☆ 江國香織さんの短編集「つめたいよるに」を読み終えた。
☆ 「デューク」で、江國さんの作品にすっかり魅せられてしまった。
☆ それからも少しずつ読み進めた。どの作品も数ページの短いものだったが、それぞれに悲哀あり、ぬくもりありで、笑ったり、じわっときたりと読みごたえがあった。
☆ 後半の「温かなお皿」から。このシリーズにはこだわりの「食」が登場する。
☆ 「朱塗りの三段重」
新婚夫婦だろうか。初めて迎えるお正月に夫の両親を招くという作品。奥さんの愛犬ローズィーがいい。テーブルをはさんで片側に夫、ローズィー、妻が座り、向かい側に夫の両親が座る場面。目に浮かぶ。嫁姑の戦いもチラリ。最後のオチも面白かった。
☆ 「ラプンツェルたち」
女子学生が住むマンションが舞台。女子学生たちの動きや会話が実に生き生きしている。みんなそれぞれに悩みは抱えながらも実に楽しそうだ。
☆ 「子供たちの晩餐」
両親が外出している間の子供たちのちょっとした冒険。誰にでもありそうなことだ。
私にも思い出がある。うちに初めて電子レンジが来た頃、両親の留守の間に冷凍ピザをチンしたことがある。まだ電子レンジの使い方がわからなくて、黒焦げ、部屋中に煙を充満させた。黒焦げのピザはごみ箱にうまく隠した(捨てた)が、両親には煙でバレてしまった。
☆ 「晴れた空の下で」
老夫婦に流れる静かな時間。でも奥さんはすでに亡くなり、夫は認知症のようだ。人生の黄昏の食卓に「玉子焼きと手鞠麩のおつゆ」が並ぶ。
☆ 「さくらんぼパイ」
離婚した夫婦と一人娘の話。「さくらんぼパイ」が食べたくなる。
☆ 「藤島さんの来る日」
恋人同士、いや不倫?猫の視点から見た男女の日常。
☆ 「緑色のギンガムクロス」
パートナーを失った異父姉妹の話。何気ない会話に癒しを感じる。
☆ 「南ヶ原団地A号棟」
子どもたちの作文の形で、それぞれの家族を描写している。子どもは本音を言う(書く)から面白い。
☆ 「ねぎを刻む」
主人公の孤独感はどこから来るのだろうか。孤独感を癒すためにねぎを刻む。泣きながら「これでもか」と刻む。ねぎに感情があるのならたまったものではないが、その大量のねぎはみそ汁の中にドサッと広がり、冷奴の上にもドサッと盛られる。おいしそうだ。
☆ 「コスモスの咲く庭」
中年男性の話。妻と娘はデパートへ。男性は何を思ったか料理を始める。若いころ作って評判だったという海鮮焼きそば。それに昔の彼女が好きだったヨーグルトも冷蔵庫へ。料理ができたときには午後3時。「さぁ食べよう」と思った瞬間、玄関が開いた・・・。
☆ 「冬の日、防衛庁にて」
女二人の冷戦。多分、離婚した妻と別れた男の新しい彼女。二人はイタリア料理を食べる。元妻は終始微笑んでいるが、それまでにどれほど涙を流したことだろう。その微笑みがグサッと刺さる。
☆ 「とくべつな早朝」
クリスマスイブにコンビニの深夜バイトは辛い。しかし、そんな寂しい男性にもささやかな光が差し込んでくる。冬の朝だけれどアイスクリームが心地よい。