前回からの続きです。
長所もあれば欠点もあるSPユニット「AXIOM80」だが、その酸いも甘いも噛み尽くした愛好家が3人集まって“いいの悪いの”と、音を吟味する様はなかなかの壮観である。
オーディオは交流相手が多くなればなるほど情報量が増えるし、何と言っても「井の中の蛙」になるのを防止してくれるのがいい(笑)。
Kさん、Sさん(いずれも福岡)ともに、幾多のスピーカー遍歴を重ねて「AXIOM80」に落ち着かれた方々だからまさに筋金入りの猛者(もさ)だと言っていいが、会場元にとってはまさに「まな板の鯉」のような心境になる。
汗水たらして構築したシステムが“けなされる”と人格まで否定されたような気分になるので、まるで入試を控えた受験生のような気分だった(笑)。
今回の例会のテーマは、前回に記した事項も含めて次の4点となる。
1 はたしてプリアンプは必要なのか
2 準備したプリアンプ2台の優劣
3 我が家を代表するパワーアンプ2台の優劣
4 セカンドシステムの「タンノイ・ウェストミンスター」の試聴結果
試聴したシステムの基本的な流れはCDトランスポート「ヴェルディ・ラ・スカラ」(dCS)~DAコンバーター(2台)~プリアンプ(2台)~パワーアンプ(真空管式2台)~スピーカー「AXIOM80」(最初期版)。
まず1から行こう。
CDが登場してから30年以上になるが、レコードと違ってイコライザーが不要なのでその間ずっとプリアンプの要不要論が折に触れ話題になるが、回路的な問題に加えて機器の質的な問題も絡んでくるのでうかつに結論は出せない。
つまり、質の悪いプリアンプならむしろ組み込まない方がマシというわけで、結局個々のシステムごとにケースバイケースで判断というのが落ちだろう。
さて、我が家の場合だが結論から言うとお客さんお二人ともご自宅でもプリアンプを使ってあり、「プリアンプがあった方が断然いいです」ということに落ち着いた。どうやら音の鮮度がさほど落ちなかったご印象のようで、ああ、良かった~(笑)。
次に2について。
この2台のプリアンプの聴き比べである。左側が「真空管式」で右側が「トランジスター式」(クレルの「PAM-5」)と対照的な2台だったが、KさんとSさんのご意見が綺麗に分かれたのが印象的だった。
Kさんは真空管式に軍配を上げ、Sさんは「クレル」派、そしてキャスティング・ボートを握る自分は・・・。前者の情報量の多い濃厚な雰囲気を醸し出す力、そして後者の甘くて切なくて澄み切った青空のような音には参ったがパワーアンプとの相性もあって簡単にどちらかに軍配を挙げるわけにはいかないと思った。
まあ、それだけ実力伯仲ということで最後は「好みの差」ということに落ち着いたが、Sさんがしみじみと「この時代のクレルのボリュームはP&Gが使ってありますが重く滑らかな操作感がたまらないですねえ」。
なお、つい最近、真空管式プリの回路の終段に組み込んでもらったマッチングトランス(「UTC」)の効果だが、その威力は絶大だった。「まったく音が変わりました。音の情報量とか厚みとかがこれまでとは断然違いますよ。」と、Kさん。
少なくとも我が家の実例からいくと「プリアンプには良質のトランスを組み込んだ方がいい」。
それにしても今後、どちらをメインにして使うか贅沢な悩みが一つ増えた(笑)。
次に3について。
結局、この2台の真空管アンプの優劣も結局「好みの差」ということに落ち着いた。左側は出力管が「PP5/400」、右側が「71A」といずれも「ナス管」のシングル・アンプだが、それぞれにいいところがあって持ち主が言うのも何だか“はばかられる”が絶賛に次ぐ絶賛だった。
「スピーカーの存在をまったく意識させませんねえ。これで音楽に没頭できます。もうアンプはプリもパワーも完成しましたよ」とのことで、自分でも「そう思います~」(笑)。
後は真空管同士の組み合わせの問題で、たとえば「PP5/400」に組み合わせるドライバー管(71A)を、KさんのアドバイスでST管からナス管に替えたところ音場の微細な雰囲気をより一層醸し出すようになった。
真空管アンプの場合、少しでもグレードアップしようと思ったときは初段管、ドライバー管、出力管、整流管すべてにわたって「ナス管を使う」に限る。これまで故障や劣化したものを除いて「ナス管」に挿し替えて音が悪くなった例(ためし)がないのだからこれは経験則として自信を持って言える。ただし、ナス管は使い古したものが多いのでへタった物を使わないのが肝心。
最後に4について。
以前のJBLユニットを外してタンノイのユニットに入れ替えてから初めての試聴だったが、結果はイマイチだった。何せ「AXIOM80」を聴いた直後だから仕方がない(笑)。
とにかく「HPD385ユニットの低音域の音離れ」の悪さには皆さん閉口したご様子。もちろん、それがいいという方も沢山いらっしゃるので、好みの差ということになろうがあの反応の鈍い低音域には「AXIOM80」愛好家にとっては我慢できないところだろう。
とはいえ「お前の鳴らし方が悪いからだ」という声が外野席から聞えてきそうだが(笑)。
途中から少しでも良くしようと出力管を「WE300B」から「71A」に挿し替えてやると、どうやらこちらの方が相性がいいようで、低音域がスッキリと見通しが良くなった。たかだか出力1ワット前後のナス管が大健闘。
およそ5時間に亘る試聴だったが、梅雨の真っ最中なので午後からあいにくの雨となり、高速道路に霧がかかるとまずいので17時前にお開きとなった。
今日の例会は上首尾に終わってこれまでのオーディオ人生の中ではベストともいえる試聴会となった。お客さんたちにもどうやらご満足してもらえたようだが、おそらく今後とも厳しい“つばぜり合い”のレースになるのは目に見えている(笑)。
次回は梅雨が終わった頃合いに「Sさん宅」(福岡)での開催の運びとなったが、我が家のプリアンプの「PAM-5」(クレル)を持参して比較試聴することをお約束した。