北海道新聞08/30 18:52 更新
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先祖を供養する伝統儀式に参加するラポロアイヌネイションの差間正樹さん=21日、浦幌町
十勝管内浦幌町のアイヌ民族団体「ラポロアイヌネイション」(旧浦幌アイヌ協会)が国などに地元の川でサケ漁を行う権利の確認を求めた行政訴訟で、「明治以降の開拓で根拠なく権利を奪われた」とする原告側の主張への認否を国側が避け続けている。訴訟の結論に歴史的経緯は影響しないとする国側に対し、札幌地裁も積極的に認否を求めておらず、同団体会長の差間正樹さん(71)ら原告側は「国も裁判所も、歴史を直視すべきだ」と訴える。
「生活が失われれば文化は消える。川でサケを捕ることを生業とし、アイヌとしての生活と誇りを取り戻したい」。浦幌町でサケ定置網漁を営む差間さんは、こう力を込めた。
幼少期から差別を恐れ、自らがアイヌ民族であることを口にしなかった。しかし、40歳を過ぎたころ「知らんぷりしていたら差別的な状況は変わらない」と思い立ち、現在の北海道アイヌ協会浦幌支部に入会。仕事の合間を縫って文化伝承活動に取り組んできた。
2014年には浦幌から持ち出されたアイヌ民族の遺骨の返還を求めて北大を提訴。和解後、遺骨と共に返還された副葬品から漁網を修理する木製の網針を見つけ、目を見張った。「先祖は確かにこの川でサケ漁をやっていたんだ」。自分は浦幌十勝川流域に住み続けてきた集団(コタン)の一員だと自覚した。
17年には米北西部のインディアントライブ(先住民の集団)を視察した。現地では先住民族が漁業委員会を組織し、サケ漁で生計を立てるとともに厳格な資源管理を徹底。自分たちの土地と資源を自分たちで管理する「夢にまで見た暮らし」がそこにはあった。
同団体は20年8月に提訴。差間さんたちが取り戻したいものは、先住民としての誇りある暮らしだ。アイヌ民族のサケ漁は「明治以降の政府が強制的に禁止したため事実上できなくなっただけであり、(一定の慣習に法的効果を認める)『慣習法』を根拠とする」との主張は、先祖たちが長年にわたって生活してきたコタンを和人に根拠なく「侵略」されたという歴史認識をその基礎としている。
しかし、国側は河川でのサケ捕獲を原則禁じた水産資源保護法などの現行法を根拠に原告側の権利を否定し、歴史的経緯の認否は「必要ない」と拒否。地裁は当初、国側に認否を促したが、昨春から担当する中野琢郎裁判長は今年5月の第8回口頭弁論で「裁判所が認否を強制する話ではない」と述べ、近く結審する可能性にまで言及した。
差間さんは「アイヌ民族を先住民族と認めながら歴史や先住権に向き合わないなんてひきょうだし、悔しい」と国の態度を批判。原告弁護団長の市川守弘弁護士(旭川)は「原告に守られるべき権利があるかどうかは現行法の文言のみからは見えてこない。裁判所には、歴史的事実から目をそらさない訴訟指揮を求めていきたい」と話している。
次回、第9回口頭弁論は9月1日午後2時から。原告側は閉廷後の午後3時から、札幌市教育文化会館(中央区北1西13)で訴訟の学習会を開く。参加希望者は直接会場へ。無料。(金子文太郎、角田悠馬)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/723848/

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先祖を供養する伝統儀式に参加するラポロアイヌネイションの差間正樹さん=21日、浦幌町
十勝管内浦幌町のアイヌ民族団体「ラポロアイヌネイション」(旧浦幌アイヌ協会)が国などに地元の川でサケ漁を行う権利の確認を求めた行政訴訟で、「明治以降の開拓で根拠なく権利を奪われた」とする原告側の主張への認否を国側が避け続けている。訴訟の結論に歴史的経緯は影響しないとする国側に対し、札幌地裁も積極的に認否を求めておらず、同団体会長の差間正樹さん(71)ら原告側は「国も裁判所も、歴史を直視すべきだ」と訴える。
「生活が失われれば文化は消える。川でサケを捕ることを生業とし、アイヌとしての生活と誇りを取り戻したい」。浦幌町でサケ定置網漁を営む差間さんは、こう力を込めた。
幼少期から差別を恐れ、自らがアイヌ民族であることを口にしなかった。しかし、40歳を過ぎたころ「知らんぷりしていたら差別的な状況は変わらない」と思い立ち、現在の北海道アイヌ協会浦幌支部に入会。仕事の合間を縫って文化伝承活動に取り組んできた。
2014年には浦幌から持ち出されたアイヌ民族の遺骨の返還を求めて北大を提訴。和解後、遺骨と共に返還された副葬品から漁網を修理する木製の網針を見つけ、目を見張った。「先祖は確かにこの川でサケ漁をやっていたんだ」。自分は浦幌十勝川流域に住み続けてきた集団(コタン)の一員だと自覚した。
17年には米北西部のインディアントライブ(先住民の集団)を視察した。現地では先住民族が漁業委員会を組織し、サケ漁で生計を立てるとともに厳格な資源管理を徹底。自分たちの土地と資源を自分たちで管理する「夢にまで見た暮らし」がそこにはあった。
同団体は20年8月に提訴。差間さんたちが取り戻したいものは、先住民としての誇りある暮らしだ。アイヌ民族のサケ漁は「明治以降の政府が強制的に禁止したため事実上できなくなっただけであり、(一定の慣習に法的効果を認める)『慣習法』を根拠とする」との主張は、先祖たちが長年にわたって生活してきたコタンを和人に根拠なく「侵略」されたという歴史認識をその基礎としている。
しかし、国側は河川でのサケ捕獲を原則禁じた水産資源保護法などの現行法を根拠に原告側の権利を否定し、歴史的経緯の認否は「必要ない」と拒否。地裁は当初、国側に認否を促したが、昨春から担当する中野琢郎裁判長は今年5月の第8回口頭弁論で「裁判所が認否を強制する話ではない」と述べ、近く結審する可能性にまで言及した。
差間さんは「アイヌ民族を先住民族と認めながら歴史や先住権に向き合わないなんてひきょうだし、悔しい」と国の態度を批判。原告弁護団長の市川守弘弁護士(旭川)は「原告に守られるべき権利があるかどうかは現行法の文言のみからは見えてこない。裁判所には、歴史的事実から目をそらさない訴訟指揮を求めていきたい」と話している。
次回、第9回口頭弁論は9月1日午後2時から。原告側は閉廷後の午後3時から、札幌市教育文化会館(中央区北1西13)で訴訟の学習会を開く。参加希望者は直接会場へ。無料。(金子文太郎、角田悠馬)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/723848/