異次元緩和と財政再建の相克
2014年11月23日
自信満々だった黒田日銀総裁の表情に、不安と焦りの色を感じる人が増えてきているような気がしてなりません。解散・総選挙の期間中は、2人のすれ違いの話は封印されるでしょう。問題は選挙後です。2人の蜜月関係に変化が広がっていくような予感がしてなりません。
ちょっとした異変が起きたのは、11月19日の金融政策決定会合後の記者会見でした。黒田総裁が願っていたであろう消費増税が、安倍首相によって先送りになることが確定的になったことを受け、「財政再建を政府に期待している」と語ったのです。異次元緩和は財政再建とセットなっており、一般論としては、珍しい指摘ではありません。総裁が同じ発言を4回も繰り返したとなると、安倍首相に対する間接的な批判をしたと理解されますね。
財政再建が口先だけでは
その後、安倍首相は消費増税の先送りと解散・総選挙をセットにした選挙戦術で、「もう4年の長期政権の確立」に臨む考えを明らかにしました。マイナス成長の現状を考えると、消費増税の先送りは止むおえないとしても、「国民に痛みを覚悟してもらう財政再建計画をきちんと練り直してくれるのだろうか」と考える人は、黒田総裁に限らない思います。
黒田総裁の心境を推測すると、「安倍首相が唱える財政再建は口先だけで、日銀は異次元緩和の長期間の継続、あるいは追加を求められるのではないか」ということでしょうか。増税、歳出削減を伴う財政再建は国民に痛みを求める不人気な政策です。それに対して、金融政策の当事者は日銀だけですから、国会の議決もいらず、日銀が「うん」といえば、異次元緩和であろうと、その手段が国債の大量購入であろうと、実現できます。問題は、ただでできる景気政策はなく、そのツケは後から必ずやってくることです。
黒田総裁の心境をさらに推測すると、「異次元緩和による消費者物価の引き上げが思うようにいっていない」ということでしょうか。「2年で2%の上昇させ、デフレから脱却」の目標に対して、その結果はどうでしょう。最近では1%程度に逆戻りの気配です。その一因は原油安です。ガソリンが下がって消費者からみて歓迎できる下落なのです。それが「とにかく中身を問わず、2%目標の達成を」の日銀にとっては歓迎したくはないような気配です。国民の間で、「2%至上主義」に疑問が生じてきていることに、日銀は不安を感じだしているに違いありません。
急激な円安に不安感
急激な円安に不安を抱きだした人も多いでしょう。安倍政権の発足前後から、一ドル80円程度が120円程度まで円の価値が落ちてしまいました。これほどの円安でも輸出は伸びず、その一方で、生活関連物資、中小企業関連の物資が値上がりしています。黒田総裁は円安歓迎論者です。それに対し、麻生財務相が「円安のテンポが速すぎる」と批判論を唱えました。ここでも政府・日銀のすきま風を感知できます。海外から「日本は円安誘導をしている」との指摘は高まるでしょう。日本は為替操作をしていると、見られると、やっかいなことになりますね。
財政再建が遅れても、すぐに国債金利が上昇するというわけではありません。そのツケは後から必ずやってきます。長期国債の発行残高の40%を日銀が保有しています。国は歳入の40%が国債発行に依存し、日銀をあてにした国債政策は壁にぶつかります。海外のマネー市場では「こんな状態が数年、続いたら、日本は円、株、国債のトリプル安に見舞われる」という、物騒な疑念が聞かれるようなっております。異次元緩和と財政再建の歯車がかみ合い、経済が好循環の局面に早く入らないと、この疑念は杞憂に終わらないと、黒田総裁は察知しているのでしょう。アベノミクス、異次元緩和にとって猶予期間はあまりないのです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます