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♪「ブラバン」津原泰水著 新潮文庫
高校の弱小ブラスバンドの面々が、卒業以来四半世紀を経て中年になってからメンバーの披露宴で演奏するためにバンドを再結成する。
彼らの瑞々しい高校時代と、ちょっと現実にくたびれた40を過ぎたオジサン・オバサンの現在が、ほろ苦く切なく描かれた話だ。
主人公の他片(たひら)は、今はいつ潰れてもおかしくない場末のバーの経営者。
高校時代の先輩に声を掛けられ、図らずも昔のメンバーを集めてブラパンの再結成に協力することになる。
卒業してから25年。死んだ者、行方不明の者、事故で片腕を失くした者、幸せに結婚したり、家業を継いでいる者、etc、etc・・・。
最初は全くやる気がなかったが、仲間に会うたびに高校の頃の出来事が蘇り、次第にのめり込んでゆく。
高校の頃の、情熱と覚醒と希望と挫折を併せ持つ複雑な青春時代。
中年になって、十代の頃の希望と挫折を、若気の至りと皮肉な微笑で振り返り、でももう一度バンドをやっても良いかなと昔を懐かしむ今の自分・・・。
高校時代と現代を行ったり来たりして、それぞれの時代の自分と友人たちの時々の人生を克明に描く。
中学と高校の1年間をブラバンで過した僕には、読んでいて胸に迫るもがあった。
懐かしさと、途中で止めてしまった後悔。主人公の他片ほどではないが、僕にも忸怩たる思いがある。
また主人公たちが高校生だったのが1980年。多少ずれるものの、出てくる音楽や風俗は僕たちの青春時代と共通する。
そういう意味で、とても面白くかつ感動的に読めた。
ただ、高校時代と現代を行ったり来たりすること、登場人物が多くて、そのキャラと相関関係が良く理解できないこと、そして広島弁?がすんなり頭に入らないことなどにより、せっかくの話の魅力をスポイルしている。
話の中に、主人公が父親にベースギターを買ってもらうシーンが出てくる。
決して裕福な家庭ではなく、父親も若い頃にマンドリンは多少弾いたものの、ブラバンやロックには全く興味も理解も示さなかった。
しかし、いざベースギターを買うとなったら一緒に楽器店に付いて来た。
フェンダーのコピー物の国産品を手に取った主人公に父親が「それはコピーやろ。本物はありますか」と店員に聞く。
「本物を弾かせてやってください」「いい音が出るか?それでええか?」
結局主人公は本物のフェンダー・プレシジョンベーズを買ってもらう。17万円。今で言えば3倍近いだろう。
このシーンはちょっと感動した。
高校の頃に、僕も父親にフルートを買ってもらった。
ヤマハのYFL-31という、入門機種の中では上位の楽器だった。
ウチの父も、あまり安物では飽きてしまうし上達もしないと思ったのだろう。
当時3万円台、今は同等の後継機種が10万円以上する。
あの時、とても父に感謝したことを思い出した。
そのフルートは今も手元にあるが、すっかりシルバーメッキが黒ずんでしまい、リペアに6万円もすると言われてしまった・・・。
なんとかリペアして、また吹きたいと思っている。