軽率な発言に気をつけて
2015年2月18日
作家の曽野綾子さんが移民問題で、相当に雑な発言をして、波紋を呼んでいます。テーマといいタイミングといい、最悪でしたね。批判に対する挑発的な反論もどうでしょうか。言いたいことをづけづけ口にするのが身上にせよ、「イスラム国」連続テロ事件の背景には移民問題があるだけに、曽野さんの持ち味が裏目に出てしまいました。
産経新聞に「労働力不足と移民」をテーマにコラムを書き、条件つきで移民受け入れを提案し、問題の指摘をしました。「外国人を理解するために、居住をともにすることは至難の業。居住区だけは白人、アジア人、黒人と分けて住んだほうがいい」と主張しました。今まさに欧州で、イスラム系移民の失業、貧困などがテロを生む重要な背景になっていると、言われていますので、国際的な反発まで巻きおこりました。
アパルトヘイトとの反発
南アフリカの駐日大使は「居住区を分けることは、アパルトヘイト(人種隔離、差別)の労働力管理システムと同じ。この発言は、アパルトヘイトを許容し、美化した」と怒りました。日本アフリカ学会の有志60人はアパルトヘイト政策を擁護する趣旨を持った見解」として、本人と産経新聞に謝罪と発言の撤回を求めるという騒ぎです。居住区は極めて機微に触れる問題で、周到に表現を考えてかからねばなりません。
本人にはアパルトヘイトを許容する意図などなかったでしょう。「生活習慣の違う人間が一緒に住むことは難しいという個人の体験を書いているだけ」と、曽野さんは説明しています。海外で多く見られるチャイナタウン、リトル東京(外国人街)などを思い浮かべての発言だったようです。
それなら穏やかに、そういえばいいのに、曽野さんは違っていました。朝日新聞に「今回、間違った情報に基づいて興奮している人々を知りました」とか、「わたしはアパルトヘイトを称揚したことはない」などのコメントを載せました。きつい反論で、挑発的、けんか腰です。これではさらに反発を生み、溝を深めてしまいます。
わたしには文学作品を論評する能力はありません。ベストセラーになった曽野さんの人生論めいた社会論は読んだことはあります。誰もが思っていても、口にしないようなことが、づけづけ書いてありました。強気でこわいもの知らずというのでしょうか。本音というか、挑発することを恐れないというか。それも保守思想が背骨になっていますので、ファンが多い一方で、気に食わない人も少なくないはずです。わたしが新聞社にまだいたころ、寄稿文の表現が適切でない箇所を、編集デスクが独自の判断で手直ししたところ、烈火のごとく怒りまくり、しばらく新聞社とは絶縁状態になりました。そういうタイプの人ですね。
国民の同化こそ必要
つい2,3日前、日経新聞にフランスを代表する国際政治学者、ドミニク・モイジ氏のコラムが載っており、連続テロ事件を扱っておりました。「フランスはテロ事件後、国民の同化、連帯、平等に問題があると気づいた。バルス首相が都市郊外の貧しい一帯をアパルトヘイト状態と指摘したことは、驚きであり、現実である」、「移民と分る名前で郊外に住んでいるだけで就職できない」、「将来が見えないから結婚相手が見つからない」。曽野さんの認識とは正反対です。
曽野さんが軽い気持ちで思ったことでも、欧州では重大な問題なのですね。曽野さんの名誉のために触れておきますと、ロイター電など海外メディアで「首相の元アドバイザーがアパルトヘイトを称賛」という報道があったそうです。これはひどいですね。元アドバイザーというのは、官邸の審議会か有識者会議の委員ということだっただけでしょう。「アパルトヘイトを称賛」というのは、そう書けば大きな扱いになるという卑しい根性からのことだったのでしょう。海外メディアのレベルも落ちていますね。
ともかく異文明、異文化間の相互理解は難しく、誤解や対立が深刻な対決を招き、それが長年、蓄積すると、「イスラム国」のような暴走、暴虐という絶望的な事態に至るのでしょう。「イスラム国」問題が最大の国際問題になっているだけに、曽野さん、不用意でしたね。
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