★ 何気なくyoutobeで小林秀雄さんの講演「信じることと知ること」を聞いていると、これがなかなか面白かった。
★ 小林さんはその講演の中で、柳田国男さんの「故郷七十年」「山の人生」を紹介されていた。柳田国男と言えば「遠野物語」が有名な民俗学者だ。「故郷七十年」は、当時82歳の柳田さんが神戸新聞60周年を記念して連載された回顧録をまとめたもの。「山の人生」は「自序」に大正15年10月の日付が入っているから、西暦で言うと1926年ということか(12月に昭和に改元されたから、1926年は昭和元年でもある)。
★ 「故郷七十年」から紹介されたのは、「ある神秘の暗示」という記事。当時柳田さんは14歳で、茨城県で開業医をしている長兄の家で養われていた。隣家は蔵書が豊かだったらしく、それを読ませてもらっているうちに、屋敷の奥に祀られている小さな「ほこら」が気になった。開けては叱られると思いながら、好奇心には勝てず、開けてみるとそこにはまん丸い蝋石の珠が祀られていた。その家のおばあさんが生前撫でまわしていたもので、それを「屋敷の神様」として祀ったものだという。
★ その珠を覗いたとき、柳田さんは不思議な体験をしたという。昼のよく晴れた青空に数十の星が見えたという。柳田さんはその時の心の状態を「異常心理」と表現しているが、通りかかったヒヨドリの鳴き声で正気を取り戻さなければ、そのまま気が変になってしまったのではないかと回顧している。
★ 人の中には凡人には見えないモノが見えたり、神の啓示をきく人があるという。柳田さんの体験も実に不可思議なものだ。その体験を後世の私たちが後づけ解釈をすることはできるかも知れないが、そんなことをしてもあまり意味がない。この不可思議な体験が柳田さんの民俗学の動機になっているのかも知れないと、私には思えた。
★ 「山の人生」で紹介されているのは、炭焼きの男が自らの子どもをまさかりできり殺した話。短いながらちょっとしたサスペンスだ。しかも実話のようだ。女房に先立たれた男。13歳になる息子、そして仔細は不明ながら息子と同じ歳くらいの少女と3人で暮らしていた。折からの不況で、炭は売れず、一合の米も買えなかった。男は小さな子どもたちの飢えた顔を見るのが辛くて昼寝をして、ふと目覚めると、二人の子どもが斧の歯を研いでいたという。そして父親に「これでわたしたちを殺してくれ」と言い、材木を枕に仰向けに寝たという。父親は「くらくらとして、前後の考えもなく二人の首を打ち落としてしまった」という。
★ たぶん自らも死のうと思ったのであろう、しかし死ぬことができず、やがて捕らえられたそうだ。炭焼きの男の話に続けて、九州のある町で生活に困り、夫、子どもと3人で無理心中を図るものの、自分一人だけ生き残り刑に服した女性の話を取り上げている。
★ 柳田さんは「我々が空想で描いてみる世界よりも、隠れた現実の方が遥かに物深い。我々をして考えしめる」と記している。
★ 「9.11同時多発テロ」にせよ、「東日本大震災」にせよ、昨今のコロナ禍にせよ、確かに現実がイマジネーションを先越しているように感じるこの頃だ。
★ 小林さんはその講演の中で、柳田国男さんの「故郷七十年」「山の人生」を紹介されていた。柳田国男と言えば「遠野物語」が有名な民俗学者だ。「故郷七十年」は、当時82歳の柳田さんが神戸新聞60周年を記念して連載された回顧録をまとめたもの。「山の人生」は「自序」に大正15年10月の日付が入っているから、西暦で言うと1926年ということか(12月に昭和に改元されたから、1926年は昭和元年でもある)。
★ 「故郷七十年」から紹介されたのは、「ある神秘の暗示」という記事。当時柳田さんは14歳で、茨城県で開業医をしている長兄の家で養われていた。隣家は蔵書が豊かだったらしく、それを読ませてもらっているうちに、屋敷の奥に祀られている小さな「ほこら」が気になった。開けては叱られると思いながら、好奇心には勝てず、開けてみるとそこにはまん丸い蝋石の珠が祀られていた。その家のおばあさんが生前撫でまわしていたもので、それを「屋敷の神様」として祀ったものだという。
★ その珠を覗いたとき、柳田さんは不思議な体験をしたという。昼のよく晴れた青空に数十の星が見えたという。柳田さんはその時の心の状態を「異常心理」と表現しているが、通りかかったヒヨドリの鳴き声で正気を取り戻さなければ、そのまま気が変になってしまったのではないかと回顧している。
★ 人の中には凡人には見えないモノが見えたり、神の啓示をきく人があるという。柳田さんの体験も実に不可思議なものだ。その体験を後世の私たちが後づけ解釈をすることはできるかも知れないが、そんなことをしてもあまり意味がない。この不可思議な体験が柳田さんの民俗学の動機になっているのかも知れないと、私には思えた。
★ 「山の人生」で紹介されているのは、炭焼きの男が自らの子どもをまさかりできり殺した話。短いながらちょっとしたサスペンスだ。しかも実話のようだ。女房に先立たれた男。13歳になる息子、そして仔細は不明ながら息子と同じ歳くらいの少女と3人で暮らしていた。折からの不況で、炭は売れず、一合の米も買えなかった。男は小さな子どもたちの飢えた顔を見るのが辛くて昼寝をして、ふと目覚めると、二人の子どもが斧の歯を研いでいたという。そして父親に「これでわたしたちを殺してくれ」と言い、材木を枕に仰向けに寝たという。父親は「くらくらとして、前後の考えもなく二人の首を打ち落としてしまった」という。
★ たぶん自らも死のうと思ったのであろう、しかし死ぬことができず、やがて捕らえられたそうだ。炭焼きの男の話に続けて、九州のある町で生活に困り、夫、子どもと3人で無理心中を図るものの、自分一人だけ生き残り刑に服した女性の話を取り上げている。
★ 柳田さんは「我々が空想で描いてみる世界よりも、隠れた現実の方が遥かに物深い。我々をして考えしめる」と記している。
★ 「9.11同時多発テロ」にせよ、「東日本大震災」にせよ、昨今のコロナ禍にせよ、確かに現実がイマジネーションを先越しているように感じるこの頃だ。