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「ソクラテスの唄」

 金曜日、高校生の授業を終え生徒をバスで送っていく間に最後に残った三年生の男子生徒と話していたら、倫理の授業を聞いていると頭が痛くなると言った。「私が私であるために・・なんて先生が言い出すもんだから、訳が分からなくなって・・。今はソクラテスの思想を勉強してるんですけど」と教えてくれた。すると私の頭に、突然昔懐かしいCMソングが頭に浮かんできた。

 ♪ソ・ソ・ソクラテスかプラトンか。
  二・二・ニーチェかサルトルか。
  みんな悩んで大きくなった。♪

野坂昭如が歌っていたサントリ-ウイスキーのCMソングだ。私が大きな声で歌い出したら、「何ですか、それは?」とその高校生が聞き返した。まあ、30年以上昔のCMソングを17、8の子供が知っているわけがないから、少しばかり説明してやったが、私にしてもこの後どんな歌詞が続いているのか思い出せなかった。その辺りは適当にごまかして、「これで哲学者の名前が暗記できただろう。覚えて置いて損はないよ」などと煙に巻いてやったが、自分としては続きが思い出せないので気持ちが悪い。そこで、ネット検索をしてみたら、続きとそれに続く2番の歌詞まで分かった。

 ♪(女性 声のみ)大きいわ、大物よ。
  (野坂)俺もお前も大物だ。♪

これでは、歌詞とは言えないかもしれないが、野坂ならではの言葉だ。そして2番の歌詞は、

 ♪シェ・シェ・シェークスピアか西鶴か。
  ギョ・ギョ・ギョエテかシルレルか。
  みんな悩んで大きくなった。
  (以下同じ)♪

こちらは文学編とでも言うのだろうか、ギョエテはゲーテ、シルレルはシラーのことである。(CMの最後には「とんとんとんがらしの宙返り」というフレーズが入っていたと注釈があったが、私はまったく覚えていない。)1番の哲学編と合わせて、重要人物の名前の暗記には便利な歌だ。「デカンショ節」の、デ=デカルト、カン=カント、ショ=ショペンハウアー、よりも実用性は高いように思う。

(あれこれ検索していたら、当時このウイスキーを買うとおまけについていたグラスが今でももらえる酒屋を見つけた。「哲学グラス」。欲しい!!)

 こんなふうにCMソングがためになることも時々ある。これももう随分昔のCMで覚えている人なんていないかもしれないが、私の記憶が正しければ、「美酒爛漫」という清酒会社のCMに吉永小百合が起用されていて、彼女をメインにした画面のバックに、与謝野晶子の短歌にメロディを付けて女性が歌っているものが流れていた。

  ♪やわはだの あつきちしおに ふれもみで さびしからずや みちをとくきみ♪
   (柔肌の 熱き血潮に 触れもみで 寂しからずや 道を説く君)

その会社のHPを調べたら、吉永小百合がCMに出ていたのは昭和46年1月から昭和53年12月とあったから、たぶん私が高校生の時に何度も見たCMなのだろう。とにかく吉永小百合がきれいで、ただただため息をついていた覚えがあるが、このCMを通して与謝野晶子の密やかな熱き思いが私にも伝わったようで、それ以来彼女の短歌のいくつかが私の愛吟するものとなった。このCMがなかったら、与謝野晶子の短歌をさほど気にせずに今まで過ごしてきたかもしれない。そう思えば私にとって忘れられないCMである。  



 YouTube で検索してみたが、どちらのCMも見つからなかった。残念・・・。
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