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製造業の回帰では米国の赤字は減らない

2017年01月15日 | 経済

 

トランプ新大統領の大いなる錯覚

2017年1月15日

 製造業のメキシコへの移転阻止などで、トランプ次期大統領は米国の貿易赤字を減らし、国内の雇用を増やそうと叫んでいます。製造業が国内回帰するか海外移転を断念するかすれば、米国の貿易赤字が減るかというと、逆に赤字は増えるとの指摘がなされています。不動産王のトランプ氏は不動産業に詳しくても、経済全体のメカニズムには疎いようです。


 結論は、米国が頭抜けているIT産業、ソフト産業、あるいは金融・証券などマネー産業の強化です。これらが経済構造を支える仕組みになっています。コンピューター、ソフトウェア、情報通信技術などの強みを生かさず、国際競争力が落ちた製造業を重視すればするほど、貿易赤字は増えてしまうのです。ついでに触れると、米国の金融・証券業は世界最強で、金融サービス業の儲けなどで、経常収支は貿易赤字の半分程度の赤字になっています。


 わたしの知人で、国際的な電機メーカーのトップクラスだった方がトランプ発言の逆効果を懸念しています。製造業の実態を知らなすぎるというのです。その方の見解を拝見しましたので、紹介します。同じキャリアを持つ別の知人も、「産業力の源泉はもはやハード(モノ)ではなく、ソフトウェアが生み出す。ハード重視は時代遅れ」と断言します。


組み立て工場を増やしても効果薄


 「自動車などの二次産業の製造技術は海外に移転し、米国内には残っていない」、「自動車の組み立て工場を米国内に新設しても、大部分の部品は海外から輸入しないと、今や組み立てられない」、さらに「モノ造りで付加価値が最も高いのは部品の製造であり、最も低いのが組み立て工場である」と、いうのです。


 テレビもそうでしたね。部品の優劣で競争力が決まってしまい、その部品は貿易取引でどの国へも輸出されます。最終工程の組み立て部門は、付加価値をわずかしか生まない単純作業という位置づけです。同じことが自動車で起きています。指摘はまだ続きます。


 「最終工程の組み立て工場で増産しても、潤うのは日本など、部品の輸出産業である」、「航空機にしても半導体を始め、胴体や翼の部分まで日本で生産し、輸出し、米国で組み立てている」、「機体の軽量化のためのアルミに代わる素材、つまり次世代部品の技術も日本企業が握っている」。にもかかわらず、米国が国内重視の産業政策をとるとどうなるか。


 「生産台数を増やせば増やすほど、部品輸入によって、米国の貿易赤字が増えてしまう」。しかも、です。「人件費の高い米国内で組み立てれば、米国民は割高な米国製自動車を購入せざるを得なくなる。よほど完成品の輸入関税を引き上げないと、米国の自動車産業は成り立たなくなる」。これが知人の結論です。米国の人件費はメキシコの約10倍です。


巨額の米国債を保有する日中が目障り


 米国の貿易赤字は7400億ドルで世界最大です。対中国が半分、対日本が1割です。トランプ氏は目ざわりな日中を名指しで批判しました。中国と日本とでは、貿易構造はまるで違います。同列に論じるのはおかしいし、日本叩きをすればするほど、米国の貿易赤字は増えるというのが経済のからくりです。


 トランプ氏が激情に走る大きな理由は、日中が巨額の米国債を保有しているからでしょう。1位は日本で、対米貿易黒字が積り積もって1・3兆ドル、2位は中国で、この10年で急増し、1・1兆㌦です。かりに両国が米国債を一挙に売却すれば、米国債は急落(金利急騰)し、米国経済は核兵器並みの痛撃を受けます。そんなことをすれば、日中も痛手をこうむりますから、慎重です。ただし、これは米国最大の弱点になっており、いわば脇腹につき付けられている剣です。


 脇腹の剣を払いのけるために、日中や、工場の海外移転を計画している米企業を叩こうとするなら、その前に、複雑に絡みあった世界の貿易構造をしっかりと、分析して臨む必要があります。




 



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