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ひなげし

 車庫の近くの空き地に向かって妻が叫んだ、「あれってケシじゃない?」


「ケシってアヘンが採れる花のことだろう?そんなものがここに咲いているわけないだろう」と私は言ったものの、妻の指差す方を見たら濃いオレンジ色の花弁をもった花がぽつんと咲いていた。近付いていって写真に収めたが、そう言われてみると昔よく見た「ケシの花の栽培は法律で禁止されています」と書かれたポスターに描かれていたケシの花に似ていなくはない。「まさかなあ」と思いながらも、少し気にかかったので調べてみた。
 すると、これとまったく同じ花の写真が見つかった。名前は「長実雛罌粟(ながみひなげし)」。そうか、あれは「ひなげし」なのか。ひなげしと言えば昔懐かしいアグネス・チャンの「ひなげしの花」がすぐに思い出される。

  ♪丘の上 ひなげしの花で
   うらなうの あの人の心
   今日もひとり  ♪
 
という歌詞だが、朝咲いていた花弁が夕方には散っていたりするから、「ひなげし」で花占いするのはそれほど簡単ではないかもしれない。
 この日本名「ひなげし」は、他にも色々な名前で呼ばれている。まずは、英語から「ポピー(poppy)」。オール阪神・巨人が「車にポピー」とCMをして有名になった車の芳香剤があるが、あれは「ひなげし」の香りがするのだろうか?
 フランス語では「コクリコ(coquelicot)」。これは、与謝野晶子が渡仏時に歌った、
 
 ああ皐月 仏蘭西の野は 火の色す 君も雛罌粟 われも雛罌粟

で有名だ。この「ひなげし」が炎のように一面に咲いている野の風景はモネの「ひなげし」の絵に描かれている。

さらにスペイン語では「アマポーラ(amapola)」。スペインのホセ・ラカーリェの「アマポーラ」という曲が有名で、沢田研二や山下達郎も歌っているが、山本のりこという人がギターで歌っている映像を見つけた。(余りうまくない・・)
 これだけでも呼び名の多さに驚くが、もう一つ「虞美人草」という呼び名もある。これは夏目漱石の小説の題名として有名だが、絢爛たる文章がかえって読みにくくて、私は高校生のときに一度読んだきりである。この「虞美人草」という名は、「四面楚歌」の語源となった、劉邦との最後の戦いに敗れた項羽の愛妃・虞に由来する。項羽に殉じて自刃した虞を弔った墓に「ひなげし」の美しい花が咲いたため「虞美人草」と呼ばれるようになったと伝えられている。

 こんなに色んな名前で呼ばれているのは、人々から広く愛されてきた花であることの証しであろう。
 ただし、日本に咲く「ひなげし」からはアヘンの成分モルヒネは採取できないそうなので、安心して近付ける。
 
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