独立監視機関の設置を毛嫌い
2021年12月6日
臨時国会が6日、召集され、新型コロナ対策などを盛り込んだ21年度補正予算案が主な議題です。20年度は3回の補正を組み、年間で総額175兆円、しかも今回の補正予算35兆円の財源は全額が国債発行です。
主要国は増税を含めた財政健全化、金融緩和政策の正常化に向かおうとしているのに、逆コースを走る日本の政府、与党はもちろん、野党にも危機意識はほとんどありません。将来、日本経済が大混乱に陥れば、与党が陥没し、野党に政権が回ってくることを期待していると疑いたくなる。
背筋が寒くなどの空恐ろしさです。「日本は例外」という空気が支配しています。窮地に陥れば、神風が吹くとでも思っているのだろうか。
「30年以内に70%の確率」と言われている大震災が起きたら、財政負担が何十兆円に上るかの試算もしていない。新型コロナのような感染症、温暖化による自然災害は「例外」どころか常態化しています。
与党は政権の維持、選挙対策という視野でしか国家の金融、財政を見ていません。「日本有事」でなく、政権の維持に備えているのです。
それを正当化するのが米国発のMMT(現代金融理論)、つい最近まではFTPL(物価水準の財政理論)でした。米国ではそれほど見向きにされていない理論をありがたがる「例外的な国」が日本です。
かりに目標を達成し、緊縮財政に向かうべき段階になっても、高齢化に伴って増大する社会保障費などは削れない。○○理論、△△理論はそんなことに関心を払っていません。
さすがに財政制度審議会(財務相の諮問機関)は提言で、歯止めがかからない財政政策を「戦後最大の例外」と位置づけ、脱却が必要だと指摘しました。これまで聞いたことがない「戦後最大の例外」という文言には、怒りがこもっています。問題は、「何年例外を続けてきたのか」です。
その一方で政府が決めた来年度予算編成の基本方針では「経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない」を強調しました。「経済優先の財政政策を続けてきた成果」を検証しようともしていません。
自民党内では、安倍氏の援護を受けた高市政調会長が旗振り役で、積極財政派は、財政赤字を積極的に容認するMMT(現代金融理論)を支持しているとのことです(読売、12/2日)。
米国発のMMT理論は、主流派経済学者からは拒絶されており、「民主党の反緊縮のリベラル派」の人たちに歓迎されている(岩村充早大教授)。米国のリベラル派(左派)が信奉する理論を、日本では自民党保守派が借用するおかしさに気がつかない。
MMT理論によると、財政拡大を終了する際、「インフレ率が限度を超えたなら増税すればよい」のだそうです。そんなことは日本ではできない。
日本の政治は、適切なタイミングで増税できない。岸田首相は「今後、10年は消費税を引き上げない」とすでにいい、それが政治公約です。安倍元首相も消費税引き上げを選挙対策で見送りました。
経済・財政理論は、現実を極めて単純化したモデルに立っています。現実はどうかというと、「増税すべき時に増税できない」「歳出を圧縮すべき時に圧縮できない」のです。
財政政策を決めるのは政治で、経済理論ではない。財政はもはや政治学で扱ったほうがいいのです。経済・財政理論を研究するなら、政治学と一体で扱ってほしい。財政審にも政治学者を委員に任命すべきです。
日本が世界から見て、「例外」なのは、財政に対する独立した監視機関がないことです。主要国ならどこの国でもあります。
日経の特集記事「賢い財政支出の実現」(6日)では、3人の専門家のうち、2人が独立機関の設置を提唱しています。
「英国では2010年に監視機関(予算責任局)を設け、政府から独立した立場で経済と財政を分析する。08年の国際金融危機がきっかけとなった。政府の財政や経済成長の見通しは常に楽観的で、危機が起きた時に手が付けられなくなっていた」(リチャード・ヒューズ局長)。
「18歳以下の子供への10万円給付、アベノマスクの一律支給はじめ、根拠やデータに基づく判断から外れる財政支出が多い。将来の財政を推計・試算する独立監視機関があるべきだ」(佐藤主光・一橋大教授)。
日本は過去20年、経済成長率は1%以下です。その間の財政金融政策は、異次元金融緩和をセットにしたアベノミクスが典型です。
「経済を優先した財政政策を」といい続け、その効果がなかったから国債残高は1000兆円を超えた。しかも日銀がその半分を保有しており、そのような国は他にない。財政が悪化している各国の中でも、日本は「例外」といっていいほど異常な状態です。
財政の実態をみれば、財政理論が通用しない国であることが分かる。財政学は政治学と一体でないと、研究する意味はありません。
6月に「政府に左右されない独立した監視機関を設立する超党派議員連盟」が発足し、与野党から7人が共同代表に就任しました。発起人は林芳正外相(当時参議院議員)らに期待したものの、もう雲散霧消でしょう。
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