長崎文化放送2024/11/23(土) 22:30
2024年の訪日外国人の数が、統計開始以来、最も速く3000万人を突破する一方、課題となっているのが観光客による悪影響「観光公害」。どうすれば改善できるのか、サタデーステーションが訪れたのは、かつて「エアーズロック」の名で知られていたオーストラリアの「ウルル」。「観光公害」解決のヒントがみえてきました。(11月23日OAサタデーステーション)
■“観光地ウルル”先住民にとっては「神聖な場所」
オーストラリア大陸のほぼ中央部に位置する巨大な一枚岩。かつては「エアーズロック」という名前で知られていましたが、現在は、先住民のアボリジナルが呼んでいた「ウルル」に改められました。世界的にも人気の観光スポットです。 しかし、以前はウルルに登る人の姿もありました。滑落する人や環境破壊。そして何より先住民の聖地をけがすなどを理由に登頂が禁止になりました。観光客による迷惑行為「観光公害」。日本でも問題になっています。 その“解決のヒント”を探しに私たちはウルルの麓へ。ウルルの高さは東京タワーより高い、348メートル。
ウルル-カタ・ジュタ国立公園 事務局 ミーガン・エバートさん 「実は私たちが目にしているのはほんの一部で、地中に6km埋まっています」
見る角度や時間によって様々な表情を見せる神秘的なウルル。「自然遺産」と「文化遺産」両方の価値が認められている世界でも稀な世界複合遺産です。
ウルル-カタ・ジュタ国立公園 事務局 ミーガン・エバートさん 「この先は撮影禁止です。神聖な場所なので気を付けてください」
先住民は今でもウルルで儀式をおこなっています。何万年も前から秘められた場所が数多くあるのです。
ウルル-カタ・ジュタ国立公園 事務局 ミーガン・エバートさん 「先住民にとってウルルはとても神聖な場所です。私たちはそれを理解して尊重しています」
■観光客の登山で…「ゴミやおむつが落ちてきた」
ウルルに登ることは先住民にとって古くからの掟を破ること。しかし観光客はウルルに登り傷つけたのです。ミーガンさんに案内してもらったのは。
ウルル-カタ・ジュタ国立公園 事務局 ミーガン・エバートさん 「ここはウルルの中でも最大の水場です」
準砂漠地帯にあるウルル。水は貴重な資源です。先住民はこの『ムティジュルの泉』を、水を求めてやってくる動物の狩り場として使っていたため決して水を汚しませんでした。しかし。
ウルル-カタ・ジュタ国立公園 事務局 ミーガン・エバートさん 「当時、登った人が頂上で用を足したりゴミやおむつなどが上から水場に流れてきたのです」
ウルルの頂上にはもちろんトイレはなく環境破壊が懸念されていました。
■登山禁止を決断した一方で「観光客は増え続ける」
そして、2019年10月。登山が禁止に。登った場合は、10000豪ドル(日本円で約100万円)以上の罰金が科せられる場合があります。
日本でも観光客による迷惑行為が横行しています。富士山では、ゴミ問題や禁止の焚火をする外国人の姿。同じ世界遺産の白川郷でもマナー違反が相次いでいます。一方で登山禁止によって“守られた”ウルル。管轄する国立公園は。
ウルル-カタ・ジュタ国立公園 事務局 スティーブン・ボールドウィンさん 「ウルルに登るということは神聖な教会に登るようなものなんです。登山が終了しても、私たちは訪問者数が伸び続けると確信していました」
■なぜ観光客が増える?価値ある観光資源は「文化の共有」
登山を禁止しても“観光客は増え続ける”。そう確信できた理由を見せてくれました。ミーガンさんに案内してもらったのは、台所の洞穴。実は、先住民はウルルで生活もしていました。
ウルル-カタ・ジュタ国立公園 事務局 ミーガン・エバートさん 「あちらを見てください。ここには光沢があります」
触ってみると他とは違い、つるつるしている箇所が。採取した種子などを挽く、すり鉢のように使っていたそうです。
ウルルを散策していると所々に“黒いスジ”があることに気づきました。黒いスジの正体は雨水が岩肌を伝って流れた跡。雨が降って水が流れると太陽がそれを乾かして岩肌を黒く焼くそうです。これで住民は水がどこにあるか、探す手掛かりにしていたといいます。先住民にとっては「生きる術」「知恵」。
“ウルル観光”では、こうした先住民の文化はこれまでも伝えてきましたが「文化の共有」こそが、最も価値のある観光資源だと気づきました。
■先住民の生活の術や知恵を知ることで、変化した「ただの岩」
先住民にルーツがあるニーシャさんは、先住民の知恵を伝えています。
エアーズロック・リゾート ガーデン・ウォークのガイド ニーシャ・ギブソンさん 「これはオーストラリア特有の花です」
手のひらにたたきつけると花の蜜が出てきました。
エアーズロック・リゾート ガーデン・ウォークのガイド ニーシャ・ギブソンさん 「先住民はこの蜜で一日を乗り切るための甘い飲み物を作っていたんですよ」
オレンジのキノコは薬に使われていたそうです。こうした生きる術も、ウルルの中で代々伝えられてきました。
ウルル-カタ・ジュタ国立公園 事務局 ミーガン・エバートさん 「小さな穴が見えますか?あれは窓になっています。子供たちはこの穴から大人の男性たちが狩りをしているところを見て学んでいたのです」
さらに文字を持たない先住民は、洞穴の岩壁に絵を描き生活の知恵などを伝えてきました。岩壁には今でもロックアート(壁画)として残されています。この文化が今はアート作品となり観光客に共有しています。
フランスからの観光客 「(ウルルは)“インスタ映え”のための場所ではなく、唯一無二の場所です」
シドニーからの観光客 「ウルルは何年か前までは、ただの岩だと思っていました。ただ、文化を学ぶことで価値あるものに変わりました」
■「カルチャーツーリズム」視点を変えて観光客増加へ
この文化の共有=カルチャーツーリズムを“新たな体験”に発展させているのが、ウルルに隣接するエアーズロック・リゾートです。先住民を身近に感じてもらおうとスタッフの3分の1はアボリジナルです。
エアーズロック・リゾート経営 マット・キャメロン・スミスCEO 「旅先では住む人にとって何が大切なのか理解し敬意をもって接することが大切です。お土産ではなく、知識を持ち帰る方が重要です」
文化を伝える手段として使ったのが最新技術。これが観光客増加のカギを握っていました。 それは、ドローンの最新技術などを使い文化を伝えることです。エアーズロック・リゾートが開催する「ウィンジリ ウィル(Wintjiri Wiru)」は2023年にスタート。1100台以上のドローンを使って古くから伝わる先住民の「創造神話」を伝えています。彼らにとって神話は人としての行いや規則を伝える手段でした。この神話を視覚的に加え、日本語含む7か国語でも伝えられています。また、先住民のアートなどをプロジェクション技術で表現した「サンライズ・ジャーニー」は2024年に始まりました。
ドイツからの観光客 「美しい朝の経験でした。目にすることでより没頭し文化を学ぶことができました」
メルボルンからの観光客 「長い間この環境で生き延びてきた。彼らの偉大さを感じました」
エアーズロック・リゾート経営 マット・キャメロン・スミスCEO 「新しい技術は、まず興味を持ってもらえます。そして様々な年齢層の心をつかむんです」
また、自然を傷つけることもないといいます。観光資源をいかに未来につなげていくか。 ミーガンさんがとっておきの方法を教えてくれました。案内してもらったのは、絶壁が見どころの場所。多くの人は、立ったまま見上げますがミーガンさんは寝そべり、空を見上げました。
ウルル-カタ・ジュタ国立公園 事務局 ミーガン・エバートさん 「こうやって見るのがベストなんです。岩がライトアップされたように輝いて見えるんです。何万年も前に先住民もこうやって眺めていたのでしょう」
視点を変えることで見えなかった価値が見えてくるのかもしれません。
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高島彩キャスター: ウルルへの登山が禁止されてから5年がたったわけですが、観光客の数や経済にはどんな影響があったんでしょうか?
板倉朋希アナウンサー: ウルルを訪れた人の数を見ると、登山が禁止になった2019年を境にコロナの影響もありますが、一気に減って、その後少しずつ回復し、一昨年は22万人ほどがウルルを訪れました。そして観光収入額、ウルルを含むラセター地区でみると、登山禁止を境に一時は半分以下にまで減ってしまったんですが、その後順調に回復しています。これらを支えているのが、先住民の文化を感じられるアクティビティーで、例えばウルルのすぐ近くで食べられるカンガルー肉などのバーベキューもその1つで、先住民が昔から使ってきたスパイスが使われていて、彼らの食文化の一端に触れることができるということなんです。
高島彩キャスター: これを大自然の中で頂くわけですもんね、貴重な経験ですよね。
板倉朋希アナウンサー: 近くでリゾートホテルを経営するマットさんによりますと「登山が禁止されたことで観光客が先住民の文化などに目を向けるようになり、結果的に1人当たりの滞在日数や使う金額が増えた」ということなんですね。さらには環境負荷が減っただけではなくて、先住民への利益の還元も増えたということなんです。
高島彩キャスター: 日本でもオーバーツーリズムなど、とかく負の部分に注目が集まりがちですが、オーストラリアの取り組みはいかがですか?
ジャーナリスト 柳澤秀夫氏: ウルルの取り組みをそのままそっくり今の日本に当てはめるのには、やや無理があるかなと思いますね。富士山の登山にしても、オーバーツーリズムは問題になりますが、あそこを登るのをやめるってわけにはいきませんし。オーバーツーリズムがもう1つ問題になっている京都では観光客が集まってますが、解決策が見えてこないですよね。ただ1つ言えるのは、日本の観光地でも何を一番大切にしなければいけないのか、何を守らなきゃいけないのか、それを改めて考え直す事によってウルルの例を1つ参考にしながら何かヒントが導き出せるかもしれませんね。
高島彩キャスター: 自然や文化を守るためにも、制限をかけて、価値を高めて、そして利益につなげる。そういった考え方もあるのかなと思いますね。
https://www.ncctv.co.jp/news/article/15521449