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日銀OBが新刊で異次元緩和の恐ろしい結末を警告

2023年03月24日 | 経済

 

緻密な分析で黒田氏を痛烈に批判

23年3月24日

 黒田日銀総裁の退任に向けて、10年に及んだ異次元金融緩和を総括する出版物、解説やインタビュー記事が多数、発表されています。黒田氏自身、日銀自身が「本当のところはどうなっているのか」の検証をし、日銀もその公表に取り組んでこなかったからでしょう。

 

 異次元緩和や、これを軸にしたアベノミクスに「一定の成果」があったとする擁護派もいることはいます。一方、批判派の声があちこちで上がり、「このままでは末恐ろしい結末を迎える」という警告が聞かれます。植田新総裁は批判派の声をよく聞き、予想される恐ろしい近未来に対応し、本当のことを国民と市場に向けて語ってほしいと、私は思います。

 

 日銀OBで、シンクタンクのエコノミストである河村小百合氏が「日本銀行・我が国に迫る危機」(講談社現代新書」という近著を出版しました。金融、財政、物価、諸外国の動向などについて、何十枚ものグラフ、表、データを駆使して、実証的に分析する本です。擁護派に多くみられる感覚的、楽観的、思い込みとは正反対の立場です。

 

 河村氏は「黒田日銀は本当のことを語っていない。かたらない本当の理由がある」と、繰り返し指摘しています。「本当のことは何か」を考えてみるという問いかけをしているのでしょう。

 

 世界は高インフレ局面に急展開し、一過性ではなく長期化の兆しがあります。海外ファンドなどは「日銀の異常な金融緩和政策の継続は無理だ」とみて、昨年来、国債の大規模な売り攻勢(金利上昇圧力)をかけています。

 

 河村氏は「ついに不穏な兆候が現れた。高インフレ、円安、海外市場の動き。日銀は国内外の経済・金融情勢に応じて、機動的に金利を引き上げることができなくなっている。日銀は超金融緩和からの転換を頑なに拒み続けている」と、指摘します。日銀は身動きできない、しない。

 

 なぜ頑ななのか。「本当のところ、深刻な理由があるからだ。日銀関係者は本当の理由について自分たちから口にすることはない。隠している」と。日銀関係者とは、黒田氏をトップとする執行部のことでしょう。

 

 その深刻な理由というのは何か。「異次元緩和を10年も続けてきたため、ひとたび利上げ局面に入れば、日銀の財務体質が悪化し、赤字に転落することが確実な状態にすでに陥っている。その状態が数年も続けば、日銀は債務超過に転落し、その状態が何十年も続く」と、河村氏は断言します。

 

 するとどうなるのか。「通貨の信認が失われ、海外との経済取引の相手として信用されなくなる。日銀が自力で収益を回復できる見通しが立たないと、政府が税金を投入するか、国債発行を減額(歳出のカットになる)することになる」という状況にならざるをえない。

 

 そんなことを黒田氏以下は分かっていなかったのだろうか。分かっていても、黒田氏以下は対応してこなかった。河村氏は「黒田日銀は、異次元緩和を始めた当事者であるはずの自分たちの責任を問われる事態は任期中はなんとしても避けたいということだ」と、一刀両断します。

 

 「責任を問われる事態は任期中に避けたい」とは、なんとも激しい言葉です。政府でも民間企業でも、よくあることで、それが傷口を広げてしまう。

 

 日銀の債務超過問題とは何なのか。日銀の保有国債は国債全体の52%(536兆円)に達します。金利が上昇局面に入り、国債価格(相場)が下がれば、保有国債に損失がでる。前副総裁の雨宮氏は国会で「長期金利が1%上昇すれば、含み損が28兆円になる」と証言しています。

 

 これに対し、日銀は国債を満期まで保有を続ける会計処理(全額償還)をする。海外の中央銀行は時価評価するのに対し、日銀は簿価評価をするので、含み損があっても、財務問題は生じないという説明がよく聞かれます。異次元緩和の擁護派がよく使う便法です。

 

 河村氏は、その正反対の論者です。「金利上昇時に発生する国債の評価損は、日銀当座預金に対する利子(付利)コストの増加にほぼ等しい。日銀が供給する通貨の大部分は、民間銀行が日銀に預ける当座預金の形をとる。市場金利が上昇すれば、当座預金の金利も上げることになる。それが日銀の財務に大きくのしかかってくる。含み損が表面化する」と。

 

 日銀当座預金残高は2月現在で、563兆円まで拡大しています。預金の「基礎残高」には0・1%の金利がつけられており、これが上昇していけば、日銀の財務内容が悪化します。つまり「満期まで保有するので、評価損は心配ない」という説明はなり立たないことになります。

 

 この問題では、中曽・前副総裁も昨年9月のインタビューで、「利上げする時はくる。当座預金の金利も引き上げることになり、日銀の収益は減り、国庫納付金も減り、政府収入も減る。増税か歳出カットで穴埋めするしかない。一方、利上げせずにインフレを放置すれば、物価上昇を通じて、結局は国民が負担することになる」と、語っています。

 

 安倍・元首相は22年5月の公演で「大丈夫です。政府がいくら国債を発行しても、日銀に買わせておけば大丈夫」と語りました。河村氏は「日銀の金融政策の運営能力、財政にどのような影響を及ぼすことになるか、安倍氏は22年に至っても、理解できていなかったようだ」と、手厳しい。

 

 日銀の財務問題以外に、「黒田氏が言わない本当の理由がある。それは財政運営だ」と、河村氏は指摘します。国際的な金利動向、インフレ、円安により、金利上昇局面にすでに日本も入っています。日銀当座預金の金利上昇→日銀の赤字決算転落→日銀の債務超過の発生→政府による補填→増税か歳出カットという、連鎖になることが避けられないというのです。

 

 

 23年度予算(歳出総額114兆円)では、国債費が25兆円(うち利払い費は8・5兆円です。これまでのように10年国債の金利をゼロ近傍に抑えつけておくことができなくなる。長期金利の上昇→利払い費の増加→国債減額→歳出削減→社会保障費、防衛費、教育費などに影響という連鎖です。異次元緩和の出口(金利上昇、国債減額)ではこうした事態が生まれる。

 

 河村氏は、一連の分析を通じて、次のような提言をしています。

①こういう事態を招いたことを反省し、中央銀行の組織運営を再建する

②日銀は政府の財政運営に関する調査に取り組む

③市場金利は市場が決めるメカニズムを尊重する

④「期待される効果がないのに効果がでるまでやり続けた」ことへの反省

⑤新しい政策手段は慎重、かつ段階的に、期限を切って試みる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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