今日、小学校からの帰りに有隣堂に寄ったら
《サライ》の最新刊が発売されていました。しかも内容が法隆寺や東大寺、興福寺、唐招提寺といった奈良の名刹の『古仏巡礼』とあらば、これは買わずにはおきません。
特にページを割いているのが、奈良の仏像美を見出した二人の写真家、入江泰吉と土門拳の作品です。因みに、表紙の写真は土門拳撮影の室生寺・十二神将の一つ未神(国宝)です。
入江泰吉(1905〜1992)と土門拳(1909〜1990)は、共に奈良の御仏に魅せられて多くの作品を発表しました。現在、入江泰吉の作品は奈良の入江泰吉記念奈良市写真美術館で、土門拳の作品は山形の土門拳記念館で観賞することが出来ますが、この《サライ》では同じ仏像を二人の写真家がどのように切り取ったのかが比較できるようになっていて、大変興味深い内容となっています。
誌面には、法隆寺の救世観音像や中宮寺の菩薩半跏像をそれぞれが撮影した写真が並べて掲載されています。ただ、私が個人的に二人の違いが一番感じられると思っているのが東大寺・戒壇院の四天王像の広目天です。
入江泰吉は、柔らかな光の中でこちらに厳しい眼差しを向ける広目天を写し出しています。特に顔の左半分が影になっている中で、左眼に嵌められている黒曜石の瞳に光が入っている様子は身震いするほどの迫力です。
土門拳は、強烈なライティングの中に浮かび上がる広目天の迫力を画面いっぱいに表しています。塑像ならではのザラッとした質感がダイレクトに伝わってくるような写真は、見る者に強烈なインパクトを与えます。
同じ仏像のアップ写真ですが、撮影者によってこうも印象の違うものになるということは実に興味深いものです。
この号では入江泰吉と土門拳のお弟子さんたちが、それぞれに在りし日の巨匠の撮影の様子や苦労話を披露しています。穏やかなな入江泰吉に比べて、直情型の土門拳のお弟子さんは怒鳴られたり殴られたりして大変だったようです。
余談ですが、かつて高校生時分に奈良に一人旅をした時に、東大寺大仏殿の前にある鏡池の辺りで白髪頭のお爺さんが高い脚立の上にのって写真撮影していたのを見たことがありました。今にして思えばあれは在りし日の入江泰吉氏だったのではないかと思っていますが、そうだとしたら何も知らずに通り過ぎてしまったことが何だか勿体ないことをしたな…と思えてなりません。
ところで、この号には付録がついていました。それが
歌川国芳の『宮本武蔵と巨鯨』をモチーフにした2021年のスケジュール手帳です。中には今年12月からのスケジュールカレンダーは言うに及ばす、備忘録として時節の挨拶文や俳句の季語、1921(大正10)年から今年までの西暦・邦歴・年齢・干支までが掲載されているという、かなり充実した内容となっています。
奈良の仏像の写真が見たくて購入したのですが、思わぬお役立ちグッズもゲットすることができました。決してこの付録目当てで買ったわけではありません(笑)。
そう言えば、私が最後に奈良に旅行したのは平城遷都1300年に沸く2010年のこと。今では、あの頃にまだ影もかたちもなかった興福寺の中金堂が完成していたり、平城宮跡に新たな南門が建設されていたりと、奈良もかなり様相が変わってきています。
この《サライ》を読んで、いつか何の憂いも無く旅ができるようになったら、また奈良に行ってみたくなりました。