「駐留軍受け入れ支援」に修正を
2020年10月19日
中国の軍事的膨張が続く中で、在日米軍の駐留経費の日本側負担について、日米両国政府は協議を始めました。トランプ大統領が「現在の4倍に増やせ」と発言したため、「いくら何でも無茶な暴論。トランプ流の脅しだろう」と騒ぎがおおきくなりました。
本格的な協議は、大統領選の結果がでるまで待つというのが実務者レベルの構えです。コロナ対策と経済対策で日米ともに財政赤字は史上最大に膨れ上がっていますから、簡単に歩み寄れる話でありません。
私が以前から気にしているのは、米軍駐留経費の日本側負担の一部を「思いやり予算」と呼んでいることです。40年前に当時の金丸防衛庁長官が、駐留経費分担を増額する際に「思いやり予算」という意味不明の造語を編み出し、それがいまだにメディアで使われています。
在日米軍駐留費は国防、防衛費なのであり、「思いやり」で計上しているのではありません。金丸氏は対米協力費の増額を国民の目をはぐらかすか、ごまかすためにそういったのでしょう。
「思いやり予算」という用語を死語にして今後、使うのをやめるべきだ思います。「在日米軍駐留受け入れ支援予算」とすべきです。菅政権は前例踏襲の打破を唱えているのですから、そうしませんか。
朝日新聞の社説「米軍駐留経費/腰をすえて長期的視野で」(10/18)では、「日本人従業員の給与、光熱費、訓練移転費などを日本側が担ういわゆる『思いやり予算』の協議が始まった」という表現です。朝日新聞が基地協力費を「思いやり」で負担していると思っているわけはありません。
読売は「在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)を巡る協議をオンラインで実施した」(10/17)です。日経は「駐留経費のうち日本側が肩代わりする部分は『思いやり予算』と呼ばれる」(同)です。
各社とも「思いやり予算」と表記しているところみると、政府が記者会見の際、今も「思いやり」と説明しているのでしょう。そうだとしたら、菅首相が「今後、この表現は使用しない」と指示すればいいのです。
この表現には二重の誤りがあります。まず、在日米軍関係費は約7600億円(2016年)で、日本側はその半分を負担し、その一部1600億円が「思いやり予算」に相当します。ですから「日本側負担の全額=思いやり予算」ではありません。読売、日経の記事は誤りで、誤解を招きます。
次に、国防費、防衛費は、あたかも「思いやり」で考えているような印象を与えており、この面でも誤解を与えます。安全保障政策の視点から予算編成をしているのです。
「思いやり予算」を直訳すれば、「sympathy budget」「compassionate budget」で意味不明、英語になりません。米側の文書では「host nation support」と表記しているそうです。「(支援の)受け入れ国、あるいは接受国の資金協力」なら、英語になります。
発案者の金丸氏は「米国も駐留軍経費を維持するのが大変なようだ。日本側で負担できるものがあったら、思いやりもって応じよう」と、語ったそうです。円高、対日貿易赤字の拡大などが背景にありました。「思いやり」といっておけば、国内の反対を押し切れると考えたのでしょう。
日本人基地従業員の給与、隊舎、光熱費などから始まり、対象がどんどん拡大し、現在はグアムへの海兵隊移転費まで含みます。「思いやり」なとどいう次元の話ではありません。
本則の日米地位協定(安保条約第6条)とは別に特別協定が結ばれ、5年間の日本側負担額が決められ、来年3月に期限切れとなります。その更新の日米協議が始まったということです。
日本側は「思いやり分を含め、米軍駐留経費の8割以上、負担している」ともいい、すでに十分、負担しているという思いでしょう。
大きな問題になりそうなのは、防衛予算をGDP比で2%程度(現在1%)に引き上げよという要求です。米国製の軍事兵器をもっと購入せよという意味でしょう。「思いやりといっているのだから、もっと予算を増やせないことはない」と、なりかねません。
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