4大エリート校は、北京大学、清華大学、上海復旦大学、上海交通大学である。
 江は、上海市の党書記だったが、小平により総書記に抜擢された。最初は形だけの権力だったが、小平を上手に利用して、体制を固めていった。江に従わない陳希同、北京を牛耳っていた政治局員は、冤罪事件をでっちあげてて逮捕、禁固16年とし、20年目の今も内蒙古自治区の刑務所に幽閉している。
 江は、陳を排除した結果、執行部の半分の主導権を握った。しかし、軍が従わない。江には軍歴がない。そこで、江は大将の辞令を乱発し、13年間に64名の「上将」(大将)を任命した。この人事によって、最後に江は軍を掌握することができた。

 権力者には、権威、権力、財力の3つが揃っていなければならない。日本の場合、権威は天皇、権力は政治家か朝日新聞かよくわからないが、財力は財界にあり、「三権分立」である。
 江は、上海からいきなり北京に入ったので、仲間がいない。有力な同志もいない。
 幸運にも、産業革命の波に遭遇した。それまでは、国家予算を握る者がリベートを得る利権を持っていた。その守旧派を代表したのが李鵬だった。ところが、IT革命が起きた。携帯電話やパソコンを製造するメーカーは、江の地元である上海にあった。その次に金融革命が起きたが、銀行と保険は上海派の利権だった。かくして、江は急激に財力を手に入れることができた。

 江沢民の次に登場したのが、胡錦濤である。彼は、清華大学と党学校を出たエリートで、党学校と清華大学のOBを連れてきた。従来であれば、それで一気に権力を握れるはずだが、利権が入ってこないため、まず軍が従わなかった。軍の利権の半分以上を、まだ江沢民派が握っていた。
 胡は、立ち往生したのだが、まず副省長クラスや次長クラスのポストを取る作戦をとった。省長クラスは、まだ半分しか抑えていないが、副省長クラスはほぼ胡錦濤派に塗り代わった。共産党中央委員会は、まだ江の上海派の天下だが、胡錦濤派は江蘇省、浙江省、広東省、河南省、河北省といった中原を抑えた。
 胡は、徐々に権力基盤を固めていき、2009年から本格的な権力掌握が始まった。広東閥の締め上げに着手した。いま、胡錦濤の直系が広東省長に就いている。重慶に行っている薄煕来は胡と距離があるが、従来からの地元幹部を次々に失脚させ、地域的権力を掌握しつつある。
 2012年に次の国家主席と交代するから、時間がもう限られているが、それまでにもう一度か二度はドタバタ劇があるだろう。

 中国の知識人は、ほとんどがニューヨークに逃げてしまった。
 一部エリートだけが残っている。このイデオローグたちは、中国でもまじめな部類に属する人たちで、毛沢東理論の再復活をねらっている。彼らは、利権のおこぼれにあずかれず、長屋のようなボロ・アパートに住んでいる。大学の同級生たちは皆スポーツカーを乗りまわし、愛人を2人ぐらいもって愉しくやっている。なんで俺だけこんなに貧乏なのだろう、というルサンチマンが渦巻いている。そこで毛沢東理論の復活しようというわけだ。これは別な意味で危険な動きだ。

 今後の中国は、結局いままでの歴史のくり返しになるだろう。
 現在の共産党王朝がどこで終わるかというと、巨大な近く変動が起きたときだろう。
 シナリオの第一は、国内の分裂だ。北京政権、これに刃向かう上海メガロポリスの利権屋、広東。この3つは昔から民族が違うし、分裂しても不思議ではない。
 さらに、そのときの権力集中の度合いによっては、チベット、新疆ウイグル、南モンゴルが独立に動く可能性もある。そこに、ロシアや外国勢力が入ってくる余地が生まれる。新疆ウイグルは、特に分裂の可能性が高い。中共治下ではコーランを禁止されているから、より原理主義的になっている。
 
 もう一つの不安要因は、対外膨張のし過ぎだ。2兆4千億ドル近くの外貨準備高(2010年1月現在)があって、米国の国債を買うものもよいが、なぜ自分たちの国の中に投資しないのか不思議だ。
 資源国に対する援助は、中南米のベネズエラから、アフリカのコンゴやアンゴラ、イラン・イラクのガス油田、リビアの油田、スーダンなど、250億ドルぐらいを投資している。いったい何をしようとしているのかがわからない。
 石油は乱高下が激しい商品なのだが、向こう10年、20年、右肩上がりで原油代金が上がり続けるという前提で中国は投資している。危ない。まさにバブルだが、そもそも中国人は目の前の利権ばかり追いかけている。それは、不動産投資熱をみても明らかだ。

□佐藤優『猛毒国家に囲まれた日本 ロシア・中国・北朝鮮 』(海竜社、2010)/共著:宮崎正弘
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 【参考】
【佐藤優】&宮崎正弘 言語・民族・国家 ~グルジアと中国~
【佐藤優】&宮崎正弘 猛毒国家、北朝鮮

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