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学術会議人事で首相の拙速が招く混乱

2020年11月03日 | 政治

野党に付け入る隙を与える

2020年11月3日

 学術会議の会員人事をめぐり、菅首相がちぐはぐな答弁、説明を何度も繰り返しています。矛盾する答弁が多いのは、結論(任命拒否)が先にあり、矛盾を突かれ、後から辻褄を合わせようとしたからでしょう。

 

 この問題に対する菅首相の理解不足、安全保障・治安を優先させたい警察系の官邸官僚の政治感覚の鈍さによるのでしょう。菅首相は老獪だと思っていましたら、前政権からの引継ぎ事項でもあったのか拙速でした。

 

 多様な意見を尊重しつつ、学術会議のあり方、会員の選考基準、首相の任命責任に検討を加えることは当然、あっていい。これらを先行させてから、結論(会員の任命)を出すことが必要なのに、順序が逆になりました。このため建設的な議論ができなくなりました。

 

 これまでの経緯、説明を事実上、白紙に戻し、謝るところは謝り、一から出直したほうがいい。安倍政権でも、その場しのぎの説明を重ねるたびに、矛盾点が浮上し、野党は追及に夢中になり、国会が空転しました。

 

 感染症対策、雇用対策、デジタル化など「山積する課題に議論を深めよ」(読売社説、3日)といっても、学術会議問題をこじらせる原因を作っているのは政権側です。その反省抜きに議論は深まらない。

 

 首相答弁の「会員が7帝大に集中、私立・公立大が少ない、民間、地方が冷遇、女性も少ない」はひどかった。事実なら学術会議の会員構成を見直していくことは必要です。私も「それなら首相側は、詳細なデータをきちんと公表したらいいのに」と思いました。

 

 学術会議などによると、実態は違う。「11年以降、東大・京大の比率は36%から27%へ、私立・公立は18%から27%、近畿地方などは15%から24%、女性は23%から37%」(朝日新聞)と改善しています。

 

 これには驚きました。首相はどのようなデータを見て発言したのでしょうか。首相を補佐する官邸官僚の説明が不十分だったのか。それとも、首相の理解不足で、「改善はしてきてはいる。それをさらに改善させていきたい」といえばともかく、その肝心な部分を忘れてしまいました。

 

 首相の説明に対し、野党から「任命を拒否した6人のうち、3人は私大。さらに女性は1人、地方2人。なぜ任命拒否したのか説明がつかない」と批判されました。6人の内訳くらい、頭に入っていなかったのか。

 

 会員の選考基準は、学術会議法では「優れた研究または業績がある科学者」となっています。それを政府が変更するのは自由です。それなら「今後、選考基準を変える。会議法も改正する」と事前に手順を表明し、それを待って新会員を発表すれば、こんな騒ぎにならなかったはずです。

 

 中曽根首相当時の「学術会議の推薦通り任命する。政府が行うのは形式的な任命にすぎない」を修正しても構わない。そのためには、「公務員でもある会員の任命責任は首相にある。中曽根答弁を修正する」と、事前に法解釈を変更を表明しておけばよかった。それをしていない。

 

 段取りを事前に整えておかず、拙速で結論(任命拒否)が先行してしまい、理由をあれこれ、後付けするからおかしなことなった。政権の安保・治安法制に反対する学者を外したいのなら、注意深く段取りを整えておけば、本音を明かさずに、辻褄を合わせられたかもしれない。

 

 首相の「最終的な推薦者リストをみていない」も、なぜこんなことを口走ってしまったのか。一方で「任命責任は首相にある」と断言していますから、「最終リストを見ていないのに、任命責任を果たせるのか」と追及されることは歴然としている。なぜ、そこに思い及ばなかったか。

 

 「学術会議には10億円の予算がついている。公費を使っているのだから、政府が会議の活動や人事に関与するのは当然である」も、なんでこんな言い回しをしたか理解できません。

 

 諸外国に比べると「たった10億円」ですし、半分は事務局職員の人件費でしょう。他の政府審議会の委員と同レベルの日当(1日約2万円)と交通費が会員に支給される程度でしょう。大げさな語り口です。

 

 

 

 

 

 

 

 


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