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飛べない鳥エミューとの「戦争」、強さ示した奇妙な物語

2025-01-23 | 先住民族関連

 

ナショナル ジオグラフィック2025年1月22日 5:00

1930年代、オーストラリアの原野で、他に類を見ない戦いが繰り広げられた。戦ったのは、およそ2万羽の背の高い飛べない鳥のエミューと機関銃を装備した兵士たちだ。すぐに圧勝すると踏んだ国の期待は大きく外れ、「エミュー戦争」として知られる屈辱的で滑稽なエピソードが繰り広げられた。

とはいえ、この奇妙な歴史の一幕は、単なる軍事的失策以上の意味をもっていた。エミュー戦争は、彼らがオーストラリアの生態系において果たしている重要な役割を明らかにし、同国を象徴する種の一つとしての地位を確固たるものにしたのだ。

「作戦はまるでうまくいきませんでした」

第1次世界大戦後、オーストラリア政府は5000人以上の帰還兵を農民としてオーストラリア最西端の州に定住させようとした。しかし、土壌が貧弱で降雨量も不安定なこの地域の環境は厳しく、定住は困難を極めた。

1932年に深刻な干ばつが発生し、食料を求めて農地に押し寄せた2万羽近いエミューがフェンスを破ったため、小型の害獣が侵入するようになると状況はついに限界に達した。

農民が応援を要請し、1932年11月2日、オーストラリア陸軍砲兵隊の兵士が3名、2丁のルイス軽機関銃を携えてやってきた。任務はいかにも簡単そうだった。エミューを駆除し、作物を守ればいいのだ。

ところが、作戦はすぐに混乱に陥る。「当時の人々は、エミューという種を甘く見ていたのでしょう」と、シドニーにあるタロンガ動物園の飼育員サラ・コマッキオ氏は言う。「エミューは非常に素早く機敏な鳥なので、作戦はまるでうまくいきませんでした」

最初の3日間で兵士たちが仕留めたエミューはわずか30羽に留まった。エミューは大きな群れを作らず散り散りになっているため、狙いを定めるのは容易ではなかった。

2日後、水飲み場での待ち伏せ作戦の最中、あたりにたむろする数千羽のエミューを前に、機関銃が故障した。

この「戦争」の話が広まるにつれ、世間の注目は高まっていった。

「部隊」を編成し、見張り役まで立てて捕獲を逃れるこのたくましい鳥たちに、人々は興味をそそられた。銃撃手がいる方向へエミューを誘導しようとしたトラックの運転手によると、鳥たちは起伏のある地面を時速約90キロで疾走し、それを追いかけるトラックが1台横転してしまったという。

ほかの目撃者たちも、銃弾が体をかすめても生き延びるとされるエミューの能力に驚かされた。

「機関銃を前にしたエミューは戦車のように無敵だ」という、指揮官のグウィニッド・パーブス・ウィン・オーブリー・メレディスの言葉はよく知られている。

作戦開始から45日が経過しても、兵士たちはエミューを約2500羽しか仕留められず、農民たちの状況は改善されなかった。その後まもなく、エミューに対する人道的な扱いを求める声が上がり、政府は作戦を中止した。

エミューが勝利を収めたのだ。

1932年、政府は2万羽を超えるエミューを駆除するために、機関銃を装備した兵士を派遣した。しかし、最終的に駆除数は2500羽に留まり、この作戦は奇妙かつコストのかさむ失敗に終わった。(Photograph By History and Art Collection/Alamy)

唯一ふくらはぎに筋肉がある鳥

エミュー戦争は、単に軍の愚かさを証明しただけでなく、この鳥の驚異的なたくましさを浮き彫りにした。

体高約180センチ、歩幅約90センチのエミューは鳥として唯一、ふくらはぎの筋肉を有しており、それが前進する際の推進力を生み出す。類まれなスピードと持久力を備えた彼らは、時速約90キロで疾走し、雨の降る地域を追いかけながら、食料を求めて1日に約24キロもの距離を踏破できる。

「エミューは移動性というよりも分散型の鳥と言えます。彼らの動きは予測しづらく、どの方向にも行く可能性があります」と、ブッシュ・ヘリテージ財団の生態学者ローワン・モット氏は言う。

エミューは単独あるいは小さな家族の集団で餌を探すことが多いが、干ばつが起こると大きな群れを形成し、広大な土地をまとまって移動するようになる。こうした習性を背景に、1930年代初頭の「エミュー戦争」は勃発した。

しかし、エミューは単なるサバイバー以上の存在だ。手に入りやすいものを捕食する捕食者である彼らは、種子を広範囲にわたって散布し、それによってオーストラリア全体の植生の再生を助けるという重要な役割を担っている。

研究からは、エミューの糞の中には数十種類の植物種が含まれていることがわかっている。コマッキオ氏によると、エミューは現地で「ネイティブ・ピーチ」と呼ばれる耐寒性のビャクダンの仲間クァンドン(Santalum acuminatum)を広めるうえで中心的な役割を果たしているという。

「エミュー以外の多くの動物も、クァンドンを餌にしています。ほかの植物が育たないような砂漠でも、クァンドンは生えてきます。エミューによる種の散布は生態系に大きな利益をもたらし、その恩恵はすべての生きものに波及するのです」

オーストラリアの象徴として

生態系のほかに、エミューは文化的にも大きな役割を果たしている。彼らは先住民アボリジニの創世の物語で重要な象徴とされ、多くの場合、たくましさや強さ、大地との深い結びつきを表す。

ある物語では自然界を導く創造の精霊として描かれ、また別の物語には、天の川にいる天上の存在として登場する。エミューとオーストラリアのつながりは非常に深く、国の紋章や50セント硬貨、スポーツチームのロゴにもその姿が描かれている。

「彼らはほんとうに象徴的な存在です。非常に好奇心旺盛で、恐れを知らず、自信に満ち溢れています」。脚を交互に替えながら興奮気味に飛び跳ねる彼らの独特な行動に言及しつつ、コマッキオ氏はそう語る。「エミューはだれからも愛される存在です」

軍事的には失敗に終わったものの、エミュー戦争は、生存と適応力の象徴としての彼らの地位を確固たるものとした。1999年以降、オーストラリアの環境法によって保護されているエミューの数は今も健全な状態を保っており、60万羽以上が大陸を歩き回っている。

文=Rebecca Toy/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年12月17日公開)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG10BTS0Q5A110C2000000/

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