いつもオーディオ関連の話なのでたまにはほかの話題を提供しよう。
現在、日本には国と地方合わせて1000兆円近くにも上る借金〔赤字国債など)があり、その利息が何と1秒間で130万円以上にもなっているという。
もうまさに財政破綻状態。
ただし、その大半を日銀や銀行が所有しており、借金の相手が国内の身内同士なので何とかやり繰りできているのが実状。
先般、NHKがなぜこういう「憂うべき状況」になったのか、その原因追求を特集番組で組んでいたが、当然、その矛先といえば名実ともに国の財政を担ってきた当時の旧大蔵官僚たち。
この番組ではずっと過去に遡って官僚トップの事務次官たち数人に密着インタビューをしていた。
大蔵省(現在は財務省)の事務次官といえば「気の遠くなるような頭のいい連中」である。
小さい頃から神童と謳われ、日本の学歴社会のトップを極める東大法学部を首席で卒業(履修科目が全優クラス)、国家公務員試験を1番で突破、在学中に司法試験を1番で合格、これを「三冠王」と称するそうだが、これに該当したり、準ずる連中がウヨウヨ。
人間の価値は「頭だけで決まるものではない」と分かってはいるものの、こういう超人たちの所業は無条件で許す気になるから不思議。
「こんなに頭のいい連中が考え抜いた結果なら、こういうことになっても仕方ないよなあ」という気にいつの間にかさせられてしまう。もちろん自分だけかもしれないが(笑)。
さて、ここまでが導入部でいよいよ本題に入ろう。
こういうハイレベルの連中ばかりが集結した旧大蔵省の出世競争とは一体どういうものだったんだろうか?
20人前後が一斉に入省し、段々とふるいにかけられ最後に事務次官という究極のポストに至る過程でどういう風に優劣の差がついてくるものだろうか?
すべてハイレベルの連中だから「頭の良し悪し」はもちろん「決め手」にならない。
あとは「運」と「人間的な魅力」などが微妙に交錯して出世にどの程度反映されるのか、はたまた入省時の成績の順番がどのくらい影響するのか。喩えて言えば日本の社会組織の縮図を見るようなものかもしれない。
このテーマに実際の事例をもとに正面からアプローチした本〔2010年8月20日、文藝春秋刊)がある。
著者「岸 宣仁」氏は以前、読売新聞の記者で経済担当をしていて、記者たちをとかく敬遠して口が堅い大蔵官僚から何とか情報を引き出すために必死で努力された方。
「省内人事」の話を持ち出すと「あれほどぶっきらぼうだった官僚たちがにわかに身を乗り出すようにして会話に乗ってくる」ということから、必然的に(官僚たちと仲良くなるために)どうしても人事情報に精通しなければならなかったそうだ。
「役人は出世と人事ばかりに興味を持っていて”けしからん”、もっと世のため人のためになることばかりを考えろ」と思う方はまあ世間知らずの狭量な方だろう。
「金儲けがイヤで国のグランドデザインを描くために大蔵省に入った」といった高尚な気概がほとばしり出る高級官僚たちだが、「出世と人事」はエネルギーの根源であり人間の本性に根ざす不変のテーマだと理解してやる寛容さが必要。
そういえば1年ほど前の国会質問で「辻元清美」(民主党)が安倍総理に対して「ゴルフなんかに行かないでください」と、やってたが「活力の源になるのならそのくらい許してやれよ」と率直に思った。何と狭量な人間なんだろうか(笑)。
さて、本書の中で具体的に挙げられたいくつかの次官競争の実例から「勝者の決め手」となった事柄を導き出すのは実に多種多様で至難の業だが、概ね共通項というか、印象に残った内容を箇条書きで記してみた。
☆ どこかにハンドルの遊びがある人間のほうがトップの器として相応しい。たとえば、どんなに忙しいときでも趣味を見つけて”ゆとり”を大切にしたり、相手を最後の最後まで追い込まないような人物。
☆ 若い頃はキラキラ輝いていたのに、上に行くほど守りに入って光を失うタイプと、逆にポストや年齢を積み重ねるごとに光を増し、いぶし銀のような輝きを放つタイプの二つがある。
☆ 「センスと、バランス感覚と、度胸」が揃った人物。
”センス”の良さはあらゆる人物評価の根本にある基準となる。
”バランス感覚”とは足して二で割る手法ではなく全体の均衡点、釣り合う部分を見極める能力。加えて人を見る目の公平無私さも必要。
最後に”度胸”とは「胆力」のこと。線の細い秀才が大半を占める大蔵省にあって、この部分が他に差をつける最後の切り札となる。度量の大きさや懐の深さに通じる。
☆ 「入省成績と出世」について、実例として挙げられているのが前述した三冠王に加えて外交官試験がトップと空前絶後の四冠王だった「角谷」氏と入省時の成績が二番だった「尾崎」氏の次官争い。
結局、尾崎氏が「人望」が決め手となって勝者となった。最終的に「情」が「理」に優った例として、以後「公務員試験1番は次官になれない」と語り継がれ、次官レースのひとつのジンクスとされている。
そのほか「ノンキャリアを使いこなせる人材」など枚挙にいとまがないが長くなるので省略。
以上、すべて自分には該当しないことばかりだが「ハンドルの遊びがある人間」には心から憧れる(笑)。
最後に、冒頭で紹介した「財政破綻の責任」について次官(元日銀副総裁)だった武藤氏の(本書の中の)言葉が印象的だった。
「我々が本当に強かったら、日本の財政なんてこんなふうになっていませんよ。国、地方合わせて1000兆円の借金なんてね。要するに大蔵省主計局は常に敗戦、敗北の歴史です。僕に言わせれば、政治と闘って勝ったためしはないんじゃないの、正直な話・・・」