ビデオニュース /18(土) 20:41
第28回のセーブアースは、資源開発による森林破壊が森の中で生活を営んできた先住民に与える影響をテーマにお送りする。
熱帯林は東南アジア、南米アマゾン、赤道直下のコンゴ盆地の3カ所に存在する。今回ゲストに迎えたFSCジャパン事務局長の西原智昭氏は、コンゴ盆地の熱帯林の保全に長年取り組んできた。FSC(日本森林管理協議会=Forest Stewardship Council)は森林の管理や加工・流通過程が適切に行われていることを認証する国際的な非営利団体で、そこが発行するFSC認証マークは、環境や動植物が保護され、地域社会や労働者の権利が尊重された持続的な森林管理が行われていることを証明する意味を持つ。
西原氏が長年保全活動に携わってきたコンゴ盆地の熱帯林は、絶滅危惧種に指定されているマルミミゾウが生息する自然豊かな美しい森林だ。そしてその森林の中で生活を営んできたのがピグミーと呼ばれる人々だ。本来ピグミーという言葉は蔑称だが、現地の人々もピグミーを自称していることから、番組中では限定的にピグミーという言葉を用いることとする。
ピグミーの人々は、数週間から数カ月一定の場所に定住しては別のところへ移動することを繰り返す半遊動生活を送ってきた。そのような生活形式は環境という観点から見れば、定住していた環境への負荷が増大するにつれ定住場所を変え、再び元の場所に戻ってくるときには自然環境が回復しているというサスティナブル(持続可能)なものだ。ピグミーの人々は、持続可能性をめぐる様々な標語が飛び交う遥か以前から、持続可能なライフスタイルを実践してきた。
彼らは1日数時間採集すれば食べるものには困らないため、それ以外の時間は遊んだりヤシの樹液が自然発酵してできたお酒などを飲んで暮らしてきた。西原氏がピグミーの人々に聞いたところでは、これまで一切自殺者は出ていないという。彼らは貨幣経済や文明世界の外にいながらにして、とても豊かな生活を実現してきた。
しかし、ピグミーの人々の生活が今、資源開発や農園開発に伴う森林伐採のために危機に瀕している。特にコンゴは特産物が無く、国内の森林や鉱物資源を開発し、そこに税金をかけることで国の経済を成り立たせているため、国をあげて積極的に森林開発を進めている。森林が開発されると、森の中で半遊動生活を送ってきたピグミーの人々は、森の外に追い出され定住を余儀なくされる。
森林から離れることで、森林で暮らす中で培われてきた様々な身体的な技法や認知能力は次々と失われていく。そうした能力を持った人々がいなくなれば、森林に関わる調査研究やエコツアーや密猟者の追跡が困難になってしまう。また学校教育においても、ピグミーの子どもたちが定住民の子どもたちから差別を受けたり、フランス語を学ぶことで部族の言葉が失われてしまう。学校教育の外で様々な能力や技法を培い、その中で支障なく生活を営んできたピグミーの人々の文化が失われてしまう。
西原氏は、アフリカと日本が資源という点において強いつながりを持っていることを指摘する。例えば、われわれが日々使っているパソコンのバッテリーには熱帯林を伐採して採掘されたレアメタルが使われている。われわれが便利な生活を享受する裏で、資源開発に伴う環境破壊と、それに伴う先住民の人権問題が発生しているのだ。
コンゴの熱帯林のなかでピグミーの人々が営んできた生活がどのようなもので、その生活に森林破壊がどのような影響を与えているのかなどについて、日本森林管理協議会事務局長の西原智昭氏と環境ジャーナリストの井田徹治、キャスターの新井麻希が議論した。
【プロフィール】
西原 智昭 (にしはら ともあき)
FSCジャパン事務局長
1962年神奈川県生まれ。89年京都大学理学部卒業。94年京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。理学博士。専門は人類学、生物多様性保全。89年、京都大学調査隊としてコンゴ共和国に渡り、98年より国際野生生物保全協会(WCS)自然環境保全研究員(コンゴ共和国支部、ガボン支部)。2024年より現職。星槎大学、立教大学等の非常勤講師を兼務。著書に『コンゴ共和国 マルミミゾウとホタルの行き交う森から』など。
井田 徹治(いだ てつじ)
共同通信編集委員兼論説委員 環境・開発・エネルギー問題担当
1959年東京都生まれ。83年東京大学文学部卒業。同年共同通信社入社。科学部記者、ワシントン特派員などを経て2010年より現職。著書に『ウナギ』、『生物多様性とは何か』、『データで検証 地球の資源』など。
新井 麻希(あらい まき)
キャスター
1982年東京都生まれ。2004年慶應義塾大学法学部卒業。05年TBSテレビ入社。アナウンス部を経て10年よりフリー。
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(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
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