(承前)
(10)古賀茂明・古賀茂明政策ラボ代表が番組で発言した内容は、菅義偉・官房長官が言うように「事実無根」なのか。
「文藝春秋」2015年5月号で、上杉隆・自由報道協会事務局長/「NO BORDER」代表取締役がこの問題をめぐる詳細なレポートを寄稿している。その中で、先の「イスラム国」をめぐる発言に関して次のように書いている。
「放送を見ていた官房長官の秘書官から局幹部に抗議のメールが届いたという情報がスタッフの間で広まった。菅は、会見で圧力をかけたという話を完全に否定し、テレ朝も当の秘書菅も事実でないと本誌(文藝春秋)に回答する。しかし、古賀氏が3月27日の放送で『官邸の皆さんからバッシング』と発言したのは、この情報も影響しているのだろう」
この点は、今回の問題の核心でもある。
神保太郎・「世界」誌「メディア時評」者もテレ朝に確認してみた。すると、上杉局長のいわゆる「抗議メール情報」が広まったのは事実だという。
してみると、菅官房長官自身の会見発言こそ虚偽であり、それを放送したテレビ局も菅発言の裏をとらずに誤報を流したことになる。
(11)そもそも、仮に圧力を加えたところで、当事者が「圧力」と認めるはずはない。それは安倍晋三・首相が証明している。
いまから遡ること10年前の2005年1月に発覚した、旧日本軍慰安婦を取り上げた「NHK番組改変問題」はその典型例だ。2001年1月の番組放送前日、安倍晋三・内閣官房副長官(当時)は、松尾武・NHK放送総局長と面会し、「公平・中立に」と求め、その後には大幅な映像削除・改変が行われた問題だ。
むろん、安倍首相は「圧力」を認めてないが、放送法4条の「政治的に公平であること」などを根拠に政府中枢の人物が個別具体的な番組内容について直接注文をつけるのは、紛れもない圧力であり、公権力による放送の自由への干渉だ。
この事実は、放送当時の番組ディレクターだった人物が内部告発をしたことによって明るみに出た。
しかし、NHKという組織そのものは、安倍首相による「政治圧力」を認めていない。今回のテレビ朝日の反応とそっくりだ。
(12)ある関係者は、「古賀さんの降板は、昨年末にはその流れがあった」と明かす。
「もう呼ぶな」という話はすでにできたいた、というのだ。そこで、4月という番組改編期を区切りとしたのではないか。
関係者によると、早河洋・テレビ朝日会長は報ステの原発問題に関する厳しい追及姿勢に頭を抱えていたらしい。
たしかに、県民健康管理調査の甲状腺検査をめぐる福島県の不誠実な姿勢を取り上げた報道など、優れた内容が多かった。当然、政府や県から睨まれる。
絶妙なバランスの中で続けてきた原発報道だったが、一方で、それを早河会長が大勢の職員がいる中で露骨に批判したこともある、という。
古賀代表が原発即時廃止論者であることは言わずもがな。先の上杉レポートでは、他番組に出演中の古賀代表に、古館キャスターがスタッフをさしむけ、原発問題で助言を求めた、というエピソードが書かれている。
それを支えたのは、名チーフプロディーサーだ(同じく番組を外され、4月から経済部長になった)。ある意味で、報ステのジャーナリズムを牽引した人物だ。
早河会長は、表向き確認されただけでも、安倍首相と2回会食を重ねている(2013年3月と2014年7月)。いずれも見城徹・放送番組審議会委員長/幻冬舎社長が同席。2回目には、吉田慎一・テレビ朝日新社長(朝日新聞出身)もいた。
安倍首相との距離が問われる中で、あまりにも無神経というしかない。
原発再稼働を目指す安倍首相に共鳴する早河会長が、チーフプロデューサーや古賀代表のクビを狙っていた・・・・と勘ぐられても仕方ない。
(13)チーフプロデューサーなどを番組から外す口実を与えたのは、九州電力川内原発をめぐるニュース(2014年9月10日放送)の扱いだったのではないか。
田中俊一・原子力規制委員会委員長が、記者会見で竜巻の影響評価ガイドに係る質問に答えた。にもかかわらず、火山に係る発言になるよう編集して報じた。記者とのやりとりを省略し、田中委員長が複数への質問への回答を拒んだかのような編集を行った。
テレビ朝日は、この報道に対して番組内で謝罪するとと共に、プロデューサーら計7人を処分した。
さらに、今年2月、BPOが「客観性と正確性、公平性を欠いた放送倫理違反」とする意見書を出した。・・・・あろうことか、BPOへの審理を申し立てたのは、ほかならぬテレビ朝日だった、という。
経営陣は、この報道を奇貨として問題とし、恵村順一郎・朝日新聞論説委員を含む報ステの「顔」(3人)を外すという体制刷新を図った・・・・そういうシナリオが作られた、と推定される。
古賀代表が番組の中で、「プロデューサーが今度、更迭されるというのも事実です」と明かし、古館キャスターが「更迭ではないと思いますよ」と反論しているが、異動の背景を踏まえれば、更迭人事といても過言ではない。
(14)以上のような事情は、本来であればすべて「水面下」に隠され、視聴者には知らされないまま4月を迎えたはずだ。しかし、最後の最後でそれを白日の下にさらした・・・・これが古賀発言の本質だ。
古賀代表は、朝日新聞の取材に対して、「(テレビ局側に)政府批判を自粛するムードが広がっている。背後には政権与党の(テレビ局への)圧力と懐柔があると考えている。この二つを伝えたかった」と語っている。
自民党情報通信戦略調査会の聴取に素直に応じる姿勢を見せた福田テレ朝専務の表情がテレビ・ニュースで流れた。政権与党による「圧力」というより、むしろ、テレ朝経営陣による安倍政権への同調というのが真相ではないか。もはや「萎縮」という言葉では説明できない。
(15)吉田テレ朝社長の声が聞こえてこないのはなぜか。
吉田社長は、駆け出し記者時代に、木村守江・福島県知事の汚職を追及し、「木村王国の崩壊」を描いた(新聞協会賞受賞)。同一人物とは思えない吉田社長の沈黙は、今日のメディア状況を示唆しているとも言える。
□神保太郎「メディア批評第90回」(「世界」2015年6月号)の「(2)報ステ・古賀発言の本質」
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【参考】
「【テレビ】に対する政権の圧力(1) ~テレ朝問題(8)~」
「【古賀茂明】テレビコメンテーターの種類 ~テレ朝問題(7)~」
「【報道】古賀氏ら降板の裏に新事実 ~テレ朝問題(6)~」
「【報道】ジャーナリズムの役目と現状 ~テレ朝問題(5)~」
「【古賀茂明】氏を視聴者の7割が支持 ~テレ朝問題(4)~」
「【古賀茂明】氏、何があったかを全部話す ~テレ朝「報ステ」問題(3)~」
「【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~」
「【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~」
(10)古賀茂明・古賀茂明政策ラボ代表が番組で発言した内容は、菅義偉・官房長官が言うように「事実無根」なのか。
「文藝春秋」2015年5月号で、上杉隆・自由報道協会事務局長/「NO BORDER」代表取締役がこの問題をめぐる詳細なレポートを寄稿している。その中で、先の「イスラム国」をめぐる発言に関して次のように書いている。
「放送を見ていた官房長官の秘書官から局幹部に抗議のメールが届いたという情報がスタッフの間で広まった。菅は、会見で圧力をかけたという話を完全に否定し、テレ朝も当の秘書菅も事実でないと本誌(文藝春秋)に回答する。しかし、古賀氏が3月27日の放送で『官邸の皆さんからバッシング』と発言したのは、この情報も影響しているのだろう」
この点は、今回の問題の核心でもある。
神保太郎・「世界」誌「メディア時評」者もテレ朝に確認してみた。すると、上杉局長のいわゆる「抗議メール情報」が広まったのは事実だという。
してみると、菅官房長官自身の会見発言こそ虚偽であり、それを放送したテレビ局も菅発言の裏をとらずに誤報を流したことになる。
(11)そもそも、仮に圧力を加えたところで、当事者が「圧力」と認めるはずはない。それは安倍晋三・首相が証明している。
いまから遡ること10年前の2005年1月に発覚した、旧日本軍慰安婦を取り上げた「NHK番組改変問題」はその典型例だ。2001年1月の番組放送前日、安倍晋三・内閣官房副長官(当時)は、松尾武・NHK放送総局長と面会し、「公平・中立に」と求め、その後には大幅な映像削除・改変が行われた問題だ。
むろん、安倍首相は「圧力」を認めてないが、放送法4条の「政治的に公平であること」などを根拠に政府中枢の人物が個別具体的な番組内容について直接注文をつけるのは、紛れもない圧力であり、公権力による放送の自由への干渉だ。
この事実は、放送当時の番組ディレクターだった人物が内部告発をしたことによって明るみに出た。
しかし、NHKという組織そのものは、安倍首相による「政治圧力」を認めていない。今回のテレビ朝日の反応とそっくりだ。
(12)ある関係者は、「古賀さんの降板は、昨年末にはその流れがあった」と明かす。
「もう呼ぶな」という話はすでにできたいた、というのだ。そこで、4月という番組改編期を区切りとしたのではないか。
関係者によると、早河洋・テレビ朝日会長は報ステの原発問題に関する厳しい追及姿勢に頭を抱えていたらしい。
たしかに、県民健康管理調査の甲状腺検査をめぐる福島県の不誠実な姿勢を取り上げた報道など、優れた内容が多かった。当然、政府や県から睨まれる。
絶妙なバランスの中で続けてきた原発報道だったが、一方で、それを早河会長が大勢の職員がいる中で露骨に批判したこともある、という。
古賀代表が原発即時廃止論者であることは言わずもがな。先の上杉レポートでは、他番組に出演中の古賀代表に、古館キャスターがスタッフをさしむけ、原発問題で助言を求めた、というエピソードが書かれている。
それを支えたのは、名チーフプロディーサーだ(同じく番組を外され、4月から経済部長になった)。ある意味で、報ステのジャーナリズムを牽引した人物だ。
早河会長は、表向き確認されただけでも、安倍首相と2回会食を重ねている(2013年3月と2014年7月)。いずれも見城徹・放送番組審議会委員長/幻冬舎社長が同席。2回目には、吉田慎一・テレビ朝日新社長(朝日新聞出身)もいた。
安倍首相との距離が問われる中で、あまりにも無神経というしかない。
原発再稼働を目指す安倍首相に共鳴する早河会長が、チーフプロデューサーや古賀代表のクビを狙っていた・・・・と勘ぐられても仕方ない。
(13)チーフプロデューサーなどを番組から外す口実を与えたのは、九州電力川内原発をめぐるニュース(2014年9月10日放送)の扱いだったのではないか。
田中俊一・原子力規制委員会委員長が、記者会見で竜巻の影響評価ガイドに係る質問に答えた。にもかかわらず、火山に係る発言になるよう編集して報じた。記者とのやりとりを省略し、田中委員長が複数への質問への回答を拒んだかのような編集を行った。
テレビ朝日は、この報道に対して番組内で謝罪するとと共に、プロデューサーら計7人を処分した。
さらに、今年2月、BPOが「客観性と正確性、公平性を欠いた放送倫理違反」とする意見書を出した。・・・・あろうことか、BPOへの審理を申し立てたのは、ほかならぬテレビ朝日だった、という。
経営陣は、この報道を奇貨として問題とし、恵村順一郎・朝日新聞論説委員を含む報ステの「顔」(3人)を外すという体制刷新を図った・・・・そういうシナリオが作られた、と推定される。
古賀代表が番組の中で、「プロデューサーが今度、更迭されるというのも事実です」と明かし、古館キャスターが「更迭ではないと思いますよ」と反論しているが、異動の背景を踏まえれば、更迭人事といても過言ではない。
(14)以上のような事情は、本来であればすべて「水面下」に隠され、視聴者には知らされないまま4月を迎えたはずだ。しかし、最後の最後でそれを白日の下にさらした・・・・これが古賀発言の本質だ。
古賀代表は、朝日新聞の取材に対して、「(テレビ局側に)政府批判を自粛するムードが広がっている。背後には政権与党の(テレビ局への)圧力と懐柔があると考えている。この二つを伝えたかった」と語っている。
自民党情報通信戦略調査会の聴取に素直に応じる姿勢を見せた福田テレ朝専務の表情がテレビ・ニュースで流れた。政権与党による「圧力」というより、むしろ、テレ朝経営陣による安倍政権への同調というのが真相ではないか。もはや「萎縮」という言葉では説明できない。
(15)吉田テレ朝社長の声が聞こえてこないのはなぜか。
吉田社長は、駆け出し記者時代に、木村守江・福島県知事の汚職を追及し、「木村王国の崩壊」を描いた(新聞協会賞受賞)。同一人物とは思えない吉田社長の沈黙は、今日のメディア状況を示唆しているとも言える。
□神保太郎「メディア批評第90回」(「世界」2015年6月号)の「(2)報ステ・古賀発言の本質」
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【参考】
「【テレビ】に対する政権の圧力(1) ~テレ朝問題(8)~」
「【古賀茂明】テレビコメンテーターの種類 ~テレ朝問題(7)~」
「【報道】古賀氏ら降板の裏に新事実 ~テレ朝問題(6)~」
「【報道】ジャーナリズムの役目と現状 ~テレ朝問題(5)~」
「【古賀茂明】氏を視聴者の7割が支持 ~テレ朝問題(4)~」
「【古賀茂明】氏、何があったかを全部話す ~テレ朝「報ステ」問題(3)~」
「【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~」
「【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~」