憎しみの連鎖を防げ
2015年2月15日
世界情勢は異常な動乱期にはいってしまいました。中東やロシア・ウクライナの情勢をみていると、これまでの座標軸を変えてかからないと、世界をどうにも理解できない大転換期を迎えたのでしょうか。欧米型の民主主義国家が次第に世界に広がっていくというのは、われわれの思い込みで終わるのでしょうか。矛盾に満ちていても、憎しみと対立の連鎖を防ぐことを先ず第一に考える必要があると思います。
イスラム過激派によるパリの連続テロ事件、犠牲者を悼む前代未聞の大デモ行進で、人気が落ち目だったオランド大統領の支持率は、ある調査によると、過去最低の19%から40%へと、記録的な回復をしたそうです。オバマ米大統領も、対「イスラム国」武力行使の容認、地上部隊の派遣を示唆するに及んで、支持率が反転しているそうです。日本では、人質が殺害され、救出に政府が失敗したにもかかわらず、テロへの対決姿勢が評価されたのか、安倍政権の支持率は逆に高まりました。
諸悪の根源は過激派にあるにせよ、過激派への監視の網をくぐってテロ事件を許してしまったことの責任は、仏政府にもなかったとは言い切れません。オバマ大統領は、もたついたシリア、イラクへの対応の責任が国内で厳しく問われてきました。安倍政権は人質救出の失敗が支持率に影響がでるのかなと思っていましたら、読売(58%)、NHK(54%)の調査では逆に上がっています。国外から降りかかってきた危機には、強硬姿勢をとることが政権維持の必要条件のようですね。
対決姿勢は政権に有利に働く
国の非常事態では、とにかく国民の結束が求められるので、政権に対する支持率が高まる傾向がありました。ロシアではどうでしょうか。ウクライナの泥沼の危機に国を突っ込ませてしまったのはプーチン大統領に重大な責任があります。それなのに、ウクライナの奪還、欧米に対する強硬姿勢が受け、支持率が80%くらいになっていますかね。対外的な危機が政権への追い風になるという展開では共通しています。
過激派に対し、「断じてひるまない」、「罪を償わせる」、「法の裁きを受けさせる」という正論は、日米欧の政権に共通しています。政治的な支持を維持するには、強硬姿勢を緩めるわけにもいかないし、むしろ強めて行こうというのでしょう。残虐非道の過激派が相手ですから、だれも反対しません。一方、相手は死に物狂いで抵抗しますから、それだけでは憎しみ連鎖から悲劇的な事件が起きがちです。同時に弾力的な逃げ道を作っておくことが政治権力者の条件であるはずです。
こんな中で、イエメンで政権が崩壊し、内戦の危機に陥っています。国家の不安定な状況は、過激派武装組織が勢力を拡大する素地を作りだしているとされます。リビアでは、「イスラム国」は地下の傘下組織と連携し、新たな勢力圏を広げる動きをみせています。地元のテレビ、ラジオ局を占拠し、悪名高い指揮者、バクダーディの声明を流したといわれます。
育たない民主主義体制
リビアのカダフィ政権が崩壊した時は、日本を含め、西側のメディアは刻一刻、政権が追い詰められていく様子を報じました。拍手喝采する空気が覆いました。軍部を背景にした独裁政権は民衆を弾圧し、欧米型の民主主義国家の価値観と相容れないので当然でしょう。問題は独裁政権が崩壊したのちも、民主政治が育たず、国家が破綻すると、過激派が伸張し、兵器、武器を押収し、支配地域の拡大に使うという際限のない悪循環です。事態は独裁政権のあったころよりも悪化する。そうした展開が中東、北アフリカに集中的に起きているのです。
イスラム過激派の非道な行動には、徹底的に軍事力で対抗していかねばなりません。問題はあまりにも各地に広がったかれらの勢力を、軍事力による封じ込めだけでは、削ぐことができそうにないことです。とにかく既存の国家が破綻することを優先して考えねばなりません。国家の破綻はさらなる混乱の始まりになるに違いありません。それが「イスラム国」の衝撃から学ぶ教訓です。
国家の破綻防止が最優先
独仏、ウクライナ、ロシアがようやく停戦合意にたどりつきました。長引く戦闘でウクライナの経済は破綻寸前とされます。ロシア経済も欧米の経済制裁、原油暴落、通貨ルーブルの急落で、経済危機が深刻になっています。停戦合意の順守に向け、国際的な圧力が重要だと、新聞の社説などは指摘しています。果たしてロシアを徹底的に押さえこむ力が国際機関や欧米にあるかどうかが問題です。理想は理想として追い求めながらも、ロシアもウクライナも、国家として綻びが生じないようにもっていくことを優先させる時代に入ってしまったような気がしてなりません。
欧米型の民主主義国家、ロシアのような事実上の独裁国家、中国のような共産党独裁の国家、軍部が国のまとまりを主導する国家などが並存するのをしばらくは許容するしかないということでしょうか。それぞれの国でそれぞれやってもらう。国家はいずれは民主主義体制に移行していくものだという道筋は、現実的ではないようにも展望されますね。
先日はコメントありがとうございました。