国債減額は出口の入り口
2024年6月16日
日銀は金融政策決定会合で、長期国債の買い入れを減らしていく方針を決め、7月に規模を決めることにしました。その規模は「市場参加者の意見を確認しながら計画を作る」、「1-2年程度の減額計画を決める」と、植田総裁は述べるにとどめました。慎重というか、市場への地ならしというか、自信がないのでしょう。
新聞は「マイナス金利の解除に続き、『量』の面でも正常化を進める」(日経)、「大規模な金融緩和政策からの正常化を慎重に進める構えだ」(読売)と、「正常化」に向っていることを強調しています。
正常化の終着点があるとすれば、いつを想定しているのかについて、記者団も聞かないし、専門家も終着点まで何年かかるかを語らない。分からなければ、何通りかのケースを想定して、現実的な想定はどれなのかと考えるべきでしょう。
アベノミクスによる異次元金融緩和政策が始まったことは分かっても、「正常化の終着点として、どのような姿を日銀が描いているのか」、「欧米並みの財政状態に近づけることをいうのか」、「それには何年かかるのか」など、われわれが知りたいことを植田総裁は何も語っていません。
消費者物価上昇率2%というのは、日本も国際標準と考えています。それならば、それを裏打ちする金融財政状態の国際標準もなければおかしい。
「市場が混乱しないように、恐る恐るやってみなければ分からない」というあたりが本音なのでしょう。日銀がやろうとしているのは、異次元金融緩和の「出口の入り口」に差し掛かったということに過ぎない。この後、「長い長い出口」が待ち構えており、「出口の出口」にたどりつくのは、2、30年先か。
その間、大震災、また世界的な感染症の拡大でもあったらどうするというのでしょうか。植田総裁は「1-2年程度の国債減額計画を決定する」と発言しました。目先のことしか考えられない。まあ、植田総裁の責任というより、安倍・黒田ラインでやった失政の後始末を押し付けられている感じです。
異次元金融緩和(2013年から)の直前の2011年の円の対ドル相場は1㌦=75円でした。それが2023年には一時160円(円安)まで下落しました。国内の消費者物価は跳ね上がるし、ドル建てのGDP(国内総生産)はドイツに抜かれて4位に転落、1人当たりのGDPは、OECD(主要国)中で最下位レベルに落ちました。あわてて財務省は160円を防衛ラインに置き、ドル売り介入を断続的に続けています。
苦々しく思っているのがイエレン米財務長官で「為替介入はまれであるべきだ。介入は過度な変動がある場合に限定され、事前に協議があるることが期待される」と、繰り返し述べています。財務省は介入の際は米国と協議するようなことを言いふらしてきました。それもやっていないのでしょう。
イエレン長官は本心では「為替介入なんかより、日本は劣悪な財政金融状態の是正に取り組むことが本筋だ」と考えているに違いない。正論です。つまり異次元金融緩和と財政拡張政策が招いた劣悪な状態を正常化しなければ、これから何度も円安の投機に見舞われるに違いない。イエレン長官はそう警告したいのです。
アベノミクスが2013年4月に始まる直前、政府、日銀は共同声明(13年1月)を発表し、放漫財政にならないように「持続可能な財政構造を確立するための取り組みを知着実に推進する」と、明記しました。当時の安倍政権は、全くやる気を見せず、日銀の保有国債残高は590兆円、GDP比で2・6倍という惨憺たる状況です。
政府債務残高のGDP比は、日本2・6、米国1・2、ドイツ0・9です。債務から資産を差し引いた純債務のGDP比は日本1・2、米国1・1、英仏0・7、独0・3です。米ドルは国際通貨として別格ですから、せめてEU並みに圧縮することを長期目標にしたらでしょう。1・2を0・5程度に圧縮する。何十年かかるでしょうか。
政府は財政再建目標として「25年度に基礎的財政収支(PB)の黒字化」を堅持します。これでさえ楽観的な目標でしょう。いかにも財政再建の旗印は下ろしていないとうアリバイにしようとしているだけです。
植田総裁の記者会見で腑に落ちないのは、就任時に「1年半か2年程度かけて、過去2、30年の拡張的金融政策の検証結果を発表したい」と、約束しました。それを待たずに異次元金融政策の方向転換に着手しました。
「計画の立案→実施→検証→計画の修正」というステップは欠かせません。日本は重要政策ほど「なんとかなるさ」、「なるようにしかならない」という気分でやってきました。もういい加減にしてほしい。
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