<デカルトを理解するために僕らに不足しているものは、常に知恵である。見たところ明瞭で、模倣も容易なら反駁も容易なようだ。しかも、いたるところほとんど底のしれない感じだ。おそらくだれもこれほどみごとに、おのれのために思いをこらしたものはなかった>
<彼の言葉は、なにごとも吹聴しない。世のならわしどおりの言葉だ。デカルトは、自分の宗教も情熱も性癖も、ただ一つの言葉さえつくりだしはしなかったが、そういうものはみな一体となって、すべて内からの光に照らされ、あの癖のない自然な言葉に乗って僕らに伝わる>
<デカルトはここにいる、どこにでもいる、分割できない全体だ。自己にあれほど即して哲学の仕事をした人はなかった。感情はなにものも失わず思想となる。そこに全人間が現れ、読者はおのれの姿を見失う。それ以上のことを、この疑いぶかい目は約束しない。いんぎんには対してくれるが、勇気をつけてはくれない。そこから、革命を否認する、軽蔑をうかべた、この保守的な精神を理解しなければならない。若いころの自分のなにものも否定はしなかったのだから。組織の革変はしなかったが、革命もなく、新しい道もなく、精神のうちで、すべてを改変したのだから>
<デカルトの肖像が、あまり期待もせずに人々の理解を待ってから、やがて三世紀になる>
□アラン(小林秀雄訳)『精神と情熱とに関する八十一章』(創元ライブラリ、1997)第2部第6章「デカルト賛」
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<彼の言葉は、なにごとも吹聴しない。世のならわしどおりの言葉だ。デカルトは、自分の宗教も情熱も性癖も、ただ一つの言葉さえつくりだしはしなかったが、そういうものはみな一体となって、すべて内からの光に照らされ、あの癖のない自然な言葉に乗って僕らに伝わる>
<デカルトはここにいる、どこにでもいる、分割できない全体だ。自己にあれほど即して哲学の仕事をした人はなかった。感情はなにものも失わず思想となる。そこに全人間が現れ、読者はおのれの姿を見失う。それ以上のことを、この疑いぶかい目は約束しない。いんぎんには対してくれるが、勇気をつけてはくれない。そこから、革命を否認する、軽蔑をうかべた、この保守的な精神を理解しなければならない。若いころの自分のなにものも否定はしなかったのだから。組織の革変はしなかったが、革命もなく、新しい道もなく、精神のうちで、すべてを改変したのだから>
<デカルトの肖像が、あまり期待もせずに人々の理解を待ってから、やがて三世紀になる>
□アラン(小林秀雄訳)『精神と情熱とに関する八十一章』(創元ライブラリ、1997)第2部第6章「デカルト賛」
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