![]() | 凍える口―金鶴泳作品集金 鶴泳クレインこのアイテムの詳細を見る |
今日は太宰治の命日であり誕生日(桜桃忌)。群馬の作家、金鶴泳の作品『凍(こご)える口』を読んでみました。
『凍える口』、力作だと思います。作風は異なりますが、読んでいて太宰治小説のことを思わずにはいられませんでした。
太宰治(1909-1948)と金鶴泳(1938-1985)。
どちらも経済的には、最高の高等教育まで受けられた裕福な環境に育つ。ともに秀才。東大に進学するところまでは良く似ている。しかし専攻は、太宰のフランス文学に対して、金鶴泳は、放射性同位元素などを研究し博士課程まで進んでいる化学者。
小説家の多くが文型の多い中で『凍える口』の性描写も理型の作家ならではの表現が感じられて新鮮だった。
「ぼくはしみじみと落ち着いた安らかな気持ちだった。性の営みにかかる時間こそ、人間にとってもっともエネルギーレベルの低い時間あり、もっとも低い時間であるがゆえに、その時間においてぼくの心はもっとも安定するのだった・・」
太宰治は故郷津軽のことがしばしば出てくるが、金鶴泳は在日朝鮮人の出自が深く意識にあり、さらに吃音の苦しさもある。自分に課せられたものは社会変革より自己変革が急務となっています。
まだ『凍える口』を一冊を読んだだけですが私は金鶴泳の小説に魅せられました。高校時代に太宰治を読んだ時の気持ちを思い出す。理系の作家らしさ、それが小説のなかに随所に感じ取れるとこるがまた面白い。
太宰治、金鶴泳、どちらも40前後で自らの命を絶つ。桜桃忌の日に金鶴泳を読む。これも何かの縁。合掌。
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