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戦後70年談話の5つの不思議

2015年08月15日 | 政治

 

 

迷走し、ちぐはぐさが目立つ

2015年8月15日

 

 結論に至るまでに、様々な曲折があったと思われます。14日に発表した戦後70年談話の作成で、安倍首相は持論を相当に引っ込めたのではないでしょうか。そのため、海外からもそう無茶な批判を受けたりすることはなさそうな反面、ちぐはぐところがかなり目につく談話となりました。


 戦前を振り返りつつ、戦後70年の歩みを3400字(原稿用紙で8枚程度)にまとめ、あちこちからも批判を受けないように気を配るのは容易な作業ではありません。それを承知で、昨日の記者会見を聞きながら感じたことを「5つの不思議」にまとめてみました。


外人記者をなぜ招かかったか


 第1に、中国、韓国を始め、各国から注目されながら、談話発表の会見には、外国人記者の姿は見当たりませんでした。日本の戦後史を総括し、これからの国の針路を語るというのに、なぜ外国の記者をその場に招かなかったのでしょうか。めったにない機会です。首相官邸が物理的に無理なら、別途、会場を用意すればいいのです。「地球儀を俯瞰する外交」というなら、国際感覚がもっと欲しいところです。


 外務省あたりで外国人記者向けのブリーフ(説明)はしたでしょう。やはり、首相の表情を観察し、質問する機会も与えられるべきでしたね。首相はプロンプターを見ながら演説していました。外国人向けに英語の翻訳を読める映像装置を設けることなどわけないことです。記者クラブ制による制限があったのでしょうか。くせ球や変則的な質問をぶつけられると、対応に苦しむとでも思ったのでしょうか。


謝罪を繰り返さない努力が必要


 第2に、「戦後生まれの世代が人口の8割。戦争に関わりのない世代に、謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と、首相は談話で語りました。「いつまでも戦争の謝罪を続けるつもりはない」という持論から導きだした表現でしょうか。違和感がありますね。国家の外交政策、特に戦争犯罪に対する謝罪は、世代が代わったからといって「もう知らないことにする」では済まされないのです。


 しかも、首相はこれまで、自ら靖国神社を参拝し、あるいは、「侵略という定義は国際的に確立していない」などと発言したことがあり、中韓の対日感情を悪くしました。中韓の「謝罪を繰り返せ」は、日本側が招いているところもあるのです。


武力不行使と安保法制の関係は


 第3に、「いかなる武力の威嚇も行使も、国際紛争を解決する手段として、用いてはならない。わが国は不戦の誓いを堅持してきた。この不動の方針をこれからも貫く」と、首相は明言しましたね。憲法にも書いてあります。その意味は「侵略戦争は二度としない」「侵略のための武力行使はしない」といことですね。


 このタイミングでの発言となると、誤解されかねません。国会では安保法制の大転換を目指す法案が審議中です。集団的自衛権の限定的行使、自衛隊の海外派兵の拡充なども盛り込まれています。それとの関係はどうなるのか。「侵略戦争と自衛のための戦争は違う」が安倍政権の主張ですね。それなのに「いかなる武力行使もしない」と、言い切ってしまったら、自らの手足を縛ることになりかねませんか。もう少し周到な言い回しが必要でした。


「未来志向型」は片隅に


 第4に、首相は「戦後談話では、謝罪は繰り返さず、未来志向型にする」と強調してきました。談話を聞いていて、「未来志向型」というより、終戦の日、敗戦の日に語るような文言にあふれているとの印象を受けました。「二度と戦争の惨禍を繰り返さない」、「戦争の苦痛をなめた中国人の皆さんや・・」という表現が多く、目につきました。それは必要なことです。では「未来志向型」の部分はどうなったのでしょうか。

 

 「自由で公正な開かれた国際経済システム」、「途上国支援の強化」、「積極的平和主義の旗」などの個所はあるにはあります。片隅に追いやられている感じです。恐らく、侵略、植民地支配、反省、おわびをどう盛り込むかに腐心するうちに、「未来志向型」に言及する余裕がなくなってしまったのでしょうか。中途半端でした。

 

自ら政治争点化させたツケ


 最後に、首相自身の言動が談話を政治争点化させてしまい、身動きをとりにくくしたのではないかと思います。「過去と違う談話を」、「お詫びを繰り返さない」、「未来を目指す」、「閣議決定はいらない」など、自ら騒ぎを大きくしたのではないですか。自分で火をつけ、火消しに走りまった。今回の談話の出来、不出来の責任は首相自身が負うべきところが大ですねえ。


 



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