いろんな方のご家庭を訪問してシステムの音を聴かせていただくと、単なるオーディオ機器の組み合わせ次第で物理的に出てくるだけの音が、意外にも持ち主の個性なり、性格なり、人となりを如実に反映していることに気付くことがよくある。
神経質を連想させるかのように解像力を優先した細身の音、太っ腹を感じさせる野太い音、見た目には派手だが奥行き感に乏しい音など実に様々である。
その人なりに工夫した独自の音質の背後に人間の意思が介在している存在感がオーデイオという趣味をより楽しく人間的なものにしている。
余談だが、最近読んだ本の中に外国人が日本にやってきて一番印象に残るのは人間同士の深い交流だと書いてあった。どんなに長期間滞在して日本の一流の文化や景観に接しても結局人間同士の深い交流がなければその国の心からのファンにはならないそうだ。
したがって、オーディオも単なる音の世界に留まらず、人間同士の交流の場だと思えば随分と世界が広がり、他人のオーディオシステムの音を聴くことは自分という人間を別の角度から見直すことにもつながっていく。
このブログに再々登場していただき10年以上に亘って懇意にさせていただいているA氏のお宅の音も、その例に漏れず実にスケールの大きい音を出しておられる。
日本でも有数のオーディオ愛好家といっても過言ではないA氏は、オーディオ専門誌の「無線と実験」2001年2月号の巻頭を飾る記事「リスニング・ルーム」にもとびっきりのハード派として登場されている。
じぶんにネットワークのイロハを教えていただいたのもA氏だが、とにかくご熱心でスピーカー、アンプの研究には言うに及ばず東奔西走されて様々な愛好家の音を実際に試聴され豊富な場数(ばかず)を踏まれて聴覚を磨き上げられているのが通常の愛好家に見られない大きな強みである。
そのご自宅の音は「推して知るべし」、じぶんも少なくとも年に2~3回はお伺いして耳を洗い直す契機にしているが、先日訪問する機会があったのでその超ど級システムを紹介しよう。
≪システムの概要≫
CDトランスポート・DAコンバーター → アキュフェーズ
プリアンプ → 西部音響の特注品
パワーアンプ → WE300B菅球アンプ特注品
スピーカー
低域 → エルタスTA-4181+自作の低音用ショート・ホーン
中域 → WE-555ドライバー+17Aホーン
高域 → カンノ597ツィーター
【ポイント1】
いまや伝説の域に達したウェスタンの555ドライバーと巨大な17Aホーンの組み合わせは通常のオーディオという概念の枠内では表現できない音質である。1930年代当時のアメリカの巨大な映画館で使用されることを念頭に置いたこのシステムは人間の声をことのほかリアルに響かせピアノが目の前で演奏されているような錯覚に陥らせる。オーディオ愛好家であれば一度は聴いておきたい音だろう。
【ポイント2】
トランスの専門家が作った特注のWE300Bのパワーアンプ(モノ×2台)はありきたりのアンプではない。特別に電源部を強化し別固体としたアンプは独自のトランス(オールパーマロイで木材で包装)の仕様とあいまって底知れない力強さを秘めている。この音を聴くとアンプの本質は出力ではなくて電源部だと改めて目を覚まされる。また、音質を決める重要なポイントとしてスピーカーに近接するネットワークも独自のトランスを使用するなどことのほか重視されている。因みに、アンプとネットワーク込みのお値段はクラウン1台分とのこと!
【ポイント3】
いわゆる”音キチ”と呼ばれる通常のマニアにありがちな”音だけに拘泥する”タイプではなく、、音楽優先で”オーディオは音楽を聴くための手段”とはっきり割り切っておられる。大きな棚に収まったCD盤のコレクションには思わずたじろぐが、録音状態よりも演奏の良し悪しを優先される本当の音楽好きである。とりわけ、クラシック音楽それもオイストラフ、トスカニーニなど往年の名演奏家・指揮者を愛聴されている。
最後に画像を掲載しておこう。
CDコレクション ネットワーク 555と17Aホーン
アンプ(上部)と電源部 17Aホーン(右上)