「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

「高次倍音」の魅力

2014年05月14日 | 音楽談義

前回からの続きです。

NHK・BS番組「名器ストラディヴァリの秘密」について、再びU君から次のようなメールが届いた。

「同番組の内容から、お知らせしたい続きがまだあるので、皆さんにメールしようと思っていたところです。その一つは、ストラディバリ再現に向けて、現代の名工数十人と科学者がワールドワイドにタッグを組み研究する様子が流れましたが、当方が特に注目したのは、ヴァイオリンの音を周波数分析した図表を皆で検討している様子でした。

その図表の横軸は、200Hz~9000Hzとなっていましたが、この周波数範囲を見て“なる
ほど”と合点した次第です。ヴァイオリンの音色の違いを知る上で必要にして充分なこの範囲で同じ周波数成分を示すように作れば同じヴァイオリンが作れるという訳です。当方も時々周波数分析をしていますが、どういう環境(無響室?)で、どれ位の距離から、どういうマイクを使い、どういう周波数分析ソフトを使ったのか等々、興味は尽きません。」

ところが、この意見に対してOH君から問題提起がなされた。


「人間が好む楽器の『音』(響き)は《高次倍音》が多く含まれている程、より好まれると聞いています。そうすると9000Hzでは20000Hzに遠く及ばず、人が好む<ストラディバリウス>の楽器(倍音)を分析するには不足するのではないか・・と思われます。

同じ高さ(音程)の音なのに、その音を出している楽器を聞き分けることができるのは、含まれている「倍音」の比率が楽器によって異なるのが理由です。簡単な例を引けば<二杯酢>か<三杯酢>か味覚で判断できるようなものでしょうか・・・。

同じ<三杯酢>なのに、<ストラディバリウ酢>だけは格別に旨い・・・少なくともその原因の一つが『高次倍音』の含有量にありそうであれば、その領域まで計測してみる価値はアルと思うのですが・・・。」

すかさず、U君から自説を補強するメールが届いた。機械と音楽の専門家同士のやり取りは実に興味深い。


「聴覚を味覚で例えるに当たり、その対象をOH君の好きな日本酒ではなく「酢」としたことで、<ストラディバリウ酢>を引っ張り出した訳ですね。読み進むうちに、えっ?どうして“酢”なんだろうと一瞬思いましたよ。

《高次倍音》が多いということは、波形が複雑 (反対に、単純=サインカーブ=純音)だという事です。どんなに複雑に見える波形でも“フーリエ級数”という、サインカーブを組み合わせた数列で表現出来ます。言い換えればいかなる波形でも色々なサインカーブの集まりから成っているということです。

9000Hzと20000Hzの問題ですが、人間の可聴帯域の上限は20000Hzとよく言われますが、これは若くて特に耳の良い人が、特にコンディションの良い時に聴く (というより何か圧迫感を感じる) ことが出来ると言われています。すなわち人類の聴ける最高周波数なのです。(現時点で当方は10000Hz付近から怪しい)

そしてこれらのテストは純音で行われるので、周波数分析の横軸に目盛られた数値とは少し異なると考えて良いのではないでしょうか。」

以上の“やりとり”でもって、ようやく一件落着(笑)。

ここでちょっと補足しておくと、周知のとおり楽器の音は「基音」と「倍音」とで成り立っている。

ヴァイオリンの基音はおよそ「200~3000ヘルツ」で、倍音を含めた周波数帯域となると、およそ「180ヘルツ~1万ヘルツ以上」とされている。

比較する意味でピアノの例を挙げると、基音はおよそ「30~4000ヘルツ」、倍音を含めた周波数帯域は「30~6000ヘルツ」とされているので、明らかに高音域が頭打ちになっている。

このことからもヴァイオリンが持つ「高次倍音」の魅力が推し量られ、その音色からしていろんな楽器の中でも別格の存在であることが分かる。

したがってヴァイオリンの再生に特化したSPユニットがあっても少しも不思議ではないが、それは手前味噌になるが「AXIOM80」に尽きる。ヒラリー・ハーンの「プレイズ・バッハ」を一度でもきいてもらえればそれは分かる(笑)。

            

なお、ずっと以前に観た「ストラディヴァリ」の関連番組では、ヴァイオリンに塗る「ニス」に秘密があるとかで、独自の調合をしたニスで実験をしていた科学者がいたがその後、いっさい話題にならないのでおそらく決定打とはならなかったのだろう。

長いことオーディオをやっていると「電気回路による音」と「楽器が出すナマの音」とは明らかに一線を画しており、(前者が後者に)とうてい追いつけそうにないのがマニアとしては虚しいところだが、その一方、科学がどうしても人間の感性技を凌駕できないのが痛快といえば痛快。

何といってもキカイよりも“人間さまの感性(耳)”の方が上であることの証明なんだから(笑)。

最後に、個人的なメールのやり取りをそっくりそのまま当方のブログに掲載することについて、快く承諾してもらった仲間たちに心から感謝です!
 


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