三日前の25日(土)は「AXIOM80」愛好家によるオーディオの試聴会だった。ずっと東京に単身赴任中だったSさん(福岡)がこの4月の異動で地元に帰られたので「3人寄れば文殊の知恵」とばかりに各自の自慢の機器を持ち寄って試聴するのだが、どちらかといえば研究の色彩が濃い試聴会である。
SPユニット「AXIOM80」(グッドマン)には汲めども汲めども尽きない泉のような魅力があって、もっともっと能力をフルに引き出したい一心の連中ばかりである。
前回は我が家で7月4日(土)の開催だったが会場持ち回りなので今回はSさん宅(福岡)に集合。3週間ぶりの顔合わせとなった。
沖縄方面から真夏の強い台風が接近しているのが気掛かりで、あまり無理はしない方針だったがどうやら1日違いで滑り込みセーフ。
当日は朝から快晴で長距離ドライブにはもってこいの日。「もう歳なんだからあまり飛ばさないようにね」と、家内の声を背に受けながら「そのくらい言われんでも分っとるわい」と、内心呟きながら8時30分ごろに出発。
5回目の車検が済んだばかりの「ゼロ・クラウン」は快調そのもので高速をスイスイとひた走り、いつもより早く久留米市内のKさん宅に到着。
ひとまずKさん宅で「AXIOM80」とラウザーの「PM6」を聴かせていただいたが、「いったいどちらが鳴っているんですか?」と戸惑うほど似通っている音だった。
同じイギリス系のユニットなので共通した音色があるのは分かるが、たった16センチ口径のラウザーから信じられないような低音が出ているのには驚いた。駆動しているアンプは1925年頃に製造された古典管「210」(トリウムタングステン)のシングルアンプで「これはいい球ですなあ!」。
「ええ、もっとエージングを重ねるとさらに良くなると思います。210は稀少管ですが十分ストックがありますので安心して鳴らせます。」
Kさんの古典管のコレクションはマニアにとっては喉から手が出るほどの逸品がズラリで、「どうせ死ぬまでには使い切れないでしょうから少しばかり譲ってくださいよ」と、いつも冗談交じりに“からかう”のだが頑として首を縦に振ろうとはされない(笑)。
何年もかかって苦労して集められたのでそれぞれ愛着があり、どうやら命尽きるまでの縁として大切にされる方針のようだ。ま、オーディオに限らずほんとうに良い物とは持ち主が亡くなってからじゃないと市場に出回らないのが普通というものだろう。
二度と製造が利かない貴重な文化遺産だから、心ある人が手に入れて次代に引き継いでもらいたいものだが、近年は、ほんとうの価値が分からない海外の投資家によって買い漁られているようで残念。1時間半ほど聴かせていただいて、いよいよ本命のSさん宅へ向けて出発。
今回の「例会」でのハイライトは我が家から持参した「71A」シングルアンプとSさん宅の「PP5/400」アンプの聴き比べである。「一騎打ち」と言いたいところだが、あまりにも格が違い過ぎるので「チャレンジ」という言葉が正しいだろう。
天下の銘管とされる「PP5/400」に対して「71A」がどのくらい善戦できるのか、まあ、価格からすると幕下が横綱に挑むようなものだが興味は尽きない(笑)。
左側の銅版シャーシのアンプが「71A」シングルで、入力トランス、ドライバートランス、出力トランスはすべて「UTC」(アメリカ)で固めている。真空管はすべて1920年代製造のナス管。
右側の「PP5/400」アンプは、イギリスのエンジニアの手になるもので、ヨーロッパのアンプコンテストで「グランプリ」」を取った逸品、世界で2セットしかない極上品の輸入物。トランス類はすべてパートリッジ。
スピーカーは「AXIOM80」とタンノイの「コーナーヨーク」の使い分け。後者にはロットナンバー4の「シルヴァー」が入っている。タンノイのユニットはその長い歴史を通じて「ブラック」~「シルヴァー」~「レッド」~「ゴールド」~「HPD」と変遷を遂げているが、段々と音が悪くなっているのはマニアなら周知の事実(笑)。
ちなみにSさんが随分と購入を迷われていた最初期の「ブラック」(東京のショップで480万円!)がとうとう売れたそうで、心残りというか何やら複雑なご心境のご様子だった。
左側のスピーカーが「AXIOM80」、右側がタンノイの「コーナーヨーク」。
はじめに「コーナーヨーク」の方を聴かせていただいたが「いつ聴いてもいい音ですねえ!」と一同、感嘆の声を上げた。タンノイといいながら、あの鈍重さはいっさい影を潜めて音抜けの良さや音色は「AXIOM80」と極めて似通ったところがあり、ブラインド(目隠し)で聴かされるとどちらが鳴っているのかおそらく誰も分からないだろう。
Kさん宅の音もそうだったが、どんなに違うSPユニットを使っても持ち主の調教によって音が似通ってくるのは否めない事実のようだ。我が家の「AXIOM301」(ウェストミンスターの箱入り)と「AXIOM80」の音もこのところ随分似通ってきた気がする。
余談はさておき1時間ほど聴かせていただいてから、いよいよ本番の「71A」アンプに繋ぎ替え。さあ、と一同固唾を呑んで耳を澄ませた。テスト盤は「ワーグナー」でスピーカーの方は「タンノイ・シルヴァー」。
結論から言うと大善戦だった。「71A」がありのままの誇張のない個人的に楽しむワーグナーだとすると「PP5/400」の方は演出付きで聴衆向けの楽劇に仕上がっている。
好みが分かれるところだが、たかだか出力1ワットにも満たないアンプが、ワーグナーを結構スケール感豊かに鳴らすのだから一同驚いた。どうやら、いいスピーカーともなるとアンプから実力以上のものを引き出すようだ(笑)。
帰宅後にいただいたSさんのメール(抜粋)にこうあった。
「正直、ワーグナーをあそこまで鳴らし切る真空管アンプには久しぶりに出会いました。もちろんPP5/400は素晴らしいのですが、〇〇さんの71Aアンプは凄いと思います。ブルックナー辺りも聴いてみたいと思わせる素晴らしいアンプです。大切にしてください。」
ありがとうございます!
アンプはパワーが全てではありませんねえ。ハイエンドのマニアが高出力・高価格のTRアンプを使っている例を雑誌などでよく見かけるが「真空管(古典管)じゃないと絶対に出ない音があるのに勿体ないことするなあ。」といつも思うが、まあ、趣味というものは人それぞれなので謗るのはこの辺で止めておこう(笑)。
とにかく我が家の「71A」アンプが晴れの檜舞台で大活躍をしてくれたのでルンルン気分で帰途は鼻歌混じり。
ビュンビュン飛ばして、自宅に帰り着いたのは18時45分だった。いつもより晩酌の量が3倍ぐらい増えてしまった。メデタシ、メデタシ(笑)。