共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はジョン・ケージ《4分33秒》の初演日〜現代音楽の究極形

2022年08月29日 19時45分10秒 | 音楽
今日は昨日よりも更に涼しくなりました。このまま一気に秋が深まってくれればいいのですが、日本の南岸を台風11号が通過していることもあって、なかなかそうは問屋が卸さないようです。

ところで今日8月29日は



アメリカの作曲家ジョン・ケージ(1912〜1992)の代表作《4分33秒》が1952年に初演された日です。ジョン・ケージの作品の中で最も知られていて、音楽に対するケージの思想が最も簡潔に表現された作品でもあります。

《4分33秒》は3つの楽章から成る作品で、楽譜は以下のようになっています。



『TACET』というのは音楽用語で『全休止』という意味で、つまりこの曲は

I (第1楽章) TACET (休み)
II (第2楽章) TACET (休み)
III (第3楽章) TACET (休み)

と、3つの楽章全てが『休み』だけと言う事になります。

しかし、『休み』だけと言っても聴衆を前にしてピアニストはちゃんととステージに出て演奏姿勢に入ります。そして第1楽章の開始と共に鍵盤の蓋を開けて30秒経ったところで蓋を閉じ、第2楽章でまた蓋を開けて2分23秒経ったところで蓋を閉じ、第3楽章でまた蓋を開けて1分40秒経ったところで蓋を閉じて終わります。

結局《4分33秒》の間ピアノの音が全くしないまま『演奏』は終了し、演奏者は聴衆に対して一礼します。そして聴衆は4分33秒間の『無音の音楽』に対して拍手を送ることになるのです。

こうして文章で書いてみるとあまりにも突拍子もなく、ほぼコントのような作品にも思えてきます。しかしながらこの《4分33秒》は、世界的に見ても非常に高い評価を受けている現代音楽の1つと言えるのです。

この作品のテーマは『沈黙』で、楽譜では4分33秒という演奏時間が決められていますが、上の楽譜に見られるように演奏者が出す音響の指示はありません。そのため演奏者は音を出さず、聴衆はその場に起きる音を聴くことになります。

コンサートホールに行ったことのある方には分かっていただけると思いますが、聴衆が着席しているホールというのは舞台上で演奏家が音を出していない時でも決して無音ではありません。聴衆の呼吸音や座席の布と聴衆の着衣がこすれる音、間が悪く誰かが物を落とした音など、客席スペースでも様々な微弱な音がしているものです。

つまり、演奏者がコントロールをして生み出す音はない代わりに、演奏場所の内外で偶然に起きる音、聴衆自身が立てる音などの意図しない音はホール内に存在することになります。ここには

「『沈黙』とは無音ではなく『意図しない音が起きている状態』であり、楽音(音楽的な音)と非楽音(≒雑音)には違いがない」

というジョン・ケージの主張が表れています。

ジョン・ケージは1940年代から『沈黙』について考えていた中で、ハーバード大学の無響室での体験が作曲のきっかけになったと語っています。初演当時から賛否が分かれましたが、この作品によってジョン・ケージは楽器などの伝統的な音だけでなくあらゆる音を音楽として意識させることに成功して、その後の音楽に多大な影響を与えました。

ジョン・ケージの《4分33秒》が評価される理由として、「音楽の圧倒的な決定力」が挙げられます。

 通常、どのスタイルの音楽もそうですが、1つのスタイルが生まれたならば、その曲の後を追うようにして何曲も作曲され、そして、それをまた受け継ぐようにして作曲家が生まれてきます。しかし《4分33秒》は初演時にはピアノでパフォーマンスされたものの、演奏スタイルはピアノに限らず弦楽四重奏だろうがフルオーケストラだろうが、ありとあらゆる編成での『演奏』が可能なのです。

この曲に続くような曲を作曲する事は不可能で、ジョン・ケージはたった1曲で1つのスタイルを頂点にまで持っていき、そして終焉もさせてしまいました。このような決定力の強い楽曲は他には無く、もしかするとこの先数百年、数千年経ったとしても、これほどの作品は世に出てこないのかも知れません。

《4分33秒》についてはいろいろな『演奏』動画が存在していますが、その中からどれを選んでいいのか決められませんでした。逆に《4分33秒》と検索するとありとあらゆる形態での『演奏』を視聴することができますので、興味をもたれた方は是非御覧になってみていただきたいと思います。


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