ナショナル ジオグラフィック日本版 8/30(月) 18:08
温暖化でまるごと移転する村、融ける永久凍土の深刻さ
東京オリンピックが終わった翌日の8月9日、IPCCが最新の報告書を発表した。それによると、人間が地球を温暖化させてきたことはもはや「疑う余地がない」とされ、仮にいますぐ炭素排出が急激に減ったとしても、今後数十年間は世界の平均気温は上昇するという。オリンピックを振り返ればわかるように、今年も十分暑かったが、日本の夏はどこまで暑くなるのだろうか。
2019年7月5日、シベリアのコリマ川で遊ぶ子どもたち。気候変動がシベリアの風景と経済を変えようとしている。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL ROBINSON CHAVEZ, THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES)
2020年には40℃を超えるところが続出し、8月17日には静岡県の浜松市で歴代最高記録に並ぶ41.1℃を観測した。猛暑は日本に限らない。米国カリフォルニア州デスバレーでは8月16日に54.4℃まで上昇。今年も6月としては異例の54℃を記録して話題になったが、54.4℃は1931年以来の記録更新で、世界の観測史上で3番目に高い値だった。
近年の記録的な高温は、人間が排出した二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの影響なしでは、ほぼ起こり得なかったとする研究が相次いでいる。このまま私たちが大気中に炭素を排出し続けると、地球はどこまで暑くなってしまうのだろうか?
結論から言えば、正確に予測することは難しいと専門家は言う。「将来の熱波の気温の上昇幅は、どれほど遠い未来を予測するか、どれだけ多くの二酸化炭素を私たちが排出するかに大きく左右されます」と、米ローレンス・バークレー国立研究所の異常気象の研究者マイケル・ウェーナー氏はメールで回答した。
しかし、ウェーナー氏らが2018年に学術誌「Climatic Change」に発表した研究で、温暖化対策を全くしない最も温暖化が進むシナリオ(RCP8.5)の場合、将来の熱波がどのようなものになるのかが垣間見える。今世紀の終わりまでに、米カリフォルニア州の熱波の最高気温は、現在よりも約5.6~7.8℃も高くなる可能性があるという。
同じシナリオの場合、日本の気象庁は21世紀の末には全国平均で気温は4.5℃上昇すると予測している。単純に足し算をすれば、日本の最高気温は45℃前後まで暑くなる計算だ。
北極圏では6月に前代未聞の38℃
最高気温と言えば、まだ真夏ではない去年の6月、驚くべきニュースが世界をかけめぐった。北極圏に位置するロシア、シベリアの町ベルホヤンスクで6月20日、過去最高の38℃を記録したのだ。
北極圏は過去に一度も高温を経験してこなかったわけではない。内陸部では夏に気温が急上昇することがあり、米国アラスカ州フォートユーコンでは、1915年に初めて37.7℃を記録した。ベルホヤンスクでも1988年に37.3℃という日があった。
「北極圏では、毎年夏至の前後になると一日中太陽がのぼったままになります。その分多くの太陽光が降り注ぐわけですから、かなり暑くなることがあるのです」と、米国立雪氷データセンターの気候科学者ウォルト・マイヤー氏は解説する。
とはいえ、気候変動が高温に拍車をかけているとマイヤー氏は言う。北極圏は、地球の他の地域と比べて2倍以上の速さで温暖化が進んでいる。気温は過去100年で2~3℃上昇した。そのうち約0.75℃は、過去10年間での上昇だ。つまり、かつてより暖かくなっているところに熱波が発生すれば、暑さはその分余計に厳しくなるということだ。
ちなみに同様の現象は、南極でも起きている。南半球で夏に当たる2020年の1月、南極半島では18.3℃という過去最高の気温を記録した。
永久凍土融解でアラスカの村に水没の危機
北極圏のかつてない暑さは、さまざまな影響をもたらしている。永久凍土の融解はとりわけ深刻な問題を引き起こしている。
米国のアラスカ州では2019年10月、ニュートック村の住民がついに、新しい町への移住を開始した。北米ではほとんど例がない気候変動による移住だ。
ニュートックの人口は約380人。ベーリング海からほど近いニングリック川沿いにある先住民族ユピックの村だ。永久凍土の融解と浸食が原因で洪水のリスクが高まり、家の周りの地盤の沈下や崩壊も生じている。ごみの埋め立て地は押し流され、燃料貯蔵タンクは危険なほど傾き、崩壊の恐れがある一部の住居はすでに取り壊された。
そのため、20年以上前から移住計画と建設工事が進められ、新しく村がつくられるマータービックへの引っ越しが始まっている。マータービックはニュートックから約16キロ南東のネルソン島にある。
20世紀初頭までの数千年間、ユピックは季節ごとに野営地を移動し、アザラシやヘラジカ、ジャコウウシを捕まえたり、ベリーや野草を集めたりしていた。現在も自給自足の生活を送っているが、1949年、米内務省のインディアン事務局が住民たちに意見を求めることなく、現在のニュートックに学校をつくり、村全体が定住を余儀なくされた。
その後、気候変動によって地球の温度が上昇。極北の2300万平方キロ超に広がる永久凍土が融解し始めた。その結果、道路やパイプライン、建物の基礎が崩壊しているだけでなく、融解した凍土から温室効果ガスが放出され、地球の温度がさらに上昇している。しかも、海氷が減少し、沖合に移動した結果、高潮が川を逆流するようになり、河岸の浸食、村への浸水が起きている。海面上昇はこのような浸食を加速させる。
ニュートックの住民たちは、これらの影響をずっと目の当たりにしてきた。かつて安定していた土壌はニングリック川に削り取られ、多いときには年間約25メートルのペースで家々に迫っている。2000年代初頭に発表されたある論文は、早ければ2027年、村の大部分が水没すると予想している。全住民の新居が完成するのは2023年以降になる見通しだ。
シベリアではパイプラインから燃料が流出
永久凍土融解の影響はシベリアでも目立ち始めている。2020年6月、燃料タンクが破損し、付近の川に2万トンの燃料が流れ込むという事故が発生した。破損の原因は永久凍土が解けて地盤が不安定になったためとみられている。
燃料タンクの事故は1回限りで済む話ではない。ロシアの北極圏の大部分は、永久凍土に覆われている。2050年までに数千キロのパイプライン、道路、建物、燃料タンク、油田、空港、その他北極圏のあらゆるインフラが、永久凍土の融解によって危機にさらされると、専門家は警告している。
温暖化によるこうした影響をどれだけ避けられるかは、ウェーナー氏をはじめ多くの科学者が言うように、二酸化炭素の排出をどれだけ抑えるかにかかっている。
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。世界のニュースを独自の視点でお伝えします。
文=MADELEINE STONE、ALEJANDRA BORUNDA、CRAIG WELCH/訳=ルーバー荒井ハンナ、米井香織
https://news.yahoo.co.jp/articles/d28230700a2a7387d001882c58a86f1715c7f4a6