10月20日の午後、久しぶりにオーディオ仲間のM崎さんがご来宅。
最後の訪問日をはっきりと覚えていないほどで、およそ4ヶ月ぶりくらいになるだろうか、この間我が家のオーディオ装置も随分と様変わりで、これもあの7月の交通事故でクルマなしの生活が2週間続いたので自宅にこもって専念したおかげ。
改めてどこをどう改善(?)したかというと、大きな項目では次のとおり。
1 まず、これまで横に寝かせて使用していたタンノイ・ウェストミンスターを起こして正規の使い方の縦にする。それに「JBL130A」ユニットを外して「アキシオム80」を補助バッフルとともに取り付けた。さらに吸音材として羽毛をボックスの中に大量にぶち込み。
2 低域用として別のボックスを準備し20cm口径のリチャードアレンの「ゴールデン8」を使用。使っていたサブウーファーはとりあえず倉庫行き~。
と、いったところで何といっても低域のユニットを入れ替えたので、これはもうシステムの根本的な見直しを行ったようなもの。
そういうわけで試聴結果の感想に興味津々。
最初の曲として選んだのがモーツァルトの作品で次のCD盤。
「ディヴェルティメント」変ホ長調 K.563
「563」だから モーツァルトにとっては最晩年の作品といってもいいが35歳で亡くなったのでおそらく33歳前後の不遇をかこった時期の作品だろう。
演奏はギドン・クレーメル(ヴァイオリン)、キム・カシュカシアン(ヴィオラ)、ヨーヨー・マ(チェロ)のトリオ。
1984年の録音で発売当時すぐに話題となり、評判につられて購入したもので、最初に聴いたときはあえて文学的な表現をすると「ほつれ毛をそっと撫でて通り過ぎた秋風のようなもの」という感じでそれほど心を揺り動かされなかった。
しかし、今年の5月に「アキシオム80」を安価に譲ってもらったご縁で、その後もメール交換を続けている千葉のS谷さんに感化され最近引っ張り出してつとに聴いている曲目。
何気なしの選曲だが、M崎さんによるとこれはたいへんな名曲だそうで本当の「モーツァルト通」というか、非常にレベルの高いモーツァルトファンに好まれているとのこと。
そう言われてみると、たしかに一連のピアノ協奏曲や40番のシンフォニーなどの一般受けする”親しみやさ”はまるで無いと言っていいくらいで、簡単に人を寄せ付けない雰囲気を持った、どちらかといえば暗~い曲。
モーツァルトが自己の内面と静かに向き合って作曲した趣で、これは自分の大好きなピアノ・ソナタの「孤独な世界」に相通じるものがある。
当時からするとオーディオ装置の大変遷という背景があるとはいえ、今頃になってこの作品の真価が分かるようでは「モーツァルト通」を自認している自分も”マダマダ甘い”と痛感。バッハは苦手だがモーツァルトに限っては自分の生命線のはずなのに。
前々回のブログ「音楽のジャンルとは」で、末尾に「いまだにバッハに馴染めない」と書いたところ「意外です」と奈良のM中さんからメールが来たり、M崎さんもケンプが弾く「バッハのピアノ曲」を持ってきたりして心配してくれる。
しかし、人からどう思われようとやはり「モーツァルトが一番」。
あの天才物理学者アインシュタインは「死とは何か」という問いに対して「死ぬということはモーツァルトが聴けなくなることだ」※と答えたほどのモーツァルト・ファン。凡人と天才との間にモーツァルトを聴いて楽しむという唯一の共通点があるのが何だかうれしくなる。
※NHK「アインシュタイン・ロマン」〔全六巻)
第一巻「黄泉の時空から~天才科学者の肖像~」
閑話休題。(それはさておき)
肝心の演奏のほうはクレーメルに対して個人的にあまりいい印象を抱いていない。クレーメルの自伝によるとあの名手オイストラフ(ロシア)の薫陶を受けたそうだが、技巧は上の部だと思うがやや情緒に欠ける印象がして「モーツァルトには合わない」とひそかに考えている。
もっと気に入った演奏の盤があればと「HMV」で探してみた結果、ウィーンフィルハーモニア弦楽三重奏団、アマデウス弦楽四重奏団、グリュミオー・トリオが目ぼしいところでこの3枚を早速注文。
あのレーピン(ロシア)あたりがヴィオラとチェロの手ごろな奏者を見つけて録音してくれるといいのだが。
なお、古いところではティボー・トリオがあるようで録音の良し悪しは別にして一度は聴いてみる価値がありそう。
ただし、M崎さんによると現在のヴァイオリニストではクレーメルは世界でもトップクラスでモーツァルトにも十分合うとのことで、この辺の食い違いは好みの差ということに。
自分は二楽章のアダージョが好きだが、M崎さんの好みは最終楽章〔六楽章〕のアレグロ。
聴き終わって、M崎さん、ちょっと首を傾(かし)げて「クレーメルのヴァイオリンがちょっと線が細すぎて聴こえるなあ~。整流菅を変えてみたら?」。
「アキシオム80」用のアンプ「PX25シングル」の整流菅RCAを引っこ抜いてGE、マルコーニ、WE422A、CV378、マツダといろいろ差し替えて試聴した結果、マルコーニが一番相性がよく、まろやかで高域の神経質さが消えて無くなった。
整流菅を差し替えるだけでかなりの音の変わりようで、この辺は真空管アンプのメリットを痛感する。
これで「SPボックス・ウェストミンスター」「SPユニット・アキシオム80」「出力菅・PX25」「整流菅・マルコーニ」と全てイギリス勢となったが、やっぱりイギリスの製品はどことなく「いぶし銀」を思わせて品がいい。