goo

長閑

 昨日の昼、塾舎から家に戻ろうとして橋の上から何気なく上流を見たら、赤い物が流れてくるのが見えた。何だろうと思って目を凝らしても、遠くでよく分からない。とりあえず、携帯で写真に収めてみた。


かなりのピンボケだが、実際の目にもこんな感じに見えた。「何だろう?」少し待ったが、流れが遅くてなかなか近付いて来ない。「もういいや」とあきらめて家に行こうかとも思ったが、何も慌てることはない、じっと待つことにした。橋の欄干に腕を置いて、ボーっと眺めていたら、ゆっくりゆっくりと近付いてくる。見ているうちに、なんだか長閑な気分になってきた。目は赤い物を追ってはいるのだが、焦点がだんだんぼやけてくる。「ああ、いいなあ、こういうのも・・」久しぶりの感触だ。裏山からは鶯の鳴き声も聞こえてくる。今年の鶯は上手に鳴く。空気は冷たかったが、穏やかな日差しで身体の中が温まってくるような気がした。忘我の境地とはこんなものかもしれない。このままだったら、眠ってしまったかもしれない・・・。だが無粋な車が鳴らしたクラクションで我に帰ってしまった。あっと気が付いて、川を見直したら、赤い物がかなり近付いていた。

 

おお!椿だ!椿の花が流れてきたのだ。見れば上流のほうに椿の枝が何本か仄見える。そこに咲いていた花弁がポトンと水面に落ちて、そのまま流れてきたのだ。落ちたばかりなのだろう、開いた花弁は冠水せずに漂っている。なかなか風流だ。
 この後橋の下に流れていって見えなくなってしまったので、下流側に移動して、椿が見え出すのを待った。いつ出てくるんだろうと少しワクワクしながら待っていた。何でこんなことが楽しいんだろうと不思議に思ったが、妙に楽しい。心が開放されると、些細なことにでも面白みが見つけられるのかもしれない。「なるほど・・」と思いながら待っていたが、ちっとも見えてこない。長閑な気持ちに浸っているなら、そんなこと気にせずともよいのに、やはりまだまだ修行が足りないのだろう、気にかかって仕方がない。ひょっとしたら、と思って川沿いに少し上流に行って橋の下を覗き込んだら、椿が澱みにつかまってグルグル回っているのが見えた。


その姿がおかしくて思わず笑ってしまったが、思いもかけぬところにしがらみはあるものなんだ、などと分かった風なことを思って、一人ほくそえんでいた。
 橋の上に戻って、またしばらく待っていたら、椿がゆっくりと流れてきた。何とか逃れられたようで、ホッとした。


 昼過ぎに驟雨が過ぎていった。その後で川を眺めてみても椿はどこにも見当たらなかった。途中で沈んだりせず、ずっと流れていって海に流れ込んだりするのだろうか。ちょっと気になる。

コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする