語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【フェルメール】《兵士と笑う娘》 ~赤瀬川源平『フェルメールの眼』~

2018年08月22日 | □旅
 路上観察学を開拓した赤瀬川源平が、フェルメールの全作品36点の観察を集約したのが本書。たとえば、《兵士と笑う娘》についてこう書く。

---(引用開始)---
 フェルメールの室内画は、左に窓、正面に壁掛け地図、そして人物、という構図が定番である。その中でもこの絵はいちばん明るく、地図がはっきり見える。女性の顔もいちばん明るい。
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 男の目はここからは見えないが、これも互いに見つめ合う一対の視線である。画面中央横位置に、そういうぴんと張り詰めた直線がある。直接に絵具で線としては描かれてはいないのに、でも絵を見ているとそういう見えない線が、何だかハレーションのような力で強く浮かび上がるのを感じる。
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■歯まで見える笑顔
 綺麗な笑顔だ。唇の両端がふわりと上がり、白い歯まで見えて、明らかに笑顔である。
 じつは絵の中に笑顔が描かれること自体が珍しいのだ。それも現代ならともなく、19世紀以前の古典的な絵の風習の中で、人物が笑って歯まで見えているというのは、ありそうでほとんどない。絵は厳粛なもの、という習慣が根強くあったのだろう。フランス・ハルスの肖像画で、はじめて白い歯の笑顔を見たのが私としては最初だ。
 同時代に活躍したハルスはひらすら庶民生活をスピード感のあるタッチで描いた画家なので、笑顔が登場したのは自然の成り行きでもある。でもフェルメールの落ち着いた地味な絵に、よく見ると笑顔が多いというのは意外な気がする。
 フェルメールの残した作品はいまのところ(1998年)36点だといわれており、その中に登場する人物は55人(2点の風景画の点景人物は除く)、そのうちわずかながらでも歯の見える人物は11人(他に歯は見えるけど笑顔でないのが1人)というのはかなりな数字だと思う。
 フランス・ハルスもフェルメールもオランダの画家。無関係ではないだろう。
---(引用終了)---

□赤瀬川源平『[新装版]赤瀬川源平が読み解く全作品 フェルメールの眼』(講談社、2012)の「3 兵士と笑う娘」を引用

 【参考】
【フェルメール】《牛乳を注ぐ女》 ~『20世紀最大の贋作事件』~
【フェルメール】の青はどこから来ているか? ~『フェルメール 光の王国』~

 
 《兵士と笑う娘》(1658~1659年頃)/フリック・コレクション(ニューヨーク)

 
 本書


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